「響也」?
「は?」
二人とも唖然とするしかなかった。
……嘘だろ、俺が死んでる。
首を吊り無惨な姿となった自分を見る。痩せこけ、白髪が混じりとても二十七歳とは思えない容姿だ。不思議と恐怖は湧いてこない。それよりも何故かと気になってしまう。
……これが俺の運命だと決まっているのか?
「待てよ、なんだよこの状況……。」
顔面蒼白になり錯乱状態に陥った茂は頭を抱えてしまった。それもそうだ。音信不通だった友人を名乗る人間に会ったにも関わらずその友人は死んでいた。彼は当然目の前の人間も信じられず、かと言っても死んだ「響也」とされる人間も信じたくないだろう。
「おい、茂。」
「お前は…誰だ?」
「俺は響也だ。実は俺、高校の時代からタイム____。」
凄まじい痛みが頭を襲っていた。灼けつく様な痛みだ。立つ事が出来ない。
「おい、どうしたんだ!?なんなんだこの状況!」茂は悲鳴をあげている。
「俺は____。」
声が遠くで聞こえる。茂が呼んでいる気がする。「おい、響也!?起きろ!!」
俺が響也って信じてくれよ……。疑問符浮かんでんじゃねぇか……。
そんな緊張感の無い思考をしながらまた身体が落ちていく。
気付けば俺はまた煙の中にいた。
……またか。なんだこの煙は。どうやったら抜けられる?また老人にエンカウントするまで歩くのか?しかしそんな事より……なんで俺は死んでいた?煙からはいつか抜け出せる。根拠は無いが自信があった。それよりも自分の自殺の理由が気になって仕方ない。死体より俺を戦慄させたのは、これ以降きっと自分に待ち受けているであろう受難だ。何もなく人は死を選ばない。
____なあ、響也。お前は何を考えていた?何があったんだ?なんで誰にも連絡しなかったんだ?なぁ、未来の俺よ、何がお前を____。急に頭痛が走った。
「お前は考え過ぎなんだよ。」
声がした。聞き覚えのある優しい重低音。しかしこんな事言われた事はない。誰だ?俺に語りかけているのは。
「そんなんだからダメなんだよ。」
次は少し突き放す様な冷たい声音。____お前らは、誰だ?
「何か」が見えた。「何か」が動いている。
「待て!」
叫ぶも声は煙の中に木霊するだけ。「何か」は全く反応を見せない。
「おい!待て!」
「誰か」を捕まえた。
「お前は、誰だ?」
煙のせいで目視出来ない何者かに問う。確かに腕らしきものを掴んでいる。
「そうか……そういうことか。俺は、チャンスを得たのかもしれないな……。」
見えないが、確かに声には喜びの感情が含まれている。どこか、聞き覚えのある声だ。
「チャンス?何の話だ。」
「お前は____。」
「誰か」が何かを言いかけた途端、再び煙が渦巻き、二人を分断する。「誰か」の苦しみに満ちた叫びが聞こえた気がした。