5話 トヲル君
……。
ぼくは瞼をゆっくり開けた。
……。
ここは??
空は青く澄み渡り、どこまでも草原が続いていた。
遠くを見ると、岩山や城などがある。
ここオルタナティブ・ワールドは、区画整備され、人間が効率的に住むための都市とはまるで違っていた。なんか北海道のようである。
続いて、ぼくは自分の格好を見る。
……。
布の服と靴、皮の胸当て、皮の盾……なぜか、剣は持っていない……が、明らかに勇者の初期の出で立ちである。
ただ……このRPGな雰囲気で、剣がない……なんて、ありえない……うわわわわ。
「ようこそ、オルタナティブ・ワールドへ」
「……」
誰かがぼくに声をかける……ぼくは声のする方に顔を向けた。
「ぼくだよ、トヲルだよ。あらためて、よろしく」
「あっ……」
彼は微笑を浮かべていた。
それは爽やかで、くったくのないものだった。
トヲル君の出で立ちをチェックする……えっ!?
白いYシャツにスリムパンツ……いわゆる普通の中学生の夏服だ。ぼくのようなRPGな格好ではない。
……。
できることなら、トヲル君と同じ格好がよかった。年も一緒なんだし、学生らしく……でも、ここは現実ではない……オルタナティブ・ワールドだ。だったら、トヲル君がぼくと同じになるべきではないか?
「これからよろしく」
彼は右手を差し出し、握手を求めてきた。
ぼくは彼の手を握る……その前にしばらく彼の手を見つめてしまった。
とてもスリムで華奢な手だった。野球三昧のゴツゴツしたぼくのとは違う。なんか……女の子みたい……実際、やわらかかったし……。
「さぁ、行こう……心の平静を求めて」
「あっ……うん」
トヲル君、顔に似合わず、積極的だな。
よし、がんばるぞ……せっかくのチャンスだ。「心の平静」を手に入れ、受験戦争を勝ち抜いてやる……よぉーし。
「そんなにリキんじゃダメだよ……心の平静なんだから、その言葉の如く平常心でいないと」
「そ……そうだよね」
でも、トヲル君……なぜか、キミと一緒に居ると……平常心ではいられないんだよ。
なんかよくわからないけど、ドキドキしてしまう……。
「ユウヤ君、リラックスして……まずは町をめざそう」
「うん……」
彼はぼくの手を握り、歩きだす……。
……。
ぼくも彼の手に引かれるまま、一歩を踏み出した。
<登場人物>
・岡本結太:主人公、男性、15歳、中学3年生、身長170cm、普通の体型、坊主頭の野球少年
・桐生徹:男性、ユウタの旅のパートナー
<参考文献>
・良き人生について ウィリアム・B・アーヴァイン