アッシュ・テイラー、異世界婚活パーティーに参加する②
婚活パーティー編後編です!
フリータイムと化した会場は、あちらこちらで男女が話しており大変賑やかだ。
中央のテーブルへ料理を見に行く。
沢山の料理にはそれぞれ札に説明書きが書かれており、いろんな世界の料理が並んでいる。
俺は適当に料理を取ってまわることにした。
『ニホン』の料理から、初めてこの国に来た時に感じた香ばしくて甘い匂いがするので、この匂いは調味料か食材なのだろう。
料理には『ニクジャガ』と書かれている。いろんな食材を煮た料理のようだ。
サクラはこれが好きなのだろうか? 食べてみよう。
取り終わった皿と酒を持って、手近なテーブルに置く。
辺りを見回してみると、マークは紫色肌のボンキュッボンといい感じで話している。
アルトは数人に囲まれているようだ。
サクラの居場所は――いた。
どうやら絡まれているようだ。それも女に。
自己紹介で痛烈な印象を残したあのロリババ……げふんげふん、赤毛の美少女に詰め寄られている。
そのテーブルには2人以外おらず、周囲も結界が張られているかのように人が寄り付かず、そこだけぽっかり空いている。
正直あんまり相手にしたくないが、サクラの顔はいかにも困ってます! と言いたげで、これ以上ないぐらい眉が垂れている。
これで好感度が上がるならと、俺は料理と酒を持って2人のテーブルへ向かうことにした。
「ここ、いいか?」
そう言って、テーブルに皿を置いた俺を、サクラはすがるような目で見ていて、内心ほくそ笑む。
「アッシュさん! どうぞどうぞ!」
初めてサクラの嬉々とした声を聞くことができた。こんな機会だというのが若干不服だが。
サクラを魔王から遠ざけるように間に立つと、そいつは、尊大な態度で足を組んだ。
「さっきのひよこではないか。どうした、はっ! 私のことが好きなのか!?」
「いや違う」
「好きなんだな!? あいにく私は年上イケメンの大人の余裕に包まれたいのだ! お前みたいなひよこ、お呼びでないわ!」
「だから違うって」
コイツ、人の話を無視しやがって。こめかみがピクリと引き攣る。
「この小娘とも言うておったのよ! 私の様な美しい娘には、大人の包容力が、似合うであろう!! そうであろう!?」
急に話を振られたサクラは、ビクッと震えてから、素早くこくこくと首を縦に振り続ける。
首、痛めるぞ……。
「それなのに! なんなのだ、このパーティーは!? 私より年上がおらぬではないか!! ジーヤ! どうなってるのよ!!!」
怒りに任せて鏡に向かって叫び始めた魔王に、結界はどんどん広がっている。
「お、お嬢様、やはり、神や精霊の類、魔族との縁談に切り替えなされ。どう考えてもヒトや大多数の異世界人の種族寿命では2678歳を超えられる者などおりませぬ!」
「いやよ! 神は高圧的できら……いけ好かぬ!!」
いや、2678歳は無理だろ。
サクラは顔を青くさせながらオロオロと魔王を見ている。
仕方ない。この隙にサクラを連れて逃げるか、そう思い、サクラの手首をつかんだ時だった。
美しい金の絹糸の様な髪が俺たちの前に立つ。
俺にとっては、見慣れた後姿。アルトだ。
そして、アルトは椅子に座った魔王の前に跪いて、彼女の手を取った。
「可愛らしい姫。貴女の愛らしい声に惹きつけられて、お呼びではないと分かっていたのですが馳せ参じてしまいました。どうか、お許しください」
「う、うにゅあ……う、うむ、良かろう! 何ようだ!?」
魔王は突如現れたアルトに狼狽して、頬を染めたが、先ほどのように尊大な態度で許可を出した。
それを聞いたアルトは、改めて、首を垂れた。
そして、顔を上げてうっとりするような甘い声で言った。
「恐れながら、姫様は年上がお好みだとか」
「うむ」
「僕はエルフです。まだ、年は200と数歳と言ったところで、姫様のお好みではないかもしれません。――ですが、人よりは長生き出来ます」
「うん?」
魔王は怪訝そうな顔を浮かべているが、アルトはそのまま手の甲にキスを落として、その手を握り、胸のあたりへと導く。
「僕ではいけませんか? 年下エルフの包容力も、案外馬鹿にできないと思いますよ?」
「えっ!! あっ……あ」
俺からアルトの顔は見えないが、ヴァーミラの真っ赤に染まった顔は良く見える。
マジか、アルト!
俺を含めた周りの野次馬達も、この光景に口元が半開きだ。
ヴァーミラは急にしおらしく、もじもじしながら言葉を紡ぐ。
「あ、そんな……私達、出逢ったばかりなのに!」
「では姫様をよく知る機会を与えてくださいませんか? 僕のことも知っていただきたいです。今度ご一緒させてください」
アルトは熱のこもったような甘ったるい声で誘惑する。挙動不審のヴァーミラ。
俺たちはいったい何を見せられているんだ?
ヴァーミラがプイっとそっぽむいて、それからちらちらとアルトを見た。
「で、でも、あのっ……2人きりだなんてそんなっ!! し、親友も一緒がいいですわ!」
誰も2人きりだなんて言ってないぞ! そして、キャラと話し方変わりすぎだろ!
さっきの横柄な態度はどこに行った?
「親友……ですか? 交友関係を教えてくださるのですね。ふふ、嬉しいです」
アルトがそう言うと、ヴァーミラは椅子から立ち上がり、鬼気迫る顔で俺の横と通り過ぎた。そして――
「こ、この子が親友よ! この子も一緒ならいいわ」
俺が握ったままだったサクラの腕を取ってそうのたまった。
会場全体がポカーンと、変な間が出来た。
「えぇーー!!」
指名された張本人のサクラが叫ぶ。
「何よ? 私たち親友よね!? さっき恋愛相談した仲だものね!!?」
ヴァーミラはぎろりとサクラを睨んでいて、サクラはかわいそうなほど真っ青だ。
しかし、サクラの顔にはあれが恋愛相談? と書いてあるのが俺には見えた。
俺がアルトを見ると、ばっちり視線が合う。
そしてアルトは俺にウインクして見せると口を開く。
「そうでしたか! 3人では話すときに困ることもあるでしょうし、俺の親友も連れていきましょう! ここに居るアッシュを! 4人でこの国の観光などいかがですか?」
アルトーー!!! お前は天才か!!!!
ヴァーミラは2人きりが阻止されて警戒が緩んだようだ。
「ま、まあそれなら……行ってあげなくもないわ。魔王たるもの見聞を広めることも大事だもの。ねぇ、貴女! この時期、この世界で面白いことはないのかしら?」
「えっ! 私はいかな」
「面白いことはないのか・し・ら!」
「ひぇっ! は、花見というものがあります! お花を見てご飯を食べたりお酒を飲んだりするのです」
「そう、ではその『ハナミ』とやらを私達でするのよ!」
「は、はいぃ……」
サクラは押しに弱いらしい。ヴァーミラの迫力に負けたサクラが委縮した様子で、がっくりと肩を落としてうなだれている。
俺はサクラの肩にそっと手をやりポンポンと叩いた。
「大丈夫だ。俺も同じ気持ちだ」
「アッシュさん……」
「「はぁ~」」
こんな疲れる2人と一緒にまた会うなんて……俺たちの心はきっと一致していただろう。
日取りや場所など細かい話はパーティーが終わってから、『あえ~る』で連絡を取り合い、世界政府を通して決めることになった。
野次馬たちは場がまとまったと判断したのか、徐々に各々の時間を過ごし始め、いつしか俺たちに視線を向けるものはいなくなった。俺たちというか、主にアルトとヴァーミラだが。
その後は特に何事もなく、無難にいろんな女の子と話をしているうちに、異世界対応型婚活パーティーは幕を閉じた。
マークとアルト、仲人のカナタと合流してアーニメルタに帰ってきたときには俺の全身は極度の疲労感を訴えていた。
訓練で汗を流した方がよっぽどマシだ。
「はぁー」
ひどいことに巻き込まれた。思わずため息が零れる。
「溜息なんてどうしたの? アッシュ?」
キョトンとした顔でこちらを見るアルトに、さらに大きな溜息が漏れた。
「いや、お前のせいだからな」
「え? なんで? サクラとデートできるんだよ?」
「ぐっ、それはまあ良かったが」
「つかアルトお前、相変わらず女の趣味がわりーな。アイツ魔王だろ」
一部始終を傍観していたマークは、見事に俺の心の声を代弁してくれた。
「魔王だろうが何だろうが恋愛は自由だからね! 彼女は別にリチュラプッセと敵対するような国の魔王ではないし、何の問題もないよ。見たかい? あのわざと偉そうな喋り方をしようとして、素が出てたところ。威厳を保とうと頑張ってて可愛いよね」
ふふふ、と幸せそうに頬を染めるアルトに、俺たちは首を横に振る。ダメだ、これは。
「そう言うマークはどうだったんだ?」
「ん~今回は特になかったな。むしろお前らが面白すぎて観察ばっかりしてたわ」
「お前も趣味悪いぞ」
「ふふん、アッシュはアルトのおかげで木から木の実だ。避けられてたし、良かったな」
マークはにやりと俺を見る。
確かにコイツの言うことも一理あるのだ。
サクラと一緒に出掛ける口実を手に入れられたのは、悪くない、というかナイスすぎる。
イケメンだからかサクラに苦手意識を持たれているらしい俺が誘うより、よっぽど成功率の高い誘い方に持ち込めたわけだ。
今度の『ハナミ』とやらには、他の2人も一緒だが、あっちはあっちで好きにやるだろうし、何も問題はない。
これを機にサクラを落とすチャンスにつなげる。
狼の血をなめてもらっては困る。狙った獲物は逃がさないし、ゆっくり周りを囲うように落とす。
ふっ。『ハナミ』とやらが楽しみだ。待ってろよサクラ!!!
読んでいただき、ありがとうございました!
前作を未読の方はよろしければ、前作も読んでいただけると嬉しいです(*´ω`*)
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