3話 旅のパートナー
ぼくは立ったまま、リビングの床に仰向けで寝ながらハードカバーを読んでいるパパに声をかけた。
「相談したいことがあるんだけど……」
「なんだい……勉強か?」
パパは読んでいた本を床に置いた。そして上半身を起こす。
ぼくは会話を続ける。
「勉強っていうか、心理学というか……そんなところ……でも、パパではなく、パパの彼女と話したいんだ……」
「そうか……うーん……」
『アツヤ君、わたしはかまわないが……』
「そうですか……じゃ、少し息子の相談に乗ってあげてください……フォース・チェンジ、と」
ごにょごにょ独り言を言っていたパパは目を閉じた。
そして、目を開け、ぼくを見据え、床から立ち上がる。身長が同じくらいのぼくと正面から向き合う……うぅ、胸元の盛り上がりの威圧感がハンパないんですけど……。
『ユウタ君、相談って何かな?』
「えーと……受験勉強を乗り切るための……アドバイスが欲しいんです」
『アドバイス……どんな、アドバイス?』
「えーと、その……勉強そのものではなく、心の平静を得るにはどうしたらいいいか……です」
……。
いきなりの無理難題で臆してしまったのか、彼女は、握り拳をあごに触れ、左手で右肘を掴むポーズをとる……目を閉じ、何かを考えるようにうつむいた。
数十秒後、彼女は目を開き、ぼくを見据え、おもむろに言葉を発する。
『ユウタ君にパートナーをつけよう。本日中にはコンタクトするよう取り計らう。では、がんばりたまえ……フォース・リロード』
「えっ!?……パートナーって?」
……。
パートナーをつけるって、いったいどういうこと……??
ぼくはてっきりパパというか、彼女が何かしらの指導を直接してくれるもの……だと思っていたのだ。
彼女、いや今はパパか……は、再び床に寝っ転がり本を読み始める。
ぼくは洋室に戻り、勉強を再開した。
……。
その日は何事もなく、ひたすら勉強した。
少しモヤモヤして、いらだち気味だった……ので、勉強ははかどらず……ここでも怒になってしまった……「心の平静」はいつになったら、手に入るのか……。orz
……。
もう夕方か……ぼくは気分転換も兼ねて、早めに入浴することにした。
ひととおり身体を洗った後、沸いたばかりの、きれいな湯船に浸かる……一番風呂、最高だな。
お風呂のなかで、ボー……としていた。
しばらくすると、ぼくは誰かに、直接話しかけられた……ぼく一人しかいないのに!?
『オカモトユウタ君、ボクの声が聞こえるかな?』
「き……聞こえるけど。だ……だれ?」
『ボクの名前は桐生徹。ボクはキミの……旅のパートナーだよ』
「た……旅??」
『そう……「心の平静」を見つける旅さ』
ぼくのパートナーは男の子だった……。
<登場人物>
・岡本結太:主人公、男性、15歳、中学3年生、身長170cm、普通の体型、坊主頭の野球少年
・岡本淳也:男性、52歳、ユウタの父、IT企業に勤めるサラリーマンかつ公認LGBT社員、人格は変わらないが、外観はレイカになっている
・桐生麗華:女性、25歳、独身、ニューロ・コンピュータ・サイエンスなどなどの権威、故人、自律型AIに生前の人格をコピーし、DCのサーバに潜伏する。アツヤとは脳内チップを経由して会話する。古武術の使い手でもある
・桐生徹:男性、ユウタの旅のパートナー
<参考文献>
・良き人生について ウィリアム・B・アーヴァイン