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異世界転生で死者の僕  作者: 杉本誠
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屍と

プロローグ

「屍と」


彼はぼんやり目を覚ます。どれくらい眠ってしまってたのだろうか。

いつもベットに置いてある目覚まし時計に手を伸ばす。だがそこに目覚まし時計はない。


「……ん」


辺りを見回す。そこは見覚えが無い場所だった。本来なら自分のベットで眠っていたはずだ。


「ここは……何処だ?」


彼は起き上がり現状を理解しようとする。

誘拐でもされたのだろうか。そもそもこれは現実ではなく夢ではないか。正直な話、後者の方が現実味がある。


そんな事を彼は考えていると彼はある事に気づく。

周りの物は勿論見えている。だが、ここを照らす“明かり“がない。

これは明らかに異常だと彼は気づく。暗闇に目が慣れるには早すぎる。それに見えるといってもぼんやり見えるというわけでは無い。はっきりと、まるで日中と変わらない様に見えるのだ。


「え…どういう事だ…?」


彼は自分の異変と見慣れない場所に焦りを感じ、辺りを探索することにした。歩くとギシギシと音が鳴る。どうやらここは木製で出来てるかなり古い部屋の様だ。

すると、一つ扉を見つける。木製の扉だ。彼は恐る恐るそのドアノブに手を掛け開けようとする。

ドアは簡単に開き、そこからほのかだが明かりが入り込んでくる。どうやら外に繋がっている様だ。彼は部屋を出た。


勿論見慣れない場所だ。辺りは森に囲まれており、空には無数の星が夜空を飾っている。


「…何処だ…ここ…」


「…おい、こんな夜に一人で何をしている?」


何処からか声がした。


「えっと、すみません…その…ここは…どこですか?」


彼は何処からともなく聞こえるその声に尋ねる。


「…なんだ、この国の人間じゃないのか?」


「えっと…その…僕にも何がなんだか…」


彼は少々挙動不審な様子で言った。


「安心しろ、私は別にお前に危害は加えない」

その優しい声に彼は安心したのか、少し落ち着く。


「あ、ありがとう…ございます」


彼は目の前にはいつの間にか一人の女性が立っていた。黒いコートをヒラヒラと揺らし、茶色のブーツを着こなした金髪の女性。

月の光に当たってるせいかまるで劇場に立つ主演女優かの様に彼には輝いて見えた。その瞳は赤く光り吸い込まれそうな魅力がある。


「……お前」


彼の顔を見ると彼女は大きく目を見開いた。


「えっ?」


彼女は何故そんな顔をしたのか、彼には理解出来なかった。


「…喋れるのか、珍しいな」


彼女は彼に対して珍しいとはっきりそう言った。


「な、何を言ってるんです?そ、それにここは何処なんでしょうか。ぼ、僕…目を覚ましたらここにいて…」


そう彼が彼女に説明しようとするが、彼女はこちらに耳を傾けてる様子はなく、彼の顔をじっと見つめ、何か考えてる様な真剣な表情をしていた。


「あ、あの…」


このまま話をしても無駄だと感じ彼は再度声をかける。


「すまない。少し考え事をしていた。お前、目を覚める前はどこにいたんだ?」 


こちらの話を聞く様子はなく、彼女は問いかける。彼は彼女の質問に先に答えることにした。


「えっと…ベットで寝ていたはずです。自分の部屋の」


「…そうか。どうやら気づいてないみたいだな」


彼女はまた意味深なことを言った。


「き、気づいてないって?」


その彼の問いも無視して彼女は話をまた進める。


「この近くに私の拠点がある。とりあえず、そこで話をしよう」


「わ、分かりました…」


彼はとりあえず彼女についていくことにした。


「お前、名前は?」


「僕は…(さざなみ)開知(かいち)です」


「そうか。私の名前はエミリだ。よろしく」


そう言って彼女は彼を先導する様に歩き始める。彼もそれに着いて行く。


*******************


「……」


「……」


歩いている間しばらく沈黙が続く。彼はその空気を気まずく感じていた。


「……あ、あの…すみません」


しびれを切らし彼女に話しかける。


「なんだ?」


こちらに振り向くことなく、足を進ませ彼女は答えた。


「いくつか質問しても…よろしいでしょうか」


「ああ、私に分かることなら答えよう。それと敬語はやめてくれ」


「わかり…分かったよ。じゃあまずここは何処なの?僕こんな場所見たことないんだけど…」


開知はここは何処なのか。それが知りたかった。


「ここはアルベーノ王国だ。この世界で一番大きいと言われるてる国だな」


やっとエミリは開知の問いに答える。しかし、彼はアルベーノ王国など聞いたこともなかった。


「あ、アルベーノ王国…?」


(聞いたこともない国だな。僕は今外国に連れてこられた…ということだろうか。でもこの世界で一番大きいって…)


「お前はこの国を知らないということは別の大陸から来たのだろう。どうやって来たかは分からんが」


考えていると彼女が質問を投げる。


「え、う、うん。そういうことになるかな?」


「なら知らないのも無理はない。だが、そうするとどうやってこの国にやって来たんだろうな。見ての通りここは森だ。海から漂流したわけでもなく、どう辿り着いたんだ?」


エミリの意見最もだが、それを知りたいのは開知も同じだ。


「さ、さぁ…?僕にも分からないよ」


「さぁ着いたぞここが私の住んでる場所だ」

そう言ってエミリが指差す。開知が指をさされた場所を見るとそこは洞穴があった。


「えっと…エミリはここに住んでるの?」

開知は驚きだった。まさか住んでいる場所が洞穴だなんて思いもしなかった。これも文化の違いだろうか。


「ああ、といっても仮拠点にしているだけだがな。私もこの王国の人間じゃないんだ」


「そうなんだ、じゃ何の為にここに?」


「ちょっとした野暮用だ」

エミリは深くは語る様子は無かった。


「では中に案内するとしよう。だがその前に…」

そう言って開知の方を真剣な表情で見つめる。


「え?な、なに…」


「お前は自分の状況を把握した方がいいかもな。開知、そこに湖があるだろう?そこで水を汲んで来てくれないか」 


そう言って開知に空のタルを渡した。


「う、うん…わ、分かったよ?」


これがどう自分の状況を把握する事に繋がるのか分からなかったが開知は従うことにした。


「……普通に水を汲んで来て欲しいって言ってくれれば汲むのに」


数分程で湖に着き、そんなことを呟きながら水を汲もうとする。


(こんな状況になっちゃったのは不運だけど、エミリに出逢えたのは不幸中の幸いだったかもな…一人じゃパニックだっただろうし。遭難もあり得ない話じゃない)


そんな事を考えて湖を見るとある事に気づく。湖に何か写っている。無論、自分じゃない何かだった。それは人の形をしていたが人とは言えないものだった。右目は黒く、肌は白や灰色でつぎはぎ後がある。まるで雑に縫い合わせたヌイグルミだ。しかし、ヌイグルミみたいに可愛いものではない。


「うわぁぁぁぁぁぁ!?」


開知は驚きのあまりタルを湖に落とし尻を打つ。


「な、何だよ…今の」


呼吸を整えてゆっくりと立ち上がりキョロキョロと辺りを見渡す。


(さっき見た化け物は何処だ…?)


辺りを見回すが、何も見えない。


(もしかして湖の中か…)


そう思い、恐る恐る湖を覗く。中にもその化け物の姿はない。


「ま、まさか…」


開知は察してしまった。さっきの化け物の正体を。今までのエミリの意味深の発言。つまりそういうことだろう。


「……」


開知は湖を覗く。その化け物は湖に映っていた。当たり前だった。その化け物は開知自身なのだから。


「う、嘘だろ…?う、嘘だ」


開知はその真実を受け入れられなかった。しかし自分の手足をよく見るとまるで腐っているかの様だった。さっきの化け物にぴったりの手足だ。


「どうして…何で…?」


開知はタルを持って湖を後にした。



「戻ってきたか、その様子を見ると自分の状況は把握したみたいだな」


洞穴に入り、開知は水の入ったタルをエミリに無言で渡す。


「僕は…僕の今の姿は人間じゃないよね…」


「ああ、どう見てもアンデットだな」


アンデット、つまり動く死体ということだった。夜なのに明るく見えるのもそのせいだろう。


「何で…僕は死んだのか…?」


いや、そんな記憶はない。しかし、自分が今まで何をしてきたか。それさえ思い出せなかった。


「え…僕は…なにをしてきたんだっけ…?」


記憶喪失だろうか。自分の名前しか開知の頭に浮かばなかった。


「どうやらアンデットは生きてた頃の記憶は無くなるようだな」


冷静にエミリは現状を分析する。


「違うっ!僕は確かに…記憶がーー」


開知は頭を抱える。自分は元々この世界の住人ではないのは確かだ。しかし自分が何者で何をしていたのか開知は覚えていなかった。



「なんで……」

自分がアンデットな事に開知はショックでその場に膝を着く。


「お前は生まれ変わりそこねた…のかもしれないな」


「なら…また死ねばいいのかな」

そうだ、生まれ変わりそこねたのならまた死ねばいい。開知はそこのような考えが頭に浮かんだ。


「……残念だが、アンデットは基本的には死ぬ事はない。浄化する事は可能だろう。だが生まれ変われるかは分からないな」


「じゃあ…どうすればいいのさ…僕は…人間だッ!」


「…お前がそう言い切るのにはきっと理由があるんだろう。ならそれを探すべきだ」


「…えっ…」


「自分がそんな姿になってしまったんだ。パニックになるのも無理はない。だが、お前はまだ動けるんだ。なら、何とかなるかもしれない」

それを聞いて開知は黙る。そして考え始める。


「でも治せる確証なんてないじゃないか…」


エミリの言葉は開知にとって前向きに捉えられるものだった。それも開知自身分かっていたが、そう簡単に割り切れる問題でもなかった。

エミリに目を合わせられなくなり、俯きながら自分の態度を悔い改めた。


「…そうだな、確かに今のは気休めだったかもしれない」


「………」


本当は「そんなことはない」そう否定したかった。だが、開知は言葉にする事が出来なかった。


「なら、こうすれば少しは気休めじゃなくなるだろうか」


そうエミリは呟いた。開知は「えっ」と驚きながら顔を上げた。するとエミリの周りに何かが飛んでいる。それも複数。白いまるで人魂の様だ。


「エ、エミリ。それは…?」


「霊を扱う者、私は…ネクロマンサーなんだ」


「ね、ネクロマンサー…?」


何を言ってるのか理解が追いつかなかった。自分が怪物の様な見た目になってさらにはエミリは自分の事をネクロマンサーと言い始める始末だ。ファンタジーの世界に入り込んでしまったのだろうか。


「そうだ、だから俺は死んだ霊なんかにも詳しい。その俺が人間に戻るかもしれないと言ってるんだ、少しは信憑性が増さないか?」


「……も、もう何がなんだが分からないよ」


「これが証拠だ…と言っても信憑性は薄いかな」


エミリは人魂、霊を見ながら言った。


「う、うーん…た、確かにこんなの見せられたら信用するしかないのかな…」


そう開知が渋々言うと、エミリは「フッ」と笑い。指をパチンと鳴らす。すると霊がネズミ花火の様に廻りながらどんどん小さくなり消える。


「えっと…信用した上で聞くけど、エミリには治せないの…かな?」


「治せるかと聞かれたら治せないな。俺が扱えるのは霊だからな。死体の復元は出来ない」


「そ、そっか…」


もしかしたらと開知は思ったが、流石にそれは虫がいい話だった様だ。


「だがお前は珍しいアンデットだ。知性があり、話せる。顔立ちもアンデットよりも人間に近い」


「え、エミリ…それこそ気休めだよ。こんな顔到底人間に見えないよ…」


「アンデット界だったら美形だな」


と冗談交じりにエミリは言った。まぁ確かにこうやって普通に会話出来るだけマシなのかもしれない。そう開知は思った。


「ねぇ、エミリ。アンデットって夜でも明るく見えるものなの?」


「ああ。そのほかには大抵の傷は自然に治るとかだな。逆に言えば身体が腐っている為、脆い。激しく動けば自滅するぞ」


先程体験した開知の現象は当てはまっており、自分が完全にアンデットだということを開知は自覚した。


「分かったよ、肝に銘じとく。でも今後僕どうなっちゃうんだろ」


この見知らぬ地で分からないことだらけの状況。何をすべきか開知は悩んだ。


「それはお前が決めることだ。腐るも生きるもお前次第だ。私も出来る限りのことはしよう」


「エミリ…分かった。じゃいくつか教えて欲しい」


(まずは現状を知ることだ。絶対僕は諦めないぞ)


こうして彼、漣開知の歪な異世界生活が始まったのだった。

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