アッシュ・テイラー、告白する
よろしくお願いいたします。
波乱の誘拐騒動から一夜明け、サクラが帰国する今日。
まだ日も登らない早朝、俺たちは軽く朝食を済ませると、とある場所へ向かって転移した。
ちなみにサクラには行先は告げていない。ただ、早朝なので少し暖かい格好でと伝えていた。そのためか、サクラは白いワンピースの上に、しっかりした厚さの上着を羽織っている。
「ついたぞ」
たどり着いたのは、この国で最も朝日が綺麗に見える観光スポット。
俺たちは高い断崖の上に立っている。周囲には住宅などはなく、同じような岩山がにょきにょき飛び出ている。
岩石がごろごろしていて、住む種族を選ぶ土地だが、ここら一帯は観光で栄えている場所だ。
そんな岩石地帯の最も高いところ、それがアーニメルタで最も朝日が綺麗に見える場所なのである。
その証拠に俺達と同様に朝日を楽しみに来たらしい人影がちらほら見える。
「あの、アッシュさん。ここは?」
「ん、じきにわかるさ。それより、少しいいか?」
「はい……私も話がありますから」
「そうか、俺からでも構わないか?」
こくりと頷くサクラに礼を言って、彼女と正面から向き合う。
「まずは、すまなかった!! 俺の素行のせいで君を傷つけてしまった」
がばりと音が付きそうな程、頭を下げる。俺はそのまま言葉を続けた。
「今回、君を誘拐させた女も俺が関係を持った相手だった。サクラと出会って、女性関係を清算したつもりでいたが……あんな目にあわせてしまって本当にすまない」
そう言い切り沈黙が落ちる。
恐らく短い間だったのだろうが、俺にはとても長く感じられる中、サクラが口を開いた。
「……アッシュさん、頭を上げてください」
急いで顔を上げる。
サクラの表情は凪ぎのようで、何の感情も読み取れない。
そして放たれたサクラの第一声は謝罪だった。
「アッシュさん、ごめんなさい」
「サクラ?」
「逃げてごめんなさい」
「なんでサクラが謝るんだ? 明らかに俺が悪いだろう」
「ちがう、ちがうんです」
そう言った彼女はそれ以外の言葉が出ないのか、首を横に振り続ける。
「女癖、知ってたんです。プラムちゃんからもトラサン副団長の奥様からも。お義母さんからも狼人族は番が見つかるまで、そういうのが多いって聞いてました。だから分かってたんです!」
「そうだったのか……」
「アッシュさんが私のことを好きって言ってくれていたから、大丈夫って思ってました。自分の気持ちが分からないって思ってたけど、違いました。自分の気持ちから逃げて、アッシュさんの気持ちに胡坐掻いてるだけでした」
サクラが袖をギュッと握り俯く。
俺は何が起こったか分からない気分で、サクラを見ていた。どこか遠くで起きている他人事のような感覚だ。
こんなに近くにいても聞こえないような小さな声で、サクラが何事か呟いた。
「悪い。聞こえなかっ」
「……っきなんです。すきなんです、私!アッシュさんのことが、すき! あの女の人に嫉妬しました! アッシュさんが他の人を抱くのが嫌です!!」
「っ! サクラ!!!」
ぎゅううっとサクラを抱きしめる。
恥ずかしがりのサクラが顔を真っ赤にしながら、叫ぶように俺を好きだと言う。
俺のことを考えて最高に可愛い表情をする彼女に、抗える男がいるだろうか? いや、絶対いない!!
「ああ。俺も愛している」
「あ、アッシュさんっ」
彼女の髪に顔を埋めてくんくんと鼻を動かす。
サクラの控えめで甘い花のような香りを堪能して、すりすりと頬を寄せる。
「好き好きサクラ! ずっとこうしたかった……」
「も、もう! 嗅がないでくださいっ。恥ずかしい」
徐々に白み始める空。
サクラはジタバタと恥ずかしそうに顔を隠そうとし始めた。今更隠そうとしても、狼人族は夜も目がいいのだ。ばっちり、はっきり、くっきりだ。
そんなことなど知る由もない彼女の、ささやかな抵抗が愛おしくて口角が緩む。
「サクラ」
名前を呼ぶ。こんな声が出せたのかと思うほど、甘い声色にサクラがピタリと抵抗を止めた。
抱きしめたサクラの頬に手を添えて、至近距離で見つめ合う。
地平線から溢れ出る光に照らされた彼女が、美しい。
俺はその光に誘われるように、そのまま彼女の唇へと口づけた。
「~っ!」
「……赤いな」
「朝日のせいです!!」
「そうか。じゃあもう一回……」
そう言って、俺はもう一度、彼女に顔を近付けた。
いやいやと赤面していたサクラは、諦めたように力を抜いて目を閉じる。
そんな彼女に微笑ましく思いながら、柔らかな感触と幸福を噛みしめた。
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ご来光を堪能した俺たちは、手を繋いで実家へ戻る。
俺の両親や家族への報告と、世話を焼いてくれた兵団のみんなへの報告のためだ。
皆、我がことのように喜んでくれたのがこそばゆくて、俺とサクラはずっとニヨニヨしていた気がする。
最後に、俺達はもう一度王都を訪れた。
「なんだか、随分濃い旅行だったから、初日に来た街が懐かしい……」
少し複雑そうな声色のサクラに、俺も「確かにな」と笑う。
「訳の分からない事件に巻き込まれたりな……本当にすまなかった」
「もういいですって! 一体何回謝るつもりですか? 私は気にしてません。その、アッシュさんのことが好きって分かって、むしろ感謝してるぐらいです」
「なんて可愛いんだっ~! サクラ~!!!」
衝動のままサクラに抱き着いて、ぐりぐりと顔を摺り寄せる。
「わわ、ちょっとアッシュさんっ。ここ街なかっ……」
サクラは眉をハの字に曲げて、俺を叱る。困った顔をしつつも、もうっ、とため息を吐いて頭を撫でてくれた。
尻尾ぶんぶんだ。
「ほら、そろそろ行きましょ。時間が無くなりますよ」
サクラに急かされ、目的地である【首輪】を買ったエルフの雑貨屋に向かう。
サクラが帰る前に千切れた首輪を修理に出しに来たのだ。
エルフの店員は、たった1日で変わり果てた姿となった首輪に衝撃を受けた様子だったが、ちゃんと恋人になったことを話すと、喜んで修理を受けてくれた。
修理には少し時間がかかるそうなので、後日俺が取りに来ることにする。
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そして時間はあっという間に過ぎていき、サクラの転移時間になってしまった。
また近いうちに会おう。その時はもふもふする、そう約束してサクラは笑顔で自分の世界へ帰って行った。
「……すでに寂しい」
見送りながらぽつりと零した俺の本音に、隣にいた知らない人がギョッとした顔でこっちを見た。「え、もう?」と顔に書いてある。
もちろん、すぐにでも会いたい。
だってやっと両想いになったんだぞ! 恋人だぞ!!
本当は一瞬だって離れたくないんだからな!!!
だが彼女にも生活があり、本格的な結婚話はまだまだ時間がかかるのだ。
それでも、心が俺のものであると思うだけで未来が明るく感じられる。
俺達のこれからに想いをはせ、女神エルの像を見つめた。
これにてアッシュの片想いは最終回です。
長らくご愛読いただきありがとうございました!
今後は番外編として、お付き合い後の話を単発で更新予定ですので、今しばらくお待ちください!




