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異世界転生で死者の僕  作者: 杉本誠
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人間と屍

「人間と屍」


アルベーノ王国の東ある街はずれの森。ここに来るのは戦闘を得意とした者だけだろう。一般の人間は近づかないそんな森の中に一人のアンデットが息を切らしながら駆けていた。


「はっ…はっ…はっ」



(もう少し早く……)


そう足に力を込めようとすると開知はバランスを崩してしまう。


「うわっ!?」


「大丈夫か?開知」


倒れそうになった開知をエミリは体で受け止める。


「あ、ありがとうエミリ」


「今だと軽く走れるようにはなった…かな。こんな様見せておいてなんだけど…」


「今はそれでいい。少しずつその体に慣れればな」


「分かった…」


「あまり遠くに行くなよ。何かあってからでは遅いからな」


「うん、ごめん」


この森には野生の猛獣も沢山いる。アンデットの開知は襲われることはないが、たまに冒険者が来るとエミリは言っていた。きっとエミリが気にかけているのはその事だろう。


「その傷なら再生するのに3分もかからないだろう。このまま安静すればいい」


「う、うん…でもエミリ…」


「どうした?」


「この体勢は少し問題があるんじゃ…」


開知の顔とエミリの胸元がしっかりと密着していた。


「気にすることはない。困ったらお互い様だろう?」


(いや…そうじゃなくて…!エミリってこういうことに対して鈍感な気がする…)


「さっ、そろそろ平気だろう?では戻るとしよう」


「う、うん…」


(これ。異世界転生って奴だろうか)


エミリから聞く限り、この世界は開知が住んでいる世界は全く異なる世界だ。


今開知がいる国はアルベーノ王国。住んでるの種族は人間で他種族の侵入を一切許さない人間だけで形成された国だという。

人間の他にエルフ、ドワーフ、リザードマンと他にも幅広い種族がこの世界に存在しているという。


「どうだ開知、この世界とその身体には慣れたか?」


「うん、エミリに教えて貰ったからね。だいぶ慣れたかな。えっと、この国はアルベーノっていうんだったよね?」


「ああ、この森を抜けた所に城下町があるな」


この三日間、開知は自分の身体の事を理解した。今の自分には食事や睡眠は必要ないこと。そして、激しい動きは出来ないということだ。激しく動くと腐った足がその場で崩れ落ちてしまうのだ。


記憶は未だにないままだったが、自分の住んでいた世界の知識は何故か残っていたことが分かった。


その記憶頼りに自分が何をしていたか分かるのではないかと思い頭を巡らせた。しかし、結論として何もわからなかった。


記憶自体が未完成なパズルの様に歪でどこか抜けていたからだ。



(教えて貰えば貰うほど現実味がないんだよな。前にこの僕達がいる国、アルベーノ王国がこの世界で一番大きい国って聞いた時から少し違和感は感じていたけど…)


そう確信したのにも理由があった。まずこの世界と自分の世界の文化の違いだ。まるでこの世界の文化はファンタジーの世界だった。ここでは冒険者を集うギルドや、王が住んでいる城なんかもあると話された。


(これじゃあ…僕の住んでた場所にどう帰ったらいいか分からないな。いや、まずはこの身体を元に戻すのが先か。…ん?)


開知はそんなことを考えているとふと思った。


(この世界が僕が住んでいた世界と別なら…一体誰がこの世界に連れてきたのだろうか)


まさか勝手にこんな場所に来れるとは思わななかった。なら自分をこの世界に連れて来た奴が自分をアンデットにした犯人ではないのだろうか。開知はそう考えた。


(じゃあもしかしてその犯人を探した方が手っ取り早いのか?いや、どちらにしろ情報が無いのには変わりないな)


「おい、開知どうした。さっきから黙り混んで。具合でも悪いのか?」


開知が考えに浸っているとエミリが心配し、声を掛ける。


「あ、ごめん…少し考え事をしていてさ」


「いきなり見知らぬ場所に来たんだ。戸惑うのも無理はない。だが、驚いたな…この世界の文化も知らないなんて…お前は何処から来たんだ?」


(流石にこればっかりは誤魔化せない…な)


「じ、実は僕、こことは別の世界から来たみたいなんだ」


開知は自分が別の世界から来たと考えてるとエミリに伝えた。


「ほう、それは興味深い話だ」


エミリは疑う気は無さそうだ。寧ろこちらに真剣な眼差しを向け、話を聞きたがりそうにしている。


(意外だな…もっと驚かれたり、疑わられると思ってたのに)


「それならお前の知識の違いも納得がいくな。その世界ではお前は何をしていたんだ?」


「えっとそれが…前にも言ったけど記憶がないんだ」


前の世界の知識があるのにその世界で過ごした記憶が開知の頭には無かった。


「そうか。アンデットになったせいだろうな」


「これもかぁ。やっぱりマイナスな事が多いね…」


プラスな事と言えば暗闇の中でも明るく見えるぐらいだった。小さな傷が治る能力も十分プラスな能力に聞こえるがその分壊れやすい身体な為、開知自身プラスに考えてなかった。


「仕方ないことだ。徐々に慣れていけばいい。それより開知、聞きたいことがある」


真剣な表情でエミリは尋ねる。


「何かな?」


「この後のお前の方針を聞きたい」


「それについてなんだけど…街に行って情報を集めたいと思ってる。いつまでもエミリにおんぶに抱っこでいるわけにいかないからね」


「成る程な。しっかりと考えていたみたいで安心したぞ」


そう言うとエミリの顔の表情が柔らかくなった。


「え、僕そんな考えてなさそうに見えるかな?」


「いや、逆だ。考えすぎてまとまらないんじゃないかと思ってな。お前は気づけばいつも考え事をしているから少し心配だったんだ」


この三日間、開知はエミリに話を聞く時以外はこれからのことや自分のこと、この世界のことを考えていた。


「そ、そうだったんだ。ご、ごめん心配かけちゃって…」


「いや、謝る必要はない。私が少しお節介を焼いただけだからな」


「そっか…」


開知は心配をかけて申し訳ない気持ちもあったが、エミリが心配をしてくれたことに対して嬉しさも感じていた。


「だが開知、分かっているだろうがその姿を人間が見たら一騒ぎ起きるぞ」


開知の姿はアンデット。人間からしたら化け物扱いを受けるのは当たり前だ。


「うん…分かってるよ。だからそこは配慮するつもりでいる。何かで顔と身体を隠そうと思ってるんだけど」


「なら私のコートを貸してやろうか?私のコートにはフードも付いているからこれで顔を隠せばいい」


そう言ってエミリは自分のコートを脱ぎ始める。


「え、ちょ、ちょっと待って!?」


そう開知が叫び、ピタッとエミリは手を止める。


「…どうした?」


「こ、コートってその一着しかないの…?」


「ああ、そうだが?」


「いや!借りれるわけないよ!」


エミリはコートの下は下着だ。当然コートを借りればエミリの着てるのはそれだけになる。そんなコートを借りれるはずなかった。


「なんだ、私が着たものは嫌か?」

キョトンした顔で聞いてくるエミリ。


「い、いや…いやというわけじゃないけどさ…」


エミリはまるでモデルかの様なスタイル。そしてとても整った顔をしている。そんなエミリの着ていた服を借りるのが嫌なわけはなかった。しかし、開知の中の罪悪感が受け取れずにいた。


「ほ、ほらエミリが他に着るものがなくなるじゃない?それにこんなことで頼ってたらエミリだって先が思いやられるでしょ?」


「む、成る程…確かにそうかもしれない。開知すまなかったな。またお節介を焼いてしまった」


エミリの説得になんとか成功する。


(ふぅ…危なかったぁ。流石にモラル的にアウトだよな…こっちのモラル的にはセーフなのだろうけど)


きっとRPGでいう自分が使わなくなった守備力が高い装備を他のキャラで装備させる感覚と同じなんだろうと開知は解釈した。






「じゃあ行ってくるよ」


「ああ、気をつけてな」


開知は街に向かうことにした。結局服はエミリに獣の皮などで作って貰った。


(確か街は東に行けばあるってエミリが言ってたな)


開知はしばらくの間森を歩く。するとエミリが言った通り、そこに街があった。開知の世界の街とは違い、ビルやマンションなんかはそこになく、大きな城や洋風な家が建っており、その広さは壮大だ。


「ひ、ひろい…さ、流石この世界で一番大きい国の街ってだけあるなぁ…」


この街を全部見て回るとなると一日では済まないだろう。それくらいの広さがあった。


(さて…街に入れたのはいいけどどう情報を得ようか)


(僕は観光者と偽り、街の人に話を聞く。それが一番手っ取り早いけど…近くとなると、僕がアンデットだとバレる可能性もあるしなぁ…)


(自力で何とかするのが手っ取り早いけど、どう情報を集めるか。この街の資料を取り扱ってる図書館みたいな場所があればいいんだけど…)


エミリからこの世界の常識は教わったが、この街について等は教わってない。エミリのこの街の住人ではない為教えられなかったのだろう。なら逆に自分がこの街について教えてあげたい。そう開知は考えていた。

そんなことを考えながら開知は歩いていると、一人の男が開知の死角からいきなり飛び出てぶつかる。


「うおっ!!」


「うわっ!?」


開知は吹っ飛ばされ、その場に尻もちをつく。


「わ、わりい!だ、大丈夫か!?」


「う、うん…」


毛先を遊ばせた茶色の髪に綺麗に透き通った緑の瞳をした青年がそう言って手を差し伸べてくる。開知は自分の正体がバレない様にフードを深く被りながら男の手を取り、立ち上がる。


「ここらじゃみねぇ顔だな?」


開知の顔をじーっと見ながら茶髪の男は言う。


「えっと、僕ここに観光に来たんだ」


すかさず顔を下に向けながら答えた。


「おお、そうかそうか!まぁこの街はこの国でも最も栄えてるって言われる街だしな。楽しむといいさ、んじゃあな!」


茶髪の男は笑顔でそう言って立ち去ろうとする。


「あ、待って!」


開知が呼び止めるとその男はくるっと振り向く。


「お?どうかしたか?」


「えっと実はとある場所を探していて…教えて欲しいんだけど…いいかな?」


「お、いいぜ!どこに行きたいんだ?」

茶髪の男は快く受け入れてくれる。


(よ、よし…後はどう説明するかだな…図書館で伝わらないかもしれないし、なんて言えばいいか。図書館が存在するかエミリにあらかじめ聞いておくんだったな)

開知は今更後悔をする。


「えっと…本とか資料を扱ってる場所を探してるんだけど、出来ればその場で見れたりする場所がいいな…なんて」

段々と弱々しくなりながら開知はそう言う。


(ど、どうだろう…これで伝わるか?)

開知は止まっているであろう。心臓がドキドキとまだ動いてるのではないかと思う程に緊張していた。


「そんな場所この街にあったっけかなぁ」

男悩む様な素ぶりを見せながら言う。


「あ、いや。ないならいいんだ!ご、ごめん!変なこと聞いて。僕の住んでた場所にはそういうとこあったからさ」


「あ、一つだけ思い当たる場所あったぜ!」

男は指をパチンと鳴らした。


「え、ほ、ほんと!?その場所は!?」


「おう!それはな…俺の通ってる学園だ!」


「が、学園…?」




「ほら、ここが俺の通ってる学園、アルベーノ学園だ」


茶髪の男にその学園の前まで案内される。さっき見た城と同じくらいの敷地の広さだ。


「校舎は習う科目よって分けられてるだぜ」


「へー、広いね。因みに何で別れてるの?」


「んー、確か接近戦や魔法なんかで分けられてたはずだな。俺も他校舎の事はあんま詳しくねーんだ」


(戦いの基本を習ってる…ってことかな)


「第2校舎にそういう小難しい資料があった筈だ」


「あ、ありがとう、でも大丈夫なのかな。部外者の僕が入って」


「まぁ大丈夫だろ。バレないバレない。バレた時はまぁ、そん時だ!」


茶髪の男はそう笑い飛ばした。ただでさえ目立てないというのに大丈夫なのだろうか。開知はこの先が不安になった。



学校に入ると茶髪の男と同じ様な服装した男女とすれ違う。その制服を着ていない開知は注目の的だった。すれ違うたびに注目を浴びる。


「ね、ねぇ…まずくない?チラチラみんなこっちを見てくるよ」


「んなことねーって。気にしすぎだ!」


もちろん、気のせいの筈なかった。通り過ぎるたびに怪しい目でこちらを見ていることが開知には見えていた。


「よーし、ここだな。着いたぜ」


「あ、ありがとう…」


(着いたのはいいけど…こんな注目を浴びる中見るわけには行かないよなぁ)


「ちょっといいかな?」


後ろから声が聞こえる。振り向くと、青髪の大きい黄色をリボンが特徴の少女がいた。どことなく不機嫌に見える。


「なんだ?お前誰だよ。お前の知り合いか?」


茶髪の男が開知に尋ねる。


「い、いや違うけど…」


「ここは第2校舎だよ。君達顔に見覚えがないけど…どこ校舎の人間かな?」


「俺は第1校舎の人間だ」


「第1校舎の人間が何の用かな?君達接近戦組がここに用があるとは思えないけど」

話の流れから察するにこの茶髪の男は第1校舎の人間で接近戦を習う生徒のようだ。


「別にいいだろ?別に俺が用があったわけじゃねーよ。ちょっとこいつがな」


と言って茶髪の男は開知に対して指を指す。


「そっちの君も何の用かな?ここは部外者立ち入り禁止だよ!」


開知の方をギロッと睨みながら少女が言った。


(こ、困ったなこれ…この様子じゃこの子に観光しに来たなんて言い訳は通じない…なら…)


「ごめん、僕この学校に転入する予定で、今日は見学に来たんだ」


開知はとっさに訳を考え、そう答えた。


「お、そうだったのか?」


茶髪の男は目を丸くする。


「う、うん…ごめんね。隠すつもりはなかったんだけど」


「別に気にしてねーよ!ならこれからよろしくな!」


茶髪の男は気にせず逆に喜んでいる。少し開知は心が痛んだが、仕方ない。


「ふーん…ここに来たってことは第2校舎に通うつもり?」


少し怪しんでる様な目でこちらを睨みながらそう言った。


「今のところ…そうかな…」


「そっか、ごめんね。僕、君が部外者だって勘違いしてたよ」


青髪の少女の顔が緩み、申し訳なさそうに開知に素直に頭を下げる。


「別に気にしないで大丈夫だよ…ぼ、僕も誤解させちゃったし…」


(困ったな…これじゃ完全に入学する流れだぞ…入学方法とかも分からないのに…)


「君、名前は?あ、僕はユリ・ベネガだよ。みんなからはユーリって呼ばれるんだ。よろしくね」


「そういや俺もお前の名前聞いてなかったな、あ、俺も言ってねーか。俺はジャック・カリバだ。よろしくな」


「君、まだいたの?部外者はさっさと帰りなよ」


と、ユーリはジャックを蔑む様な目で見ながら言った。


「お前部外者に厳しすぎんだろ!」


ジャックに負けずに睨み返す。お互い睨み合いが始まり、なんとも言えない圧迫感が開知を襲う。


「あはは…えっと僕は開知。漣開知だよ。よろしく二人とも」


「よろしくな!開知!」


「開知クンだね。よろしく!開知クンは何を目指してここに入学する気なの?」


「え!?」


回答に困った。きっと卒業後何になるかを聞いているのだろうが、開知はここを卒業をしたらどんな職に就けるのか分からない。


「えっと…入学して…決めようかなって思ってるんだよね。ユリは?」


「僕はこの学校を出たら勇者試験を受けるつもりだよ」


(勇者試験…?)


『勇者試験』開知はこれまで聞いたこともないワードだった。


「ま、まじかよ!?俺もだぜ」


「えー、君が?無理だと思うけど」


「いーや!俺は勇者試験に合格して、英雄になる!!」


聞いた様子だと試験に合格したら、勇者になれるそんな感じだが勇者が何をするのか開知にはいまいちピンとこない。RPGなんかじゃ王道だが、この世界での勇者の扱いは自分の知っている勇者なのか、分からなかった。


「勇者って具体的に…何をするの?」


「え…開知クンそれ本気で言ってる?」


「まじかよ開知…?」

二人はその開知の発言にドン引きの表情を浮かべる。


「いや……!大体は分かるけど!二人はどんなことしたいのかなーって!」


開知は何とか誤魔化そうとする。


「なーんだそういうことかよ!俺はギルドに所属するつもりだぜ?まぁ勇者じゃなくてもギルドには所属出来るけどよ、俺は英雄になるのが夢だからな」


「僕はアルベーノ王国の城の兵に所属したいんだ。国の為に動きたくてね」


どうやら勇者は現実世界の資格みたいなもののようだ。開知の知ってる勇者とは全く異なるものの様子。


(勇者についてもだけど、この世界は僕の想像とだいぶ異なるな…軽はずみな発言は控えた方がよさそうだ)


「ユリ、僕は図書室にお邪魔したいんだけどいいかな?」


「うん、もちろんだよ。僕はこの後実習があるからまた後でね」


「お、俺もそういや入ってたな。いけねー!忘れるところだったぜ!」


そう言って二人とひとまず別れることになった。図書室の中に入ると人はいなく、静かだ。他の生徒も自習中なのだろう。


(字は読める…な)


ここが自分が住んでる世界と違うなら字は読めないんじゃないかと少し不安だったが、読めるようだ。言葉が伝わるなら字も読めるのではないかという開知の推理が見事に的中した。


(なら歴史ものの本とか、この学園についてとかの本を探せば…)


開知は図書室の中を探索する。すると目を引くようなタイトルの本を一冊見つけた。


(これは…勇者について書かれてる本か。読んでみよう。ん、これ、教科書か?)


勇者について丁寧に簡潔に書かれていた。本というより教科書に近い。


勇者

【勇者とは実力を持っている戦士の証である。国が認めた実力者の集まり。】


アルベーノ学園

【戦闘技術を学びたい者が一定の期間戦闘技術を学べる施設。剣術、魔法、様々なものが学べる公共施設。】


アルベーノ学園を卒業した後は城の兵士、ギルド、保安官、用心棒など戦闘に関した職に有利に進める様だった。逆に言えばここは戦闘に関する職専門の学園の様で他職のことは書かれてなかった。


(どうやらこの世界は戦闘が出来るものが優遇される立場にあるのだろう。でも今の僕の身体じゃ戦闘は無理だろうしなぁ)


「一度エミリのとこに戻るか……」


開知はそのまま学園を後にした。



「そうか、大収穫だったな」


一度開知はエミリの元へ帰ってきた。


「うん、大収穫だったけど…この世界はとことん僕に向いてないってことも分かっちゃったんだよね」


開知は肩を落としながらそう呟いた。


「戦いが主流の世界なんて、喧嘩ですらした事のない僕には向いてないなぁ。ただでさえ僕はこの世界で生きにくい身体なのに…」


自分の腐った手を見つめながら苦笑いしながらそう言った。


「……開知」


「ごめん、今日は疲れちゃったからもう寝るね」


「ああ。分かった」


(またマイナスな発言しちゃったな…)


これ以上エミリに心配をかけるわけにはいかない。









夜中、開知は再び街に足を運んでいた。


(ごめんエミリ…このまま眠るわけにはいかないよ)


「さて……情報集めないとな……ん」


ふと通行人に目を向けると一人の男が女性のポケットから財布を抜き取っている様子が目に入った。


(誰も気づいてないのか……?)


「ちょ、ちょっと待ってください!」


開知は男を引き止める。


「なんだい?坊や」


男は一瞬こちらを睨めつけたが、すぐに表情を笑顔に変える。


「今、そこの女性のカゴから財布…盗みましたよね」


その開知の発言で周りの通行人が騒つく。


「…あはは、可笑しいことをいう坊やだ。何故そんな事が分かるんだい?」


「何でって……見てましたから」


「はははっ!」


男は急に笑い出す。


「な、何が可笑しいんです…?」


「こんな暗いのに見えただなんて冗談きついよ坊や」


(そ、そうか…他の人には暗くて見えなかったのか)


自分の身体がアンデットだから見えたという事に開知は気付く。


「な、ならそのポッケを見せて下さい!」


開知がそう言い放つと、男は急に顔色を変えて、開知へと体当たりをする。


「い…ッ!」


「どきやがれこのクソガキ!」


それだけ言って走って逃げて行った。


「ま、待て!」 


開知はフードをズレを直し男を追う。


「くッ……」


男と自分の距離は縮まらない。むしろ広がって行く一方だ。


(僕の足じゃ追いつかない……ッ)


走ることは出来ても全力で走ることは今の開知の身体では不可能だ。


「おいおい、大丈夫かよ」


「もうちょいスピード上げないと追いつけないよ!」


「き、君達は…!?」


背後から息を切らしながら学園で出会ったジャックとユーリが走って来たのだった。


「ジャック!?それにユーリも」


「さっきの様子が丁度目に入ってな!こりゃ助けねーといけねぇと思ってよ。けどこりゃ追いつけるか分かんねーぞ…」 


ジャックの言う通り、このまま行けば巻かれてしまうだろう。


「くっ…案はないわけじゃないけど…この距離じゃどうしようにも…」


そう開知が諦めかけているとユリがボソリと呟いた。


「男のスピードを落とせばいいだね」


「え?」


「今…何て」と聞こうとユリの方に顔を向けようとするとユリの指先から冷たい冷気を感じる。

そして、次の瞬間ユリの指先から氷の刃が発射された。


「うっうお!?いてぇ!?」


盗人に氷の刃は命中し、バランスを崩すが立ち直しそのまま逃走する。


「ごめん、この距離だとこれが限界かも」


「やるじゃーねーか!青リボン。伊達に第二校舎の生徒名乗ってないな!」


「ボクの名前はユリ!変なあだ名はやめてくれるかな!」


昼間と同じ様にジャックとユリの口論が始まる。


「あのー…二人とも…喧嘩は後で…」


「お、そうだったそうだった。んで、策はあるのか開知」


「えっと二人はこの街に詳しいよね?なら他の道から三人で囲む形を取ろう」


「で、でも男がどっちに行くなんて分からないよ?」


「僕がこのまま真っ直ぐ追う。右折した際にはライト、左折した場合にはレフトと叫ぶからそれでルートを把握して欲しい」


「覚えるのはあんま得意じゃねーけどやるしかねーな」


そう言いジャックは右へ。ユリは左に曲がって行った。


「レフト!」


開知の指示により、二人は的確に動いて盗人との距離徐々を詰めていく。




「はっ…はっ…あいつどこまで追ってくるんだよ……疲れを知らねーのか…」 


最初こそ距離があったものの開知と盗人の距離そう遠くはない。


「よし、距離が縮まってきた…ライト!」


「ぐっ、曲がり角で差をつけねーと……」


そう言い男が曲がろうとした瞬間、ジャックが飛び出る。


「うおおおおお!」


「ごふっ!!」


ジャックの飛び膝蹴りが見事命中。男はその場に倒れる。


「はぁ…はぁ…。よっしゃ!」


「ジャック!ナイスだよ」


「おう!」


ジャックはガッツポーズをこちらに向ける。


「何とか…なったみたいだね……」


ユリははぁはぁと息切れしながらその場に倒れる。


「ユーリ!?大丈夫!?」


「あいつには少しハードな内容だったみたいだな。ま、後は保安官に連絡を入れようぜ」


その後、開知達は街の保安官に男を連れ渡し、事件は解決した。


「いや〜良かった良かった。これもお前のお手柄だな」


ジャックは開知の肩にポンと手を置く。


「そんな、僕は何も……」


「んなことねーよ。お前の作戦のおかげだ」


「そうそう!開知の指示が無きゃ捕まえられなかったと思う」


「そうかな…。ありがとう」


自分が役に立てたそれだけで開知は嬉しく感じていた。この世界でひとの助けを出来たことに。


「なぁ、開知提案なんだけどよ」


「な、何かな?」


「俺とコンビ組まねーか?放課後、学園の生徒には酒場でクエストが受けられるんだ。そこでお前と俺が組めばもっと色んなクエストに挑戦出来るんじゃねーかと思ってよ」


「ジャック……うん。僕なんかでよければ」


(今はこうやってジャック達と一緒にいるのもいいかもしれない。僕が必要とされているなら)


「ちょっと!ボクの事を忘れないで欲しいかな」

ユリはわざとらしく咳払いをする。


「お?お前も俺達と組むか?」


「もちろん、君だけだと開知クンが心配だからね」


「そうかいそうかい。んで、開知いつ入学するんだ?」


「えーと…その事なんだけど入学方法教えて貰っていいかな?」


開知は言いずらそうに弱気な声で言う。


「え、開知クン知らないの!?」


「う、うん…実はそうなんだよね…」


「あっははは!何も知らないのにこの街に来たのか!開知…お前面白いな!」


ジャックは大きく笑う。


「入学手続きにはそれなりのマニーが必要なわけだが…お前マニーどれくらい持ってるんだ?」


(マニー…お金のことかな。そういや僕今一銭も持ってないな…)


「えーと…それがここら辺の宿で泊まってるんだけど今はその宿泊代で手一杯なんだよね…」


「そうか。ま、ここの街の宿となるとそれなりのマニは必要だろうしな」

ジャックは大きく頷きながら納得する。そのジャックの顔を見て開知はほっと息をつく。


(良かった…今度はちゃんと辻褄が合う理由を作れた)


「だが、そりゃ好都合だな。クエストで金をたんまりと稼いで入学すればいいわけだしな」


「だね!早く開知クンが入学出来るようボクも背一杯頑張るから一緒に頑張ろうね!」


ユリは満面の笑みを開知に向ける。


「う、うんっ…」


開知はユリの顔を直視出来ず、目線をずらしながら小さく頷いた。


「んじゃ明日学園前で待ち合わせでいいか?そん時に酒場に案内するからよ」


「分かったよ」


こうして開知はジャック・カリバとユリ・ベネガと共にクエストを共にすることになった。


こんなファンタジーライフ送りたかった

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