ゾンビがたくさんいる世界で生きることになりました
思い付きで書いた短編です。
とても適当なお話ですので、深く考えず軽い気持ちで読んでいただけますようお願いいたします。
一部、残酷描写があるため、苦手な方はご注意下さい。
三流大学を卒業し、特に深く考えずに適当な会社に就職し、4年。
連日の激務による睡眠不足、疲労、そういったモノで弱っていた自覚はあった。
だが、死んだ覚えはない。
「えっと、あの、あのね。その、ちょっとした手違いっていうか…ごめんね?」
神様を名乗る少年は、目に痛い真っ白な景色の中で突然俺の前に姿を現し、そう謝罪した。
なんと俺は寿命が尽きた訳でもないのに、こちらにおわす神様少年のうっかりミスで死んでしまったそうだ。
そう、何のきっかけも脈絡もなく会社に出社直後タイムカードを押すと同時に心停止し、まっすぐあの世行きである。酷い。
せめて多少なりとも納得できるタイミングで死にたかったです神様。これじゃ俺タイムカードに殺されたみたいじゃん、今頃会社の伝説になっちゃってるんじゃないか。
「ごめん!ごめんなさい、あの、ボクがミスに気付いた時にはもうキミのお葬式も終わってて、遺体も火葬にされちゃってて。それで、あの、元の世界に戻ることはできないんだけど、せめてもボクの管理する世界の中の良さげな所で改めて生き直すっていうか、そっちでなんとか幸せな人生を送ってもらえたらいいなぁ、って」
しどろもどろ、指先を忙しなくわきわきさせつつ涙目で必死に言い募りながら、俺を見上げてくる少年(神)を前に、肉体を失った魂だけの俺は茫然としていた。魂だけだから空中でふよふよしてるだけで表情も何もないんだけどね。
そして、少年に他の世界について色々教えられながら、そういえば最近「異世界転生」とかよく聞くし、これはもしや案外普通にあのまま社畜生活をしてるよりも楽しい暮らしが送れるのかもしれないと思いなおした。人生、何事も切り替えが肝心なのだ。
そう、異世界。
魔法使えたり魔物退治とかして、チートな魔法でどっかんばっかん、大金持ちになってハーレム作ってウッハウハも夢ではないのではないか。具体的には中学二年生くらいの時に友人達とポテチ片手にゲームをしアニメを見ながらわいわい盛り上がって「夢だよな!」と熱く語り合ったあの世界が、俺の手に!?
迸る妄想が止まらず忘れていた男の野望(?)に胸が熱くなりテンションが上がっていると、いつのまにか少年は俺の転生先についての説明を終えていたらしい。
やばい、よく聞いてなかったかもしれない。
「え、よく聞いてなかった?うん、大丈夫だと思うよ。これからキミが行く世界はね、キミが最近お気に入りのゲームで親しんだ世界だから。きっと気に入ってくれると思う、あの世界でいっちばん役立つだろう能力をてんこ盛りにして送り出してあげるっ!キミはこれから目いっぱい幸せに生きるんだ!」
ありがとう神様―!!
テンションマックスのまま、ニコニコ笑顔の少年に見送られながら「転生陣」という場所にふよふよと浮かんだ。
やー、死んだ直後はどうなることかと思ったけど。人一人を死なせるミスはしたろうけどやっぱり神様、この少年はすごくイイヤツだな。これは幸せにならざるを得ない、ウハウハな生活が俺を待っているのだぐふふふ。
……ん?
あれ、そういえば最近あまりに忙しすぎてゲームなんて久しくやってないような。ここ2年ほどは…全然……ぜ
ぎゃああああああ!?
まさかと思いながら、さっきの少年の言葉を反芻し(声が出せないけど)絶叫した。
「え!?ど、どうしたの!?なに、どこか痛いの!?え、ウソちょっとストップ止め…ッ」
魂状態の俺の異常に気付いたらしい少年が狼狽え、俺の浮かぶ転生陣に駆け寄ろうとするも時すでに遅し。
転生陣から眩い光が放たれ、俺の視界は白く染まった。
就職してから年々キツくなる勤務体制に忙殺され、たまの休みはただひたすら惰眠を貪るだけだった俺は、趣味といえるほどではないがまぁ人並みに嗜んでいたゲームからは長らく離れていた。スマホのゲームも全然手を出してなかったな。
だがそれを知った会社の同僚に無理やりお古のパソコンを押し付けられて、半ば強制的にプレイさせられていたゲームがあった。
なんでも、彼の知り合いは皆他のゲームにハマっていて一緒にやってくれる奴がいなかったらしく、暇な時だけでいいからちょっとだけ協力してくれと頼みこまれて、昼食を1週間奢ってもらうことを条件に渋々と参加していたネトゲ。
パソコンでゲームをするのも初めてなら、暇な時間も少なかった。
そのゲームをやり始めて確か4日くらいしか経っておらず、でもまぁひさしぶりのゲームはやっぱり面白くて、多少操作に慣れる頃には時間が合わず友人抜きの時でも一人でプレイするほどに結構楽しんでいた。
そのゲームの名は「Let's live in hell」
すげぇタイトルだが、一言で言うとゾンビがいっぱいになってしまった世界で生き延びるゲームである。
最新のCGにより描かれた超リアルで広大な世界を駆け巡り、毎晩凶暴化するゾンビから身を守り、生き延びろ!が謳い文句な自由度高すぎなアクションゲームだ。それほど大きなタイトルではないが世界中にコアなファンが多いらしく、配信から数年経っても人気は衰えていない。
一応ストーリーはあるもののクリアしようとする人は皆無で、ゾンビの蔓延する島から脱出するとゆーゲーム目的はそっちのけで銃をドンパチ、罠満載の拠点を作り上げゾンビを迎え討ち、生活するためのインフラも自力で整備したりする。
ゲームならではの滅茶苦茶に多彩な技能を持つプレイヤーキャラは、外見や服装はもちろん、取得する技能も好みでカスタマイズできるのでやりこみ要素も高いそうだ。
大量のゾンビ相手に日本刀で無双したり、島の廃墟を利用したアスレチックを建造したり、島中の木を指定時間内に切り倒すチャレンジをしたり、知人と協力して巨大な拠点を築きあげたり、かと思えば他プレイヤーを襲撃してサバゲーみたいなことをしたりと、皆好き勝手に暴れまわっていた。
ゲーム開始時には5段階ある難易度から好きなのを選べて、俺は最初「ノーマルモード」で始めたけど死にまくって全然進めないからこっそりリセットしてやりなおし、一番簡単な「ハッピーモード」で再スタートしたんだ。
それでようやく、なんとかゾンビから逃げたり倒したり、アイテムを集めたりも出来るようになって、そうしたら案外のめりこんできて。
ゲームに引き込んできた友人には下手すぎて馬鹿にされたけど、ゲームなんだから楽しけりゃいいじゃんと開き直ってストレス発散にちまちまとプレイしていたのだ。
「うらー死にくされゾンビさんー!」「ギャー罠で誤爆したー!?」とか夜中に一人で(小声で)盛り上がり、日頃の鬱憤を晴らしていたものだ。うん、すっごく気晴らしになってたな。
まぁ、それでも映画のように本物そっくりなゲーム画面で暗闇の中をリアルなゾンビが大群ダッシュで群がってくるのは恐怖で、ゲームだって思っていないと直視出来ないほど。
うん、ほら、ゲームだったし。俺も他のプレイヤーみたくそれはもう楽しんでいた。
なにせまだ4日しかやってないからプレイできた時間はそんなでもなかったし、こういう系のゲームにも不慣れだったからまだ全然やりこめてはいなかったけど、ちっちゃな拠点をコツコツ作って罠を仕掛けて、ちょっとずつキャラクターを強化してニヤニヤしてたもんだ。
おいおいおいあれゲームだしボタン一つでバーンて倒せたから平気だったんだよ!?画面越しだったから笑ってプレイ出来てたんだよ!?
ってヤダー!今思い出したけどヤダー!
あのゲームに出てくるキャラって皆男も女もマッチョゴリゴリじゃないですかヤダー!!俺は今風の華奢な日本人系美少女が好みなんだ、あんなアンジェ〇ーナ・ジョ〇ーとチュ〇リーとハンマー投げの選手を足して2で割った(3÷2てことだ)ような180cm越えの迫力美女はなんかそういう対象じゃないんだ!キレイだとは思うけどなんか違うんだ!!
イヤアアアアー!!!
と、一瞬でそれらの記憶を思い出し心の中で絶叫しつつ、魂の俺はちょっとだけ見慣れた現代風ゾンビゲーの世界へと転移していたのだった。
異世界に転生してから、早くも半年が過ぎた。
元の体と全然違う新しい体に無事生まれなおした(?)俺は、でも神様の気遣いか微妙に日本人の名残がある姿になっていた。赤ちゃんスタートではなく、多分20歳代前半くらい?で。
多分ハーフかなってくらいの日本人度、でもやはりゲーム仕様なようで中々の痩せマッチョ。中肉中背平凡顔だった俺の面影は、首から上に微かにしか見当たらない。
かなりイケメンになってたのは正直嬉しい、ちょい濃い目なのが気になるけど。このゲームに出てくるキャラクターの中ではこれでも薄めだけどさ。
俺が送られたのは案の定というか、やはりゾンビ蔓延る世紀末な世界だった。ゲームのまんま、多分アメリカとかそういう国が舞台で、ゲーム通りに本島から離れた島が舞台だった。
で、すでに島全体が壊滅状態。
転生直後、瓦礫が散らばる大きな交差点に降り立った俺を歓迎してくれたのは、ファンタジーな美女ではなく見るもおぞましい多数のゾンビさん。
……だよね!わかってた!
初日はもう、ただただパニックになって街の中を逃げ惑い、ゾンビさんが入ってこれない場所を見つけて潜り込み、ガタガタ震えながら膝を抱え鼻水垂らして泣いていた。
こんな世界に送り込みやがって神様コノヤロウ!って呪って過ごすこと半日。
でも、腹が減ってきて「ああ、これ夢じゃないんだ、現実なんだ」とふと思った次の瞬間、ある疑問が沸いた。
あれ?なんで俺、逃げられたんだ?
だって、あれだけ大量のゾンビさんに囲まれて、なのに怪我すらしてないし。いくら相手が腐った死体とはいえ歩くどころか走ってる奴もいたのに、運動音痴の俺がなんで振り切って逃げ切れたんだ?
例え別人な体になってるとはいえ、ビビッて腰が抜けるような状況でなんで全力ダッシュ出来て、街中の様子を冷静に見て安全地帯に潜り込む余裕があった?
はっと、自分の背中に背負われたリュックサックに今更気づく。
開いてみれば一番上に載っていたのは一通の手紙。
それは神様からの手紙だった。
『転生する直前のキミがものすごい顔をしていたのでよく調べてみたら、キミはファンタジーなゲームが好きだったのだとわかった。ボクの勘違いで申し訳ないことをしてしまった、せめてキミがその世界で快適に生きていけるよう、メッチャ頑丈な肉体とこれらの品を送る。なんとか生き延びて幸せになってほしい』
神様……!
手紙の中の優しい言葉の数々に、思わずじーんと感動するが、でもゾンビいる世界で生きてくって事実は変わらないじゃん!!
神様ごらぁと叫んでリュックを床に投げつける。だが、しばしやさぐれた後、しょぼくれながらやっぱり拾いにいく俺だった。
リュックの中には、手紙の下にナイフや銃といった武器に食料、傷薬に寝袋、テント、燃料に建材やら服や本やらも入っていた。
つーかどう見ても容量以上の物量がそれはもうみっちり詰まっていた。
長さ的に絶対このリュックには入らないだろうデカい銃、ファスナー全開にしても出し入れできないだろうぶっとい木材、重量を考えると背負って走れる訳がない多量の鉄や銅のインゴットまで、手をつっこむたびにどんどん出てくるのだ。
これ、ゲームの仕様を超えてるよね?なにこれ、ここだけファンタジーな世界になってない?
確かにゲーム中で持ち運べるアイテム数が「ハッピーモード」だと多めになっていて、他のモードには存在する「重量」の制限すらなかったりする。
しかも「個数」でのみ数えるので、同種類は一纏めな上に各99個まで同時に持ち運べる。
確かノーマルだと、一度に持てるアイテムは一種類20個までで、合計30種類しか持てなかったはず。
重量の関係もあって、レベルを上げていっても無限に持ち運べる訳じゃない、たぶん。裏技とかあったら分からないけど。
うーん、うん?まぁ、ちょっと現実味がない現象が起きてる気がするけど、この際ありがたく受け取らせていただこう。すっごく便利そうだし。
「つーか神様…!なぜにこれを入れた!?使う可能性あるの!?」
どんどん際限なくリュックから出てくる荷物の中に、ふりっふりのワンピースを見つけて思わずツッコんでしまった。
俺は詳しく知らないんだが友人が言っていた「レア衣装」ってやつだろう。どう見ても男が着るモンじゃない。
そして、仮にこの世界で他に生きてる人間がいたとしても、性別関わらず多分みんなマッチョ。こんなふりふりを着こなせる訳ないだろ!
つか命がけでゾンビから逃げ惑う状況でおしゃれする余裕なんざあるもんか。スカートで全力疾走する女なんて映画の中でしか見たことないぞ。
…でも、こっちのボンデージなエナメルスーツ(?)は、もしかしたらワンチャンある、かもしれない。
うん、布地が少ないし動きやすいし軽いし、メッチャ動きやすいし。うん、絶対にこれ動きやすい、胸と股間しか隠れてないしね。
これは一応、念のため万が一に備えて、ひとまず保管しておこうかな。かさばるもんじゃないし。一応ね。
隠れ場所のビルの一室を荷物で埋め尽くし一通り検品した後、またリュックに詰め込み直す。
これからの人生には不安しかないけど、まぁこうして生きてることだし、とりあえず歩き出そう。無責任でドジな神様に対して少々思うところはあったが、俺はちょっとだけ元気を取り戻していた。
そんなことがあって、でも人間てのは逞しいものだ。
なんとかしてこの世界で生きていこうと、せめても安心して休める拠点を探そう、または作ろうと思って、俺は廃墟の街を連日こそこそと歩き回った。
いつまでも落ち込んではいられない、せっかく人生をやり直せる機会をもらったんだ、せめても生きる努力はしないともったいない。
この世界でもゲーム中と同じく夜はゾンビが元気になるみたいだから、昼間だけ街を探索した。
夜は安全な場所に隠れ、慣れてくるとゾンビから隠れて暗闇の中を移動したり。
で、ゲームの記憶を必死に掘り返したことで思い出した。便利なスキルがいっぱいあることを。
このゲームのプレイヤーが使える能力、「スキル」を駆使することで、なんとか数日後には「ひとまずの」狭くとも安心安全鉄壁な拠点を築くことに成功した。鋼鉄製のプレハブ小屋って感じのやつ。
木を切り倒し、岩を削り素材を集め、職人顔負けの技術をスキル一発で実装、数秒待つだけでハイ完成!
土台に床に柱、壁、パズルみたいにポンポンと組み上げていく。これでそれなりの強度の建物がすぐ出来上がっちゃうんだから、ゲームって出鱈目だ。いや、これ現実なはずなんだけど。
出来れば元々ある建物にそのまま住み着きたかったんだが、普通の建物だとゾンビに壊されそうでさ。みんなわりとボロボロに見えるし。
それというのもこのゲーム……いや、この世界のゾンビってメチャ元気なんだよ。
低レベルのゾンビは足を引きずってたりするけど、平均するとだいたいが普通に歩きまわってる。
そしてちょっとレベルの高いゾンビになると走るし、跳び跳ねる奴、物を投げる奴、タックルかましてくる奴までいるし、スキル使って自作で建築するごっつい建物じゃないと不安なの。
コンクリ製のビルだって、ドアと窓部分破られたらそこからゾンビさん雪崩れ込んでくるから。
寝てる間はさすがに身を守れない、もしもを考えると身を守る拠点のクオリティーは重要。
ゲームと違ってリセットしてやり直しとか出来ないからね。もう死にたくないです。
ゲームをやっていた時、俺の建築系スキルは2つしかなくて「低級レベル」だった。まぁ4日しかやってなかったしな。
が、ことは命に関わる。これは現実でゲームじゃないんだから一切の妥協は出来ない。
プレハブっぽい仮拠点に夜は逃げ込み、昼間は良さげな場所を探しつつ建材や食材とかの物資を集める日々が続いた。だが、逃げて隠れてだけでは、レベルはそれほど上がらない。
はい、決死の覚悟で、神様にもらったこの体を信じてゾンビさんに突撃かまして必要な経験値と物資をかき集めましたよ。正に死ぬ気で。さすがに一か所に大量にうぞうぞいる場所は狙わなかったけど。
取得するスキルが細かく選べるのはゲームと同じだったようで、ゾンビさんをヒット&アウェイで次々狩っていきどんどんと建築関連スキルを取り、そのレベルを上げていった。
そして上げたレベルに相応しい、立派な拠点を1か月かけて建築した。
あちこち見て回った結果、ゾンビさんが湧く場所は決まっているっぽかったのでそれらの危険地帯からは距離を取り、街を離れた高台に近い場所に腰を据えた。
俺の拠点……最早要塞?ってほどにゴツゴツにゴツいそれは、森を見下ろす坂の上にある広い空き地をドーンと占拠している。むしろ聳え立っていた。
うん、やりすぎたかも。
でかい、建物が。広すぎる、敷地が。
建物を囲む外壁には四方に高い塔を作り、登って上から周囲を見渡せるようにした。
一階はほぼ全域をゾンビさん歓迎用のトラップ回廊にして、安全な二階、三階には体育館みたいな広々としたリビングにダイニング、キッチン、上下水道完備、大きな浴場は男女別で2か所、暖炉にエアコンまで設置。
空いてるとこには客間として個室をたくさん作り、ドアをずらーっと並べて笑ってたらえらい数になっ
てた。だって下の階のトラップ回廊を作り込みすぎて、上の階も無駄に広いんだもの。
ちなみに「1階」と言ってはいるが、1階は実質2階分の高さになっている。天井を高く取って中2階みたいに立体的な作りにして、ゾンビさん専用コースと俺専用コースに分けて複雑な通路が巡らせてあるのだ。
ゾンビさんコースには罠がぎっちり詰まっていて、わくわくドキドキはらはら命がけのデスレースが楽しめること請け合い。
俺用コースは、その罠のメンテナンスをするための通路。ゴールすると2階へ続く階段へ繋がっている。
間違ってもゾンビさんが迷い込まないよう厳重に分けられており、ボス級の奴が集団で一気に壊しにかからない限り破壊は無理だろう。
自作の罠は多種類あるが、どれも「使用回数」「耐久度」等が設定されていて、あんまりにも数の多い団体さんがおいでになると破壊されてしまうらしいからね。2日に1回は見回りをして補修、修復している。
それ以外にも、敷地内には2階から渡り廊下でつながった食品倉庫に物資保管庫、水の濾過装置、自家発電設備まであり、中庭には広々とした畑、牛や豚用の運動場に厩舎、果樹園規模に並ぶりんごやらみかん、ぶどうの木々。
川があったので溜池も作っちゃった。川で捕まえてきた魚を放して、じわじわと数を増やしている最中。いつか刺身も食べたいなぁ。
今持ってるスキルで作れるモノはだいたい全部詰め込んでみた。
俺に建築の知識はない、だからわりと間取りとか動線とか滅茶苦茶だ。でも実際に中で生活してみたら快適に過ごせたから、多分問題ないだろう。スキルすごい。
改めてじっくりと敷地内を眺めてみると……何人棲んでるんだっつー規模の、これもうお城だな。うん、お城。
なのにそこに住むのは俺一人。虚しい。
なんて人恋しく思いながら、ようやく出来た安心できる我が家に引きこもる日々が始まった。
窓から外を眺め、敷地内を散歩し、雨が降れば濾過装置に着々と蓄えられる飲み水に喜び、畑を耕しては一晩で収穫できる大量の野菜に驚き、外で捕獲して連れてきた牛や豚や鶏(どれもこの世界では山とかに時々いる)の世話をしたりして。
飽きたら気晴らしに読書や料理をしたり、ゴルフの真似事やサッカー…は一人だと空しいからすぐやらなくなった。
武器防具を自作もした。料理スキルに鍛冶スキルまであるのだ、なんて便利。銃の弾にダイナマイトだって自作できるよ。保管には気を遣うけど。
いや多才すぎるだろ!と自分でも思うけど、全部スキル様の力で形作り、管理まで一人で楽々こなせてしまう。
ゲーム中には深く考えてなかったけど、ボタン一つで建物できましたー!発電設備できましたー!とか、絶対あり得ないよな。
どの建物もアイテムも自分で作っといてナンだが、構造とか詳しいことは全然わかんない。なのにそれぞれの修理までもスキルで一発完了。
現実世界、いや元の世界でもこうだったらいいのにな。
一人きりの生活は寂しいっちゃ寂しかったけど、牛や豚も毎日世話してれば可愛いくなってくるもんだし、窓から見下ろすゾンビさん達も遠目になら普通の人達が歩いてるように……見えないこともない。
もし不満があるとするなら、ゲームの舞台がアメリカっぽい国のために日本食があまり作れない所くらいか?
「オニギリ」「スシ」「スキヤキ」とか海外でも知られている料理は作成可能なんだから、多分知識さえあればスキルではなく手作りで作れるはずだ。調味料も、材料もあるんだから。料理なんてしたことないからチャレンジする気になれないだけ。
それに、毎晩押し寄せてくるゾンビさん達にちまちま壊されるトラップや拠点を囲む壁の補修、点検に、毎日大量に生産される物資の管理とかやることは案外あって、最初に比べるとかなり不自由もなく心情的な余裕もあり、まぁまぁ楽しく暮らせちゃっていた。
のんびりするのもいいけど、やっぱ人間多少は仕事がないと張り合いがないからな。
が、ゾンビ溢れる世界とは思えないほど平和で長閑だったある日。
俺のお城(拠点)に突如お客様が訪れたのだ。なんと生きてる人間の!
この世界はゲームの…いや、ゲームの元になった世界で、だから生きてる人間は俺だけだと思い込んでいた。
だがしかし、そういやゲームやるとき「マルチプレイ」を選択してたんだよ。もしも神様がこの世界を元にあのゲームを作らせたんだとしたら、って頭がこんがらがってきた。
生きてる人間って、ゲームの中だとプレイヤーキャラだけだったんだよな。NPCは皆すでに死んでてゾンビしかいなかったから。改めて考えると酷い設定だよ。
拠点を囲む壁の正面に設けられた巨大な鋼鉄の門の上に作った監視カメラ、その映像を凝視しながら考える。
あれ、やっぱ生きてるよな?
カメラの映像に映っているのは、物々しい重火器を背中に担いだハリウッドスターみたいな筋肉マッチョイケメンと、彼に肩を借りてようやく立っているように見える、多分女の子。
二人ともボロボロの格好をしていて、背負ったリュックにも服にも血や泥がこびりついる。女の子の頭には汚れた包帯が巻かれていて、筋肉マッチョのほうに至っては服が何か所もびりびりに破けてて、手足も血だらけに見えた。
うん、やっぱ顔の表情がゾンビさんとは違う感じ。目に生気がある。動きもゾンビっぽくない。
つい警戒しちゃったけど、これほっとくとこの人らマズいよね?
かなりゲッソリしてるし、怪我してる。ゾンビかって疑っちゃって悪いことしたな。
俺は慌ててモニター室から飛び出し、拠点の入り口へと駆けて行った。
二人を正門から招き入れ、お城(自作拠点)へと案内し、スキルで自作した各種薬品類により怪我を治療したところ、マッチョのほうはアバラ骨が2本折れていることが判明した。
その状態であのドでかいリュックとロケットランチャーみたいの担いで、さらに女の子に肩を貸していたなんて。すげぇ野郎だ。
女の子のほうは、上背があるからそう見えなかったけどまだ16歳だったらしい。やはりあのゲームに出てくるキャラだよ、幼さが残っていながら筋肉質で中々に強そうだ。
エルザという彼女はもともとこの島に住んでいた人で、島の住民がある日突然次々とゾンビに変わってしまい、逃げ惑っていたところをマッチョに助けられて一緒に逃げてきたそうだ。
二人とも治療が終わり風呂に入って、俺の渾身の作品である拠点を目を白黒させながら見学しつつダイニングまで戻ってきた。
身ぎれいになり俺の作った服に着替えたマッチョは、自分が俺と同じ「地球から来た」転生者であると明かした。
マッチョ…マイクは、今の姿こそムキムキイケメンゴリラであるが、元の姿はひょろっとしたインドアサラリーマンであることを告白し、この世界に来た時のことを教えてくれた。
彼は、俺と違って事故死して転生してきたらしく、なんでも生前にかなり善行を積んだことを評価され神様に「ご褒美に行きたい世界に送ってあげる」と声をかけられて…で、この世界に。
思わず、俺の口から本音が漏れたのは誰にも咎められまい。
「いや何でここ!?せっかくのご褒美なのに絶望しかないじゃん!!」
「一度でいいからホンモノのゾンビを銃で撃ってみたかったんだよ!まさか、ここまでホンモノな世界だとは思わないだろ!?」
ソファの上で頭を抱え悲鳴のようにな声で叫ぶマイク。
うわぁ、なんか可哀そうになってきた。
ちなみにエルザちゃんは風呂と食事の後で疲労から気絶してしまったため、客室の一つに運んで寝かせておいた。多分、何日もろくに飲み食いしてなかったから栄養失調になりかけてたんだろう。
しばらく安静にしてれば元気になるよね、多分。
「うわぁあああ!!どうしてっ、どうしてあの時のオレは!神様の薦めてくれた『異世界転生無双♡美少女よりどりみどりハーレム天国』の世界を蹴ってゾンビを選んだぁああああ!!」
ソファの上で泣きわめき、すぐソファから転げ落ちてなお床の上を転がりながら遠ざかっていくマイクを見守りながら、俺は憐憫を覚えずにいられなかった。
…俺も、そっちの世界のが良かったなぁ。
廊下の端まで転がっていってしばし泣きじゃくった後、瞼を腫らして戻ってきたマイクは溜息を吐きながらソファに座り直した。
先ほどよりだいぶ落ち着いた様子で、手にはお高級そうなワインを1本持っている。
あれ確か俺がスキルで葡萄から作ったやつだ。勝手に持ち出しやがったな、いいけど。
「お前、もしも俺達がPKするような連中だったらとか、考えなかったのか?」
「PK?」
「あー、あれだ。他のプレイヤーを殺して物資や装備を奪ったり」
え?うわ、それは考えてなかった。顔が勝手に青くなる。
ええ、あれ、それじゃもしもマイクが悪い奴だったら、今頃俺殺されてこの拠点を強奪されてたり?うわ、メッチャ怖い!
「やらないよね!?ね!?」
「やらねーよ」
必死に問いかける俺に溜息交じりにそう言うと、マイクはワインの瓶をいじりだした。
そだよね、はー。こ、怖かった。
もしも悪い奴だったら、とっくに俺殺されてるとこだったんだ。こっわ。
そうだよ、実際のゲームでもサバゲーとかやってる人達いたじゃん。
「お前さぁ、もしかして日本人だろ」
「あ、わかる?あれそういや言葉…マイクは日本語ぺらぺらなんだね。すっごい自然にしゃべってるから違和感なかった、助かるよ、俺英語も他の言語も全然わかんないから」
その時になって、俺はやっとマイクが日本語で話してくれているのだと気づいて、お礼を言った。
そう、日本語だと思ってた、この時までは。
「やっぱりか……なんなんだよこの世界は」
マイクが肩を落とし呆れながら語った内容に、俺はまた驚かされる羽目になった。
なんとマイクはずっと英語でしゃべっていた、本人は英語で語り掛けていて、彼には俺の声が英語で聞こえているのだという。
そしてエルザちゃんは、まさかのスペイン語しかしゃべれないとのこと。まだ一言くらいしか会話してないけど、マイクと彼女の会話も俺には全部日本語にしか聞こえなかった。
ワインの瓶の蓋を爪でカチカチやりながら、マイクがゆるく首を振る。
エルザちゃんと会ってから不思議に思ってはいたそうだが、ゆっくり考える暇も余裕もなかったそうだ。
「こっちに来てから訳のわからないことだらけだよ」
疲れ切った顔でここに至るまでのことを話してくれたんだが、すっごく大変だったらしい。
彼はゲームを「ノーマルモード」でプレイしていて、こっちの世界に来てからも多分その難易度が維持されてると思ってるそうだ。
なんていうか、確かにリュックにたくさん荷物を詰めても、さして重さも感じずスタスタ歩けるし、使ったこともない重火器を練習もなしにバンバン撃てるしで、元の世界とは全然違う「ゲームみたいな」ファンタジーめいた便利さはある。
だが、俺のようにほいほいとスキルのレベルが上がる訳でもないし、ゾンビさんに攻撃されればすぐに怪我をしてしまう。安全な食べ物飲み物を見つけるのも一苦労。
拠点を作るにも素材を思うように集められず、非力なエルザちゃんを庇いながらでは逃げ続けることすら難しくて、この拠点を見つけて中に匿ってもらえていなければ、多分今夜あたりに二人とも限界を迎えて死んでいただろうと言う。
「だから言わせてもらう、お前なんなんだ?なにこの拠点、これ一人で作ったとかウソだろ」
「や、でもちゃんと完成させるまでには1か月くらいかかったよ?」
俺の補足にマイクは口をポカンと開けてしまった。そして目つきが怖いよ。なぜかメッチャ怒ってるよ。
それから互いに情報を交換しあった結果、俺はとてつもなく万能だということが明らかになった。
多分、もともとハッピーモードでやってたからこの世界が俺にとってゆるい仕様だった上に、神様の「お詫び」で体が超強くなったんだろう。
リュックにいくらでもモノを入れられるし、ゾンビさんに殴られても罠に巻き込まれてもダメージが全然ないことを伝えたら、無言でゲンコツで殴られた。痛くない。
な、なんか話し終わったらマイクがすっげぇ落ち込んでしまった。
悪いことした訳じゃないんだけど、罪悪感が半端ないんですけど。こんなのほほんと長閑に暮らしててごめんね。
うん、でもまーこうして出会ったのも何かの縁だ。
これからはこの安全なお城(拠点)で一緒に暮らしていこう。俺と合わせて3人でもまだまだぜーんぜん余裕がある、なんなら多分100人くらいは生活できるだけの設備は整っている。
俺と同じ、死んでこの世界に転生してきた仲間だ。
これからは助け合って生きていけたらいいな。なんとなくだけど、マイクはすっごくイイヤツっぽいし。彼ならきっと拠点の管理も手伝ってくれるはず。
エルザちゃんもマイクに妹みたく大事にされてるから、きっといい娘だ。それに見た目と違ってか弱いみたいだし、放ってはおけない。
ひとしきり打ちひしがれていたマイクだったが、ちょっと気持ちの整理がついたらしく厳つい肩をコキコキと鳴らした後伸びをした。
あ、眠くなってきたっぽいね、目つきがぬぼーっとしてる。
まだワイン飲んでないのに。やっぱこいつもここに来るまで相当無理してたんだなぁ。
ちょっと寝ぼけ顔になってきたマッチョゴリラは、手の中で弄んでいた瓶にチラリと視線を下ろした後、こっちを見てきた。
「なぁ、栓抜きある?」
ごめん、マッチョだからてっきり素手で開けるつもりなのかと思ってた。
マイクとエルザと3人で拠点で一緒に生活するようになってから、1年が経った。
今ではこのお城に島中の生き残りが集まって、賑やかな共同生活を送っている。
それでもそんなに大人数って訳じゃなくて、全部合わせても30人くらいだけど。
もしかしたらまだ生き残ってて、これからここに辿り着く人もいるかもしれないな。まだまだ空き部屋はあるからウェルカムだ。
建築当初、一人っきりであれほど寂しかったのがウソみたいだなぁ。
「戻ったぜー」
「よお、リックのチームじゃないか!どうだった南のほうは」
「やっぱりあっちはゾンビの湧きが多いな、でも猪を2頭仕留めて持ってきた。あとパンいちゾンビが多くて危険な箇所があるから詳しいマップを作ってきたぜ」
「マジか、パンいちはきっついなぁ。だがマッパゾンビよりはマシか」
真っ黒な肌の精悍な青年リックは、8か月ほど前からここに住み始めた古株で、攻撃系のスキルに特化した好戦的な奴だ。
初対面では喧嘩腰だったが、今では数人のチームをまとめ上げキビキビと島を見回ってくれる、誠実で頼れる奴になった。
彼と会話する白人の髭の中年は、確か4か月ほど前にここへ来た。
一緒に話を聞きながら担いだ荷物を運びこんでいる連中も、それぞれ時期は異なるもののここでの生活には慣れてきたようで、表情はごく自然なものだ。
拠点での生活が長いものほど笑顔が多い気がする。
ちなみに、パンいちゾンビとはパンツ一丁の太ったおっさんゾンビである。マッパゾンビは全裸の痩せたおっさんのゾンビ。
なんだかこの世界のゾンビは、服の有無で強さが変わるんだかなんだか、裸に近いほど多彩な攻撃をしてくる上に素早く、力も強い。ついでに耐久力もあって中々倒せない。あと見た目的にもつらい。
…女のゾンビさんもそうなんだけど、女の場合はキレイな裸は問題があるんだろうか?
裸な女ゾンビはものすっごくグロ~く描かれていて、これまた強い。
移動スピードもメチャ速い、ノーマルモードですらプレイヤーキャラと同じスピードで動くから、多分ハードモード以上だとゾンビのが速いだろう。
あとやっぱり見た目的にもキツイ、攻撃するとポロリするし(中身が)。
俺一人だったら、島の全域を見回って脱出計画を考えようなんて考えすら持てなかったろう。他の皆も多分、自分が生き延びるだけで精一杯だった。
こうしてみんなで助け合えるようになったから、目標を持って前向きに生きることが出来ている。
マイクとエルザが来てくれて、それからどんどん生き残った人達がこの拠点へ訪れるようになった。
マイク曰く「いや、こんなでかい城が突然できりゃ、そりゃ目立つだろ」らしい。
来た人の中には、やっぱり悪い奴も少数は存在した。
でも、そういう連中は皆で撃退した。生き残りたいのは、安全な場所で暮らしたいのは皆一緒なんだ。彼らにこの場所を譲ってあげる訳にはいかなかった。
そうして友好的な人だけどんどん受け入れて共存していく内に、気づけばぎこちない空気は消えて仲良くなれていた。
言葉が通じるのは大きいと思う、例え何語をしゃべっていてもこの世界では会話が通じるんだ。
でも、やっぱりそれだけじゃないと思う。皆で協力しないと生きていけない、そう思うからお互い譲り合うんだろうし、足りない所は補足し合える。
この世界で俺の万能さは確かに他から抜きん出ているけど、やっぱり仲間がいるのっていいなぁ。
最近、この賑やかさが楽しくて仕方がない。
でかい丸太を担いで走りながら、そんなことを考える。
いいよねぇ、こういうの。
肌の色とか国籍とか関係なしに、それぞれ出来ることをして助け合って生きてるってーの?
すごいよなぁ、転生してきた人も意外と多かったし、皆で知識を出し合ってたらどんどん新しいモノが作れるようになってきたしな。その内ヘリコプターとか作れるようになっちゃって島からも簡単に出られちゃうかもよー。
「なんなんだよお前!なんでそんな重量物担いで普通に走れる!?それでなんで足音がテッテッテッ、なんだよ!?重力はどうなってんだコラ日本人!!」
「まーまー、あれのやることに一々怒ってたら疲れるだけだぞー」
「マイク!止めるな、あいつには一度しっかり言っておかなきゃ気がすまん!」
「わかるよ、でもな?あいつゲーム自体4日しかやってないし、超ヌルい仕様のハッピーモードしか知らないんだ。俺みたいなノーマルモードの苦労も、ましてあんたみたく「リアルモード」で苦労した奴の気持ちなんてわかるわきゃない。大丈夫、あんたも他の奴らみたく直に見慣れるさ」
「慣れて溜まるかぁ!!こっちは個数と重量で制限されてて合計20個・40kgまでしか持ち運べないんだぞ、走るスピードも遅くなるし!?しかもなんだと、あいつ「恐怖値」の項目すらステータスにないんだって!?高所に登るのもゾンビに相対するのもリスクなしとか!ゾンビに追われ続けると恐怖値が振り切れるから拠点作りすりゃ詰むし、今までろくに休むことも眠ることも出来なかったのに!」
「まーまーまー、落ち着け。そう興奮してると、またスタミナ値が振り切れて」
「うがー!!!……きゅう」
「ほれ言わんこっちゃない、仕方ないな部屋に連れてくか」
おーう、またリーシャが癇癪起こしてるよ。
床にぶっ倒れたのをマイクが担いで運んでいく。他の連中も笑って見てるし、まぁ最近では見慣れた光景だよね。
確か彼はロシア人の転生者で、つい数日前にここにたどり着いたばかり。
見回りに出てた人が瀕死で倒れていた彼を見つけて、ここまで運んでくれて命を取り留めたのだ。
あの人、一番難易度高い「リアルモード」でゲームやってたんだよな。
リアルモードって、ゲームを進めてくれた友人曰く「マゾモード」「やる奴は変態」な鬼畜仕様なんだとか。
ゾンビさんが嫌な方向にリアルで、簡単に言うと「完璧にマップを暗記し高速でキーアイテムを集めてゴールする、でも運がないと気づかない内に詰んでる」らしい。やりたくないよそんなゲーム。
リアルモードのゾンビさんはあんまり動き回れない。
時間と共に体の腐敗が進み脆くなっていき、走るとかジャンプするとかも当然無理。基本的にズリ足で、よろよろとゆーっくり動く。
ボスもグラフィックこそ他モードと同じだけど、プレイヤーが対面する頃になるとすでに腐りきってて立ち上がることすらできないそうな。
それほどまでに脆いゾンビさんが何故に恐ろしいかと言うと、リアルモードのゾンビさんは「ウイルス」を持っていて、これにちょっとでも触れるとプレイヤーは感染し、ゾンビさんの仲間入りを果たすのだ。
壁とか床とか地面とか、ゾンビの体液がついたら、プレイヤーはもうそこには触れられない。感染してゲームオーバー。
ちなみにこのウイルスは時間経過で消えたりもしない、そういうところも無駄にリアル。何気にゲーム開発者の技量がものすごいのかもしれないが。
ゾンビに対して攻撃しなくても、触れることすらしなくっても、ゾンビさんが時間経過と共に勝手に転んだりして怪我をして、やっぱりそこに体液がばらまかれることになる。
彼らの動きはすごく遅いが、逆にいつまでたってもそこにいることになり、そうなるとそこのルートは通行不可能となり、キーアイテムを手に入れる道を塞がれるとやっぱり詰む。
ゾンビさんの体で体液がついてない部分は触れてもオッケーだけど、噛まれることもあり、彼らをそこからどかしたい時は大きい布や柔らかい物でぐるぐる巻いて包み、運ぶことになる。
タンスの角にぶつけたりして傷つけて体液がついたら、運ぶのに使用したブツも処分するしかない。
時間経過でマックス状態まで脆くなったゾンビさんだと、毛布で包んで持ち上げた段階で表皮組織が崩壊して、体液がどぁーっ!と流れ出て辺り一帯にウイルスが蔓延することさえあるそうだ。
恐ろしすぎる。
マルチプレイでリアルモードだと、他のプレイヤーキャラが次々ゾンビになって道を阻むこともあるそうだ。
しかも皆、クリア目指してキーアイテムを探してる途中で感染するもんだから、まだ生きてるプレイヤーにとってはメッチャ邪魔になる。そこ通らないとアイテムが取れない!って場所にウゾウゾいる。
さらにリアルモードは時間が進むとプレイヤーキャラだけでなく、マップ中に点在しAIによって動き回っている他の動物、虫も感染していく。それもランダムで。
鳥や豚がゾンビになれば倒しても肉(食料)を得ることが出来なくなり、ゴキブリゾンビはどこにでも入り込んでくる。小さい、移動が速すぎて仕留め辛い、数も多いことも相まって最強、絵面的にもものすっごいらしい、見たくないけど。
なんとも凄まじい「リアルモード」、マルチプレイでクリアした奴は英雄視されているそうだ。
対して、俺のやっていた「ハッピーモード」はというと。
「建築ゲー」「ゾンビは添え物」「罠のためだけに存在するゾンビ」と言われていて、建物と罠作りが醍醐味。でも実はこっちのがファンが多いそうだ。
うん、楽しいよ、こっちのが。
「リンタロウ!ご飯できたよっ、今日はボルシチだよ~」
「わ、そりゃリーシャも喜ぶだろうね。エルザのボルシチめちゃ旨いもん、俺も大好き」
「えへへ、ありがとう」
照れたように笑う彼女に、俺も釣られて笑顔になった。
ここに来た当初あんなに弱っていたエルザもすっかり元気になり、仲間が増えた今では皆の可愛い妹分として大切にされている。
始めの頃、外見はわりと強そうに見えたんだけど、見慣れてくるとなんでか庇護欲をそそるか弱い女の子に思えてきた。
まぁそれ以外の皆が成人した大人で、筋肉盛り上がる立派な人達ばっかりだからかね。エルザはやっぱり彼らに比べると華奢だから。
この世界に来てから、色々不安もあったし怖い思いもしたけれど。
皆に会えて、生きてて楽しい、嬉しいと感じることが増えた。
ちょっとだけ神様を恨んだりもしたけれど、俺は今とっても楽しいよ。いつか彼にまた会えた時は、そう伝えたいと心から思った。
主人公の名前を出すのをすっかり忘れており、最後の頃にちょろっとだけ出てきています(笑)
読んでいただいて、ありがとうございました。