第98話◆大陸歴の始まり
「このアイリという者は、この時代に産まれた人間ではなく、遥か過去、この世界に転移してやって来た英雄の一人だ」
詳しい話を聞くと、神々がこの世界に表立って干渉していた頃にまで遡るのだった――。
――1616年前。
「おーい、みんなぁ! こっちに別の世界を見つけたよ!」真っ白い空間の中で、一つ自然が発生した世界を見つけるヴァルキリーの一人、スヴィプルが声を飛ばす。
ヴァルキリーを中心とした、神々たちが続々とそこへ集まる……。
その世界には、人種族が生息していたが、進化の途中といった様相であった。
「ここ、運命も輪廻も何にもないみたい。誰か降りてみる?」スヴィプルのその言葉が全ての始まりだった――。
「貴方やりなよ」「私は嫌よ。この前あっちで祀り上げられて面倒なことになったんだから」と口々に嫌がるヴァルキリーたち。
「あの~……それなら私やりますけど」と言って小さく手を挙げたのは、エン・マーディオーだった。
「あぁ、エンやる? 貴方ももうすぐヴァルキリーの一員だし、やってみたらいいよ!」
そう言って始まった、この世界の管理……。
新しく発見されたその世界に降り立ったエンは、まずエインヘリヤルにあるヴァルハラ宮殿と全く同じものを、大陸の中心部に造り上げた。これが、後のエルドラド王宮である。
ちなみに、この世界よりも遥か昔から管理していた地球のドイツにあったヴァルハラ神殿も、西暦1807年に、バイエルン王国の皇太子に天啓を与え造らせた物だそうで、この世界のエルドラド王宮と、ドイツのヴァルハラ神殿の外観は完全にと言って良いほどソックリである。
ただこちらの世界でこのヴァルハラ宮殿を造り上げた時、その世界の人間は驚きに溢れた。
というのも、まだこの頃の人類は石器時代直前。洞窟を掘って家にしたりしていた中、いきなり大きな宮殿が出来上がっていく様を目の当たりにし、心底驚いた様子で、その場で彼らの中にはエンは崇めるべき神だという認識が芽生えた。
そして、エインヘリヤルの神々も、エンが保護をする世界ということで度々遊びに行く。そこに住む人類に、数字や文字、ありとあらゆるものを伝えて進化させていく。
その頃は、まだエンはゴッデススキルを持つ人間を造り上げてはいなかったのだが、そんな時に、増えて来た人類同士で時折、争いが起きるようになってしまった。
当然、他者を攻撃して自分の主張を通そうとする者はいつの時代にも現れるからだ。
エンはその時に必要だと悟った。
この人類をまとめあげる“王”の存在を。
こうして、一人の男が人類で最初の王となった。その世界最初の王の名前は“マクスウェル”という。
しばらく平穏な日々が続いていたのだが、ある時マクスウェルはエンに願った。
「僕に友達がほしい」
彼は友人を欲しがった。きっと、王としての素質を認めて王にしたものの、人から崇拝されることに嫌気がさしていたのだろう。
そしてエンは彼の気持ちを汲んで、友人となり得る存在を作ってあげることにした。……こうして次に行ったのは、他種族を作り出すこと。
一部の賢い犬や猫から獣人を作り、一部の山羊から魔族を、そして精霊からエルフを創造した。
それぞれの種族が“王”となれば、マクスウェルの友人になると考えたからだ。
こうしてエンが予定していた全ての人類が揃った時、ヴァルハラの最高神であるオーディンを創り出した、ユミールという巨人の始祖神が「もう一つ種族を作るぞ」と言って巨人族を創り出し、エンの世界に解き放った。
ユミールは非常に温厚な性格をしており、それ故に巨人族は軒並み力は強いが、多少の個人差はあるものの他の種族と比べると温厚な種族となった。
こうして、人間、獣人、魔族、エルフ、巨人が共存する平和な世界が出来た。
だが、そんなある時、呪術の研究をしていた「ソロモン」という名の男がヴァルハラ宮殿にいる神とは別の神々を召喚し始めた。
それらの神々は“ソロモン72柱”と呼ばれ、恐れられることとなった。
ソロモン72柱が召喚されてからは、地上には当時“グスタフ”と呼ばれていた魔物が現れるようになり、やがて魔物を解き放ったソロモン72柱は、エインヘリヤルにも現れるようになった。
神々の世界で戦いが起きることとなったのはそれが理由で、その戦いはエンの保護する世界にまで波及し、大勢の人種族とヴァルハラの神々、そして魔物とソロモン72柱の戦争が巻き起こった。
ここで一つの疑問が生まれる……。どうして、ソロモンは72柱という恐るべき力を持つ神を召喚出来たのか?
これが呪術の研究と神の力を間近で浴び続けた男による始まりのスキルであり、それこそが神を召喚する“ゴッドスキル”であった。
ちなみにこれは、後にエンが作った“ゴッデススキル”のソロモン72柱とは別で、より強力なスキルだ。
事態を重く見たエンは、人種族に対しゴッドスキルに対抗する為の“ゴッデススキル”を授けることにした。
ゴッデススキルの始まりはソロモンという呪術師に対抗するためだったというわけだ。
最初にゴッデススキルを授けられたのはマクスウェル。彼には“エインヘリヤル”という神々を召喚することの出来る特別なゴッデススキルを授けた。
そして、マクスウェルには七人の友人がいた。
名は、エルドラド、メガロス、レドナス、マーディア、エレニアンネ、ディアイス、フロスト。
彼らにもゴッデススキルを与えることにしたエンは、エルドラドという男性には“天賦の才”を授ける。
そして、その他の男性のメガロス、ディアイス、フロストには、メガロスに“勇者召喚魔法”、ディアイスに“全武装マスタリー”、フロストに“封印魔法”を。
女性のレドナス、マーディア、エレニアンネには、レドナスに“絶対的強者”、マーディアに“破壊の神代魔法”、エレニアンネに“再生の神代魔法”を授けた。
その後、マーディアは全魔族を統治下に置いていたのだが、ある時から魔物を操れるという特性を持つ魔族が生まれだした。
そしてその新しい魔族の中から、王の素質のある存在を見つけることは叶わず、このまま呪術師ソロモンとの戦いを始めるべきだと思われた時、マクスウェルはメガロスに勇者召喚魔法の使用を頼んだ。
それを了承したメガロスは、すぐさまエンから賜ったゴッデススキルを使用して、勇者召喚魔法を行使した。
すると、しばらくある一点を中心に巨大な魔法陣が現れた。そしてその魔法陣が光り輝くと、一人の女性が現れたのだ。
結果、勇者召喚魔法の行使は成功。
この頃、エンがすでに保護している地球から“阿久津アイリ”という名前の人間族の女性を召喚させることに成功した。
マクスウェルは、アイリを見て女神だと勘違いをした。
そのアイリという女性……ウェディングドレスを着ていたのだが、当然異世界で神々がいるような時代にそんな衣類は無い。
当のアイリは、自身の状況を理解した途端に怒り狂っていた。
彼女曰く“ケッコンシキトウジツ”という名前の儀式を行っていた最中に召喚されたそうだ。
その阿久津アイリは、エンが欲しがっていた新しい魔族を率いるリーダーシップに優れていた。
そんな能力があると見抜いたエンは、怒りと悲しみに暮れていたアイリに、特別なスキルであるゴッデススキルを授けるという提案をする……。
アイリはその時、マクスウェルたちに協力するという条件で、一つの要求をした。
「私に、絶対的強者を超え得る力をよこせ!! ――」
そうして九つ目のゴッデススキル“相対的強者”が創られ、授けられた。
最終的に戦争は神々、人種族、魔物は互いに甚大な被害を残して終結したのだった。
そして、今後の巨悪に対抗するためには、同種族同士の協力が必要になっていく……ということで、マクスウェルはそれぞれの王と女王の名前から取った国を作ることを宣言した。
聖マクスウェル神国、エルドラド天王国、レドナス獣王国、ディアイス武王国、エレニアンネ桜国、聖マーディア魔王国が誕生した。
メガロスは、自身の国を作ることに反対しマクスウェルに頼み、聖マクスウェル神国の将軍として迎えられた。
その後、阿久津アイリは少し遅れて、マーディアの魔族とは違い、ソロモン72柱の神と同じように魔物を使役することが出来る魔族をまとめた国を建国した。
国の名前は、女王の名前である“アクツ”と、魔物という意味である“グスタフ”を合わせて“アウグスト魔皇帝国”となった。
帝国と言う名前になったきっかけは、どこの国にも属そうとしなかった島が戦争中に魔物に支配され、その島の民を救う事で統治下に置いたためだ。その島は未だにアウグスト法国の領地でもある。
結果的に、人間族だけは数が多かった為、隣り合う神国と天王国という二国に分かれたが、他の種族全員の為の国が誕生したのだった。
そして同時に、地球への帰還を諦めたアイリは、過去と決別をするため“阿久津アイリ”改め“アイリ・アウグスト”魔皇帝と名乗ることとした。
ちなみに、大戦に参加していたフロストはいつの間にか姿を消してしまっていた。
こうしてアウグスト魔皇帝国が建国されて、全世界の種族が平穏に暮らせる国が誕生したその日を“大陸歴”と制定し、長い歴史を経て国々は独立をしたり統合をしたりを繰り返して名前や形を変え、現在に至る。
――現在。大陸歴1616年。
「そんなことが……!」目を丸くして驚くソータ。……しかし、同時に二つの疑惑が生まれる。
どうしてまだアイリが生きているのか? そして、アイリの持つ相対的強者と、アウグスト法皇が持つ相対的強者……特別なゴッデススキルが何故二つ存在しているのか? ということだ。
その疑問にはアイリ自身が答えてくれた。
「そこのクレリアという子、能力透視持ちよね? 私の能力値を見れば分かるんじゃないかしら?」と言っていた為、クレリアは「し、失礼します……」と言ってアイリのステータスを見ることにした。
名前:アイリ・アウグスト 年齢:1641
等級:一級亜神
Lv:877 HP:157350/157350 MP:96721/96721 SP:114562/114562
攻撃力:17718 防御力:---
魔攻力:13452 魔防力:15678
敏捷力:18130 精神力:12753
ゴッデススキル:なし
通常スキル:【刀剣術マスタリー:Lv8】【拳術マスタリー:Lv8】【弓術マスタリー:Lv8】【掃討刃:Lv7】【一刀滅殺剣:Lv7】【指導者:Lv7】【属性魔法:Lv7】【闘争心:Lv8】【物理ダメージ無効:Lv-】【魔力解放(全):Lv7】
「……一級亜神……」呆気に取られるクレリア。
そもそも人類であれば“職業”となっている所が“等級”となっている時点で、人とはまた違う存在であることは明白。
しかし人語を介し、人間でも魔物でもないと言うのなら、別次元の“化け物”か“神”かの二択になる。
「……アイリ様。それほどまでにお強いのに、どうして先の大戦で協力してくださらなかったのです?」ソータがそう言うとアウグスト法皇が答えた。
「アイリは、つい最近まで眠っておったのだ……」と困った顔をしていた。
神となってから寿命は無くなり、かなりの期間睡眠を必要としなくなったのだが、その分一度寝ると数年~数十年眠ったままらしく、現アウグスト法皇が皇太子であった子供の頃、何度も遊んでもらったり、攻撃スキルの習得の練習をさせてもらった記憶はあるが、それからつい最近まで眠っていたらしい。
そんなアイリは、眠りにつく前にこの世界に来てから知り合った気に入った男性に“相対的強者”を授け、自身の相対的強者のゴッデススキルを手放したそうだが、彼はその後の戦で命を落とし、相対的強者のゴッデススキルの所有者が移動したり、やがてはまた他の所有者は寿命で亡くなり、相対的強者は消滅したりしている。
エン・マーディオーはその度に新しく相対的強者のゴッデススキルを作って子供に発現させる……。
今現在アウグスト法皇が持っている相対的強者は、何の因果か、全くの偶然らしい。
元々アウグスト法皇が持っていたゴッデススキルはどうなったのだろうか? という疑問が生まれると、彼は生まれた時からレベルが高く、成長スピードも速く12歳になってもエンに信じてもらえなかったらしくゴッデススキルを持っていなかったらしい。
「何やってんだエンさん……」と呆れた様子を見せたソータだが、それを振り払うと質問を作った。
「では、手紙に書かれていたローナを連れて来てほしくないという件は……?」
「私の友人が、マクスウェルという男だということは話したと思うけど……ガルガシアから聞いて驚いたわ。ローナという子の名前が、ローナ・マクスウェルだなんて……」
「まさか……!」いや、考えるまでもない。神々の話を聞いた時から勘付いていた。
「ローナ・マクスウェル……間違いないわ。その子は、聖マクスウェル神国における、神族の末裔よ!」
とんでもない事実を聞かされた。
聖マクスウェル神国では、所謂王族や王家と称される存在を“神族”と言うそうだが、そんな彼女が何故スラムの娘として育ったのか……?
「たまたまマクスウェルという姓が増えただけでは……?」そう言ったアウグスト法皇だったが“エインヘリヤル”というゴッデススキルは、その強力過ぎる力故、直系の神族にしか継承されないスキルらしい。
つまり、マクスウェルの血筋は、ただの一度も途絶えたことが無いということだ。
「それから……そのローナという子の御両親のどちらかは、珍しいゴッデススキルを持っているのではないかしら?」とアイリに言われた。
そういえば……ローナの父親のゴッデススキルは不明だが、ローナの母親であるアマリア・マクスウェルのゴッデススキルは確か“錬金術”だったはずだ。
「確か……母親のアマリアさんが錬金術だったかな?」
「それこそが、そのアマリアがマクスウェルの血筋を継いでいる証拠ということよ!」
だからか……。ソータは一つの考えが過ぎった。
以前、ローナと二人で共にエン・マーディオーと会った。15歳の頃にボルグローブを貰った時のことだが、あの時エンはローナにエインヘリヤルを授けた理由をこう語っていた。
――6年前。――エルドラド王国――女神の神殿。
「……ローナちゃんを絶対に護ってあげてね……この子にそのゴッデススキルを授けたのは、ソータ。貴方が側にいるからよ」
この言葉はつまり、偶然にも“天賦の才”のゴッデススキルを持って産まれた俺がいるから、俺の近くに“エインヘリヤルの召喚術士”を作ったということになる。
そして、俺が一目惚れして一緒に居たくなるように、絶世の美女に産まれさせた……というわけか。
少々、エンのやり方は気に食わないが、神と言うのはそういう存在なのだろう。
「ソータよ。少々長くなったが、アイリの正体についてはそう信じてもらうしかない。……その上で、本題に入りたい」
「は、はい……」
ソータにとっては、いきなり現れた前世の同郷の相手に「私は神だ」と言われたようなものだが、信憑性もある。
「では、アイリ。頼む」アウグスト法皇がそう言うと、アイリは「分かった」と言ってテーブルに置かれた箱に手を掛ける。
……が、途中で手を止めて全員に声を掛けた。
「先に断っておく。……これは、私やガルガシアの謀り事ではない……ソータ以外の全員に言っておく。今から起きることはきっと驚くだろうが、私を信じて待ってくれ」
アイリはよく分からないことを言っていたが、仲間たちは全員怪訝な顔をしながらも頷いた。
「では……」そう言って、箱を開けると中身をソータに見せる……中には真っ黒なソフトボール大の球が入っていた。
その瞬間、とてつもない圧力がソータに圧し掛かる……!
「うぐッ……!?」
「ちょっと、ソータどうしたのッ!?」クレリアがそう言っているが、反応する余裕すらないほどの強烈な圧力……。
他の者には何も感じていない様子だ。
その圧力と共に吸い寄せられるような感覚があった。
「な……んだ……コレは……!!」ソータはそう言うと物凄い勢いで黒い球の中に吸い込まれていった。
「「!!?」」アイリ以外のその場にいた全員が驚愕すると、アウグスト法皇は声を荒らげる。
「……アイリ!! ソータをどこに消したッ!!」




