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エリンヘリヤルの召喚術士  作者: ジュエル
第四章★領地計画編
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第95話◆黒胡椒


 このソータの提案によるアリス女王の決定が、後に桜国が世界経済を揺るがす大国へ発展していく始まりになるのであった……。


 翌朝、アリス女王を見送ってから領民たちに指示を出す。


「手が空いている者はいるか?」畑に向かってそう言うと、一人が「作業が一段落したところです!」と言ってきた領民がいた。


「テリーか。少し手伝ってくれ」「承知しました、領主様!」

 彼はテリー・ベルベット。エルフ族のハンターで、ヴェシアナ領の初代住民で、森の中に居を構える。


 ――ヴェシアナ森林。


 彼の家を通り過ぎて少し歩いていると不思議そうな顔をしていた。

「あの、領主様……これからどちらへ……?」そう言う彼にソータは「ここだ」と伝えた。

 そこはヴェシアナ森林の水辺の近くなのだが、一般的に誰も近寄らないようなところだ。そこにはこの世界で初めて見る植物が成っていた。

 葡萄(ぶどう)の房のような形状をしているが、かなり粒は小さい……。もしこれが俺の想像の通りなら……!


「この木の実を収穫していく。この袋に入れていけ。俺は近くにもこの木の実が無いか確認してくる。エルフだから分かっているとは思うが、根こそぎ取るなよ?」そう言って、ソータは辺りを見渡す。


「か、かしこまりました!」そう言って房を一つ一つ取っていくテリー……。「何に使うんだろう?」と呟きながら不思議そうにしている。


 ・

 ・

 ・


「領主様! これだけ集まれば大丈夫でしょうか?」と聞いてきたテリーが広げた袋の中には結構な数の房が入っていた。


「あぁ、ありがとう。お前は、領の誰かと一緒にこの粒を一粒一粒全て外して、これに熱湯をかけてから天日干ししておくんだ。かなり根気のいる作業だから、お前と仲間のセイマと一緒に依頼という形でも構わんが、どうする?」


「いえ、領主様! 我々はハンターですが、こんな幸せな生活をさせていただきながら、依頼としてお金を頂くわけには参りません! すぐに持ち帰り、作業に入ります!」

 真剣そうに言う彼の表情を見て「分かった、よろしく頼む」と伝えた。


 そう、これは“胡椒”で間違いないだろう。

 緑色のこの胡椒を熱湯で殺菌してから、天日干しをすることで、黒胡椒になる……。

 この世界には黒胡椒が無い。もしかすると、とんでもない大発見をしたのかもしれない……! 期待に胸を膨らませるソータ。



 ――ヴェシアナ領内。


「収穫作業はどうですかー?」巨人族の農民、エリアが声を飛ばす。視線の先には畑がある。


「あぁ、ヴェシアナ野菜、大豊作さー!」収穫した大キャベツを両手に持って嬉しそうに笑う人間族のハンター、ヴェイル。

 ヴェシアナ産の大きくて美味しいブランド野菜の収穫を笑顔で楽しむ領民。

“大キャベツ”と名付けた理由は、日本で普通に流通しているキャベツが世界に普及している平均的な大きさなのだが、この大キャベツはバスケットボールをさらに一回り大きくさせた巨大なキャベツなのだ。

 しかも、味はこの世界で流通しているサイズの物よりも明らかに美味しく、可食部の葉を一口食べるだけでハッキリと美味しさが違うと分かるほどの差がある。


 それを離れた所から見ているクレリアは、比較的大きな八重歯を光らせながら満足そうな笑みを浮かべている。

「ソータの提案が成功したみたいね……!」


 そうして、村で採れた野菜の販売が軌道に乗り出した頃、ソータはテリーたちに確認する。


「テリー、作業はどうだ?」ソータがそう声を掛けるとテリーがいきなり土下座を始めた。

「大ッ変、申し訳ございませんッ!!」

 な、なんだっていうんだ……? と詳しく聞くと、ヴェシアナ森林で採れた小さな粒が全て腐ってしまったという。


 結構厳重に管理させたはずなんだが……困ってとりあえず見せてもらうことにする。


 ――乾燥室。

 ここは、黒胡椒の為に作った乾燥室。

 といっても、現代日本のような洗濯物をしっかり乾かせるもの……とかではない。

 虫が寄ってこないようにしつつ、天日干しをする環境を整えただけだ。小屋のようにしておいたが、しっかり頑丈に作らせた箇所と、雑に作らせた箇所で分けている。

 今は試験的に運用する小屋なので、胡椒で成功が出来そうなら、雑に作ったところを一旦取り壊して頑丈な材料で増築する予定だ。


「こちらなんですが……」と見せてくれたものだが、黒々としている。……前世でたまに目にしていた黒胡椒にしか見えない……。


 何粒か手に取って匂いを嗅ぐ。嗅ぎ覚えがある。スパイシーな香りだな……。

 そう感じたソータはそのうちの一粒を食べると、舌にピリッとした刺激起きる。そして同時に押し寄せる芳醇な香り……。

 間違いない……前世で食べたことがある黒胡椒だ!


「テリー、よくやった。これで完成だ。黒くなったから腐ったと勘違いしたんだな。……心配なら一つ食べてみろ」そう促し、テリーと仲間のセイマに食べさせることにした。


「だ、大丈夫なんですよね……?」さっき俺が食べた様子を見ていたはずだが、二人は恐る恐る粒を口に入れる……。

 すると、ほぼ同時に目を見開く!


「な、何なんですかこれは!!」「こんな芳醇な香り……初めてです!!」

 驚くのも無理はない。この世界に胡椒の文化がそもそも無いのだ。

 牛肉を焼いて普通のステーキを作る事はあるし、他の料理でもそうだが、下味は塩のみ。そしてソースなどと言ったものは野菜から取るだけ。

 もちろん、それでも濃厚な味に仕上がるし、美味しいのだが、胡椒を加えるとさらに美味しくなることは間違いない。


「領主様!! これは絶対に流行ります!!」「美味しいです!!」そう感動する二人に、

「きっと、そうなると思って作らせたんだ」と言って落ち着かせると、手に乗るサイズの瓶を五本取り出す。

 それぞれいっぱいになるまで詰めるように指示し、残りは全て同じ部屋にある近くの小さな樽に入れておくように指示した。

 それと、継続的な生産をするために、収穫場所は厳重に警備することにさせる。


 そして、兵士に一通の手紙を送らせるために自室で手紙を書く。


「拝啓。エレニアンネ桜国女王、アリス・エレニアンネ様。ヴェシアナ領主、ソータ・マキシ・フォン・ヴェシアナにございます」という出だしから内容を書いて、ヴェシアナの紋章を押印する。

 献上品があることを伝える旨の手紙だ。食品関係だということも伝え、その献上品を使ったステーキを振舞うということも書いておいた。



 ――――物資預り所。

 

 大扉のすぐ目の前の通りの中央には、運ばれてきた物や、別の場所へ運んでいく荷物の一時預かり所を作ってある。ここに、樽に詰めた黒胡椒も保存される予定だ。

 そして、預り所に併設してイスやテーブルが置かれている。

 用途上、人が集まりやすい為、皆の憩いの場のようになっている。サモンシールダーのメンバーもその例に漏れず、預り所に居たので、手紙の件を話す。


「ローナ、ポニ子、ガチ、ムチ、ヴィオラ。近いうちにアリス王女陛下のところへ行くから、護衛として誰か付いて来てもらう」

 そう言うと、メンバーを選出する。今回はハンターとしての遠征ではなく、貴族が女王陛下へ会いに行くものである為、護衛という役割で来させる必要がある。

 そう考えて選出したメンバーは、マッチス兄弟の二人とヴィオラだ。


 ローナとは一緒にいたいが、これは領地の為の仕事。それに彼女は護衛という役割が向いているとは言い切れない。そして、クレリアは護衛としては適任と言えるほど強いが、巨大土蜘蛛へ特別な命令を下さないといけない場合、クレリアがいなければならない。


 するとそこへエルディアたちがやって来た。


「ソータ・マキシ、何してるんだ?」と聞かれたので桜国街へ行くことを伝えつつ、もう一つの要件を伝える。

「ああそうだエルディア。いつまで居てくれるのか知らんが、もし暇なら俺からの依頼を頼めるか?」


「なんだ?」


「ヴェシアナ森林に行った領民が、魔物を見掛けたと聞いたんだ。幸い何事も無かったようだが、村にやってくる可能性を考えると放置は出来ない。退治してきてくれるか?」

 森林に入ってそう遠くないポイントで、キノコ採集していると近くの茂みに狼型の魔物が居たらしい。幸い採っていたキノコは香りが強く、体臭で居場所がバレることは無かったようだが、大慌てで連絡が来た。

「了解。で、報酬は?」


「先払いしておく。金貨1枚で良いだろ?」

 そう言ってソータはパーティ用の財布から金貨を1枚取り出して渡した。


「もし、想像以上に強かったら追加料金を頂くからな」


「あぁ。じゃあ頼む」


 そう伝えて準備に向かうエルディア。

 ヴェシアナ領から桜国街へ向かう場合、大きな迂回をしない場合、必ずトルドリン領を通る……。

 ヴェシアナ森林で整備された道は、馬車がすれ違えるくらいの幅はあるが、狼型の魔物の目撃情報はその道にそう遠くない場所から上がって来た。

 森林に現れる狼型の魔物ということは、クレセントウルフだと思うが、それよりも強いタイガーウルフなどもやって来る可能性がある。


 だから、領主からの依頼という形で、クルセイダーズに頼んだわけだ。


 ・

 ・

 ・


 出発した時間が時間だけに夜になり、辺りが暗くなってきたタイミングで野宿することにした。

「とりあえず、あの岩の辺りで休むか」

 そう言って指差した所は平原の中にある岩だ。岩陰にテントを貼って、休憩も兼ねて夕日が傾き始めるまだ明るい時間に野宿の準備をする。今回はそこまで急ぎの要件ではない。

 二時間ごとに休むそうだが、その役目はガチ、ムチ、ヴィオラの三人だ。俺も見張りをすると言ったのだが、三人が「ハンターであるとはいえ貴族様なんだから休んでくれ!」と言われてしまった。



 翌朝――エレニアンネ桜国街。


「もう着いたな……」そう言って降りる準備をするヴィオラ。

 やはりメガロス王国でもらった高速スピナーとミスリル蹄鉄による高速馬車の速度は凄まじい。


 馬車を馬屋に預けると、まずは肉屋へ向かう。ステーキ用の牛肉を数枚仕入れてから、エレニアンネ城へ向かう。

 エレニアンネ城の調理場へ行き、黒胡椒の説明をして料理長にそれを実際に食べさせてから、昼食に出すようにお願いしておいた。

 ちなみに、料理長や他の料理人は、初めて食べる塩胡椒のステーキに驚愕していた。

「こんなに美味しくなるものがこの世に存在するとは……!」と感激までしていた。


 そしてその後に、拝謁に向かう。




「お久しぶりです。アリス女王陛下」

 ソータ、ガチ、ムチ、ヴィオラはそれぞれ片膝を付き挨拶をする。


「お久しぶりですね、楽になさってください」公的な謁見ではなく拝謁の為、周りに兵士はいるが貴族はいなかった。


「「はっ!」」四人は立ち上がる。


「ソータさん、今回は手紙の御用件で?」


「左様にございます。まずは、こちらをお納めください」そう言って懐から取り出したのは、黒胡椒が入った瓶だ。


「それは……?」アリス女王がそう言うと、近くにいたエルフの近衛兵がその瓶を受け取るとアリス女王に「少し失礼いたします」と断ると、蓋を開けて少し匂いを嗅ぐ……。


「む……!?」


「そちらは“黒胡椒”という生薬でございます。ですが、食事に入れるとより一層美味しくお召し上がりいただけるものになります」薬効成分もあるが、ヴェシアナ領は食材のブランド化に成功した領なので、薬よりも香辛料という扱いにしておくべきだろうと決めた。

 ソータが答えると、兵士がアリス女王に瓶を渡すと、アリス女王も匂いを嗅ぐ……。


「……! 芳醇な香り……食欲が湧きますね……」その言葉を聞いてソータは続ける。

「今回はそちらの献上に参りまして、お手紙にも書かせて頂いた通り、そちらを調味料として使用したステーキをご用意して頂いております。ご賞味いただけますでしょうか?」


「えぇ……! 皆さんで食べてみましょうか」そう言って兵士に命令を下すアリス女王。


 ・

 ・

 ・


 ――エレニアンネ城――食堂。


 中央のテーブルにアリス女王が座り、出されたステーキを見る。素材の味を知ってもらう為、敢えて塩と胡椒のみで味付けをしたステーキだ。

 近くのテーブルにはソータが座り、マッチス兄弟とヴィオラはその後ろに立っている。筋肉を見せびらかしているわけでもないのに何故かニヤニヤしているガチと、真剣な表情のムチ。そして、だらしない表情でステーキを見てよだれを垂らしているヴィオラ。

 三者三様で、ムチはともかく、頭のおかしい仲間が多いことで真剣な場の空気に、少し変わった様子が混ざっている。


「陛下、マキシ子爵様が仰った通りに作ってみました! 陛下に御出しするものになりますので、既に黒胡椒を使用したステーキを一枚、厨房のみんなで食べましたが……これは素晴らしい」

 城の料理長は、そう言って味を思い出す。

「顔を見れば分かりますが、敢えて聞きます。お味はどうでしたか?」


「それはもう! みんな目を見開き、美味しさのあまり涙した者すらおります!!」両手を組んで、私は感激をしました! と続いてもおかしくはない表情の料理長。


「私が選んだ桜国料理長である貴方がそこまで言うのなら……食べてみましょう」アリス女王陛下と共に、一部の近衛兵が同時に食事を始める……。

 誰かからゴクリと生唾を呑む音が聞こえて来た。


 ナイフとフォークで一切れ切り分け、口へ運び、しばらくゆっくりと味わうように咀嚼するアリス女王……。

 それを飲み込んだ後、俯いたままテーブルを拳で叩く女王。

「これは一体どうやって作ったのです! マキシ子爵!」


「は、はい! 先ほどお見せした黒胡椒の実をすり潰して、それと塩を下味に付けて焼くだけです!」と説明する。

 ステーキを食べた近衛兵も「これは素晴らしい!!」と舌鼓を打っていた。


「本当に……? 本当にたったそれだけですか?」そう聞いて来たアリス女王。その目は今度は料理長に向けられる。


「は、はい! 私は子爵様が仰った通りに、塩と黒胡椒で下味を付けて、それを従来のステーキの焼き方でそのままお出ししております!」そう答えた料理長にアリス女王は頷くと、ソータに質問を投げ掛ける。

「マキシ子爵。この黒胡椒はどのくらい生産出来ますか?」


「はっ! 一か月ほど頂ければ、最初の生産分として……そちらに置いてある樽で換算しますとおよそ20樽前後であれば生産可能です!」そう言って食堂の傍にあった小さな樽に手を向けた。

 ちなみにその小さな樽は1リットル分の量だ。


「分かりました。マキシ子爵に命じます。今後は、この黒胡椒の生産を行い、ヴェシアナの野菜と、生産分の5樽分を桜国街に、残りをエルドラド以外の世界各国へ! アルトデレイス領の商会を紹介しますので、その商会の支部をヴェシアナに作り、そこで貿易網を敷きなさい」


「はっ! 仰せのままに!!」ソータはイスから立ち上がると、片膝を付いて頭を下げる。同時に後ろにいた三人も片膝を付く。


 ・

 ・

 ・


 ソータ達四人が去った後、瓶を手に取ったアリス女王は近くにいる兵士に尋ねる。

「この黒胡椒……この瓶一つでどのくらいの額になると思いますか?」


「恐らく……世界一の高級食材として扱われて、瓶一本で金貨が動く可能性すらあります……」

 金貨は日本円換算でおよそ1万円ほどの価値になる。黒胡椒の瓶一本で1万円くらいする可能性があるということだ。


「この黒胡椒での商売が成功した暁には彼の昇進は決まったようなものですね……」更に発展していくと予想出来るヴェシアナに少しの恐れもあるが、強力な味方だ。


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