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第8話 王都へ

:-:-:-:-:-:-:-:



『ほぉ。あんたらは徒歩でこんな辺鄙なところまで? 相変わらず大陸連中は変わってるなぁ……』

「いやぁ……大陸連中と言うより、僕らが変わってるだけですよ」

『まぁ確かにそれもそうか。わざわざ異界の門を見たいなどというヒト族は初めて見たぜ』


 ゴ氏族の集落を出発し、僕らは今、馬車に似て非なる竜車という乗り物の定期便に揺られている。


 馬じゃなくて、翼を失った陸生の竜種……ドルンと呼ばれる四肢の長いドデカいトカゲ的な生物……に客車や荷台を引かせる代物で、人や荷を運搬する機能は僕らの知る馬車そのもの。


 ドルンは操者であるゴブリンの体格に合わせて品種改良されているらしく、そのサイズは僕らの知る馬よりも一回りは小さい。


 ただし、明らかにその膂力や持久力は地球世界の馬を遥かに上回るという、異世界のトンデモ生物だ。


 なにせ、ヒト族換算で十五人は乗れる客車が荷物で満載なのに、一匹のドルンだけで楽々と引いてる。


 ゴ氏族の集落と王都を繋ぐ定期便っていうのは、あくまでヒトを運ぶというより物資の運搬を担う隊商のような感じ。


 僕らがお邪魔している空間以外は諸々の荷物という有様で、計三台の竜車が連なってる。


 こんな風にぎちぎちに積載を気にするってことは、王国においてダンジョンアイテム的な収納袋なりインベントリなんかはない……もしくは、実在しても一般的じゃなさそうだ。


『それで? その……〝心惹かれるモノ〟ってのは、異界の門にはあったのか?』

「ええ。見張り役の方にこの地の歴史なんかも詳しく聞けましたからね。雄大な自然に触れることもできましたし、何より()のロードの出発点とも伝えられる地……心躍る時間が過ごせました。集落の方々にも良くしてもらいましたから……」

『そりゃ良かった。俺達にとっちゃ異界の門もロードへの畏敬も日常の一つに過ぎないが、そんな風に言われて悪い気はしねぇな』


 僕らは大陸出身のヒト族で、〝心惹かれるモノ〟を求めてあちこちを旅しているという変人設定。道楽的な旅を嗜むというボンボン一行だね。


 いや、別にふざけてる訳じゃなく、一応ルフさんやバズさんにもオッケーをもらった設定ではあるんだ。


『異界の門を通って、こことは別の世界から来ました!』……なんて馬鹿正直に語る方が変人扱いされるしね。いくらザックリとした異世界だとしても、そんな与太話がスムーズに受け入れられないってのは流石に分かる。


 しかも、敬虔なゴブリンロード崇拝者からすれば、異界の門云々は冒涜とも受け取られかねないし、下手をすれば刃傷沙汰になる……という警告を、幼少期を王都で過ごしたバズさんからも受けたしね。


 という訳で、僕らは心惹かれるモノを追い求めるミステリーハンター的な旅人なのさ。


 ゴ氏族の集落でもソレで通したし、別に他所からの旅人でも邪険にされることもなかった。


 もちろん、ルフさんの紹介という手前もあるだろうけど、殊更に誰も気にしてない感じだったし、ゴ氏族の皆とも普通に話はできた。


「(ねぇメイ様。イノって……見た目は根暗なモブっぽいのに、ある意味ではめちゃくちゃコミュ()だよね?)」

「(……イノ君の場合、むしろコミュ()という気が……物怖じせず、デタラメな話でゴ氏族の方々と盛り上がったりしてたし……)」


 コソコソしてても聞こえてるからね? 明らかに褒めてないでしょ。しかもメイちゃん。誰がコミュ()だ、誰が。人のことをどんな風に思ってるんだか……まったく。


 二人が人見知りならぬ魔物見知りを発揮して前に出ないから、僕が積極的に話をしてるってのにさ。


 この旅人設定についてもメイちゃんとレオからは微妙に不評だけど、今のところは問題ない。と言っても、まだ王都へ向かう定期便の……御者や商人、護衛の方々の印象だけだけど。


 とりあえず、当分はこのままの設定で行く。無理そうなら別の設定を考えるだけだし。


「それで……予定では今日中に王都へ到着するということでしたけど?」

『ああ。ただ、城門の出入り可能な時間には間に合いそうにないから、到着した後、王都の外で朝まで野営することになりそうだけどな。ま、それも含めて予定通りだ』

「何にせよ、予定通りに進んでいるなら良かったです」


 ヒソヒソしてるメイちゃんとレオは放っておいて、僕は御者のゴブリンおじさんと世間話を続ける。何気ない話であっても、コッチの一般常識がない僕らからすれば貴重な情報だからね。


 リ=ズルガ王国の王都ルガーリア。


 それは城塞都市であり、巨大な城門によって外部と明確に線引をしてるんだってさ。


 都市に入る為には検問があり、城門の開閉時間も決められてる。つまり、城門が閉まってる時に到着したら、野営しながら開門を待つらしい。


 そして、そういう連中相手の商売なども盛んらしく、城門の外に定住している()()達も多いんだとか。


 コミュ狂だのなんだのと言われようとも、僕はこんな感じで積極的に集落や定期便のヒト達と話をして情報を得ている。


 事前にルフさんに聞いていたように、王国の人口比率はゴブリンが多数派みたいで、当然に定期便の関係者もゴブリンが多かったんだけど、護衛の一部にオーク種族の方が居たりもした。


 僕らにとっては、ゴブリン以外の異世界種族。


 ダンジョンで遭遇する武人肌の猛者……という感じはなく、護衛団の一員ではあるものの、牧歌的で気の良いおっちゃん的なオークだったよ。


 ルフさんの時も思ったけど、顔や体のパーツ一つ一つは魔物感満載なのに、表情に動きがあるとまるで違う。喜怒哀楽が自然にあるだけで、ダンジョンの魔物感がない。


 ただ、メイちゃんとレオには未だに違和感があるらしいから……もしかすると、ゴブリンやオークへの忌避感の無さは、僕のプレイヤーとしての()()なのかも知れない。


 ま、コミュ狂と言われても仕方ないくらいに、僕にはゴブリンやオークと話をすることに違和感がまったく無いのも確かなんだよね。


 むしろ、学園のおっかない理事や教官達と話をするよりも気楽だ。〝ダンジョンの深奥へ……〟という、湧き上がるような謎の好奇心も刺激されてるみたいだし。


 ちなみにオーク護衛のおっちゃんとも普通にゴブリン語……こちらでは〝旧帝国語〟と言うらしいけど……まぁそんなこんなで会話が成立した。ダンジョンとは違い、オーク専用の翻訳アイテムは要らないみたい。『ゴブリンの誇り』様々だね。


 そういう所も含めて、出会(でくわ)したら即戦闘なダンジョンの魔物達とはやっぱり違う。


 この世界のゴブリンやオークは……何というか普通だ。


 普通に暮らしているヒト達。


 少なくとも、僕はそう感じてる。



:-:-:-:-:-:-:-:



「……イノ君。これからどうするの? 王都を見て回ってからクエストを選択するの?」

「それなんですよね。結局のところ、今発動してる〝続・王国へ続く道〟をクリアしない限り、次のクエストが発生しないなら……その間、僕らもこの世界に閉じ込められたままってことですからね」


 定期便が王都付近に到着したのは夕方で、御者のゴブリンおじさんの言う通り、城門は固く閉じられてた。


 ただ、周りには同じような隊商なり旅人なりがたむろしてるし、城門の外には露店のような物がずらりと並び、商店街のような景観を作り出してた。ゴ氏族の集落なんかに比べると、ずっと規模も大きいし賑やか。まぁ実際は王国の法的にはグレーなコミュニティらしいけど。


 知らずに来てたら、ここも王都だと言われたら普通に信じたかも知れない。


 何はともあれ、定期便のヒト達は到着後、テキパキと慣れた感じで野営の準備をして、僕らは竜車の幌付き荷台の中で休むようにと言われた。


 ……ということで、改めてメイちゃんやレオと今後の方針会議をしてる。


 ちなみに、ゴ氏族の集落はともかく、王都までの道中は風呂もないし洗濯もできない。


 一応ダンジョンでの野営セットとして、予備の服なんかはインベントリに入れてたし、着替えてはいる。その上で生活魔法の『清浄』で清潔を保ってる。


 特にメイちゃんとレオは汚れや汗が気になるのか、かなり頻繁に『清浄』を使ってるんだけど……結果として、普段よりも清潔なほどだそうだ。お風呂にゆっくり浸かりたいという欲求はあるけど、今のところは問題ない感じ。ビバ魔法スキル。


「それよりもさ。私はこの連鎖クエストがいつまで続くのか……要はいつになったら戻れるのかってのが気になるよ。あと、ダンジョンの外と中で時間差が生じないかも……向こうに戻ったら五十年経ってたとか、ホントに嫌すぎるんだけど?」

「あぁ……確かに。有り得そうで嫌だなそれは……」


 レオの指摘も確かに怖い。ただ、流石にそんな仕様はないと信じたい。信じるしかない。


 探索型クエストの〝王国へ続く道〟で、初めてこの世界へ足を踏み入れて以降、度々行き来はしていたけど、その時は外と中の時間差なんて気にならなかった。次の日に訪れたら、こっちでも一日経ってる感じで、時間経過は同じだったはずなんだ。


 なのに、今回は一気に五十年の時間差が生まれてる。


 コレはヨウちゃんにクエストが発生したのがきっかけだろう。というか、それ以外に理由があるならお手上げだ。今の段階では僕らが知る由もない。


「……でも、それは今心配しても仕方のないこと。まずは目先のことを考えないと……〝リ=ズルガの客人〟か〝アークシュベルの旅人〟か。どちらにせよ、今の私達には、ダンジョンシステムからのオーダーに応えるしか道は無いよ」

「……メ、メイ様……確かにそれはそうなんだけど……」


 メイちゃんはクエストに乗り気……というより、クエスト開始の引き金を引いた自責の念もあるのかな? いつもより気が逸ってる感じがする。


「うーん……もう何度も話をしてるけど、結局同じ結論だね。とりあえず、クエストの選択に関しては、リ=ズルガとアークシュベル、二つの王国の文化を調べてから決めるってことで。どちらかと言うと大陸国家である〝アークシュベルの旅人〟の方がクエスト的に長くなりそうなイメージだけど……これも最終的には選んでみないと分からないだろうし」


 ま、結局はいつも通りの答えに行き着く。クエストが始まってから何度も話し合っているけど、今回のクエストは早々に僕らに〝選択〟させたがってる気がするっていうのは一致した見解だ。


 ダンジョンシステムは確かに有用なんだけど、時に引っ掛け問題的な意地悪さも見え隠れしてるし……今の状況で〝次〟を選ぶのは微妙に不安が残る。


 僕らはまだリ=ズルガ側としか関わっていない。心理的に、今の段階では〝アークシュベルの旅人〟は選択し辛いのは当然のことだと思う。でも、だからといって、逆張り的にコッチを選ぶのも違う気がする。


「……うん。アークシュベル側を知るというのには賛成。でも、レオの不安も分かるし、なるべく〝次〟をどうするかを早めに決めたいって気持ちは私にもある」

「ええ。分かってます。当座の目標としては、アークシュベルの領事館付近で二、三日話を聞いて回る……ってことにしましょうか。レオもそれで良い?」

「う、うん。大丈夫だよ。というか、焦っても仕方ないのも、慎重に進めないといけないのも分かってるから……」


 とりあえずのすり合わせ。


 まずはアークシュベル側の話を聞いて回る。


 ゲーム的にはどちらのクエストを選択しても、結局は同じような流れになる……なんてことも考えられるけど、僕らは選ばなかった選択肢をやり直すことも確認することもできない。


 最終的には、一か八か的な決断になるのも想像に難くない。


 ま、何らかの事件やイベントなんかが起こるなら分かり易いんだけど……このダンジョンシステムのユーザーフレンドリーさを考えると微妙な所だね。



:-:-:-:-:-:-:-:

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