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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヒューマンズ・スキンケア

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 おお、つぶらやくん、顔焼けたなあ。どうやら、けっこう外に出る機会があったみたいだね。

 しかし、日焼けもまた皮膚へのまぎれもないダメージ。あまり重ねていくのはいいことじゃあないとも聞く。将来的に、肌のシミとかになる恐れがあるからねえ。

 それに歳を重ねていくと、若いころに比べて再生能力も劣る。同じ量のダメージだとしても重症になりがちで、回復にだって時間がかかろう。


 元からダメージを受けないように立ちまわる。大事なことなのに、とても難しいことだ。

 よく知っている相手なら、まだどうにかなるかもしれない。けれども、自分の慮外から攻められては、どうしても対処が遅れる。

 もし、すぐには気づきがたい特異さ、あるいはさりげなさをそなえていたら……いよいよまずいかもね。

 私の昔の体験なんだけど、聞いてみないか?



 あれは夏に、学校のプールから戻ってきて、しばらくしてからだったかなあ。

 ひとしきりシャワーを浴びて、昼ごはんも食べて、「さあて、ちょっくら昼寝でもするか」と、アフタヌーン屈指の心地よさをむさぼろうとした直前。

 居間の姿見に映る、自分の全身がちょっぴり目に入ったんだ。

 Tシャツとハーフパンツは、家にいるときの定番ファッションだが、そのもろ出しになっている右腕のひじ。その外側あたりが紫色になっていたんだ。


 長さにして10センチほど、前腕へ向かって伸びているその色は、アザによく似ていた。

 泳いでいて、どこかにぶつけたかな? とも思ったが、強く押しても、その部分には特に痛みもない。

 内出血したものが、内側を汚しているだけかなあ? と、この時点では特に問題視をしていなかった私。

 長くても数日くらいすれば、また元通りになるだろうと、勝手に思い込んでいた。


 けれども、その数日でアザは消えるどころか、むしろ広がっていったんだ。

 特に顕著だったのが、外出からの帰り。

 自転車でちょっと遠出しないといけない用事ができて、その往復だけでも一時間近くはかかったと思う。

 その行き来が終わった後、シャワーを浴びようと、服を脱いだ時点で陽にさらしていたところは真っ赤っか。

 しみるかなあ……と、ほぼ水なシャワーをおそるおそる、ちびちびと当てていき、洗うのもそうっとそうっと時間をかけた。

 そうして着替えるときに、あらためて見る鏡の中の自分は、陽の当たったところはおろか、当たらなかった部分にも、そこかしこにあのアザらしき色を浮かべていたんだ。

 それこそ、お年寄りの肌に見受けられるシミに似たような浮かび具合でさ、みっともないこと、この上なかった。

 夕飯どきには、食卓を囲った家族にも心配されるも、痛くはない旨を伝えたところ「ひとまず、そのままで様子を見よう」ということになったよ。

 素人判断でヘタに軟膏とかを塗ると、かえって悪い刺激になるかもしれない。よっぽどひどくなるようなら病院で診てもらおう、とね。

 

 身内ならともかく、こんな格好は友達などには見せがたい。そして陽を浴びると、なお悪くなるかもしれない。

 私はできる限り、外出は陽が暮れてからにするよう努めながら、肌の様子見をしていた。

 普通に過ごすぶんには、やはり痛みやかゆみなどは感じない。けれども、色もなかなか引っ込んでいくようにも見えなかった。

 皮膚が赤らむときなど、いくらか色が引いた気もしなくはなかったけれど、落ち着けばまた青紫色が、肌を席巻し始めてるんだ。

 かといって、目立った体調不良がないのが、私になかなか踏ん切りをつけさずにいたんだ。


 それから数日後。

 自分用の水分その他を買いに行こうと、夕飯後に私は家を出た。

 コンビニまでの道のりは、徒歩でせいぜい2分ちょい。その短い時間でも、私は知っている顔に出くわさないよう、祈るばかり。

 外からでも分かるほど、煌々とした明かりを放つ店内。そこで必要なものをぱぱっとそろえて会計を済ませた私が、いざ自動ドアへ向かったおり。


 ぞぞぞっと、全身に鳥肌が立つかのような感触がした。

 何が起きたのかは、開く直前の自動ドア。そこに映る私の姿が、雄弁に語ってくれたよ。

 私の身体のそこかしこに浮かんでいた、青紫のアザらしきものたち。

 それが肌のざわつきとともに、一気に全身へ広がって、文字通り完膚なきまで、私を青紫キャベツ星人へと変貌させてしまったのだから。


 が、その異状もほんのわずかな間だけ。

 自動ドアが開くや、花火が打ちあがったような轟音とともに、私は後ろへ跳ね飛ばされかけたんだ。

 とっさに踏ん張り、コンビニ内であお向けに転がるなどという失態は避けたが、こっぱずかしいことには変わりない。

 私は背後から浴びせられている、けげんそうな視線の気配をあえて感じていないフリをしつつ、足早に店外へ足を運んだ。

 そこへ、ボロボロと顔からこぼれ、足元へ散らばっていく無数の破片が。

 いずれも青紫色に染まったそれは、つい先ほどまで私を悩ませていたアザたち。厳密にはその色に染まった、極薄の皮たちの姿だったんだ。

 日焼けした皮がはがれていくような格好でもって、店先にたまっていく私の皮膚。

 その動きがすっかり止まったとき、私は一分の青紫色を残さない、やや小麦色に焼けた肌を取り戻していたんだよ。


 家族にも、この変わりようには驚いてさ。先にあったことと照らし合わせると、あの青紫のアザらしきものは、ひょっとしたら「鎧」なんじゃないか、とか言われたよ。

 私がコンビニで、轟音の直後に受けた衝撃。

 それは何かが私を狙った砲撃のようなもので、そいつを受け止めるために身体がアザに見える青紫の鎧を展開したのではないか。そして受け止めきった皮たちは、役目を終えたことで散らばっていったのではないか、とね。


 本当のところは分からないが、もし推測の通りに鎧を展開したのだとしたら、地肌に食らったらどうなっていたことか。

 子供のころのことで、当時は非常に若かったから身体の機能も追いついたのかもしれない。

 けれども、こうして年とって同じような目にさらされるとき、果たして同じ防御を身体は行うことができるのか……正直、だいぶ不安ではあるね。

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