4話 オルタナティブ・ワールド
パパ、いや彼女は……確かぼくにパートナーをつけると言っていた……彼がそうなのか……。
「あの……キリュウトヲル君……」
『トヲル……でいいよ』
「じゃあ……ぼくもユウタでいいよ」
トヲル君……か。
不思議だ……。
今、この風呂場には誰もいない。
……のに、彼と会話している……どうしてこんなことができるんだろ??
『ユウタ君の頭の中に、合成タンパク質で精製されたニューロ・チップを埋め込んだんだ。だから、言葉を発しなくても直接会話できるのさ』
「頭の中にニューロ・チップを……どうやって?」
『量子暗号無線LANを経由して』
……。
いまいち仕組みがわからない。
……が、そのニューロ・チップとやらが、ぼくの頭の中にインストールされたらしい……って、大丈夫なの??
ぼくは、お湯の中に口と鼻まで沈め、ブクブク……しながら考え込む。
『チップはそもそも合成タンパク質でできているから無害だよ。受験当日には消去するから、これくらいの短期間であれば、キミの脳の成長にも負荷がかからない計算なんだ』
トヲル君だ……その声はまるで世話好きの学校の先生のようだった。
ぼくが考えていることを、彼(トヲル君)は即座に回答してくれる……ってことは、ぼくの考えていることは筒抜けっ!?
『筒抜けにはならない。残念ながら四六時中、キミと会話することはできないんだ。ぼくはぼくで、やることがある。ただ、できるだけキミの側にいるようにはするつもりだ』
とりあえず、ぼくの考えや行動が、まるっと監視されているわけではないようだ。これについては彼を信じるしかない。
ぼくはお風呂から出た。長湯してしまったので、のぼせ気味……少しボーっとする。
脱衣所にて、部屋着に着替える。ぼくは坊主頭なので、ドライヤーは使わない。
……。
「心の平静」を探す旅ってなんだろ……??
そもそもぼくは受験生だ。受験勉強の時間を削ってまで、旅する必要があるのか……いや、ない。(反語)
うーん……。
『大丈夫だよ、ユウタ君。キミがこっちの世界、オルタナティヴ・ワールドに来てくれれば、そんなに時間はかからない。なにしろ、こっちの世界は1,000倍加速されているから』
「い……1,000倍!?なに、それ??」
『そっちリアル・ワールドの1分の間、こっちオルタナティヴ・ワールドでは1,000分、つまり16時間40分進むんだ』
「えっ……何時間も何日もオルタナティヴ・ワールドに過ごしても、実際は数分しか進んでいないことに……」
『そういことだね。さっそくこっちに来てもらい、最初の学びであるネガティブ・ビジュアリゼーションとについて話そう。さぁ……フォース・オルトと言って』
「ネガティブ・ビジュアリゼーション……??フォース・オルト……」
ぼくの身体が光に包まれた……な、なんだ……この気持ちよさはっ!?……ヤバいな、これ……。
<登場人物>
・岡本結太:主人公、男性、15歳、中学3年生、身長170cm、普通の体型、坊主頭の野球少年
・桐生徹:男性、ユウタの旅のパートナー
<参考文献>
・良き人生について ウィリアム・B・アーヴァイン