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時に。
「清姫の眼って、よく見たら怖いよね。ちょっとラリったデメギニスみたい」
斜め右隣に立っている長髪の男の娘に言われた女子はどう返すのが正解だろうか。俺が率直に思ったことは、死んだ魚の目をしたお前には言われたくない、と言うこと。
「百合くんそれは女性に対して失礼や。失言や」
斜め左隣の、これまた男か女か微妙なラインをいく中性的な顔の背の高い少年は、まともなことを言っているのだと認識されやすいが、ここで期待してはいけない。
「デメギニスに謝り」
ほら。こいつはこういう奴だ。
「てめぇは何で雄か雌か判断できんだよ。しかもテレビの画面越しだぞ。イカれてんな」
「おお。上手いこと言いはる」
「はぁ?」
「デメギニスもイカも海の生き物やん」
「でも上手いは馬やから、ちょっと掛けられへんかったんが惜しいな〜」
「馬刺しがあるから、刺身繋がりでいける。あと、上手いと美味いで完璧やろ」
二人の少年はキリッと顔を見合わせた。
「マジで何の話。てかデメギニス食べたことあるんかよ」
「あらへんよ。食べられるらしいけど。彼ら結構デリートなんやて。深海から獲っても傷つきやすいらしくてな。やから水族館にも居れへんし。かわええよなぁ、あの目」
「ほんと好きだな。魚」
「愛だ愛」
「まぁ、愛があろうが刺身をたんまり食うお前は本当にイカれてるな」
「好き言うか好物やな。好きなものであり好きな食べ物でもある、言うてな」
大皿に盛り尽くされた、大量の刺身たちの殆どが、イカれた化け狐こと、祈祷院海の腹の中に収まって行ったのだった。
「ところで、諸君。今から暇かね? 暇だよね? うんうん、暇を持て余しすぎて、昼間から、花金の四〇代半ばのリーマンのように刺身パーティをしているわけだから、暇に決まっているに決まっているんだから、聞くまでもないか」
「だったら聞くなよ。言葉の浪費だぞ。サクッと用件を言えよ最初から」
「まぁまぁそうカリカリしなさんな。更年期にはあと約四四年と四日と十四時間もあるんだから」
「生まれた時間まで知ってんのが怖すぎて、更年期とか言われてもどうも思わないのは俺だけか……?」
「よし、今から我武者ランドに行くよ」
「脈絡もクソもねぇなこいつ」
中学三年の最後の秋。もう少しで溢れそうとコップの表面張力にドギマギするように__冬になりそうでならないくらいの秋の日。
電車で一時間のところにある「我武者ランド」という遊園地に、男の娘(正確には男でも女でもないただの植物人間)・教楽来百合の鶴の一声で、遊びに行くことになった。