旅立ち
どうも
あぁ、頭がくらくらする。完全に見誤った。砂漠の広さを。自然の驚異を。
故郷、サリエナ村から旅に出てひと月と四日。もうすでにギブアップ、死にそうだ。だがまだ死ねない、俺には必ず叶えると心に誓った夢がある。
朝日が顔を出し、うっすらと霧が立ち込める早朝。俺は養母のベルさんと最後の挨拶をかわそうとしていた。
「ディーン、本当に大丈夫かい?あたしは心配だよ」
「ベルさん、大丈夫だって。それに俺、絶対行くって決めたから」
「あぁ。そーかい」
というとベルさんはボロボロのエプロンのポケットから、金貨5枚取り出して笑顔でいう。
「これ持ってきな。アヴァロンなんてほんとにあるか分からないんだし、いつでも戻ってきていいんだからね、それにあんたがギルドに入れる保証もどこにもないし、お金も必要だろ?」
「ベルさん・・・ありがとう。じゃあ行くよ」
俺は振り返らない。ここで後ろを見てしまったら、心がもっと寂しい気持ちになるとそう感じたからだ。
行くぞ!やってやる!必ずアヴァロンを見つけ出して、誰も悲しむことのない世界にするんだ!
背中には大きなリュック。腰には鉄の剣。目指すは王都ヴィルキス。そこでアヴァロンに関する情法を集め、あわよくばギルドに加入。そして、そこまでの危険な箇所は一つ。ヴィル砂漠だ。夜になると魔物と盗賊がでるらしい。そこを超えれば王都は目前。さぁ!いくぞ!!
「あぁ、ベルさんごめんなさい。俺はこの砂の上で、干からびて死ぬんだ。そんでハゲワシのエサになるんだ」
と早速、旅を後悔していると、意識が朦朧としてきた、持ってきた食料も水も、すでに底を尽きているからである。しかし、天には見放されていなかった。倒れこんだ先、陽炎にゆらめく都が、はるか東にあるのが見えたのだ。
「あ、あれって、王都ヴィルキスかぁ?いかないと・・・」
やっとたどり着いたのだ、何とか余力を振り絞る。だが、もう枯れてしまいそうな体は言うことを聞かない。起き上がろうと力を入れた瞬間、とうとう意識が飛んでしまった。
「おーい、少年。大丈夫か?」
「ん...」
目を覚ますと俺は、大きなベッドに寝転んでいた。ここはどこだ?天国か?
でも確かに誰かに呼ばれた気がした。体を起こし、あたりを見回すと、この部屋がかなりの広さであり、相当なお家柄であることがすぐに分かった。高い天井に大きなシャンデリア。大きな窓に大理石の石畳。これには、お礼を言わなければ。命を助けていただいたのだ。
と、その時、ギギギと扉が開く音が聞こえた。音のほうに振り返るとそこには、高貴という言葉がこれほどまでにあう人物が居るのだろうか?と疑問を抱いてしまうほど美しい女性が入ってきたのだ。
「あぁ、目覚めたか、遠征の帰り道に人が倒れていると仲間から報告があってだな。放っておくのもなかなか可哀そうなものだったから私の家で看病をしていたのだ。こんなオバサンの部屋だがゆっくりしていきたまえ」
赤いドレスに茶色い髪の毛、出るとこは出ているボディー。黄色い大きな瞳は雲一つない満月のようだ。思わず容姿に目を奪われて、挨拶が遅れた。
「あ、先日はありがとうございました。おかげで命拾いしました!この恩は返しても返しきれません」
すると彼女は、ハハハと笑い別にいいさと気前よく笑った。
「少年、名前は?私は、ネレ・クロノアーテル。ネレさんとでも好きに読んでくれ」
「俺、いや僕はディーンと申します」
「ほう、ディーン君は私の名を聞いて驚かないのか」
「えーと」
確かに聞いた覚えのある名前だ。
「まあいい。さておき、ディーン君、君はなぜあんなところで死にかけていたんだ?さては旅の途中かな?」
「はい、実はアヴァロンを探しに、サリエナ村から。そんで世界最強の剣士になって、この世を、平和にできたらなって」
「アヴァロン?最強の剣士?」
「はい、もう二度と・・・7年前の厄災を繰り返さないために」
そういうとネレさんは噴き出すように笑い出した。
「はっはっはっは。君は面白いことをいうね。アヴァロンか、まだそんなものを本気で目指している人が他にもいたなんてね」
確かにそうかもしれない。そんなもの確実にあるわけでもなく、ただの伝説に過ぎないのだから。笑われても仕方ない。
「あぁ、悪い、悪い。ついつい人を小ばかにしてしまう癖があるんだ。気に病んでしまったのなら謝罪させてもらおう」
「いや大丈夫です、笑われて当然ですから・・・」
「そうか、それはさておき、君の所属ギルドは?ヴィルキス周辺ということは、デンタスかラティオかな?」
デンタス、ラティオ。二つともこの辺じゃ有名なマンモスギルドだ。金さえあればどんな冒険者だって入ることができる。俺も一時期デンタスに参加申請を送ろうと考えていた時期もあったっけ。でもお金がなかったから、入れなかったけど・・・。
「お恥ずかしながら無所属なんです。どうしてもお金がなくて・・・。今の持ち金も24コッパーだけで。ネレさんにどんなお礼をしたらいいかも」
「はは、お礼はいいさ。あ、そうだ、君、お金がないんだろう?」
彼女はこちらを覗き込むに顔を近づけ、にやりと笑う。
はい、と相槌を返そうとした時だった。勢いよく扉が開き、全身鋼の鎧を身にまっとった兵士が入ってきた。なんだか慌てているようだ。確に、外も少し賑やかに・・・。
「ネレ様!!お取込み中のところ失礼します!ヴィルキス周辺の盗賊たちが徒党を組み、王都へ侵攻しているとのことです!!」
「なにぃ!?盗賊が?奴らいったいなぜ?何を企んでいる。王都ヴィルキスは王も姫様もハルヤ会議で不在だぞ。まさか・・・」
彼女の表情が少し曇る。
「考えたくないが…伝令だ!直ちに王都、ルクス広場に兵士を集めろ!!もしかしたら、いや、奴らの狙いはクリスタルだ」
「盗賊が・・・」
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