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幽導灯火伝  作者: 惟霊
15/82

15 お富さん




 彼女と話をするうちに光太郎が始めての任務ということもあり、面談室で詳しい話をしてもらえることになった。昨日からの経緯を話し、お富は唸る。


「なるほどそうかい、それで昨日の今日であんたが十三班の班長に収まったってわけなんだね、そりゃあ責任重大だ。しっかりやんなよ!」


「はい、ありがとうございます」


「でも龍次、あんたがまた班で活動するだなんてあたしゃ嬉しいよ、ようやく曲がったへそが真っ直ぐになったね! あっはっは!」


「なんだよそれ」


「いくら強がったって人間一人でできることには限界がある。特にあたしらは妖魔って化けもの共を相手にしなきゃいけない運命だ。奴等に無くてうちらにあるもので勝負しなきゃあ歯が立たないだろ? それが仲間の絆さ! 頼れるのは神様仏様だけじゃないってことを知るためにもこの学校があるってもんさね」


「なるほど」


 光太郎は素直にふんふんと首を振って聞いていたが、お富さんはいつもこんな風なことを語っているので、残る面々は聞き流していた。


「あ、お富さん、ちょっといいですか?」


「ん? はいはいどした……うんうん、なるほどね」


 そうこうしていると途中から別の職員からなにやら報告があったようでしばらく話し込んでいる。ようやく終わると、光太郎を見てニヤリと笑った。


「あ~新しい班の門出を祝してお姉さんが適当に相応しい任務を見繕ってあげようと思ったんだがちょうどいい話が舞い込んで来たみたいだよ。せっかくだからこれも一つの縁だと思って受けてみちゃあどうだい?」


 一同はお富さんの台詞にお互いの顔を見合わせた。


 話の内容はこうだ。とある事情で今晩新宿ダンジョン周辺の夜回りをする班が急に出動できなくなったそうだ。そこで代わりとなる班を探すことになったのだが、それに十三班をあてようという腹づもりらしい。


 緊急依頼ということで報酬金が上乗せされる上に学校としても無理を聞いてもらうのだからその分進級に必要な任務実績も配慮され、さらには見回りのため大した危険も無いので比較的安心ということだ。


 いいことずくめの話しに一同は乗り気になったが、光太郎はえまが俯いているのが気になった。そこで話を聞いてみれば、家が厳しくて門限があるという。これに龍次が悪態をついた。


「はっ、灯士に門限なんか付ける家があるのかよ、任務をなんだと思ってんだ」


「……すいません」


「お富さん、今回の任務は人数条件がありますか?」


「そうさね、最低三名いれば大丈夫だから事情のある子は待機でもいいよ」


「ありがとうございます。えまちゃん、今回は急な話しだし任務は僕達四人で行って来るよ。お家の門限に関してはまた今度改めて話し合おう」


 光太郎がそう勧めると、意を決したえまが毅然とした顔付きで言った。


「ありがとうございます光太郎さん。でも、大丈夫です。後方支援とは言え私も灯士です、参加します」


「いやでもよぉ、お前の家は……」


「参加させて下さい! お願いします!」


 立ち上がって頭を下げるえまに、一同はなにも言えなくなって結局家へ事情を説明することを条件に任務加入を認めることになった。


 悠人、勇、龍次は寮生なので特別保護者に朝帰りの連絡などせずとも済むが、光太郎とえまはそうも行かない。特にえまに至っては毎日執事に送り迎えしてもらっている都合上、連絡せねば大騒ぎになる。


 二人はそれぞれ一階に多数ある電話ボックスに入り家に電話をかけた。光太郎は事前に聞いていた松子の勤務先に連絡すると心配されたが、見回りに付き添うだけの通常任務だと説明するとなんとか納得してくれた。


「そう、分かったけど、きっとあの子達寂しがるわ」


「すいませんが宜しくお願いします。福ちゃんにも話しかけてくれれば分かってくれると思いますんで」


「う~んそれはいいけど、福ちゃんの機嫌は光太郎君でないと直らないのよね、心配だわ」


「だ、大丈夫ですよ、ははは……あ、じゃあ宜しくお願いします」


「ええ、お仕事気を付けてね」


「はい」


 光太郎が和やかに会話を終えて出てくると、十三班の面々はなにやら気まずい雰囲気に包まれていた。ボックスから出て来た光太郎を認めて悠人が口を開く。


「結局話し合いは物別れに終わったらしいぜ、今お富さんが代わって花牟礼の実家に説明してる所だ」


「そんな大事になってたの」


 しばらくして話が終わったのか、お富さんが凄みのある笑顔で電話ボックスから出て来た。


「ふーお待たせ、ちょっと手間取っちまったけどもう平気だよ。旧華族だ代議士だなんだと喚いてたけど、心配ないからね花牟礼。前途ある灯士は国の宝だ、あらゆる権力に屈しない、それが新宿灯青校さ!」


「よっ! さすがお富さん、男前!」


「あっはっは! そうだろそうだろ! って、誰が男だこの野郎! 逃げんなこら!」


「ひぃええええ! お助け!」


 またしても調子に乗った悠人が墓穴を掘って怒りを買っているが、これはもういつものことなのでと生暖かく見守っていると、えまが進み出て頭を下げた。


「すいません……お富さん、光太郎さんや班のみんなにも私のせいで迷惑かけちゃって」


 小さくなっているえまに対して光太郎は笑いかけた。


「気にしないでいいよ、みんな事情はあるからね。もしお家の人に怒られるようなことがあったら僕も一緒に行って説明するよ、これでも班のリーダーだからね。なったばかりだけど」


「ありがとう、ございます」


「うん、じゃあ任務まで時間があるから少しみんなと手合わせしてみたいんだけどいいかな?」


「え、乱取り稽古ですか?」


「うん、そう」


「おお任務前に感心なことだね、じゃあ今空いてる決灯場がないか調べるよ、ちょっと待っときな!」


「え~今から稽古かよ、金にもなんねぇのに」


「あんたもちょっとは暁を見習いな!」


「いでぇ!」


 とうとうげんこつを喰らった悠人が面白くて、班の皆が笑った。まだまだ分からないことだらけであるが、ここに不思議な居心地の良さを感じる光太郎であった。


更新の糧となりますのでブックマークと評価の程、宜しくお願い致します。

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