あぁ、残酷な未来
「え、君何やってるのさ?」
快活そうな女の声がした。どこか聞き覚えがある。
「……夏?」
「……もしかして響也?久しぶりじゃん!」
おかしい。いきなり来た見知らぬ土地で見知った顔に出会った。彼女は安城夏。高校の同級生だ。八重歯の似合う可憐な子で、所謂幼馴染である。だからこそわかる。この状況の異常性が。彼女の実家は決して農家ではないのだ。そんな子が、手を泥で汚している。Tシャツと長ズボンのラフな格好で散歩などしない性格だ。オシャレな子だったはず。見た感じ農作業に従事している。
「夏、何をやってるんだ?」
夏は怪訝な顔をした。
「何って、お仕事じゃん。響也こそ制服なんか着ちゃってどうしたの?」
「え?」
夏は訝しむ様にこっちを見て、笑った。
「ドッキリでもしようとしたの?嫌だねぇ、良い大人になってまで!」
困惑しかない。この世界では俺はもう大人らしい。何か、おかしい。まず何故畑で寝転んでいたのか。何かがあったはず。なのに思い出せない。
「いわゆるタイムスリップか?」
「なーにブツブツ言ってんの!ってかなんか変だよ?ってか平日じゃん。仕事とかは無いの?」
「実はさ、俺頭打っちまって記憶が全くないんだよ。俺っていつも何やってるんだ?」
夏は目を見開いた。
「え、嘘でしょ!?響也記憶がないの?」
「嘘じゃないんだ。俺も困っちまって。まず俺は何歳で、どんな仕事をしてるんだ?」
「ごめんね。響也が何をやってるのかは私も知らない。実は会ったの自体久しぶりなんだよ。今私達は二十七歳。私は農家の方に嫁いで一緒にやってるの。」
……そうか。夏と会うのは久しぶりになっちまったんだなぁ。
「そっか。ありがとよ。迷惑かけてすまねぇな。じゃあ行くわ。」
振り向き、夏を視界から外した。
「ううん、全然良いんだよ。たまには会いに来てよ!」
もう彼女の顔を見る事は出来ない。いや、見たくないのかもしれない。
俺は今、失恋したのだ。