屍とクエスト
ついに戦いを経験する開知!
「屍とクエスト」
「た、ただいまエミリ」
「開知…朝起きたらいなくて心配したぞ」
「ご、ごめん…心配かけちゃったよね」
開知は夜に街に向かい、盗人との一件があった為帰ってきたのが朝方になってしまった。
「いや、いい。ただ出かける際は一言頼むぞ。これでも私はお前を心配してるんだ」
「いや!エミリが僕のことを心配してくれるのは分かってたよ!だから本当に…ごめん…なさい」
深く開知は頭を下げる。
「いや、いいんだ。お前がそう感じてくれてるなら私は言いたいことはない。この件はもう触れる必要はないさ」
普段あまり感情の起伏がないエミリだったが少し動揺しているかのように見えた。
「それよりこんな朝方に帰ってきたということは何かあったのか?」
「あ、うん…実は」
開知は盗人との件をエミリに全て話した。
「ほう。アンデットとしての能力が役に立ったわけだ」
「うん、初めてアンデットで良かったって感じたよ。でも僕だけじゃ盗人を捕まえることが出来なかった。ジャックとユーリのお陰だよ」
道中で駆けつけたジャック・カリバとユリ・ベネガの協力があり無事盗人を捕まえることが出来たのだった。
「それでこれからその二人とクエストをこなして学園に入学しようと思ってるんだけど…エミリはどう思う?」
その開知の問いを聞くと顎に指を当て少し間を開け、静かに口を開く。
「そう…だな。この世界おいて戦闘は正直避けられないだろう。お前の様に人間に戻る方法を探すなら尚更な。そういう意味では学園に入学するのはお前にとって都合がいいはず…」
エミリの賛同の意見を述べるに「ほっ」と胸を撫で下ろす。しかし、エミリの言葉はまだ続く。
「が、デメリットが大きいな。この国アルベーノは人間以外の他種族を許さない国だ。学園に入学するなら当然人間との接触も多くなる。そこまでのリスクを犯すほどメリットがない…というのが私の意見だな」
「そっ、そっか…」
エミリのその言葉を聞いて開知は言葉を出すことが出来なかった。
彼女の意見があまりに真っ当なもので開知自身が納得してしまったからだ。
(確かに…そうだよなぁ。僕はまだ自分がアンデットだってことの自覚が足りないのかもしれない)
「まぁ、しばらくクエストをこなすというならまだ時間はある。それから決めるのでも遅くはないんじゃないか?」
「開知、私は意見を出しただけに過ぎない。決めるのはお前自身だし、何か手伝って欲しいなら私も手を貸すさ」
「エミリ……ありがとう。ほんと君には頼りっぱなしだなぁ」
翌日、時刻は昼過ぎ。丁度ジャック達と待ち合わせしている時間帯だ。開知は約束通り、校舎前てま待つ。
しばらくすると、正門からジャックの姿が見える。
「よ、待たせたな!開知」
「いや、僕も今来たところだから大丈夫だよ。あれ、ユーリは?」
辺りを見渡すが、その場にユリの姿はない。
「ああ、なんか講義が長引いてるみたいだったぜ」
「そうなんだ。どうしようか」
「ここで待ってるのも勿体ねぇし、ちゃちゃっとクエストこなしちゃおうぜ」
「分かったよ。じゃあ早速ギルドの経営してる酒場の方に行くんだよね?」
昨日のジャックの話によるとクエストはギルドの酒場にて受注出来るとのこと。
「あー、それなんだが今回は学園側で受けられるクエストの方をだな…」
そう言ってジャックは自分の背負うバックの中に手を入れゴソゴソとした後一切れの紙を出す。
「今回のクエストはこいつだ」
そう言って紙を開知に渡す。
「なになに…『最寄りの森にて、ジャネットラビットの狩の依頼』」
「んじゃ、早速行こうぜ」
そうジャックに言われて、二人は森に向かう。
(森って言われたからまさかと思ったけど…やっぱりか)
その森は開知もよく知る。エミリの仮拠点がある魔の森だった。
「さて、ここら辺探すか」
森に入って10分、どうやらここで獲物を探す様子。
エミリの仮拠点は森新奥地にある為バレることはないだろう。
「ジャック、さっきのクエストの話なんだけど学園側からもクエストを受けられるの?」
「ああ。ギルドでは扱わない初心者向けのクエストや、街の住人が学園の生徒に頼みたいってのとかな」
「へぇ。じゃあ今回のクエストは初級クエストなわけだね」
「ああ、今回狩るのはジャペットラビットって名前の獲物だ。ピョンピョンと跳ねてすばしっこいから気をつけろよ」
ジャペットラビット。普通に考えたら兎だろうか。どんな姿なのか名前からは兎しか想像つかない。
「どう捕まえるつもりなの?」
「そりゃ走って追いかけるしかねーだろ!」
「そ、そっか……」
あまり気が進まない方法だったが、他に案があるわけでも無かったので、開知はジャックに黙ってついて行くことにした。
「お、早速いたぜ。あそこだ」
ジャックが指を指す方を見ると茶色の兎が数匹鼻をひくひくさせながら草を食べている。開知が知っている兎と変わらなかった。ただ一つを除いて。
「え、な、何あの足…?」
「何ってジャペットラビットの足だろ」
ジャペットラビットの足はかぎ爪が生えており、まるで熊のような爪をしている。
「気をつけろよ。あの爪、刺されたらいてーぞ?」
「う、うん」
「んじゃ、開知。ここからは別行動だ。ノルマは一人三匹な!んじゃまた後で打ち合うぞ!」
そう言ってジャックは走ってジャペットラビットを追いかけて行ってしまった。もちろん、ジャペットラビットはそんなジャックに気づくと走って逃げる。
「んー…どうしようか。僕はジャックみたいに走れないしなぁ」
開知の場合、こんな身体だ。がむしゃらに追いかけても無理だろう。なら、頭を使うしかない。
「何かで惹きつけられたりしないかな…」
開知は茂みに隠れながらジャペットラビットを観察する。
「主食は草みたいだけど…草で誘き寄せて何で捕まえようか。手で捕まえるのは難しいだろうし…」
開知は周りを見る。すると何の植物かは分からないが、ツタの様に長い植物を見つける。
これは縄の代わりに使えるのではないのだろうか。早速、開知はそのツタを数本取り、輪っかを作る。
そして、ツタの輪っかの中に草を置いて物陰に隠れる。獲物が来たらツタを引っ張り、捕まえるという作戦だ。
「さて、後は待つだけだけど…」
しばらく待つが、他の場所にも草は生えている為、中々開知が用意した場所には来ない。
「うーん…場所を変えた方がいいかなぁ」
そう考えてた時、丁度ジャペットラビットは開知の用意した草に食いつく。
「い、今だ!」
とっさにツタを引っ張る。開知の思惑通り、ジャペットラビットの前足にツタはがっちり絞まる。
「や、やった!」
そう喜んだ束の間、ジャペットラビットは後ろ足のかぎ爪でツタを切り裂き、あっという間に脱出してしまう。
「……これは一筋縄ではいかなそうだ」
開知は別の策を考える。しかし、これといって特別な策は思いつかなかった。
(あのかぎ爪をどうにかしなきゃな…)
そう考えてると、走る音がこちらへ段々と近づいてくる。開知はその方向を見る。
そこにはジャペットラビットを追いかけているジャックの姿が見える。
「うおおおお!!待ちやがれー!!」
「じゃ、ジャック!!」
ジャックは開知の声に気づき、反応する。
「おお!開知!挟み討ちだ!そっちから来い!!」
「ええ!?う、うん!」
開知は戸惑ったが、覚悟を決め、ジャペットラビットの前に立ち塞がる。後ろにはジャック、前には開知。これにはジャックラビットもどうする事も出来ない。
ジャペットラビットはそのまま、開知に襲いかかった。
「か、開知!!避けろ!!」
ジャックの言った時には既に開知の肩にかぎ爪が刺さっていた。刺さった箇所から血が溢れ出す。
「か、開知……!」
「……よし、捕まえたよ」
ジャペットラビットのかぎ爪はがっちりと開知の肩に刺さり、抜け出せない。
「ジャック、今だよ。そこのツタで手足を縛って!」
「お、おう」
ジャックは急いでジャペットラビットの後脚を縛る。その後、開知の肩から前脚を抜き、縛り上げる。
「か、開知…大丈夫なのかよ?血が大量に出てるぜ…?」
「うん、そんな重傷じゃないよ」
「いやいや!どう見ても大怪我だろ!?」
「それよりジャック、この作戦でいけばジャペットラビットを捕まえることが出来るんじゃないかな」
「そ、そうだな。んじゃ、いっちょ行ってくるわ!」
ジャックと開知は息のあったコンビネーションでジャペットラビットをその後、六匹無事捕まえる。
「うっし!いっちょあがり!」
「なんとか上手くいったね」
「開知。本当にお前怪我は大丈夫かよ?何度もかぎ爪で引っ掻かれただろ?」
「え、何のこと?」
開知の身体は傷一つ無かった。さっきまでの傷が嘘の様に。
「は!?お、お前…傷は…?」
ジャックは目を丸くしながら驚く。
アンデットの開知の身体は時間が経てば傷が修復される様になっている。
(このくらいの傷は治るにざっと10分くらい…か。自分の身体をもっと把握しとかなくちゃな。それにしても…僕の身体は死んでるはずなのに血は出るのか)
自分の身体のことを理解したと思ったら謎が出てくる。
「さて、ギルドに戻ろうか。ジャック」
「え、ああ…って傷はどうしたんだよー!?」