第6話◆新しい出会い
「さて、早速篭手による戦い方を伝授しよう」家まで帰ると、ゾルダーがそう言った。
ソータはすぐさま、買ってもらったばかりの紅蓮の手甲を両手に装着し、ファイティングポーズを取る。
「……中々様になってるな」
少し感心した表情で言ったゾルダーはそのまま続けた。
「篭手は手数による連続攻撃に加え、局所的な防御に特化している。武器と防具が一体化したものが篭手と考えてもらって問題ない。では早速、軽く戦ってみよう」
「うん!」
「では、ルールを説明しよう。ソータ、お前は一撃でも俺に直撃を与えられれば勝ちとする。俺はその間、避ける、守るといった行動に出るが、反撃はしないでおこう。また対戦時間は3分とする。……いいか?」
「わかった!」元気に答えるソータ。
「……では、始め!」そう言った瞬間、ソータは素早い動きでゾルダーを眼前に捉え、一気に襲い掛かる!
「ッ!?」突然出したスピードに驚くゾルダー。
(中々に速い……!!)
まずは強力な右ストレートを繰り出したソータ。その攻撃はギリギリのところで躱されたが、父の強さをある程度理解しているソータは、当然避けられると思っていたので、そのままの流れで右足を出し、その足を軸に左回転し、左手の裏拳でゾルダーの胸部を狙う!
そこをゾルダーは腕でガードし、少し距離を取る。
「えいっ! でやぁっ!!」篭手と筋肉がぶつかる音と共にゾルダーを防御に専念させる。何故か回避行動はあまり取らない。
(ソータのやつ……グングン攻撃速度が上がっていっている……! 何なんだこの強さは……ある程度手加減しているとはいえ、レベルは一体いくつなんだ!?)
「そこっ!!」一瞬の隙を見つけたソータ。そこへ初撃と同じ強力な右ストレートを放つ!
だが……顔面を狙っていたその拳は、ギリギリの所でゾルダーの左手によってガードされていた。しかし、顔は背けており、直前まで回避行動をとろうとしていたが間に合わなかったようにも見える。
「……そこまで!」ゾルダーが言った。
結局のところ、直撃させることは出来なかったが、割りと良い線まで戦えたと思ったソータ。
「……驚いたよ、ソータ。もうそんなに強くなっているとは……」頭をポリポリとかくゾルダー。
「僕も結構強くなれたと思ったんだ!」
「ソータ、一度ステータスを確認しておきなさい」
「あ、うん……」(…ステータス)
すると以前にも見たモニターが目の前に表示された。
名前:ソータ・マキシ 年齢:12
職業:なし
Lv:2 HP:58/58 MP:29/29 SP:21/21
攻撃力:18 防御力:11
魔攻力:14 魔防力:12
敏捷力:19 精神力:122
ゴッデススキル:経験値10倍/天賦の才
通常スキル:【槍術マスタリー:Lv1】【拳術マスタリー:Lv1】
いつの間にかレベルは2に上がり、通常スキルが二つ追加されていた! この件をゾルダーに報告すると、たいそう喜んでいた。
「もうその年齢でマスタリースキルを入手するとは……! それに攻撃力18か! そこそこ高いな……!」かなり高い……ではなく、そこそこ高い程度なようだ。
経験値10倍のお陰でレベルは上がったものの、成長倍率は天才ではなく秀才クラスなようだった。
「でも、ステータスはかなり高いってわけじゃないんでしょ?」ソータは思った通りのことを聞いた。
「あぁ。だが、スキルを手に入れたのは大きいぞ! マスタリースキルは、その武器に適した戦い方をどれだけ習得したかという指標となるが、基本的にまず一日で最低ランクであるLv1を習得出来る人間なんてほとんどいない。ゴッデススキルの天賦の才か経験値10倍……どちらの効果かは解らないが」
ますます天賦の才の効果の謎が深まる……
もしかしたら、スキルを早く入手させてくれるゴッデススキルかもしれないが、それを言うならば経験値10倍の効果の可能性だってある。
そしてこの世界は、二つのゴッデススキルを持っているという特別な存在ってだけでどうにか出来る世界なわけがない。エンが危険な世界だと強調していたのだ。きっと何かある。
「二人とも、今日はその辺にしなよー! 晩御飯だってー!」次女のソエラが呼びに来てくれた。
「分かった! ……ソータ、今日はこの辺にしておこう」そう言うと、武器を倉庫に片付けて、家へと戻って行った。
手を洗って、早速リビングのテーブルに並んでいる料理を見渡す。
今日も気合を入れて美味しい料理の数々を作ってくれたリエナに感謝をしつつ、皆でいただいた。
今後もソータが頑張れるようにと、今回は肉料理だった。塩で下味を付けてある骨付きの肉に甘ダレを掛けたもので、とても美味しい。
外は皮がパリッとしており、噛む度に肉汁が口いっぱいに広がり、野性味溢れるその味は塩で整えられ、甘ダレがその味を一気に押し上げている。
その押し寄せる旨味の洪水に、姉二人も大喜びでその肉料理にがっついていた。
その食事中、ゾルダーが話し掛けてきた。
「ソータ。明日は俺は仕事だから、明日は一人で稽古頑張るんだ。良いな?」
「分かった!」
――翌朝。
朝ごはん食べた後の時間、庭では既に準備運動を済ませたソータが槍の素振りをしていた。
そんなソータを見物していたのは、ソータの母親リエナである。
「まずは構えから……と!」昨日教わった槍の持ち方をおさらいしながら、素早く構えの体勢に入る。
そこから、色んな刺突、斬撃など色んな攻撃方法を研究しながら素振りを繰り返していた。
「でいッ! とおッ!」今やっている素振りは下から斬り上げる槍の攻撃方法。その鋭い太刀筋に見入るリエナ。
(あの太刀筋……私もある程度は戦えるけど、あの子はやっぱり才能があるみたいね……天賦の才ってスキルのお陰かしら?)
・
・
・
しばらく休まず訓練を続けていると、母リエナがサンドイッチを作って持って来てくれた。
「ソータ、そろそろ休憩にしたらどう? もうお昼過ぎよ」
「えっ? もうそんなに経ってたんだ……」
ソータはサッカーをやっていた前世でも、どれだけキツイ事でも夢中になっている間は周りが見えなくなるほど熱中する癖がある。
実際はそれのお陰でサッカー部のキャプテンを務めるまでに上り詰めたのだが、最初は少年サッカークラブに在籍していた当時、下手くその代名詞とも言えるほどだった。
誰が何と言おうと、お世辞にも上手いとは言えず、とにかく周りより下手だった。しかし、彼は他の皆に追いつこうとして頑張っていたわけではない。ただ純粋にサッカーが好きなだけだった。
そうして熱中している内に、仲間内の中で一番サッカーが上手い選手へと成長していった。
今の武器を振り回しているソータは、この訓練が昔やっていたサッカーの代わりと呼べる、熱中出来るものになっていた。
「じゃあ、休憩するよ」
庭にあるベンチに並んで座り、サンドイッチを食べ始めた。
「……ずっと訓練していたようだけど、調子はどう?」サンドイッチを食べながら、右手だけで槍の攻撃動作を簡単に確認していると母リエナに声を掛けられた。
「う~ん……ようやく槍が手に馴染んできた感じかなぁ」ソータにとっては軽い発言だったが、それはリエナを納得させるには十分な発言だった。
(なるほど。昨日の夜マスタリースキルを覚えたと聞いたけど、本当だったのね……)
「ごちそうさま! 僕はまた訓練始めるね!」
サンドイッチを食べ終えたソータはそう言うと、また訓練を再開する。さっきまで槍を練習していたから今度は篭手だ! と思って、紅蓮の手甲を手に装備した。
毎回魔力を込める練習もしているが、レッドクリスタルは微かに光るだけで上手くいかない……アドバイスされた以外にもコツがあるのだろうか……?
・
・
・
――こうして訓練を続けること、一ヶ月。
・
・
・
朝起きてご飯を食べた後、母リエナと共に馬車に乗る。
錬成学院は中流階級の街の中にある。しかし、ソータ達が住んでいる区画とはほぼ真反対側にあるので、馬車での移動が必要だった。
馬車でおよそ3,4時間ほど経った頃に、錬成学院が見えてきた。
思っていたよりも小さな学校だったが、毎年入れる学生は10人のみ。そして六年制のこの学校にいる学生の人数は60人になるはず。
しかし、1万人は軽く超えるほどの入学希望者がいるはずだ。彼らはどこに集まるのだろうか?
そんな事を考えていると、錬成学院の門の前で先生と思わしき男性が看板を掲げていた。
看板には“本日の試験:エルドラド住民・中流階級第27班”と書かれていた。
その文章だけでは意味が理解出来なかったソータはリエナに聞いてみた。
話を聞くと納得出来た。まず、今日の試験はエルドラドに住む入学希望者に限る……ということ。そして、そこから更に中流階級の街に住んでいる入学希望者に限る……ということらしい。
そして第27班というのは、エルドラドの中流階級と範囲を決めても人数が多すぎる為、班分けしなければならないそうだ。
学院内の受付へ行くと班分けをしているにも関わらず大勢の入学希望者がいた。受付でソータ・マキシです。と名乗って必要書類にサインをする。
「では、ソータさんはこちらへどうぞ。保護者の方はあちらが待機室となっておりますので、そこでお待ち下さい」受付のお姉さんがそう言って案内してくれた。
「分かりました」リエナはソータの前に娘を二人とも試験に行かせていたので、特に戸惑うこともなく待機室に入っていった。
「ソータさんはこちらです」そう言われて他の数人たちの入学希望者と共に受付のお姉さんに付いて行く……。
明るい綺麗な廊下を歩きながら回りを見渡すと、いわゆる普通の教室はあまりなく、武器保管室や鍛冶工房、薬剤調合室など、色んな施設があった。
その中で、廊下の奥に一際大きな両開きの扉があり、その前で受付のお姉さんが口を開いた。
「この中にイスがありますので、適当な場所に座っていてください」受付のお姉さんはニコッと笑顔を見せて足早に廊下を早歩きで戻って行った。
――入学希望者待合室。
他の入学希望者と共に両開きのドアを開けて入室するソータ。
待合室の中の入学希望者たちが一斉にソータたちに注目する。
待合室の中は大学の講堂のようになっており、長い机とそれにくっつくようにイスが並んでいる。部屋全体が階段のように段差があり、奥の学生でも扉が見えるようになっていた。
ソータと共に入学希望者たちは注目されることに気にする様子もなく、それぞれが適当なイスの方まで向かう。
「うっ……」その光景に変な声が出るが、たまたま視界に飛び込んできた空いているイスを見つけると、それに座るソータ。すると後ろから声が聞こえた。
「ちょっとぉ! そこアタシが使ってるイスなんだけど!!」後ろから声を掛けられた。
長い金髪をポニーテールにして、目はキリッとして八重歯が特徴的な見るからに気の強そうな女の子が声を掛けてきた。
「うぉ!? ……あぁ、そうなんだ。ごめん」そう言ってイスを譲る。
ポニーテールの子はそのイスに座って言った。
「お手洗い行ってる間にイスを取られるとこだったわ! アンタ座るとこないなら、そこにすれば?」そう言って少し離れている所にあるイスを指差した。
「あぁ、ありがとう。そうするよ」ソータはそう言って荷物を床に置いてそのイスへ座り、カバンの中から本を取り出して読み始める。
最近読んでいる魔法に関する本で、途中まで読んでいるので全体の三分の一辺りに挟んである栞のページから読み始める……
すると、さっきのポニーテールの子が声を掛けて来た。……名前を知らないからポニ子と呼ぼうかな。
「……ねぇ、何の本読んでるの?」
「え? ……あぁ、中級魔法学入門って本だよ」と言って読んでいるページに指を挟んで、表紙を見せるソータ。
「……ってことは錬成学院に入りたい理由は魔導士なるためなんだね」そう言って一人で納得するポニ子。
「え、違うけど……」
「えっ? だって魔法書読んでるんでしょ?」
「読んでるけど、僕が主に使う武器は篭手や槍だから。魔法は使いたいなって思ってるだけ」
「使いたいな~ってレベルなら初級の魔導書読むでしょ? ……そりゃ、今の時代は剣士や戦士でさえ魔法はある程度使えた方が良いらしいけど、武器の手入れの本読んだ方が良いんじゃない?」
すごくマトモなことを言われたような気がする……。
しかし、ゲームのようなこの世界……教わる物は今まで目にしてこなかった武器や魔法に関するもの……言葉遣いのマナーや読み書き、計算も勿論習うが、メインは生き残るための武器や魔法に関する知識だった。
その為、勉強が物凄く嫌いなソータでも楽しく学ぶ事が出来たため、自分から勉強に明け暮れる事もしばしばあったのだ。
「武器の手入れの本って……これ?」カバンからポニ子から言われた本を取り出す。
「そう! ……って持ってるじゃない。それ読んだら?」
「いや、これは今日馬車の中で全部覚えたよ」
「はぁっ!?」バンッと机を叩いて立ち上がるポニ子。
すると突然「静かにしなさい!!」待合室の扉の方から声が聞こえた。