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幽導灯火伝  作者: 惟霊
41/82

41 ※返魂歌




 オーヒャーラーイ ヒーリュウヒー オーヒャーラーイ ホウホウヒ……


 笛の音が鳴り続け、それに合わせて光太郎は舞い続ける。やがて勢いが最高潮に達するとピタリと静止して、光太郎は右手の幽導灯をこめかみにあてるようにかざし、左手で拝み、厳かに祝詞(のりと)を唱え始めた。


「そもそも(のろ)いというものは 呪って終われるものならず


人を呪わば穴二つ 相手が落ちたる穴ぼこと 己が掘りたる墓穴(ぼけつ)かな


墓穴というのはいかならん ああ人の身にありながら


神降(かみお)り来る魂汚(たまけが)し 報いを受けたる因果(いんが)かな 


天網恢恢疎(てんもうかいかいそ)にして()らさず 


天理(てんり)網目(あみめ)(あら)けれど いつかは来たれるその(さば)


天に(つば)する者あらば 必ず己に落ち来る


報いを受けたる心とは (くや)みと不平(ふへい)(かたまり)


(うら)みと嫉妬(しっと)権化(ごんげ)かな 己の都合を優先し


他人思いやることぞなく 注意されても耳貸さず 


呪い続ける暗心(くらごころ) その始まりこそ些細(ささい)でも


毎日毎日愚痴(ぐち)を吐き 恨み続ければ誰であれ


その魂これ鬼となり 人を(さいな)む呪いとなりて


己がはまる穴となり 親兄弟を巻き込んで


親戚縁者(しんせきえんじゃ)も巻き込んで 破滅(はめつ)(いた)れる悲しさよ


(ほれ)れた()れたと言うけれど 人には心がありまする


相手の気持ちを考えず (はな)れる心を良しとせず


無理に束縛(そくばく)してみても ますます離れる恋心


たとえ体を拘束(こうそく)しても 心というのは自由なり


思うようにはいかぬもの 人は物ではありません


さはさりながら さりながら


惚れた女に執着(しゅうちゃく)し (ゆが)んだ思いを持つ者よ


今日まで呪える咎人(とがびと)よ 神仏(しんぶつ)今こそ(ふる)い立ち


呪いの技を返すなり 冥府(めいふ)(ちょう)に神がいて


悪を裁くを知らないか 素神(すしん)の許しの名の下に


閻魔大王(えんまだいおう)現れて 悪しき呪術(じゅじゅつ)を返すなり


(たた)る心を返すなり 恨む心を返すなり 執着心を返すなり 


心が返る身に返る 魔念(まねん)出し主にみな返る


諸天善神(しょてんぜんしん)加勢(かせい)して 非道(ひどう)仕打(しう)ちを倍返し


全てが(おのれ)(おこな)いの 結果の因果ぞよく知れや


ああよく知れや よく知れや


秘鍵(ひけん)の観音現れて 次元(じげん)(とびら)を開けるなり


神の化身(けしん)(いざな)いて (みちび)(たま)える偉大(いだい)さよ


その大稜威(おおみいづ)(さかえ)あれ 皇大神(すめらおおかみ)に栄あれ ――


一念三千(いちねんさんぜん) 回光返照(えこうへんしょう)


常楽我浄(じょうらくがじょう) 和光同塵(わこうどうじん)


応用無辺(おうようむへん) 神仏百出(しんぶつひゃくしゅつ)


一切救済(いっさいきゅうさい) 秘鍵開錠(ひけんかいじょう)!」


 光太郎が最後に秘文(ひぶん)を唱えると、シャンシャンシャンシャンと高らかに音が鳴り、突如として光太郎と観音の後方頭上に大きな門が現れた。


そして光太郎が幽導灯を突き出し、ひねる仕草をすると、ガッチャンと錠前が開く音がすると共に霊界の大門が雄々しく開かれて、奥から凄まじい神威(しんい)と共に霊厳(れいげん)なる御神霊(ごしんれい)がこの場に現れようとしていた。


南雲(なぐも)は大粒の冷や汗を流し、このままではまずいと必死の思いで身をよじるが、神将達の呪縛(じゅばく)がそれを許さず、微動だにできない。


 焦る彼に対して光太郎は涼しい顔で(あめ)数歌(かずうた)奏上(そうじょう)する。


「ひとふたみよ いつむゆななや ここのたり ふるべゆら ふるべゆらゆら~ ひとふたみよ いつむゆななや ここのたり ふるべゆら ふるべゆらゆらゆら~……ホォオオオオオオオオオオ!」


 数歌の終わりに上げられる警蹕(けいひつ)の声が高らかに鳴り響く時、いよいよ光と轟音を伴って神門の向こうから巨大な龍が姿を現わした。


 身の丈十メートルはあろうかというその御姿は、縁が藍色(あいいろ)に光っており、艶やかな黒檀(こくたん)色の大黒龍(こくりゅう)である。


 黒龍は数ある龍神の中でも赤龍(せきりゅう)と並ぶ戦いの龍であり、体色の黒は陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)で言う所の最強の()である土行(どぎょう)を指し示す。


 閻魔の庁より来る偉大なる黒龍は、身をひるがえして吸い込まれるようにして光太郎の幽導灯に宿ると、少年はそれを構え、カッと目を見開き叫んだ。


「閻魔十王が合体化身であらせられる、大黒青龍王だいこくせいりゅうおう守り給え(さき)はえ給え! 大黒青龍王守り給え幸はえ給え! 大黒青龍王守り給え、幸ーはえー給ーえー!」


 その時、霊空間にいくつもの霊妙(れいみょう)たる声が重なって、許すと(おお)せられた。


 凄まじい霊威(れいい)(まと)って光太郎の体と幽導灯がずしんと一気に重くなる。しかしそれでいて胸の奥底から力強い何ものにも負けぬ神気がこみあげてくる。


 彼は力強く愛灯である海王丸を振りかぶると、秘技の名を高らかに宣言する。





冥府冥王神許加勢めいふめいおうしんきょかせい! 秘灯奥義(ひとうおうぎ)! 大厳十王黒龍だいげんじゅうおうこくりゅう呪い返し!」

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