第101話◆エルドラド王国強襲
寝る前に装備の手入れを終わらせたクレリアは真剣な面持ちで呟いた。
「待っててね、ローナちゃん……!」
――翌朝。
中流階級街の中央噴水広場前はザワザワしており、かなりの人だかりが出来ている。中央のステージを囲うように大隊長や兵士が並んでいる。
――エルドラド王宮地下牢。
四重に施錠された、非常に強固な鍵を一つずつ解錠すると、隅に座り込んでいるローナに声を掛ける。
「出ろ。魔女」と言われ、首輪に繋がれた鎖を引っ張られる。
「うぐっ!」と呻き声をあげるが、そんなことで優しくなるはずがなく「歩け!」と言われ再び強く引っ張られる。
魔法師団長のアイラも一緒におり、彼女のゴッデススキルで全スキルが封印されている状態だ。
――中央噴水広場。
最前列にはマークされていないアイリが、そして、ガチとムチは身長的に目立つものの、ローブのフードで顔を隠しており、いつでもカバーに入れる場所へ。
そしてアイリからそれほど離れていないが、同じくフードで顔を隠したヴィオラとクレリアがおり、いつでも中央のステージに近付けるようになっている。
そこへ連れて来られるローナ。首輪に鎖が繋がれ、無理矢理引っ張られながらステージへ歩かされている。
エルドラド国民たちは、自国では忌み嫌われている悪魔召喚の魔女の処刑を今か今かと待っている。
ローナが中央へ立ったのと同時にレイザックが前に出た。
「エルドラド王国の皆の者よ! 今回我々エルドラド軍は、世界に破滅をもたらす悪魔召喚の魔女を捕えることに成功した!!」
両手を高らかに上げて宣言をする。
それと同時に「「オオォォーーー!!」」という歓声が上がる。その中に「早く殺せー!!」や「で、でも悪魔を召喚されたら……!」といった声が飛び交う。
「悪魔召喚と言っても、危険はない! 何故なら我がエルドラド軍の魔法師団長、アイラ・パーレイスがスキルの行使を抑えてくれているからだ!」
そして、レイザックが数歩後ろに下がると、第一大隊兵のアルザックが前に出て言った。
「この悪魔召喚の魔女を救おうとしていたのが、我々の敵である大罪人ソータ・マキシという人物だ! 奴らは今、エルドラド軍の策略にハマッてディアイス拳国にいる! 今頃は第四~第七大隊と交戦をしている頃だ!」
そして続けて話し始めたのが、別の兵士だ。
「では! サモンシールダーの悪魔召喚の魔女の処刑を開始する!!」
と兵士が言ったのと同時に上空で突然轟音が鳴り響き、地面が振動するほどの爆発が起きた!
アイリの得意な、かなり高度に使えるLv6のスパイラ・ブロクスを無音で上空に発生させ、爆発させたのだ。
「何事だッ!!」皆の視線が上空へ向く。
その隙を見逃さず、鎖を持っていた兵士をいきなり後ろから殴りかかるガチ。そして同時にローナを取り囲むようにクレリア、アイリ、ヴィオラ、ムチが立ち、ガチはローナの首に付けられた鎖を凄まじい怪力で引き千切るようにして破壊する!
「!!!」エルドラド軍の兵士たちは突然のことに反応できなかった。
「サモンシールダー、参上!! ローナちゃん、助けに来たよ!」と高らかに宣言するクレリア。
それと同時に響き渡るエルドラド王国民の悲鳴。
「キャーー!!」や「ウワアアァァァー!!」というその悲鳴が混ざり大騒ぎになった。
そこから混戦が始まる。
だが、兵士に囲まれるのはすぐだった。
「どうしてサモンシールダーがここに……!! ソータ・マキシはどこだ!!」レイザックは怒鳴る。
「ソータはここにはいないぞ」とヴィオラが答える。だがレイザックがそれを信じるはずがない。
「貴様らがいて、そこの小娘を助け出すのに奴がいないわけがないだろう!! どこに隠れている!!」そう言って剣を抜く。
「これだからバカは……」やれやれと言った雰囲気で前に出てくるアイリ。
「なんだと……!? 大罪人のお仲間は一々人を怒らせるのが好きなようだな……!! もう許さん! 絶対的強者・限界突破!!」
レイザックがそう言うと、両目は黒く燃え上がる。それを見てアイリは後ろへ声を飛ばす。
「みんな! 退路は私が開く! 行くわよ!!」と言って、前に出るとレイザックはアイリに剣を振り下ろす!
その剣はアイリに命中し、鈍い音は聞こえたのだが、痛がる素振りもなく黙ってそのまま剣を掴んで、片手でレイザックごと投げ飛ばした!
「!!??」その場にいた全員は驚くが、みんなが一斉攻撃を仕掛けてくる。
退路はアイリが開いてくれると言ったが、かなりの人数がいる為、他の皆にも攻撃は及び、クレリアも戦いを余儀なくされる。
サモンシールダーの中で一番実力があるクレリアがアルザックと戦うため、レイピアを向ける! そこへ矢が飛んできた!
「ッ!」逆手に持ったダガーで弾くと、どこから放たれた矢かはすぐに分かった。
「ゼルゲル!!」広場から一番近くにある民家の屋根の上から矢でクレリアを狙っていた。
「クレリア・ラピス! 貴様らにもう逃げ場はない! 投降しろ!!」ゼルゲルはそう言っていたが、そんなことをすれば全員殺される。従えるわけがない。
「無理に決まってるでしょ!!」と返すと「ゼルゲル! 貴様も手伝え! ここでこの小娘の息の根を止める!!」とクレリアに剣を向けて来たアルザック。
「はっ!」と返事をするゼルゲル。
一方、ガチとムチは二人でローナを護ってくれており、攻撃に対してはもちろん反撃で返している。
ムチの防御力で、ローナの周りに集まる敵の攻撃を護り、ガチの攻撃力で迎撃するいつもの戦闘スタイルだ。
ヴィオラは他の兵士と戦っており、手一杯の状態だ。アイリは相変わらずとんでもない強さで苦戦もせず確実に数を減らしていく……。
そんな状況のエルドラド軍に更に応援が駆け付けた!
「そこまでだ! 国家転覆を企む大罪人ども!!」錬成学院の教官たちだ。
メリッサを先頭に、ナティーレ、そして他の教官の合計三人がやって来た。
退路を開いたアイリの目の前に立ち塞がる三人。
「貴方は……! 昨日錬成学院に来た……!」メリッサはそう言うとレイピアを向けた。
「悪に手を貸すのが錬成学院の教官のやり方ってことね……かかってきなさい!」アイリが構えると、メリッサはゴッデススキルを発動させる。
「……加速領域!!」急に超高速で動くメリッサはそのままアイリに斬撃攻撃を仕掛けると、その場で空を切る。
「さっきの、見てなかったの?」突然メリッサの後ろから声を掛けるアイリ。
「!?」メリッサや他の教官も驚く。
「貴様、いつの間に後ろに!!」と言うメリッサにもう一度質問をするアイリ。
「さっきレイザックを投げ飛ばしたの、見てなかったの? 悪いけど貴方達じゃ私を倒すことは出来ない。大人しく道を開けて」
「錬成学院生の時に見たことがある! あの子は悪魔召喚だったんでしょ!?」ナティーレがそう言うと首を横に振るアイリ。
「悪魔召喚? ローナの力は、エインヘリヤルという神々を呼び出す力だ。ちなみに、エン・マーディオー様はエインヘリヤルだ。それを知ってて仇名すというなら、ソータ・マキシの知り合いと言えどタダでは済まさん!」
一方アルザックとゼルゲルを相手にしているクレリアは、剣戟乱舞をゼルゲルに放ち、続けてアルザックに零距離粉砕刺突剣を放つ!
「ちぃッ!! 何て強さだコイツ……!!」アルザックはバックステップで距離を取る。
「クソがッ!!」そう言って、剣戟乱舞を躱すゼルゲルだが、魔力で練られた短剣は追尾する! 矢で撃ち落としたかと思えば、軌道を変えて追ってくる。
数十本がゼルゲルに刺さったタイミングでクレリアはゼルゲルにレイピアの切っ先を向けるとそこから魔法を放つ!
「バーストフレア!!」
クレリアは直径50㎝ほどの火球を飛ばすが、ゼルゲルは嘲笑う。
「ふんっ! どこを狙ってやがる!」そう言ったのだが、クレリアが狙ったのはゼルゲルにまだ突き刺さっていない追尾中の魔力の短剣だ。
その短剣に命中した瞬間爆発が起こり、その爆発はゼルゲルを追い掛けるように連鎖爆発を引き起こし、ゼルゲルに刺さっている短剣が誘爆した瞬間、ゼルゲルを中心に大爆発を引き起こした!
そのまま、高台から落下するゼルゲル。
「ぐッ……! クッソォ……!!」力を振り絞って立ち上がろうとするゼルゲルだが、誰の目から見てもダメージは大きい。
「とどめッ!!」クレリアは再びバーストフレアをゼルゲルに放ち、ゼルゲルに命中したバーストフレアは大爆発を起こした。
いとも容易く彼を倒すクレリアの恐るべき強さに恐れおののく周りの兵士たち。
「もうよい!!」
その瞬間、後ろから声が聞こえる。王宮側からだ!
その先に目をやると、エルドラド国王が立っていた。
「へ、陛下!?」「危険です!!」など口々に言う兵士達。
「黙れぃ! 大罪人共を殺す簡単な仕事に手こずりおって……!!」そう言ってサモンシールダーの面々を睨み付ける。
「はぁ、臭いわねぇ……」アイリの声が響く。
「今のエルドラド王国って、人間じゃなくて悪魔が国王やってるの?」
「何だと……!?」エルドラド国王は、アイリに怒りを露にする。
「私、魔族や魔物は嫌いじゃないけど、悪魔は嫌いなのよ」そう言って、構えるアイリにエルドラド国王はニヤリと笑った。
「……貴様ら、今どこで戦っているか分かっているか?」
今ここがどこかと言われれば、噴水広場だ。
……そう、この噴水広場には“アガレスの石像”が建っている。
「……ゴッデススキル、ソロモン72柱!!」エルドラド国王がそう言うと、噴水広場の周辺に大きな地響きが起こる!
「な、何!? 地震!?」クレリアは驚くが、近くに来ていたアイリに声を掛けられる。
「あ、アレを見ろ!」アイリが指差した先にはアガレスの石像があるのだが、みるみるうちに全体の色が変わっていく……!!
「はぁ~……久しぶりに目が覚めたぞ、我が王よ……」アガレスが喋り出した。
「アガレスよ! ここに大罪人の仲間がおる……奴らを皆殺しにしろ!」エルドラド国王はそう言うとアガレスは頷いた。
「分かった……我が主、バアル様……!」
その言葉を聞いたアイリは目を丸くする。
「ば、バアルですって……!?」わなわなと震えるアイリ。
それに答えるようにエルドラド国王は「いかにも!」と言って、人の姿とは到底呼べない黒いオーラを解き放って姿が変わる……!
周りの兵士も恐れおののく!
「そ、そんな……!」「国王陛下は人間のはずでは……!?」
その姿は、エルドラド国王の顔はそのままの位置にあるが、両肩が盛り上がるとそこに猫とカエルの顔が生え、胴体は蜘蛛のような様相に変わった。
「ヒィィッ!! ば、化け物……!!」逃げ遅れたエルドラド国民の一人が言うと、カエルの頭がその国民を睨む!
その瞬間、国民の頭が消し飛んだ!!
「なんてことを……!!」アイリは言うと「みんな! 逃げて!! お前らもだ!! 死にたくなければな!!」
クレリアや他の仲間に声を掛けつつ、エルドラド王国軍や王国民にも声を飛ばす!
「ローナちゃんが目の前にいるのに! 無理よ!!」と言ったクレリアはレイピアと短剣をアガレスに構える。
「やれ! アガレス!!」バアルのその言葉に頷いたアガレスは「ウオォォォ!!」と雄たけびをあげながら、クレリアにトライデントを突き出す!
「ッ!!」咄嗟にサイドステップで躱したクレリアを追うように大きな槍を回転させ、石突きの部分でクレリアを攻撃し、地面に叩き付ける!
「がはッ……!!」叩き付けると同時に吐血するクレリア。
彼女が起き上がろうと目を開くと眼前にはもうトライデントの切っ先が迫って来ていた!!
「!!!」クレリアは目を強く瞑る……! もう逃げられない!
その瞬間、クレリアの懐が強く光る!!
そして、その球から一人の男が姿を現すと、アガレスの槍を弾いた!
恐る恐る目を開くクレリア……。
何度も見慣れた姿……だが、どこか雰囲気が違う男……。
「ソータッ!!」
「……コイツが神か」
そこには、全身黒い部分鎧を身を包むソータの姿があったが……所々ボロボロになってしまっている……。




