雪だるま型・対侵略防衛兵器ユキダルマー
その冬、世紀の大失恋をした。電子工作が好きな女とは付き合えない、だって。
バカバカしい。でも本当に好きだった。だから私は虚無。
外を歩くと雪が積もってて子供たちがはしゃいでる。どうせ融けてなくなるのに。ぜんぶ、無意味なのに。
そんな時私は彼に出会った。
彼は雪だるまを作っていた。一見私と同じく学生らしい。神経質そうな手で、道端にズラリと並べている。
意味がわからない。すると彼と目があった。彼は私に言った。
「僕は防衛兵器を作ってるのだ。春先に宇宙から侵略者が来る」
呆気にとられた私に、説明。自分の一族は代々、『侵略者』に備えて、雪だるまに擬態した兵器を作ってきたが、結局予想は外れ、毎年無駄に終わるのだそうだ。
……毎年そうなら今年もそうだろう。そう言って去ろうとしたら、引き止められた。
「君の腕。理系の筋肉のつき方だ。手伝ってくれ」
逃げようとしたのは一瞬で。フラれたからやけくそで、私はいつの間にか手伝っていた。
土台を作って、その上に雪をかぶせて。そうして偽装を完了させる。その作業を、延々繰り返す。
だんだん、私は熱中する。息を吐きながら、彼と一緒に。
――あれ。私、楽しんでる。無駄なのに。
そう思ってると、彼は私に言った。
「そう。この過程が失敗に終わっても次のノウハウに繋がる。何より君は、いい汗をかいている!」
そんなのきれいごとだ。でも、惹かれるのは、どうして?
何かを言おうとして、なにも浮かばなくて。
……次の瞬間には、空が黄色く光って、何かが雲を切り裂きながら現れる。まさか、まさか。
「そうか……この思想、『永劫回帰』こそ、奴らの敵となるのか! でかしたぞ……僕らは、報われる!」
パニックになるみんなの中で、彼は叫び、そして、雪だるま達は――空に向かって、ロケットみたいに飛翔して。
……どうやら戦いがそこで起きて、終わったらしい。
空がもとに戻ると雪だるまは消えていて、彼も消えていた。
ざわつく周囲をよそに、私はひとり、合点する。
――勝ったのだ、彼は。そして役目を終えたのだ。
「……」
妙だったのは私。なぜだか、晴れやかなきもち。
――楽しかった、よ。
誰に向けられた言葉か。言わなくても分かるだろう。彼は、私へのおくりものだった。
春が来る。
私は道を引き返して、次の恋を探しに行く。