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幽導灯火伝  作者: 惟霊
14/82

14 言いがかり




「こ、光太郎さん、こっちです!」


「ありがとう、えまちゃん。へーこれが掲示板かあ」


 翌日光太郎は午前中の座学を済ませてから昼食前に班のメンバー全員で学内にある任務案内所に来ていた。ここには登校した学生が一日に一度は訪れると言われており、広いスペースが確保されている。


 掲示板には新旧様々な任務の依頼が張り出されており、依頼主は国や企業は勿論個人や学生自身が依頼主である場合もある。


 その内容も様々で、基本となる巡回や警戒任務の他に護衛とは名ばかりの付き添いであったり、迷い猫の捜索まで多岐に渡る。


 任務を受けようとする者は申請をして認可を得なければいけない。勝手に任務をこなしてきたからと事後申告しても通常は受け付けてくれないのだ。


 新しい依頼が張り出されるのは随時なため、少しでも楽で成績と金になる任務を受けたい者は常に掲示板を注視している。


 十三班の面々は掲示板を利用したことのない光太郎のために、軽く皆で覗きに来たのだった。その時、品のない声で誰かに呼びかけられた。


「おいおい誰かと思えば十三班の連中がなにしに来てるんだぁ? 退学が怖くて今更ノコノコ出て来たんじゃないのか?」


「あはははは! だめじゃないですか滑川さん! 本当のこと言っちゃあ!」


 あざけりの声が広いホール一面にこだまする。いつの間にか光太郎達の回りを見たこともない学生達が取り囲んでいた。ぽかんとする光太郎にそっと悠人が耳打ちする。


「……光太郎、こいつは滑川 佑馬(なめかわ ゆうま)っていう滑川財閥のボンボンで、猿山の大将だ。関わり合ってもなんの得もねぇ、無視だぞ無視」


「聞こえているぞ貧乏人、せっかくお前達のような貧民に目をかけてやっているというのに感謝もないとは恩を知らん奴らだ、それでいい加減決心したのか?」


「なんの話?」


 光太郎に班で最年少の勇が慌てて解説する。


「まだ光太郎さんには言ってなかったんですが、灯青校には会派制度があるんです。一番大きいのが生徒会長率いる剣誓会(けんせいかい)ってとこなんですけど、この滑川さんが率いる連山会も学内ではそこそこ大きい派閥で、とにかく入れってうるさいんです。でも入ったところでこき使われるのは目に見えてるんですよ」


「へーそうなんだ」


「おい、なんとか言ったらどうなんだ! 特に花牟礼さん、あなたはこんな所にいるべき人じゃない。あなたお一人だけでも僕達は喜んで受け入れますよ?」


 えまは俯いて光太郎の後ろに隠れた。


「い、家の話はしないで下さい。私はこの班で、やっていくと決めたので……」


「はははは! それはなにかの冗談ですか? ここにいるのは貧民と田舎者、ああ昨日来たばかりの胡散臭い転校生もいますね。口幅ったいようですがあなたは高貴な家柄だ、一緒にいる相手は選んだ方が良い」


 ニヤニヤと笑う滑川に対して光太郎も一言言い返そうとした時、こちらに歩み寄る人影があった。


「……てめぇさっきから聞いてりゃあいい気になりやがって何様だ? ぁあん?」


 ここでまだ班の皆とは微妙に距離を置いている龍次がつかつかとやって来ると、眉間にシワを寄せて額をぶつけるスレスレまで近づけ滑川を睨んだ。


「ひっ! て、天堂龍次……さん、なんでこんな所に!」


「あ? 十三班は俺の班だぞ、いちゃ悪いかよ」


 龍次の登場で滑川一派は恐れ戦いた。それもそのはずで、龍次は今まで単独行動をしており、班友と共に活動することは一度としてなかったからだ。それゆえ滑川は高圧的な態度を取れていたのであり、見た目の恐ろしさもあり個人で学内上位ランクの龍次が登場するとまるで立場がないのだった。すると気を利かせた取り巻きの一人が告げた。


「な、滑川さん、そろそろ任務の準備に行かないと……」


「お? あ、あぁそうだったな、こ、今度また話をしようじゃないか諸君、ではさらばだ!」


「なんだあいつら」


 すたこらさと尻尾を巻いて逃げ去った滑川達を見て龍次はそう独りごちる。するとなにか言いたげに口をもごもごさせているえまが目に入った。


「どした、言いたいことがあるならハッキリ言え」


「あの、ありがとうございます、庇ってくれて」


「ちっ、そんなんじゃねえよ。ただあいつらに俺がムカついただけだ」


「うん、確かにそうかも知れないけど困ってるえまちゃんが助かったのは事実じゃないか、僕からもお礼を言うよ、ありがとう龍次君!」


 余人が言えば嫌みにも聞こえるが、光太郎には全く含むところがないのを皆分かっていた。爽やかな笑顔を向けられて龍次は恥ずかしそうにそっぽを向く。


「バカ、そんなん言われる筋合いじゃねぇっての、恥ずかしい奴だなお前は」


「ひひひ! おんやぁ? もしや新宿の狂犬と呼ばれたお方が照れてらっしゃいますか?」


「お、なんだお前、今から俺と勝負したいのか?」


「いやいやいや滅相もない! い、勇が代わりに決灯します!」


「えええなんで僕なんですか!」


「おう、なんなら二人まとめてでいいから面倒みてやんぞこら!」


「「ひええええええ!」」


 調子に乗って藪蛇をつついた悠人と巻き添えを食らって慌てている勇を見ている内に、えまの暗い表情はすっかり明るくなった。だがこの騒動は予期せぬ人物を招き入れてしまった。


「こらぁあんた達! ここで騒いじゃだめだっつってんでしょがぁ!」


「「す、すいません!」」


 すわ校内全域に響き渡るかという大音声をあげて叱るこの人こそ、新宿灯青校任務案内所の名物人間である、お富さんだ。


 年の頃は三十でスポーツ選手のように体格がよく、面倒見も良いので学生達から慕われている。隠れて女海賊とか山賊の頭領とか言われているが、本人にバレようものなら間違いなくボコボコである。


 ちなみにお富さんは通称であり、本名は誰も知らないのであった。

更新の糧となりますのでブックマークと評価の程、宜しくお願い致します。

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