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エリンヘリヤルの召喚術士  作者: ジュエル
第四章★領地計画編
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第96話◆法国からの手紙


 ――エルドラド王宮。


「貴様ら! いつまで大罪人共をのさばらせるつもりだ!!」エルドラド国王が肘置きを拳で叩きながら怒鳴る。

 国王の目の前には第一大隊長レイザック・トトラーシュ、新第二大隊長になった男、そして魔法師団長のアイラ・パーレイスがそれぞれ顔を真っ青にしながら片膝を付いている。

 アイラに関しては本国の防衛の為に第四~第七大隊と共に戦争には参加していなかったものの、戦場に送り出した部下の師団兵達が全滅した責任を問われている。


「申し訳ございません! 陛下!!」レイザックは代表して頭を下げる。


「それからレイザック……」エルドラド国王の言葉に「はっ……!」と答えると国王は続けた。


「……負けて帰って来たな?」その言葉に背筋が凍る。


「もっ、申し訳ございませんッ!!」土下座するような勢いで謝罪をすると、それに被せるように国王は続けた。


「ワシは謝罪の言葉を求めた覚えはない! ワシが求めているのは圧倒的な実力のみ! それ以外に()()()()を背負った貴様に生きる価値などない!!」

 戦士の恥というのは、ソータに付けられた背中にある大量の傷痕だ。敗走兵に仕掛けられた追い討ちとも言われている。


「…………」土下座しながら、悔しさのあまり両手の拳を握るレイザック。その悔しそうな彼の様子をしばらく見つめた国王は声色を少しだけ落とすと続けた。


「……無論、ワシも大罪人が強いということは理解している……。だが、問題は悪魔召喚の魔女だ! ヤツはどうなった?」


 その質問に顔を上げたレイザックは話し始める。

「悪魔召喚の魔女は私が心臓を貫きました! あの様子では生きてはいないはず……!!」レイザックがそう言うと国王は口を開く。


「生きてはいない()()……? では、死亡確認をしたわけではないと言うことか?」国王の言葉にレイザックは息を呑む。


「はっ……」


「ワシからの命令は一つだ。レイザック! 貴様には悪魔召喚の魔女の死亡確認。もし死亡していなければ……そうだな……」そう言いながら自身の髭を撫で、思案する。

 そしてエルドラド国王はニヤリと笑うと「……生け捕りにせよ」と続けた。

「生け捕り……でございますか?」


「死んでいなければ、の話だ。悪魔の処刑を王宮前で行い、エルドラド国民に安寧を与える糧とするのだ!」


「それは名案でございます、陛下! ですが、奴に悪魔召喚をされてしまえば、生け捕りも難しいことでしょう……魔法師団長のアイラと共に行くことをお許し頂きたく存じます」


「うむ、分かった。ではレイザック、アイラよ。二人で隙を見て悪魔召喚の魔女を生け捕りにせよ!」


「「はっ!!」」二人は敬礼をする。

 新第二大隊長の男は悩んでいた……。

 もちろん彼は国の大罪人。命令として死ねと言われれば死ぬくらいの忠義はあるが、悪魔召喚の魔女を生け捕りにすれば彼は何をしてくるか分からない……。


 彼が一抹の不安を抱えていると、エルドラド国王が口を開く。


「そして……貴様にはエレニアンネに捕らえられたゾルダー・マキシの救出を命ずる。奴にはまだ利用価値があるからな……」そう言って再び少しニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「はっ!」彼は敬礼し、三人はそれぞれ玉座の間を後にした。


 廊下を歩いている三人。そこへアイラが声を掛ける。


「おい、お前」


「はい」第二大隊の新隊長は返事をすると「私はエルドラド王国出身ではない貴様をまだ信用したわけではない……ということを理解して、今回の作戦を遂行しろ」


「ッ……承知致しました……」そう言って、第二大隊の訓練場の方へ歩き去って行く。


「アイラよ。少し奴に厳しいのではないか?」とレイザックは言うが「当たり前でしょう。どうやったら敵国になったメガロス出身の奴を信用しろっていうの?」と言っていた。

 だが、彼は先の大戦でメガロス王国兵を大量に殺した実力のある男だ。


「仕事はしているんだ。あまりキツく当たるな……我々は我々の仕事をしよう」そう言って話題を変えたレイザックに再び別の言葉を用意して問い掛ける。


「ところでレイザック。どうやって魔女を捕らえるつもりだ?」アイラがそう言うと、レイザックは笑いながら答える。


「ハハッ! アイラよ、貴様は捕らえた後のことを考えておれば良い……俺に任せておけ」そう言ってレイザックは窓から空を見上げる。



「…………」エルドラド宮殿内で、上手く隠術スキルを使い、隠れていた男はその会話をしっかりと記憶してその場を離れる。



 ――ソエラ盗賊団アジト。


 ここは古い地下水路の片隅を改造して作ったアジトで、壁も床も全て石で出来ている。

 そこで、ランタンの明かりを頼りにエルドラド王国に関する書類を読んでいたソエラの元に、彼女の側近のルディ・ガレットが慌てて入ってきた。

「……お頭、大変だ!」


「何事?」書類を読む手を止めずに返すソエラ。彼は大したことが無くても、大変だ! と言ってくるので聞き慣れてしまった。


「エルドラド国王が、第一大隊長レイザック・トトラーシュと、魔法師団長アイラ・パーレイスにサモンシールダーのローナ・マクスウェルの誘拐を命じた!」


「何ですって!?」手を止めて立ち上がるソエラ。


「お頭、ソータの居場所はどこだ? 危険を報せに行かないと!」


「……恐らくはエレニアンネにいるでしょうね……でも、戦争後はどこに行ったか……」


「くっ……一体どうすれば……!」拳を握り締めるルディ。


「とりあえず、エレニアンネへ急ぐわよ! 準備して!」鋭い目付きになり、そう言った彼女にルディは「よっしゃ!」と言ってアジトの荷物置き場に走って向かった。



 ――二日後――ヴェシアナ領。


「みんな、帰ったぞ!」ソータは皆に挨拶すると、クレリアが走ってやって来た。


「おかえり、ソータ! アリス様はどうだった?」と聞くとマッチス兄弟が「ふんっ!」と揃ってポージングをした。

「フンッ!」続けて何故かヴィオラもポージングを決めた。お前は別にやらんでもいい。


 ソータはエレニアンネでの出来事を簡潔に話す。結果、計画は成功。そのまま黒胡椒の増産をすることになったことを告げる。

「良かったぁ~! ……あ、そうそう。ソータがエレニアンネに向かってる間に、行商人が手紙を届けに来たよ! ソータの部屋の机に置いておいたからね」と言うので分かったと伝えて、まずは黒胡椒の乾燥室へ向かう。


 向かっている最中「マキシ子爵様~!」や「領主様おかえりなさい!!」と声掛けられるので、その度に手を振って返す。


 ――乾燥室。


「テリー、いるか?」扉を開けて室内を覗くとセイマの方がいた。


「領主様、お帰りになってたんですね。テリーなら、収穫と新しい収穫場所の開拓に森へ行きましたよ」と言っていたので、ひとまず増えて来た住民の仕事を与える為にもセイマに説明しておくことにする。

 増産体制の準備はすぐに行わなければならない為、テリーとセイマを中心として、黒胡椒の生産を任せることにしたのだ。

 新しい収穫場所が見つかろうが見つからまいが、どちらにせよ胡椒の実を育てていく必要がある。


 それをセイマに伝えると、すぐに片膝を付いて「かしこまりました。ヴェシアナ領発展の為、粉骨砕身の覚悟で臨ませて頂きます!」

 深々と頭を下げてそう言ってくれた。二人ならしばらく黒胡椒の生産を任せていたし、大丈夫だろう。


 他の住民の家を建設している大工たちにも声を掛けて、乾燥室の増築も必要になるから手が空いた者から取り掛かるよう指示して、古城の自室に向かう。



 ――ヴェシアナ城――自室。


 クレリアに言われた手紙は言われた通り、机に置いてあったが、それを手に取ると開封する――。


“――拝啓、ソータ・マキシ・フォン・ヴェシアナ殿。アウグスト法国、法皇ガルガシア・レイズマンだ”という始まりから、アウグスト特区に来て欲しいという旨が綴られていた。

 どうやら、今後の為に会ってもらいたい人物がいるので、足労をかけるがサモンシールダーのメンバーで来てほしい事が書いてあった。

 ローナを特区でのデートにでも誘おうか? と思っていると手紙には、ローナ・マクスウェルは連れて来ないでほしいとのことも綴られていた。

 その会わせたい人物というのが、ローナのゴッデススキルについて知っているらしく、それをどこからか彼女の耳に入ると傷付けてしまう可能性もあるということだった。


「はぁ……仕方ないか……」少しガッカリしたが、仕方のないことだ。

 だが、またローナと離れてしまう。そろそろ、ローナとの事を本気で考えたい。

 住民の幸せが第一だが、俺はまだローナに告白すらしていない……そんなことを考えていると、扉がノックされた。

「入っていいぞ」と声を飛ばすと「失礼します」とローナが入って来た。


「ローナ、どうした?」と言うと「さっきエルディアさんたちが来て、タイガーウルフがヴェシアナの森にいたので素材の買い取りと追加報酬を求めて参りました」と言ってきた。


「タイガーウルフか……はぁ……」そう言って、ヴェシアナの森に生息している魔物の書類を取り出して、開いて現在報告されている個体数を確認する。

 元々ヴェシアナの森にもタイガーウルフは生息してはいるが、個体数に関してはサイダル森林ほど多くは無い。だが、ヴェシアナの森にいる魔物の事を考えればタイガーウルフに天敵はいないので、数が増えてしまったのだろう。


「あのソータさん。私が言えることじゃないんですが……その……」少し言い淀んでいるローナ。元スラム育ちが貴族に意見することなどあってはならない……という引け目でもあるのだろうか?

 しばらく沈黙している彼女を見てそう察したソータは「話してくれ」と伝える。

 すると「あの……ソータさんは少し働きすぎではないでしょうか?」と心配してくれた。不慣れな事が多く大変だが、実際働き過ぎとは感じていなかったので素直に感謝をしておくことにした。


「ありがとう、ローナ。だが、俺はヴェシアナの住民の命を預かっている身だ。彼らの為に俺は頑張らなきゃならない」


「いえ! 出過ぎた発言でした……」というローナの目を見て、彼は歩み寄り両手を取った。

「ソータさん……?」


「また明後日くらいに、今度はアウグスト法国へ行かなければならないことになった」と言うと少し寂しそうな表情になるローナ。


「お前は賢いし、その表情は察しているみたいだな。本当は、アウグスト特区でローナとデートをしたかったんだが……連れて行けなくなったということだ」


「仕方ありません……。アウグスト法皇陛下によろしくお伝えください」そう言ったローナに「本当は今言うべきじゃないんだが……」と前置きすると続けた。


「ローナ。ずっとお前が好きだ。15歳の頃に初めてお前を神殿の近くで見掛けた時からだ。……俺は少し不器用みたいだから、伝えるのが恥ずかしいんだが……その……俺と交際してくれ」

 そこまで言うと、自身の両手を握るソータの手を今度は彼女が両手で包み込むと、少し寂しそうな笑顔で優しく微笑むローナ。

「ソータさん……ありがとうございます。一生言ってくれないんだと思っていました……私もソータさんが好きです。大好きです。……ですが、私の出身はスラムです。貴族様とお付き合いするなんて……」と返してきた。


「お前はもうスラムの人間じゃないし、俺たちの大切な仲間の一人だ」


「……」そこまで言うと、ローナは黙ってしまった。


「……答えは急がないから、俺とのこと考えてみてくれ」そう言うと「はい……」と少し嬉しそうに、だが諦めたような複雑な表情をしていた。



 ・

 ・

 ・


 ――買い取り場。

 買い取り場ということにしているだけの、ほぼ野ざらしの平らな石を敷き詰めた区画があるだけだが、そこに大量のタイガーウルフが積まれていた。


「ソータ・マキシ……かなりいたぞ……殲滅なら良いが、数を減らすのは少々骨が折れる」そう言った彼に「お疲れ。何匹倒して、その後確認した個体数は何匹だ?」と尋ねる。

 彼の話では、40匹倒して、成体と幼体を合わせておよそ50匹程度になったそうだ。大体いつも確認させている数とほぼ同等なので、それで問題がない。


 ソータは追加で金貨を4枚渡した。一匹につきミスリル銀貨1枚という計算だ。

「とりあえず、ソータ・マキシ。だいぶ長居させてもらったが、俺たちはそろそろ旅に出ようと思う」


「分かった。一応聞くが、どこへ行くつもりだ?」と聞くとアウグスト法国だと言っていた。

 マーディア聖王国で全てのクエストを攻略した彼だが、アウグストとの懸け橋になる人間族がソータだけだという事実がどうにも癪に障るのでアウグストで依頼をこなすと言っていた。

 ハッキリ言う奴だな……。


 明後日には法皇からの呼び出しでアウグスト特区に行くことを伝えると「じゃあまたしばらくは一緒か。同乗させてもらうからな!」と言っていた。

「運賃はしっかり払ってもらうぞ」と返して、買い取り場で作業している領民に解体を任せてその場を離れた。


 そこからは、畑仕事を手伝ったり、森で胡椒の木の様子を見に行ったりしているとあっという間に夕暮れに差し掛かっていた。

 ヴェシアナ領にあるすでに移住が住んでいる住民たちの家の窓からはちらほらとランタンの光が漏れ出ている。


 ――ヴェシアナ城――食堂。


 サモンシールダーとクルセイダーズのメンバー、そしてまだ家が完成していない区画の住民たちで食事を摂る。

 実際はもっと人数がいるのだが、時間を分けて食べさせるそうだ。


「食事を始める前に、知らない人もいるだろうから、紹介させてもらう! 皆の前に置かれているタイガーウルフのステーキに掛かっている黒い粒の正体についてだ!」

 ソータは黒胡椒についての話をし始める。

「これは胡椒と名付けた植物の実を乾燥させてすり潰した“黒胡椒”という調味料だ! この調味料はアリス女王陛下にも献上して美味しさを認めていただいた!」

 そこまで言うと、領民たちは「おぉっ!」「さすが領主様だ!」と言っていた。


「今後はヴェシアナ産の野菜と黒胡椒をヴェシアナの特産品として育てていく予定だ!」


 一通り説明して食事を始めると、その初めての味に領民たちは感動していた。中には、涙する者すらもいるほどだった。

 少しの騒ぎになったが、その日はお開きになった。


 食事の後に少し時間を置いてから、風呂へ入ることにしたソータ。

 ちなみにヴェシアナ城の大浴場には日替わりのシフト制で料金所を作ってある。

 力が弱く、畑仕事や建築業が出来ない領民の一部がやってくれている仕事だ。ちなみに、サモンシールダーや領に訪れた客人、そして城に仕える使用人に関しては無料で入れるようにしている。



 ――二日後。


「さてと……準備はこんなものか? ソータ、出来たぞ!」準備を進ませていたヴィオラに声を掛けられた。


「ありがとう、ヴィオラ。……ローナ、法国でもそんなに長居するつもりはないけど、一応気を付けてな」


「ソータさん、クレリアさん、ガチさん、ムチさん、ヴィオラさん……それから、クルセイダーズの皆さん。どうかお気を付けて」そう言って祈るように手を組むローナ。


「ありがとう……じゃあ、行ってくる!」ソータがそう言うのを確認したガチは「では向かうぞ! お前たち! 俺の筋肉に引っ張られるのだ! HAHAHAHA!!」と大笑いしながら手綱を握って馬車を走らせた。



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