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エリンヘリヤルの召喚術士  作者: ジュエル
第四章★領地計画編
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第100話◆強襲前夜

「ガチ、出発して!」「承知した! 筋肉号、出発!! HA~HAHAHAHAHA!!」と高笑いしながら、エルドラド王国を目指すのだった。



 ――エルドラド王国――西側ディアイス国境付近。


 サモンシールダーをおびき寄せ、そして足止めの為にディアイスとの国境付近で待機していた第四~第七大隊だが、この作戦は失敗し、クレリア達は東側からエルドラドに向かっている。


「で……いつ来るのかしら?」兵士の一人がそう呟く。

 エルドラド王国軍の傍を通るのは行商人や一般のハンターたちで、彼らはまた戦争が始まるのかと考えおり、部隊を見掛けるとギョッとした表情を見せている。

 ちなみに、行商人の積み荷は細かく調べ上げられ、ハンターたちも身元を必ず確認される。


 だが、標的であるサモンシールダーは全く来る様子が無い。

 しばらくすると、後ろから声を掛けられた。

「様子はどう?」声を掛けて来たのは、第六大隊長のエイル・ハルエールだ。


「はっ! 未だ気配はありません!」そう返事する兵士の言葉を聞くと、しばらく思案するエイル。


「ふむ……今回の作戦の立案は第一大隊ということだが、誰だ?」


「確か、アルザック様と……」


「あぁ……嫌な予感がするな……」そう言うエイルの言葉に不思議そうな顔をする兵士。


「最悪の場合、いつでも帰還できるようにしておけ」そう言って本陣へと戻って行った。



 ――エルドラド王国。


「見えたぞー!」そう言ってガチが馬車の進行方向の先を指差す。


 その先にはエルドラド王国……それを窓から眺めるクレリアは呟く。


「帰って来たんだ……」

 追われる身になってからエルドラド王国を避けて旅をしていたので、かなり久しぶりな気がする……。

 尤も、実際は旅立ってから二年も経っていないのだが。



 少し高くなっている丘を降り少し進むと、すぐにサイダル森林が広がっている……。

 ここから更に西へ進めばエルドラド王国の首都だ。

 


 エルドラド王国の周りは防備自体はある様子だが、スラムの外れの辺りは人が全然いないので、そこへ馬車ごと隠した。

 念のため高速スピナーとミスリル蹄鉄は外して回収してある。


 そのスラムの外れでそのまま話し合いを始めるメンバー。

「これからローナちゃんを助けに行くわけだけど……正面突破はマズイし、どうする?」と言うクレリアに、アイリはすぐさま答える。


「私は正面から行って問題なさそうだな。法国で作ってもらった偽造ハンター証もあるしな」

 そう言って見せてくれた偽造ハンター証には“セシリア・エファス”と書いてあった。出身もアウグスト法国ではなく、メガロス王国ということにしてあるので、問題なく入れる。

 ちなみに、本物のハンター証と見比べても全く違いが分からない。


「では、アイリ殿は旅のハンターということにして街に入るとして、我々がどうするかだな……」ムチがそう言うと、ソエラが提案する。


「戦闘は完全に任せる代わりに、ソエラ盗賊団のアジトは、スラム、中流階級街、上流階級街、王宮それぞれ全てに通じてるから簡単に侵入出来るわよ」と言われた。


 どうやってそこまでの規模を? と思ったが、地下水路をアジトとして利用している為、王宮とその周辺の町であれば、どこへでも行けるそうだ。


「では、顔は隠した状態で街に紛れ込むのは私、ガチ、ムチ、ソエラさん。そしてアイリ様は正面からね」


「とにかく私はローナを探すつもりだ」そう言ったアイリには、ソエラからアジトへの地図を渡されて別れた。


「じゃあ、アジトへ案内するわ。こっちよ、付いて来て」ソエラに付いて行く皆。



 ――エルドラド王国――中流階級街門。


「次、お前だ」門番兵に声を掛けられたアイリは、堂々と近付きハンター証を見せた。


「メガロスのハンターか。戦争があったというのによく入ろうと思ったな」と言われて怪訝な顔をされた。


「あぁ、私は大戦は参戦していなかったし、今回は友人に会いに来ただけなので」と返しておいた。一応、嘘は吐いていない。

 何せ、ローナを助けたら友達になろうと思っていたからだ。


「そうか……理由は言えないが、あまり長居はしない方が良いぞ」と言われた。

 理由を聞くと「通してやるから、ちょっと待て」と言って、交代の門番を連れて来てから少し話してから、城門の隅に引っ張られた。


「旅の人には伝えてるんだがよ……明後日、ローナとかいう悪魔召喚の魔女を上流階級街の城門前で公開処刑するらしいんだよ……悪人とはいえ公開処刑はちょっとトラウマになるだろ? だからあまり長居はしない方がいい」

 と教えてくれたのだが、彼は続けた。「分かっていると思うが、俺が教えたって誰にも言うなよ?」


「そもそも貴方の名前を知りませんし、言いませんよ。私もそんな姿を見る前になるべく早く出ようと思います」と言って通してもらった。


 たまたま噂好きな兵士なのだろうが、かなり有益な情報が得られた。


 さて、問題なく通過したわけだし……他にも情報が集められる可能性があるし、表立って外で活動できないサモンシールダーに代わり、外で情報を集める必要がある。

 色々見て回るか……。



 しばらく歩き回っていると、大きな闘技場のようなものがあった。

「うわぁ~、懐かしい!」と目を輝かせてアイリは駆け寄る。


 神話の時代、ここで魔族を認めさせるために戦ったなぁ……と懐かしんでいると「まだまだ終わらないぞ! 立て!」と聞こえて来た。

 声色から察するに子供の声だが……。


 そう言って覗いてみると、10代前半の子供と先生らしき人が打ち合っている。


 ――戦闘場。


「まだまだ! そんなんじゃ立派なエルドラド兵になれんぞ!!」と言って両手剣を構え直す。

 両手を付いて、ハァハァと呼吸が乱れる男の子は、少し呼吸を取り戻すと、顔を上げて続けた。


「もう一本お願いします! ナティーレ教官! ……やあぁぁ!!」



 そんな様子を遠くから眺めていると「おや……? 生徒のご家族か?」と後ろから声を掛けられた。


「え? ……あぁいえ、特に用は無かったんですが……」彼女は振り向いてそう話すと「そうですか。錬成学院は非常に狭き門ですが、入れたものは必ず強くしてみせます」と言っていた。


 見た所教官のようだが……。


「心強い機関ですね。えっと……」教官の顔を見ながらそう言うと軽く会釈して名乗ってくれた。


「失礼致しました。……私はメリッサ・エストと申します。ここ錬成学院で教官の職に勤めております……不躾ですが、もし大罪人のソータ・マキシのことで取材に来られたということでしたら、お引き取り願います」


 昔からある建造物を改装して創設された学院だということは、錬成学院の入学試験を受ける直前のアウグストから何となく聞いたことはあったが、まさか闘技場とは……。


「メリッサ教官。ソータ・マキシについての取材は答えないと言ったが、理由はあるんですか?」

 アイリのその質問に対して、少し重苦しい面持ちだった。

「……そうですね。貴方が記者だろうともう関係ありません。ちょっと吐き出させてください……」


 メリッサの話では、ソータが卒業してすぐに悪魔召喚の魔女と旅に出た。この世界で英雄にもなれるほどの力を持ちながら、王命に背いて大罪人にもなった。

 本来であれば、喜んで受けるはずの誘いをいとも容易く蹴ってしまったソータはメリッサが特に評価していた学生であった為、ソータ・マキシが大罪人と呼ばれるようになった後、メリッサの周囲では「彼女がソータ・マキシを大罪人になるよう育てたのでは?」という疑念が生まれてしまった。


 そんなバカな話があってたまるか……!!


 この件については、第一大隊兵のアルザック・トトラーシュ、第六大隊長のエイル・ハルエールだけでない大隊兵の十数人……そして、卒業後錬成学院の教官になったナティーレ・ヴァルゼルドが証言してくれた。

 それは「変わっているのは“彼”だけであって、学生一人一人に向き合って育ててくれていた」というナティーレの証言。

 他にもメリッサの同期であるアルザックとエイル、そしてメリッサの教え子である兵士の数人から「メリッサ教官は曲がったことを好まない。本気で殺すつもりで鍛えてくれるから強くなれるだけ。大罪人ソータ・マキシは頭がおかしいだけだ」という証言が出た。


 おかげで捕まることもなかったし、クビになることも無かったが、世間体の為に一ヶ月の停職処分にされてしまったらしい。

 錬成学院の学生を育てただけで何で停職させられなければならないんだと思ったが、決定を下したのは国王陛下。逆らうことなど出来るはずがない……。


「よく分かったよ。メリッサ教官……。貴方、エルドラド国王が憎い?」そう聞かれたが、正直に答えられるわけが無い。


「そんなことはありません」とキッパリ言い放ったメリッサ教官にアイリは返す。


「そうなの? 私は、エルドラド国王なんて死ねばいいと思ってる」笑顔でそう返すアイリに対し慌てて彼女の口を覆うメリッサ。


「あ、貴方何考えてるの!? 誰かに聞かれたら――!!」と言いながら周囲を見渡す……。幸い、聞いている人はいなかったようだ。

 ホッとした様子を見せたメリッサ教官だが、アイリは笑顔のままだ。


「何だか……ソータ・マキシみたいだな……。立場上、会ってしまったら敵同士だろうが、奴ともまた話してみたいものだ」少し寂しそうにそう言ったメリッサ教官。


「……そのうち会えるさ」と言っておいた。

 それからしばらく食料を買って渡されていた地図に描かれているアジトの入口へ向かう。


 ――ソエラ盗賊団アジト。


 一方、クレリアたちはアジトの広い空間にいた。中には決して多くは無いが、盗賊団全十人前後のメンバーが揃っている。


「みんな、紹介するわ。こちらサモンシールダーのクレリアさんよ」ソエラにそう紹介されると盗賊団内がどよめいた。


「ってことは、ローナって人が捕まったってウワサも……」「ソータ・マキシさんは……?」と口々に言っている。


 その後、これまでの経緯を簡単に説明する。黒い球にソータが封印されてしまったことやアイリという強力な味方の話もしておいた。

 噂をすればというべきか、アイリの話を終えた所で張本人がアジトへやって来た。


「お待たせ……とりあえず、食料いくつか買ってきた」と言って、食材が入った袋を、古い木のテーブルに置くと続けた。

「明後日、上流階級街の城門前でローナ・マクスウェルの公開処刑が行われるという話を聞けた。……そっちの情報はどう?」


 この言葉の真意は、サモンシールダーの味方が潜入するであろうことを読んで、偽りの情報を門番に伝えさせている可能性がある。

 だからこそ、アイリは最初から信じていなかった。


「さっき、戻って来た団員から聞いたけど、ローナちゃんの処刑は明日、中流階級街の中央広場で決まったそうよ。たぶん、冒険者にはみんなに伝えている可能性があるわね」


「すごいな、ソエラ盗賊団……」と呟くヴィオラ。


 実際の所、地下牢へ忍び込んで助け出すつもりだったのだが、まさか明日とは思っていなかった為、公開処刑当日に救い出す事で決まった。


「もう明日まで時間が無いし、サモンシールダーのみんなは今のうちに寝ちゃって。戦える人たちのコンディションを整えておきたいから」とソエラの勧めでサモンシールダーのメンバーは休息に入った。


 寝る前に装備の手入れを終わらせたクレリアは真剣な面持ちで呟いた。

「待っててね、ローナちゃん……!」



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