運命の糸が絡み合う日々
警視庁特殊運命捜査部捜査一課の部内は静寂に包まれ、課長室から微かな明かりが漏れていた。小野寺彩香はドアを軽くノックし、その穏やかな声を発した。「小野寺です。」すると、部屋から優しい声が返ってきた。「小野寺さん、神谷君も近くにいるみたいですね。」少し離れた場所で神谷が応える。「あ、すみません。駐車場で待機します」と述べると、蒼井が返事をした。「構わないよ、そうだな、3分経ったら二人とも入ってきてください。」
彩香はタイマーをセットして、時間が経つのを待った。静かな室内には緊張が漂っているように感じられた。そして、3分が経過し、彩香はドアをゆっくりと開けた。その瞬間、蒼井の姿が現れ、窓の外を見つめていた。振り向くと、雷鳴が轟き、窓一面が一瞬明るく輝いた。蒼井は微笑みを浮かべながら言った。「夜遅くに、急な呼び出しに来ていただき、ありがとう」と彼は2人に語りかけると彩香が微笑みながら言った。「蒼井さん、相変わらず派手な演出の登場ですね」と話した。
神谷は心の中で小さな呟きをした。「数分前の出来事が分かる運能力やっぱり凄すぎる。蒼井さんの運力は怖くて笑えないな…」彼は蒼井の特異な能力に対する感嘆を抱きつつ、彼の背中を見つめた。
蒼井は続けて言った。「本題に入る前に、まず神谷君には、本題の経緯から触れてく必要がある」と述べ、4年前の『赤の災害』から更に2年前、今から6年前の出来事を小野寺彩香に話させることにした。
彩香はしばらく黙って考えた後、物語の幕を開くように語り始めた。
風が吹き抜ける香川県のある漁港。その風に乗って、塩の匂いが鼻腔をくすぐる。広がる海原を見渡すと、小さな島々が点在している。そんな風景が見渡せる県道沿いに、一台の白い軽トラックが静かに停まっていた。すぐ横には、制服を身にまとった若い女性警官が腕を組んで立っていました。
遠くから、慌てた様子で駆け寄ってくる50代の男性が目に入った。「おいおい、彩香ちゃんが、ここになんしょん」と男性が問いかけると、彩香はニッと微笑みながら手に持っていた一枚の紙を差し出した。「ラブレター渡しに来たんよ」と答えました。
男性は顔をしかめながら言った。「ラブレターじゃのうて駐禁切符じゃな。なぁ、知り合いのよしみで何とかしてくれんのぉ?」彩香は微笑みを浮かべながら頷きました。「わかった。今晩は居酒屋ふくろうで一杯おごるけんな!」
驚きと喜びが男性の顔に浮かび、彼は言いました。「彩香ちゃん20歳になったんじゃで!それは、めでたいなぁ。必ず行くげな!」彼は駐禁切符を握りしめ、軽トラックに乗り込んで走り去って行きました。
小野寺彩香は、香川県の地元で、交通課の巡査として地道に勤務していました。潮風が爽やかに吹き抜ける朝、彩香はミニパトロールカーのシートに身を乗り込ませ、しっかりとシートベルトを締めました。助手席には多田裕子巡査部長が座り、彩香は彼女に向かって問いかけました。「裕子さん、今からお父さんの所に寄ってもよろしいですか?」
裕子は一瞬驚いた表情を浮かべながらも、微笑みながら答えました。「あー、小野寺巡査部長(彩香の父親)は夜勤勤務なんやね。行ってらっしゃい」。父親が夜勤の日は、いつも彩香がお弁当を届けに行っていました。
漁港から数キロ離れた場所に、彩香の父、小野寺宗一が勤務する交番が見えてきた。その前には松本巡査が立っていた。彩香は駆け寄り、敬礼しながら交番を指差し、松本巡査に声をかけた。「お疲れ様です。お父さんは中におるか?」
松本巡査は「あっ!彩香さん、お疲れ様です。小野寺巡査部長は、」と話し始めた。警視庁からの連絡が届き、東京を中心に活動する半グレ組織の幹部が香川県高松市に潜伏している可能性が浮上したようだ。そのため、父親である宗一は応援のために出動することになった。彩香は不安な表情で「そう…父が帰ってきたらお弁当を当渡してくれんかい」と言いながら、敬礼してミニパトロールカーに向かって歩き始めた。
闇が忍び寄り、市街地から少し離れた場所にいくつかの住宅が佇んでいた。その中でも一軒の家には彩香が立ち尽くし、静まり返ったキッチンには彩香の母、小野寺光代が心を重ねながら時計を見つめていた。夫、宗一の帰りを待ちわびていた。光代が口を開いた。「とうさん、夜勤明けなのにまだ帰ってこんとるんやの」彩香は微かな憂いを浮かべながら答えた。「今晩、20歳のお祝いに居酒屋ふくろうで一緒に飲みょる約束やったのになぁ…」そのとき、静まり返った空間にスマートフォンの着信音が鳴り響いた。着信は松本巡査からでした。緊張が彼女の心を走り抜ける。「お疲れ様です。はい、はい、えっ!病院⁉ はい、はい…」と彩香は言葉を切り、スマートフォンを手放した。
光代は動揺の中で、彩香に向かって叫びました。「とうさんに、何かあったのじゃないの!」彩香は声を震わせながら語りました。
暴走車が恐ろしい勢いで加速し、無謀にもバリケードを突き破った。その凶暴な暴走の中で、警察官たちは身体を跳ね飛ばされ、小野寺宗一も巻き込まれてしまった。混沌とした状況の中、やがて次々と救急車がその場に駆けつけた。負傷者に急いで応急処置を施しながら、彼らを救急車に運び込んでいった。
騒然とした現場には暴走車を追いかけるパトカーのサイレンが至る所で鳴り響いていた。そのまま市内の病院へ向かうため、車列が形成されたとの報告があり、小野寺宗一巡査部長が入院している病院へと、松本巡査が迎えに来るとの知らせが届いた。静かな夜の闇に包まれた玄関先で、二人は待ち合わせをした。しばらくして、パトロールカーが綾香の自宅の前に静かに停車した。運転席の窓からは松本巡査の顔が姿を現し、彼は重苦しい表情で話しかけた。「お乗りください。病院へ直行します」玄関の外で待っていた彩香と光代は、後部のドアを開けて急いで車内に乗り込んだ。
深夜の闇が広がり、市内の病院の裏口にパトロールカーが静かに停まった。彩香と光代は車を降り、救急の入口のドアを開け、急いで中へと駆け込んだ。小野寺宗一は検査のためにICUに入っているとのことだった。幸いなことに、命には危険はないというが、医師からは頚椎の損傷があり、最悪の場合歩けなくなる可能性があると告げられ、詳しい検査結果を待って今後の治療について話し合う必要があると伝えられた。
彩香は父親が助かったことに心から喜びを感じながらも、同時に父親が警察官としての仕事を失うかもしれないという現実に落胆していた。
数日が経ち、面会の許可が下り、彩香と光代は入院用の着替えを持ち、タクシーで病院へと向かった。個室の病室のドアには「小野寺宗一」と書かれた札が掲げられていた。病室のドアをノックして開けると、ベッドに腰かけている宗一が笑顔で声をかけた。「おう!来ちょったか」彩香と光代は目頭を潤ませながら手を振り返した。そして、宗一の隣に立っている背の高いスーツ姿の男性に目を向けると、彼は20代後半であり、警視庁の捜査一課から派遣された蒼井さんであることが宗一から紹介された。
蒼井は三人に向かって謙虚な態度で言葉を紡いだ。「この度は、私たちの捜査のために、このような事態となり、大変申し訳ございません」と、深々と頭を下げた。沈黙が一瞬続き、光代は宗一の着替えを手伝うために行動し、蒼井と彩香は病室を出ることにした。
蒼井は「あなたは確か、」と言いかけると彩香が「はい、交通課の小野寺彩香巡査であります」と答えた。そして彩香は真剣な目つきで続けた。「うちの父、いや小野寺巡査部長を車で引いて行った逃走犯は一体誰なのですか?」と問いかけた。蒼井はしばらく考え込みながら言葉を選んだ。「捜査情報を話してはいけない立場ではありますが、あなたは被害者の娘さんであり、また警察官でもあるということで」と蒼井は語り始めた。「私たち捜査一課は、全国内で強盗事件が多発し、その陰には都内に潜伏している半グレ組織が指揮を取っているという情報が入った。これを受けて警視庁は捜査本部を設置し、緊急な捜査活動を展開していた。数日が経過し、ある日警視庁にタレコミが寄せられ、この半グレ組織の幹部である『西村俊介』の名前を突き止めた。
神谷は驚いて思わず声を出した。「えっ!西村って、あの西村君⁉」彼の声には驚きと疑念が混じっていた。彩香は「とりあえず、落ち着いて話を聞いて!」と言って続けた。
匿名の情報提供者が「西村を止めないと災害が起きる」と述べたという。その内容は突拍子もなく、当時の捜査官たちは皆、それはガセネタだろうと口をそろえて疑った。しかしそれ以外に有力な情報もなく、とりあえず数日間にわたって西村を監視したが、彼には何の動きも見られず、捜査は行き詰まっていた。
しかし、ある日突然、西村が香川県高松市行きの航空券を予約したとの情報が入り、私も高松に派遣され、彼の尾行を始めた。
ところが、空港での追跡中に彼の姿を見失い、市内全域に緊急配備されたという。そして、不審な車両を発見し、職務質問を試みた警官を振り切り逃走したのだった。
その後、彩香の父である小野寺巡査部長が巻き込まれてしまった。
事件から一年が経ち、父は車椅子での生活を余儀なくされ、警察官としての仕事も失ってしまったのだ。
彩香の心には、この事件が未だに忘れられず、悔しさと怒りが渦巻いていた。彼女は自身の思いを断ち切れず、警視庁捜査部に転属の依頼を出し、そして新たな舞台である東京で、彩香は蒼井捜査官と共に西村の足取りを追い続けた。数か月の苦労の末、ついに半グレ組織の実行役である工藤辰巳を突き止め、尾行していた時に『赤の災害』に遭遇した。
災害後、ロックダウン中に空き巣や強盗が多発し、警戒が必要とされていた。彩香と蒼井はその中で強盗団を突き止めることに成功し、その強盗団の中に見失っていた工藤辰巳がいたことを知った。彼らは工藤辰巳の動向を尾行し、情報を集める日々を送っていた。
ある日、尾行している最中に当時18歳の少女、小林奈々が襲われそうになる現場に遭遇した。彩香は素早く反応し、危機に瀕する少女を保護した。彼女の心は怒りに満ち、同時に救えたことに安堵も感じていた。
その話を聞いていた神谷は驚きとつながりに思わず口を開いた。「過去にまさか、西村君と奈々ちゃんが出てくるとは思いもよらなかった」と神谷は驚嘆の声を漏らした。彩香の行動力と運命の奇妙な繋がりに、彼は目を見開いていた。
蒼井はその様子を見つつ、口を開いた。「経緯はこれで分かったと思う。これからが本題だ」と彼は静かに語り始めた。
彩香と神谷は警視庁を後にした。神谷が運転し、彩香は助手席で外の景色を眺めていた。夜中のあの荒れた天候が嘘のように収まり、うっすらと夜明けの兆しが現れている。神谷はハンドルを握りしめながらため息をついて言った。「はぁ、もうすぐ朝になりますね。やることがいっぱいありすぎて気が重いなぁ…」
彩香は窓の外を見つめながら微笑み答えた。「そうね」と言葉少なく返した。彼女の表情からは、心の中に秘めた強さと覚悟が感じられた。
一方、西村俊介はアパートの化粧台の鏡の前に立ち、何度も鏡を見ましたが、自分自身が写っていないことに困惑していた。「うーん、やっぱり今日も写っていなかったか…」すると、背後から少年の声が耳元から囁くように聞こえた。『そろそろだね、始めようか!』しかし、正面の鏡には誰も映っておらず、背筋がゾクッとして振り向いた瞬間、目が覚めた。「夢か…でも、いつもの夢と違う」と西村は驚きと恐怖を感じていた。窓の外を見ると朝焼けがちらついていた。西村は何か、とてつもないことが起きるのではないかという予感を抱いていた。
特運課の存在は、普通の人々には知られていない。しかし、運命に弄ばれる人々を救うため、特運課は常に活動している。その中に入ることは簡単ではないが、特運課の一員となることは、特別な力を持つことを意味している。西村も、そんな力を身につけることができるのかもしれない。彼は、未来への可能性に期待を抱きながら、寝静まる街を眺めた。




