16 乱取り稽古 挿絵有り
お富さんに手配してもらった屋内灯技場で光太郎と手合わせをすることになった十三班一行は、光太郎を前にして佩刀を抜き横一列に並んだ。
「よしじゃあみんな、僕は灯身だけを狙って当てるからみんなは自由に一人づつ順番に好きに打ち込んできてね、じゃあ始め」
「え、それでいいのかよって、うおおおおお!」
稽古が始まってすぐ悠人が構える降魔灯にちょんと光太郎の灯先を当てると、強烈に弾かれた灯身に引きずられ、大きくのけぞった。
「ほら、龍次君も遠慮しなくていいよ」
「ちっ、誰が遠慮なんかするか……よっ!」
鋭い踏み込みから腰元を狙って打ち込まれる一撃にすっと海王丸を振り当てると、強力な電撃めいた閃光が閃き、やはり龍次の幽導灯を強く弾いた。
「ぐっ! くっそ、近づけねぇ」
「はは、じゃあ次は勇君、行ってみようか」
「はい、おお、お願いします! でやぁぁぁぁ!」
正直な性格を現したかのような勇の突きに対して優しく幽導灯を灯身の側面を叩くと、同様に弾かれた勇は少々大袈裟に転がっていく。
「じゃあえまちゃんも来て」
「はい! たあああああ!」
幽導灯を雄々しく大上段に構えたえまは、刀身を横にした海王丸に簡単に弾かれてたたらを踏んでしまう。
「うん、勢いはいいけど目を瞑っちゃだめだよ、それじゃあ敵の攻撃を防げないからね」
「は、はい!」
「じゃあまた悠人から順番に、どんどんスピードあげてやっていこう」
「お、よーし、笑ってられるのも今のうちだぞ光太郎! でやあああ! あ!? あああああああ!」
「ははは!」
笑いながらも次々に攻撃をいなしていく光太郎は、徐々に動きを早めていき舞うように踊りながら止まること無く幽導灯を振り続けた。これに驚いたのは周囲の学生達だ。
「うおぉあれ見ろよ、わけが分からねぇ!」
「すげぇ……一見すると遊んでるようにしか見えないけど、ビシビシ肌でやばい霊圧を感じる。てかよくあの状況で笑ってられるよな」
しばらくそうやって立ち回っていた光太郎だったが、一人また一人とへたり込んで動けなくなり、とうとう最後の龍次が荒い息をついて座り込んだところで涼しい顔で光太郎は納灯して総評を述べた。
「みんなお疲れ様、付き合ってくれてありがとう」
「はぁ、はぁ、ど、どういたしまして……」
「悠人君はそうだね、不真面目っぽいけどその中でも譲れない思いがあって芯の強さを持っているね。ただちょっと欲に目が眩んでるようなのが玉に傷かな?」
「うるへー」
「龍次君は不良っぽく見せてるけど凄く真っ直ぐな気質だね。ただ融通のきかなさや頑固なところが灯技にも出ている。軽やかさや柔らかさがもう少しあれば、ぐっと良くなるんじゃないかな」
「へぇ、んなこと始めて言われたな」
「勇君はもっと自分に自信を持っていいよ、気負いを無くして君らしくあればいいんだ」
「はぁ僕らしく、ですか……」
「えまちゃんもそうだね、まだ幽導灯を振ること自体に躊躇いがあるみたいだ。後方支援隊は結界張ったり治療したりで直接戦うことは余りないかも知れないけれど、慣れとくにこしたことはないから、これからもがんばろうね」
「はい、ありがとうございます!」
その時パチパチパチと拍手する音が灯技場に響いた。ザワザワと会場中がどよめくと、集まっていた大勢の人だかりが潮のように引いて行き、その間から見目麗しい女学生が進み出た。
彼女は数名の生徒をお供のように引き連れており、身なりの良さや風格からも王侯貴族を思わせる気品があった。
「とても素晴らしい灯技でしたわ、あなたが噂の転校生、暁君ね♪」
「はいそうです。失礼ですがあなたは」
「私は当校の生徒会長をしている鹿島 綾乃です、よろしくね。とても楽しそうにお稽古していらしたけれど、私も混ぜてもらっていいかしら? ね、少しだけ、いいでしょう?」
「ええ、別段構いませんが」
「はぁ!? おい、なに言ってんだ光太郎! このお方は新宿灯青校の生徒会長様なんだぞ!」
「悠人君、それはさっき聞いたけど」
「だー! 意味が分かってねえんだよ! いいか? 灯青校の生徒会長は代々その学園全体で最強の生徒が就任するのが習わしだ! それに会長は剣神タケミカヅチ大神を奉る鹿島武神流の正当後継者だぞ! いくらお前がバカみたいに強くても勝てっこないっつーの!」
「稽古なんだから勝ち負けじゃないでしょ、それに負け試合の方が得るものが多いんだよ」
「ああもうチクショウ! 任務前に怪我してもしらねぇかんな!」
「あら、任務の前でしたの? それは申し訳ないことですわ、日を改めたほうがいいかしら」
「いえお構いなく、存分に打ち込んで来られませ」
「まぁ……それは大事な任務の前にあって私を相手どっても差し支えなどない、ということですか?」
「ご想像にお任せ致します」
「あらあら、うふふふふふ♪」
ともすれば挑発的とも取れる光太郎の態度に周囲の面々は瞠目し、綾乃は嬉しそうに目を細めた。思わず喉から笑い声がこぼれ出すのを抑えられない。決灯舞台の上には光太郎と綾乃の二人だけが対峙しており、この場にいる全ての者がこの戦いに注目していた。
「では改めて、鹿島武神流、鹿島綾乃。参ります」