父たちの遺書
丸尾澄夫の遺書
廉。この遺書を見つけられるのは君だけだろう。だから、この遺書の存在は誰にも言わないでほしい。シュレッダーにかけるなり、燃やすなり、綾乃に気付かれないように処理を頼む。
まず最初に謝っておく。申し訳ない。しかし私は、それほどまでに追い詰められていた。自分自身に、自分の不甲斐なさに。
廉には私の夢を話したはずだ。この世界から犯罪を無くしたいという、絵空事に近い私の夢を。
身勝手とはわかってる。だが、この夢を君に託したい。
廉がこの世界を変えてくれ。たとえそれがどんな非常な行いでも、結果的に世界から犯罪が消えるなら、どんな手を使っても構わない。
私のこの自殺は、きっと何の意味も為さない。むしろ馬鹿なやつだと笑われるかもしれない。
それでも私はやる。廉に火を点けるために。私は廉ならきっとやってくれると思ってる。私になかったものをすべて持っている、廉ならば。
少しだけ心配なのは綾乃だ。私が死んだことで壊れてしまうかもしれない。だけどきっと、誰かが私の死から克服させてくれるはずだ。そしてそれは恐らく、廉だろう。
母さんのことと私の夢のこと、どうかよろしく頼む。
本当に、申し訳ない。
角山真織の遺書
遺書というものを初めて書くから、書き方がわからないなぁ。
でもまあ、卓に向けたものだから、そこまで硬くならなくていいかな。母さんが見つてしまったのなら、元の場所に戻しておいてね。
まず最初に、謝っておく。ごめんね。僕は自分が死んでしまうことを、知っていたんだ。
卓は『カミサマ』のことを知っているかな。思わせぶりなことを書いておいてこういうことを言うのもあれなんだけど、僕は『カミサマ』については何も知らない。
正直僕も『カミサマ』だなんていう馬鹿げた話は信じていないんだ。だけどこの街の不思議な現象のこともあるし、念のためにこれを書いている。
僕はどうやら死ぬらしい。その『カミサマ』のせいで。『カミサマ』がどういうものなのかはわからないけど、人を一人殺すぐらいはできるらしい。
仕事の部下が『カミサマ』に僕の死を祈ったらしくてね。名前を伝えたら卓は仇討ちだなんだと言い出しそうだから教えないけど、彼も後悔しているみたいだから、もし謝りに来たらお手柔らかに頼むよ。
でも、無念なのは否めない。このまま死んでしまうというのも面白くないから、卓に後を任せる。
お母さんはきっと君の事を邪魔者扱いするだろうけど、時間が経てば大丈夫だと思う。
仕事の方は引き継ぎをちゃんとやっておくから問題は起こらないと思う。
卓にお願いしたいのは、『カミサマ』の正体を暴いて止めること。前々から思っていたのだけれど、この街はやっぱりおかしいよ。人間が生き返る街だなんて、あっていいはずがないんだ。
卓がどう思うかはわからない。でも、僕と同意見だというのならどうか、考えてみてはくれないかな。何も手がかりになる情報を残せなくて申し訳ないけど、これが僕からのお願いだ。
もしこの手紙に気付かなかったり、『カミサマ』を止める必要がないと思うなら、別にそれは仕方がないと思う。僕が言えることはない。
書くこともなくなってきたし、最後にあと二つだけお願いだ。
お母さんをよろしく頼む。
幸せになってね。