3.
人生が変わるほどスカッと心が晴れたわけではない。何かが解放されたという感覚も、それほど感じなかった。
だけど、『ああ、なんて気持ちいいんだろう』と感じたのは間違いない。
「このあとどうしようか」
と私が切り出す。
「そうだなあ」
考え始めた三人が、元町散策だとか甘味巡りだとか、次々に希望を挙げていく。
「リーダーのお祝いしようよ!」
とハナが言った。
「なんのお祝い?」
「なんかめでたいことあった?」
二人がそういうのも無理はない。
私はハナの様子をうかがう。
祝う気持ちよりも茶化す気持ちの方が強そうな顔でこちらを見ていた。
「何のお祝いかわからないけど、祝ってくれるというなら祝われてあげよう。じゃあ、なにをご馳走になろうかな」
少し意地悪をしてみた。
「え? ちょっと待って。おごるとは言ってないよ!」
ハナは慌てる。
「よっ、太っ腹」
「ハナさん、あざーす」
二人も悪ふざけにのってきた。
「ランちゃんともっさんは祝われる対象じゃないじゃん! なんでおごられる気満々なの!」
ハナがどんなにわめこうが、もう誰も聞いていない。
そういえば近くにクレープ屋さんができてね。うわ、クレープ食べたいかも。でも去年食べた豆乳白玉あんみつも捨てがたいなあ。ああ、あの店ね。どっちも行けばいいんじゃない、どうせハナのおごりだし。
「そうだね。そうしようか」
ああだこうだと言ってるうちに、私とランちゃんともっさん、三人の意見はなんとなくまとまった。
「そういうわけで。行くよ、ハナ」
私は右手を腰に当てる形でハナを誘う。
ハナは勢いよく私の腕にしがみつき自分の腕をからませた。
「リーダーはイジワルだ!」
「こらこら。余計なイメージつけないでよ」
私は笑ってハナのおでこを叩いた。
三人の背中を見守りながら登ってきた坂道。
帰りはみんなと並び、くだらない話に大笑いしながら下りた。