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エリンヘリヤルの召喚術士  作者: ジュエル
第一章★出会い編
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第7話◆戦闘開始!



「静かにしなさい!!」待合室の扉の方から声が聞こえた。


 そちらを見ると、名簿らしき書類を持ったメガネを掛けてキリッとした表情の女性だった。

 腰にはレイピアが差してある。おそらく彼女の一番得意な武器なのだろう。


「ここはグラディエーターを育成する、世界最高峰の学院! お喋りの相手を探す所ではありません!!」


「はっ! 失礼いたしました!」父親から教わった敬礼と謝罪をするソータ。


「は、はいっ!」ピシッとするポニ子。


「……よろしい。では、第一班のアリア・バーンからソータ・マキシまで、五十音順に私に付いてきなさい」


「「「はっ!」」」第一班の全員が挨拶をして各々カバンを持って行く。


 あ行~さ行の全員を呼んで、まず始めに座学の為に教室へ連れて行かれた。


「……さて、自分の試験番号の席へ着け」試験官の女性がそう説明すると、各々が席へ着きだす。

 自分の席は……と、あった。


「……よし、机の上に裏返しになっている二枚の紙は筆記試験の問題だ。おっと、まだ裏返すなよ? 一緒に置いてあるペンで解いてもらうわけだが……ペンが無い奴はいるか?」


 …………


「……いないようだな……では、制限時間は30分! 筆記試験始めッ!!」


 全員が素早く紙を裏返す。

 問題用紙の全体を見る……なんだ、簡単じゃないか。


 そこには剣のマークが書いてあり、その隣に問題文が書かれていた。


“キミは武器屋にいます。鋼の剣は一本1700コインで売っている。キミが持っている鉄の剣(売値500コイン)を下取りしてもらって鋼の剣を購入する場合、自己負担額はいくらになるか?”

 ……簡単すぎる……。


 1700-500=1200 負担額:1200コイン  と書いた。


 周りには「う~ん…」とか、吐息のような「えぇ~」と呟くような子がいた。

 月島颯太として生きていた頃には7,8歳で教わるような内容だ。偶然記憶を失わなかったので当然ながら簡単に解ける。


“キミは道具屋にいます。1本200コインの回復ポーションを8本購入する場合、合計額はいくらになるか?”

 うん……これは……


 200×8=1600 合計額:1600コイン


 このようにサクサクと解いていき、ソータは問題用紙を裏返して腕を組んで残りの25分を待つことにした。


「ん? ……お前は試験番号1078番のソータ・マキシか。……筆記試験をたった5分で諦めるとは気合が足りないんじゃないか?」試験官の女性に声を掛けられた。


 うるさいな、終わったんだよ……


「いえ、諦めてません。終わったんです」


「何を言っている。こんな早く終わるわけ――」試験官はそう言って問題用紙をめくる……


「!!??」目を見開いて固まる試験官。


「……どうかしました?」


「い、いや……何でもない。そうか……うむ、確かに5分程度で全て解いて貰わなくてはグラディエーター失格だな! うむ……!」試験官はそう言うと問題用紙を元に戻して一言。


「……試験番号1078、ソータ・マキシよ。もう一度、答え合わせだけ自分の中でしておくがいい。それが終われば、終わるまで寝てもらっても構わん」

 そう言うと、試験官は見回りを始めた。


 それに釣られて周りを見ると、ギョッとする顔でソータを見つめる皆の顔。……なんなんだよ?

 その後は、自信持って100点満点だと言い張れるよう自分で答え合わせをして、30分に及ぶとてつもなく退屈な筆記試験は終わった。


 そしてその後、連れて行かれている場所は実技試験の会場だった。

 学院の中にはコロシアムだった頃の戦闘場がそのまま残されており、無作為に選ばれたチームを組んでトーナメント形式で二対二の戦いをするのだ。

 武器は各々が持って来た武器と、学院側から渡される武器……つまりは本物の武器で戦うのだ。


 治療魔法に優れた魔導教官が五人体制で待機している為、死ぬことは少ないらしいが、それでも怖すぎる……

 過去の実技試験で生命を落とした入学希望者はいないらしく、重傷を負ってもすぐに魔法で治療してもらえるらしい。

 だが、それなら安心だ! などとは言っていられない。本物の武器で戦う以上、それは命懸けの戦いなのだ。

 エン・マーディオーが言っていた危険な世界というのはこういうことだったのか……。


「では、チーム分けの表を見て、自分の仲間を確認しなさい」


 チーム分けの表で、まずソータ・マキシを探す…………あった。ソータ・マキシ……同じチームを組む人の名前は、クレリア・ラピスと書かれていた。


「クレリア・ラピス……」どんな奴だろう? そう思い、何となく名前を呟いてみた。


「ん? アタシの名前呼んだってことは……アンタがソータ・マキシ?」隣を見ると……例のポニ子がいた。


「あ……キミがクレリア・ラピス?」


「そうよ! アンタがソータ・マキシで……間違いないわね!」


「うん、よろしく」握手の為に手を出すと、クレリアはそっぽを向いた。


「ふん、精々足を引っ張らないでよね! ガリ勉さん!」


 僕のどこにガリ勉要素があるのか……? と思ったが、すぐに理解できた。あの小学生でも解けるレベルの簡単な筆記試験のことを言っているのだろう。

 だが、足を引っ張るなと言われて良い気はしなかったので、正直なことを言ってやった。


「僕は勉強は苦手だよ……戦うほうが得意なんだ」


「……!? ……そうみたいだね……ハハッ……」何かに気付いた表情をしてから、少し力が抜けたような表情で乾いた笑いをするクレリア。……なんなんだ?


「とにかく、この実技試験で勝たないと! ……手伝ってくれるよね?」


「分かったわよ」


 そう言うと、二人は戦闘場に駆け出した!


 ――コロシアム中央。


 試験官の女性は、中央へ並ぶように指示すると、トーナメント表を読み上げた。


「さて、第一試合は……ソータ・マキシ、クレリア・ラピス……リーダーはソータ・マキシ! 対するは、カテドーラ・リブラ、エルザ・グレスコール……リーダーはカテドーラ・リブラ! ……両者、前へ!」



「ソータ、アンタ得意武器は?」


「一番得意なのは槍かな……」


「そう? アタシはレイピアだし、前線は任せて! アンタは中距離からの戦闘に専念しなさい」


「……いや、僕がリーダー……」困った様子でクレリアを止めるソータ。


「あ~もう、うっさい、うっさい! アンタは後ろで指くわえて見てりゃ~いいのよ!」そう言ってレイピアを抜くクレリア。


「いや、だから僕がリーダーだから、まずは僕の作戦に……」結構失礼なことを言われているが我慢して、止めるソータ。


「良いのよ! そんなの!」


「おい! ちょ、ちょっと待てって……!」


「アンタの作戦なんて頭でっかちでワケわからなそうだし、そんなの面倒くさ――」そこまで言い掛けたタイミングでクレリアの手首を掴んで捻るソータ。そしてそれをすぐに放す。


「痛っ! ……何するのよ!!」涙目で反抗してくるクレリア。


「……いい加減にしろよクソガキ! 俺は協調性の無い奴が大嫌いなんだよ!!」急に人が変わったように豹変して怒鳴るソータ。


「……く、クソガキって…! アンタ同い年でしょ!?」


「こちとら我慢してガキのフリしてたら良い気になりやがって!」



「喧嘩はそこまで。……続きがしたければ、後でしてもらおうか」少し離れたところから見ていた試験官の女性に叱られる。


「……承知しました。……ポニ子、第一試合だけは俺が指示する。第二試合はお前に仕切らせてやる」


「ポニ子って何よ!?」

 うっかり心の中で思っていた呼び名を呼んでしまったが、そのまま続けるソータ。


「……この試合は俺が仕切る。いいな? ポニ子」


「わ、分かったわよ……!」


 ソータは父から譲り受けた黒鉄(くろがね)の槍、クレリアは鉄のレイピアを構える。

 対するカテドーラとエルザ。カテドーラの武器は木の棒と鉄の刀身を固めただけの粗悪な鉄の斧、エルザはしっかりとした作りの剣と盾だった。


 カテドーラの斧は少し大きめだ……見た目の粗悪さに騙されていると、こちらの槍を上手くさばいてそのまま斬り掛かってくる可能性もある。エルザを相手にする場合は盾による回避からの剣の反撃に気を付けるべきだ。

 どちらを相手にするか……?


 クレリアは自信満々だが、武器はレイピア。レイピアなら狭い急所を狙うことが出来るはず……彼女の体型を見ても細くて動きは速そうだ……。


「ポニ子、お前はカテドーラの相手を頼む。見たところ動きは素早そうだし、カテドーラの斧を躱して急所に一突きを食らわしてやれ!」


「ッ……了解! アンタは奥の頭の悪そうな女?」


「あぁ、アイツは俺が相手にする」


「……両者向き合って……戦闘開始ッ!!」


 四人は一斉に駆け出す! カテドーラは斧を横に構えて、ダッシュでソータに向かってきた!


「ちょっと!? アイツ、アンタを狙ってるわよ!?」


「問題ない。お前の方へ行かせるから後は頼むぞ!」


「ちょっと、そんなのどうやって――」


 横薙ぎの斧の攻撃を見切って、斧の刀身を素手で下からアッパーの要領で殴り上げた!


“拳術マスタリー発動――”という音声が頭の中で流れると、バァン! と言う音と共に斧の刀身は真っ二つに割れ落ち、カテドーラが持っている武器は、ただの木の棒になってしまった。


 そのまま、すれ違いざまに黒鉄の槍の石突(いしづ)きで、よろついているカテドーラの背中を叩き、クレリアの前へ行かせた。


「えっ!?」目にも留まらぬ速さで自分の前へ出されたカテドーラを見て驚くクレリア。


「なッ……!?」同じく、何が起こったのか解らない内に、背中に走る痛みと共にクレリアの前へ出されて驚くカテドーラ。


 ソータにしてやられて、仕返しはしたいと思うだろうが、斧は素手の攻撃一撃で壊された。

 そして、もう一人の敵と遭遇してしまえば背中を見せるわけにはいかない……カテドーラは木の棒を構え直す。


「まさか……初戦でこんなことになるなんて……」カテドーラはそう言って木の棒を振りかぶる……


 ・

 ・

 ・


「さて、次の相手はお前だ!」エルザは盾を前面に出して、その下で隠すように剣を構えている。

 思っていた通り、攻撃を躱して、剣による反撃をするつもりのようだ……!

 誰でも思い付く攻撃方法だが、しっかりとした武具の扱い方だ。しかし、盾のサイズが少し小さめだ……それなら、俺の狙いは一つ!


 一気に接近して、そのままの位置で槍を構える!


「バカね! そのまま盾に対して攻撃したら貴方の負けよ!!」そう言ってエルザは盾を前に突き出す!

 ……が、それはソータの狙い通りだった。


 槍の刺突攻撃を途中で止め、瞬時に頭の上で槍を回し、持ち手を入れ替える。そして入れ替えざまに盾で守りきれていないエルザの脚に斬り掛かる!

“槍術マスタリー発動――”

 そんな音声が頭の中で流れると、エルザの脚には重い斬撃音と共に深い切り傷が出来た。


「うッ……!!」

 斬られた箇所を庇うようにして片膝を付くエルザ。その隙を見逃さず、すぐさま槍の刃をエルザの首に付ける。


「…………!」エルザは剣と盾を地面に置いて、ゆっくりと両手を上げた。降参のポーズだ。



「……そこまで! 第一試合、ソータ・マキシ、クレリア・ラピスチームの勝利とする!!」女性の試験官はそれだけ言うと、後ろに控えていた五人の治療魔法の教官が皆に駆け寄る。

 傷を負っているのは、エルザとカテドーラ。エルザは脚を深く斬られ、カテドーラはクレリアのレイピア攻撃による刺突で、右肩に傷を負っていた。


 一方、ソータとクレリアは無傷だった。




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