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鏡の向こうの運命のヒーロー  作者: 武田カヌイ
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運命の結びつける勾玉―特運課の研修生の試練

 午前9時を過ぎた頃、国道から山奥の林道に入ると、大きなタイヤがガタガタと振動を響かせながら、高機動車は静かな森を進んでいった。

 車両の右部座席には、研修生の西村俊介(にしむらしゅんすけ)小林奈々(こばやしなな)が座っていた。二人は心躍る研修の演習が始まる場所へと向かっていた。

 一方、車両の左部には冷静沈着な教官の神谷将太(かみやしょうた)が座り、川田湊(かわだみなと)有村陽葵(ありむらひまり)も同席していた。窓は不透明な黒いカバーに覆われ、外の景色は見られない状態だったが、彼らの心は未知の挑戦に胸を躍らせていた。


「この車両はかつて陸上自衛隊が所有していた高機動車であり、現在は国軍(国連邦軍)がその管理をしています。4年前の赤の災害以降、国軍は世界130か国に統合されていて、警察も連邦として機能しています」と神谷は重要な情報を伝えた。


「今から向かう場所は国軍管轄の施設内で、シークレットエリアとなっています」と続けた神谷の言葉に、研修生たちは興味津々の表情を浮かべた。彼らは特運課に選ばれた精鋭たちであり、運能力に関する特殊な任務に従事している。今回の演習は、彼らの能力をより高め、危険な状況においても戦えるように訓練するためのものだった。


 西村が興味津々の表情で口を開いた。

「それで、窓の外が見られないのですね」

 神谷が頷いて答えた。「その通りです。情報漏洩を防ぐための対策です。演習の場所や施設の詳細を外部に知られることなく、安全に訓練を行うために窓は覆われています」


 西村と小林は納得の表情を見せ、湊と陽葵もうなずきながら熱い気持ちで演習に臨む決意を新たにした。特運課の未知の能力と厳しい訓練が彼らを待ち受けていることを胸に、高機動車は静かな森を進んでいった。


 湊が神谷に向かって話し始めた。「そういえば、二課の3人は、どうしたんだ?違う車両に乗っているのか?」

 神谷が答えた。「実は緊急の任務が入ってこれなくなったのだよ」と話した。

 湊は困った表情で頷いた。


 昨日の夜、湊と陽葵は焦っていた。特運課の研修生として1ヶ月半潜入して学科を終え、何の情報も得られなかった。明日からは演習が別の会場で始まり、残りの期間は限られている。

 湊は隆之介(りゅうのすけ)とテレグラムでコンタクトをとっていた。

「陽葵、返事来たか?明日の演習に俺ら出たら、能力がばれるぞ!どうするんだ」と問い詰めると、陽葵はスマホを凝視して「もう!ちょっと待って!あ!返事が来た!えっ⁉」と叫んだ。

 陽葵は、ため息をつきながら「二人の運能力は大したことないし、既に特運課のプロファイルに報告しているから、君たちは研修に参加している特運課の連中と特に西村俊介の能力を分かったらすぐに報告する事。だって…」

 湊は擦れた表情を浮かべて「ガチで運能力報告していたのかよ、大したことないは、酷いな…」と呟いた。昨日の出来事を思い返しながら、不安と興奮が胸にこみ上げていた。


 高機動車が停車して、ゲートを開けるような音が轟いた。また動き出し、再び車両が停まり、後部の車両のドアが開かれた。眩い光が車内に突き刺さり、そこには体の大きい男性の影が映り出した。神谷は車両の座席から立ち上がり、ドアに向かって歩き出し、外へと出て声を放った。


「着いたぞ!みんな降りて!」と手招きする姿に従い、特運課のメンバーが次々と車両から降りてきた。彼らは外の光景に驚きを隠せなかった。かなり広い倉庫の中にいたのだ。奈々が驚きの声を上げた。

「わっ、この場所窓が一つもない…」周囲がざわめき始めると、大男が厳粛な口調で話し始めた。

「三課の諸君、静粛に、静粛に!」全員が大男に振り向き、口を閉ざした。

「私が今日から演習を担当する後藤(ごとう)だ、よろしく!」腰に手を当てて一礼し、隣にいる神谷を見やる。

 神谷の声は堅苦しい調子で響き渡った。

「この倉庫は特運課が使用する演習施設だ。静音性を重視して窓を設けていないため、外の光景は分からないようになっている。ここでは実戦に近い状況を再現し、各自の運能力を最大限に引き出す訓練が行われる。」


 メンバーたちは、神谷の厳格な口調に緊張と興奮が入り混じる心境で耳を傾けていた。特運課の演習施設での訓練は、彼らにとって重要な一歩であり、その緊張感と重みが胸を満たしていく。


 神谷は続けて「3ヶ月の研修も半ばに入り、今日から残り1ヶ月半、この場所で演習合宿を行います。向こうのドアを開けると更衣室があります。右側が男子更衣室、左側が女子更衣室です。荷物を置いたら、ロッカーの中に運動着が用意されています。着替えて、再びここに集合してください。以上です」


 陽葵は不満げな表情を浮かべながら口を開いた。

「え〜着替えるの〜せっかく、おしゃれしてきたのに…」

 愛想笑いしながら神谷が返事する。「ほら、行って、行って。」手を振り、彼らを促した。

 特運課のメンバーたちも、陽葵を含め、緊張と興奮を胸に更衣室へと向かった。


 やがて4人は再び教官のもとに戻ってきた。神谷が冷静な口調で話し始めた。彼の言葉は情熱と使命感に満ち、メンバーたちの心を掴む。

「みんなが集まったので、今日の演習概要を説明します。運能力の発動は、学科で習ったと思うが、普段危険を察知した時や、深く欲求した時に、アドレナリンが放出され同時に運力も放出される。この時に運能力が自動的に発動するが、その能力を自分の意志でコントロールできるようにするのが課題です。そこでこれを使います。」

 神谷が穴の開いた石を見せた。

「これは、邪馬台国時代に作られた勾玉(まがたま)のレプリカです。8年前に、九州地方で勾玉が発掘され、スーパーコンピュータで解析され、最近AIによって復元されました。レプリカなので本物には及ばないが、訓練用に使うことはできます。この勾玉を光らせるようにするのが、今回の訓練です。」と説明する。

 神谷が続けて野球ボールぐらいの大きさの鉄の球を見せた。

「私がこの球を、一人一人順番に投げます。西村君と奈々さんは別の物で体験しているが、私の運能力は」と語り出した。彼の投げ技は驚異的であり、100メートル以内で目標を命中させることができる。ただし、相手の運が彼の能力を上回る場合、彼の能力は無効となり通常の人間と変わらなくなる。彼は幼少の頃から野球をしていて、投げるコントロールはかなり上手だった。

 そして、「ここまでの説明で理解しましたか?」と問いかけた。


 みんなが凍り付いた表情を浮かべていた。奈々が手を上げ、神谷に向かって心配そうに語りかけた。

「鉄球は大怪我、もしくは死んでしまうと思うのですが…」

 周囲の仲間たちも深く頷く中、神谷は後藤教官を見つめながら答える。

「その時は後藤教官が助けてくれると思います」と安心を与えるように言葉を返すと、

 陽葵は動揺した表情で不安を口に出す。

「えっ、思うなの?」不安が膨れ上がり、みんながざわついてきた。

 後藤は腰に腕をかけ、大らかな笑顔で彼らに向き直る。

「大丈夫だ!多少アザができても私がみんなを守る!」確固たる決意と共に、後藤は誇らしげに言葉を紡ぐ。

 湊は心配そうに呟いた。

「おい、おい、アザってマジかよ、あの後藤って本当に教官?大丈夫なのか?」その疑問の声が湊から漏れる。

 西村が手を上げて自分の疑問を告げる。

「あの~すみませんが、僕には運能力があるのかが分からないのですが…」

 神谷が西村を見つめながら少し微笑む。

「そうだったね、とりあえず勾玉が光るかを確認しようかな」と提案する。

 西村は不安そうに頷きながらも前向きに受け入れる。

 その様子を見た陽葵が手を挙げて、

「それなら、一番最初は西村君がやった方がいいですね!」と笑顔で提案する。

 神谷は頷いて、「分からないと時間がかかりそうなので、では陽葵さんから始めようか」と決定する。

 陽葵は青ざめながらも、しまったと後悔の念が込み上げる。

 見ていた湊が笑って励ますように声をかける。「頑張れよ、陽葵」と微笑む。

 神谷がプロファイルを見て、陽葵の能力について説明する。

「陽葵さんの運能力は、信号機の点滅信号を切り替えることができるか、周囲に被害はなさそうだから大丈夫だね」と安心させる。

 湊がクスクスと笑っていると、陽葵が湊を睨み、「信号を全て青で通れるのよ!すごいでしょ!」と胸を張った。

 西村は感動した表情で頷いた。


 陽葵が紐の付いた勾玉を首にかけ、心臓が高鳴る中、50m離れた位置で神谷の前に立った。神谷が陽葵に声をかける。

「信号を青にするイメージで勾玉を見て、体が熱くなると同時に勾玉が光り出せば能力の発動だから」と説明する。

 すると、薄っすらと勾玉が光を放ち、陽葵は喜びの笑顔を浮かべる。

「やったー!光ったわ、これなら鉄球投げなくても大丈夫よね!」と自信を見せる。


 しかし、その時、神谷が鉄球を投げる。陽葵は恐怖に慄き、勾玉が強く光り出した。同時に倉庫の電気が一斉に消えて、真っ暗になった。

 真っ暗の中、奈々が叫び声を上げた。

「陽葵さん!大丈夫――――!」

 その瞬間、倉庫の電気が点灯し、目の前には壁のように立つ後藤教官と、その下には鉄球が転がっているのが見えた。湊はすぐに反応し、陽葵を守るように体を被せていた。陽葵は震えた声で「湊君、ありがとう」と感謝の言葉を口にした。

 湊は自責の念にかられながらも、

「ばぁか、俺は一歩遅かったんだよ…俺が駆けつけた時には既に、あの後藤って教官が立っていた」と話す。

 神谷は皆に向かって声をかけた。

「私も心苦しいが、これも運能力向上の為なのだ。みんな、頑張ってくれ」と激励した。その言葉に皆が固い決意を胸に秘めた。

 その時、西村は後藤教官と湊を見つめ、何もできなかった自分に落ち込んでいたのだった。


 神谷が再び声をかける。「次は昼食をはさんで、午後からは湊で始める、解散!」と指示を出した。みんなは一旦散会し、昼食を取るためにそれぞれ更衣室に向かった。


 倉庫の隣には食事スペースがあり、研修生と教官が別れて支給された弁当を食べていた。神谷が後藤に向かって「さすが、一課は違いますね。あの真っ暗の中、一瞬の動き、凄かったです!」と褒めたたえる。

 後藤は下を向いて食べていたが、箸を止めて見上げ、口を開いた。

「神谷教官、鉄球を投げた時に手加減しましたか?」

 神谷が首を横に振って答えた。

「いいえ、後藤教官を信じて思いっきり投げましたが、どうしたのですか?」

 後藤は考えながら呟いた。

「前から薄っすらと鉄球が向かってくるのを確認できたのだが、私が鉄球を受け止めようとした瞬間、急激に球威が落ちて受け止める手前で床に落ちたのだよ…」

 神谷が深刻な顔で「他の研修生の運能力とは思えませんね…ひょっとして西村の運能力ですかね…」と腕を組んで呟いた。その言葉に、後藤と神谷の間には不思議な空気が流れる。


 一方、こちらでは、研修生の4人が一緒のテーブルで賑やかに話をしていた。

 奈々がはしゃぐように「湊さんって最初は陽葵さんのことを意地悪していて嫌な人だなって思っていましたが、陽葵さんを助けたのを見て見直しました!」と湊に笑顔で話しかけた。

 湊が唾を吐くように「べ、別に陽葵に興味はないが、ある方からの頼みだから、仕方なく守っただけだよ」と言って、一瞬だけ西村をチラッと見た。

 奈々が興味津々に陽葵を見て

「えっ?えー、もしかして陽葵さんの彼氏さんなの!」

 陽葵は動揺して顔を赤らませながら「もう!別にいいでしょ!湊も余計なことを言わないでよね」と言って、陽葵もチラッと西村に目をやった。

 西村は下を向き落ち込んだ様子で顔を上げ、「陽葵さん、何も動けなくて、すみませんでした」と謝った。

 奈々が西村を励ますように

「仕方がないよ、私だって同じく動けなかったから」と言い、陽葵も笑顔で頷いた。

 そして陽葵が不敵な笑みを浮かべながら

「私は終わったから午後は3人さん、頑張ってね」と言われた。

 3人は肩を落として、ため息をつきながら食事を続けた。


 午後の演習がスタートした。神谷がプロファイルを見ながら、「湊さんの運能力は、ほほ、暗闇の中でも必ず対象物まで辿り着く能力か。それで、陽葵さんまで行けたのですね」と驚きを込めて話す。

 湊は紐の付いた勾玉を首にかけると、うっすらと勾玉が光り始めた。直ぐに大声で叫んだ。

「後藤教官――――――――ん!」

 目の前に後藤が立っており、お腹に鉄球がめり込んでいる状態だった。後藤は振り向き、怖そうな顔で「真剣にやって、次は助けないよ」と言った。湊は青ざめながら「はい…」と答えた。

 奈々の順番になり、キャーと奈々の悲鳴が倉庫に響き渡った。

 後藤が振り向き笑顔で「次は頑張ろうね」と奈々に優しく話しかけた。

 湊が呟いた「おい、おい、俺と対応全然違うじゃんよー」


 そして、神谷の50m先には、西村が勾玉を首にぶら下げ立っていた。

 みんなが西村に注目する。

 しかし、いつまで経っても勾玉が光る様子がなかった。

 神谷は後藤の顔を見た。

 後藤が頷いた。

 そして神谷が鉄球を思いっきり投げた。

 勾玉は光らず、西村の前に後藤が立っていた。しかし、西村は倒れこんだ。

 鉄球は西村のお腹に当たっていたのだった…


 次回、運命の結びつける勾玉―鏡の向こうの2人のヒーロー


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