――――の遺書
私がこれを渡すのは、恐らく全てが終わった後でしょう。
あなたの物語がどう終わるか、私には想像がつきません。ですが、その結末に応じてこの内容を変えることができるような時間がないことはなんとなく想像がつきます。なので、私は数多の可能性を考慮していくつかの手紙にしたためることにします。
初めに断っておきますが、私はこの手紙を渡したくなどありませんでした。なぜなら、この一枚に書くことは私が考え得る最悪の可能性を取ったときのためのものだからです。
あなたの結末と私の結末がどうなったのかは、言うまでもないでしょう。
でも、これだけは言わせて下さい。
私は幸せでした。
あなたの力になれたことが、あなたと共に同じ目標に向かえたことが、一瞬でもあなたの隣にいれたことが、ただそれだけで私には至福の時間でした。
どうか自分を責めないでください。私はそれを望んでいません。
あなたがこれを読んでいる時、近くに私はいますか? いるのなら、見てあげてください。きっと、とても安らかで、幸せそうな顔をしているはずです。
その理由は簡単です。私は自ら望んでこの状況に飛び込んだのですから。あなたを救うためなら、私は何だってできるんです。
最後に話しているかもしれませんが、私はあなたのことを知っていました。私は以前、この街に住んでいたのです。
私の家はあまり仲がいいとは言えず、喧嘩ばかりして、私も母も父も、生傷が絶えませんでした。私は両親が嫌いでした。でもそんなある日、あなたのお気に入りの小さな丘の下から、あなたとあなたのお父さんの姿が見えたんです。
いいな、と思いました。羨ましくなりました。私もあんな親子になりたいと、そう思ったんです。
でも、人はそう簡単に変われるものじゃありません。苦労は多かったです。でも、その努力の甲斐あってか、最近は喧嘩をすることは滅多にありません。かといって、仲がいいかと聞かれるといささか疑問が残りますが。
私はあなたに会うことで、変われた。変わろうと思えた。
そんなあなたに、お礼がしたかったんです。
でも、引っ越してしまってそれは叶わなかった。
だから、高校に入ってあなたを見つけたときには運命だと思いました。この人に一生ついて行こうと思いました。この命を、この身を賭してでも、私はあなたを守りたいと思ったんです。
あなたは普段なら自らが前に立って何かをしようとする人間ではありません。だから、あなたが最初に『カミサマ』を探したいと言った時、その意思の固さに驚いたともに、わかってしまったんです。父との間に何かがあったのだと。そして同時に、嫌な予感もしていたんです。『カミサマ』に関わるのは危ない気がしたんです。
この結果が予測できていたのにも関わらず止めることができなかったというのは心苦しいものですが、私の無力は私が一番理解しています。仕方がないのです。恐らく私は結末がこうなることを悟った瞬間に、覚悟を決めていると思います。
あなたの未来を隣で見ることができないのは寂しいです。それでも、あなたの未来を守ることができたのなら、私はそれで満足です。
度々あなたは自分のことを才のない人間だと言います。私はそれが悲しいです。あなたは何かに本気になったことがないだけなのに。本気になったあなたは、誰も追いつけない領域に行けるはずなのに。
そこへ辿り着いたあなたを見れないのは本当に惜しいと思います。
あなたの背中を追いかけられないのは本当に悔しいです。
でも、その未来を守れたことを私は誇りに思います。
私はお父さんの次で構いません。いっぱい甘えて、いっぱい泣いて、全部報告してから、私のところに来て下さい。もちろん、あなたに特別な人ができて、その人に先立たれたなら、先にそちらに行ってあげて下さい。きっと待っているはずです。他に外せない友人がいるなら、私は後回しにしていただいて結構です。積もる話があるはずです。
でも私のところにだけ来ないという意地悪はしないでください。最後でいいので、あなたが生きているうちに何をしたのか、教えて下さい。
私はいつまでも、待っています。
では、一足先に、行かせて貰いますね。お元気で。希望をよろしくお願いします。