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幽導灯火伝  作者: 惟霊
49/82

49 蓮佛 香 挿絵有り




「おや、私のことを知ってるのかい? でもそのあだ名好きじゃないんだよね……って君、そっちの方が有名人じゃないか、たしか歌劇隊センターの桜井咲ちゃんだよね。ライブの帰り?」


「いえ、今日はオフなんです。じゃなくて決灯をやめてください! こんな人目につくところで戦ってると警察に通報されますよ!」


「ははは! そりゃあいいね、オーディエンスは多い方が盛り上がる」


「もう! 何を考えてるんですか! ほらそこの君も幽導灯を納めなさい! 校則違反よ!」


「そうしたいのはやまやまなんですが、どうにも見逃してはくれないようでして」


「当然」


 しゅるると鋭い風切り音をたなびかせて上から下からの連打が光太郎を襲う。だが光太郎は落ち着いて最小限の動きでこれを避け、あるいはいなし続ける。


 時折幽導灯同士がぶつかると、カァンと清々しい高い音を奏でては光と共に聴衆を魅了した。


 なんだなんだと続々人が集まり、やがて少なくない数の聴衆が遠巻きに昼下がりの珍事を見つめている。


 清く響き渡る幽導灯同士の音色は荒々しい攻防とは裏腹に聞く者の耳を通して心を安んじて、不思議な高揚感をもたらした。


 咲は新宿灯青校が誇る全国的なアイドルユニットのセンターであり普段から注目されるのには慣れっこだが、悪目立ちすることには慣れていない。


 はらはらしながらもおぼろげな記憶から最近噂になっている転校生のことを思い出した。上京早々に鬼人との戦いを制し、先日も警邏隊の襲撃を退けつつも謹慎中の問題児。その名は確かーー


「はははは! 楽しい、楽しいねぇ光太郎君! ここまで付いてこれたのは久しぶりだよ! 君はいい灯士だ!」


「光栄です」


 光太郎は微笑みながら、紫電のごとき猛攻を右へ左へと捌いていく。ほとばしる霊気火花が空間に広がっては消えて見る人の心を捕らえて離さない。


「だけど本番はこれからだよ」


「⁉」


 不敵な笑みから繰り出される香の三連撃。くるりと手首を返し慣れた様子で一撃二撃と攻撃をいなす光太郎だったが、三撃目を受け流そうとして腕を打たれてしまう。


 微かな違和感を覚えた光太郎だったが、勢いづく香の猛攻を前に考えをまとめる暇などなく、防戦一方となり、徐々に打ち込まれ始める。


「ニャニャ! ニャニャニャーニャ!」


「大丈夫だよ福ちゃん、でも何か変なんだ。さっきから気の流れが変わって、手の内が読まれているようなんだ。まさか」


「へぇさすが噂の転校生、察しが良いね。その直感の通りだよ、私は相手の動きを読むことができるんだ。先の先をね」


 常識ならばなにを馬鹿なという事態だが、香の言う通り光太郎の攻撃はことごとく防がれてなんども灯撃をその身に受けてしまう。苦し紛れに距離を取った光太郎は学帽をかぶり直した。


「お見事です。さすがは新宿最強でいらっしゃる」


「嫌味かい少年。それでほんとのところはどうなんだい?」


「ほんとのところとは」


「我が家にね、子々孫々代々伝わる言い伝えがあるんだ。かつて聖徳太子は未来記や未然本紀などに予言を残した、環境変化の食糧難による飢え死にと洪水による水死、世界大戦の終末の預言だよ。だが我が家伝来の秘文曰く、いよいよ世界が終わるという頃に聖徳太子の生まれ変わりが現れてことごとく己のなした予言を覆すと言われているのさ。そして神占によるとどうやらそれが君だそうじゃないか。その自覚はあるのかい?」


「もし今ここで、はいそうですと言えば。ご納得いただけますか?」


「いいや、だから君を試しているのさ」


「そうですか、では」


 光太郎はなにを思ったのかゆっくりと瞳を閉じた。


「再開いたしましょう」


 自然体に構える光太郎をいぶかしみ、香りは嘆息する。


「ねぇ目を瞑ってどうするんだい? まさか心眼とでもいうつもりなのかね。漫画の見すぎなんじゃないかい?」


「……私は物心ついた時から一生懸命なんです」


「はぁ?」


「北辰青玄会《ほくしんせいげんかい》館主になってからは、もっと一生懸命なんです」


 その時ざわりと香の全身に鳥肌が立ちギリリと口元を結ぶ。それは焦燥か怒りか恐怖か、衝動的にえも言われぬ感情に動かされて飛び出した香りは袈裟斬りに幽導灯を放つ。だが瞳を閉じたままの光太郎に簡単に防がれてしまった。


「おや初めてですか? 心を読まれるのは」


「……」


 無言で鍔迫り合いを続ける二人だったが、焦っているのは香の方であった。湧き上がる激情と共になんども業物の幽導灯を叩きつけるが、先程までの苦戦は嘘のように防がれ、いなされてしまう。


 額に玉の汗をかきながらそれをぬぐうこともせず、攻撃を続ける。光太郎は防戦一方でありながらも冷静に独り言を呟いていた。


挿絵(By みてみん)

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