アッシュ・テイラー、サバナを観光する
よろしくお願いします。
賑やかな朝食を終えると俺とサクラは街へ繰り出す。
道中、サクラから昨晩、母の部屋で母と話しているうちに意気投合したことを聞いた。
なんでも母はサクラのために、服を用意していたらしく、散々着せ替え人形のように遊ばれたようだ。
昔から娘が欲しかった母にとっては、自分の選んだ服を着てもらえるのが嬉しかったらしい。
サクラとの初対面は、柄にもなく緊張していたのと、後でプレゼントをして驚かそうとしたから。
サクラは、母との間で起こったことを笑いながら話してくれた。
「それで、パジャマを5着もいただいたんです。すっごく可愛くて。アッシュさんのお母さん、すごくお茶目で可愛らしい人ですね」
「そうか? サクラが楽しかったならいいが。迷惑だったら断っていいからな?」
大丈夫です、と嬉しそうに笑う彼女を見る。
思っていたよりずっと相性の良かったらしいサクラと母に、何とも言えない苦笑が漏れた。
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転移装置を使って、サバナの街へたどり着く。
公共の転移装置がある広場に出ると、広場の端に見知ったマーチの気配を感じる。
この街に着いたところからが、護衛スタートの約束だ。
サバナの街を歩きながら、マーチの気配が付いてきていることを確認する。
大丈夫だ、そう思った俺はようやくサクラに行きたいところを尋ねた。
「昨日奥様たちがおススメしてくれたカフェは行きたいです。アッシュさんのいつも行くところとかありますか?」
「う~ん。いつも行くところか……面白い所はあまりないが……」
普段の生活を思い返す。
サクラと出会うまでの生活は、ちょっと彼女には言えない。
行きつけと言えば、飲み屋、服屋、アクセサリーショップ、宿とか……。
やばい。言えない……絶対言えない!
こんな時のために【異世界人の彼女と行きたいスポット ベスト10】を読破したのだ。
この街に観光名所があることは履修済みだ。
「それならこの街の観光名所、行ってみるか?」
「はい!」
「ん、了解」
俺は履修したスポットへサクラを案内する。
まず俺たちが訪れたのは、サバナの街の中心、『約束の広場』。
広大な敷地の広場で、綺麗に整えられた草木は青々と輝き、中央には薄桃色のレンガが敷き詰められた歩道。中央には大きな噴水がある。
噴水の中央には三国の友好の証であるエルフ、人間、獣人の像が手を重ねている像が置かれている。
「この広場は三国同盟の記念に建てられたと言われている。同盟を結んだ各国の王をたたえた銅像が噴水の中央に据えられている」
「すごく古いんですね! 銅像の方たちがすごくいい笑顔!」
サクラは噴水に近づいて、像を観察している。
「サクラ、あんまり近づくと水が——」
「きゃー!」
「……遅かったか」
この噴水は一時間ごとに水が大きく吹き出し、魔法で輝く。ちょっとしたショーのようなものが見られるのだが、言うのが遅かったようで、近づいていたサクラが被弾した。
「わー! 濡れてしまいました。でも今日お天気いいから、気持ちいいです」
どうやら、被害はそんなに大きくないようだ。裾のひらひらしたワンピースだったので、裾と頭が濡れたらしい。
「着替えに戻るか?」
「大丈夫です。水遊びしている方もいらっしゃいますし」
彼女はんふふ~と機嫌よさげに笑っている。
確かに周りを見れば、噴水周りで子どもや獣人が遊んでいる。
「ここでしばらく遊ぼうかと思ったんだが、近くに綺麗な川があるんだ。そっちに行こうか」
「川も楽しみです!」
自然にサクラの手を取り、繋ぐ。指を絡ませる自信はないので、普通に繋いだ。
断られないか、内心ドキドキしている。
「さぁ、行こう」
「はい!」
どうやらサクラは気にしていないようだ。赤面することもなく、楽しそうだ。
それはそれで、もやっとするな。複雑な男心である。
広場から繋がった小さな林に入る。
観光客も通りやすいように、少し均された小道を通り10分程。
日の光が水面に反射し、キラキラ輝く大きな川に辿り着いた。
「ふわー! お水が綺麗!」
さっそく繋がれていた手を離して、サクラが川へ駆け寄る。
「はは。サクラは好きそうだと思った」
「はい。好きです! あっ魚! 虹色に光ってましたよ! 足浸けていいですか?」
「ああ」
承諾すると、サクラはさっそく靴を脱いで、じゃぷじゃぷと足を浸け始めた。
「ひゃー! 冷たくてきもちいい~。アッシュさんも!!」
「ふふ、そうだな」
俺も靴を脱いで足を浸ける。ひんやりとした冷たい水が、心地いい。
俺たちは川とアーニメルタの自然を堪能する。
2人で岸辺に座って足を浸けながら魚を眺め、風を感じ、目を閉じる。
まったりと落ち着いた時間が流れていった。
異世界育ちのサクラ曰く、「マイナスイオンがしみる。心洗われる~」とのことだった。
とんっと肩に重みを感じ、振り向くとサクラがもたれ掛って目を閉じていた。
近くに感じる彼女の寝息にぎゅっと胸が締め付けられては高鳴り、目を閉じた彼女の顔を夢中で眺めた。
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甘い時間はあっという間に過ぎ去り、俺達はカフェに行くため、サバナの街へ戻る。
奥様方のおすすめの店は、飲食店街の中にあった。
小ぢんまりとした店構えとは裏腹に、リチュラプッセの拡張魔法によって店内は思った以上に広く快適だった。
カフェらしい軽食から、三国の文化が入り乱れる創作料理までメニューが豊富な店である。
サクラにはメニュー名が分からないということもあり、俺達はお任せコースを選んだ。
俺は肉メインのコース、サクラは魚のコースだ。
「ん~! 美味しい!!」
終始彼女の顔は綻んだままで、俺もそんな彼女の顔が愛らしくて大変に満足だ。
デザートまで平らげた俺達は、腹も心も満たされた状態でカフェを出る。
さりげなく手を繋いでみる。今度は指を絡めてしまった。
ぎゅっと握って、サクラの様子を窺う。
一瞬ピクリと反応したようだったが、きゅっと握り返してくれた。
うおおおお!!!
一瞬の間の後、内心歓喜の雄叫びを上げる。
やばい、にやける。少なからず、サクラが俺を好意的に思ってくれるようになった証だろうか!?
傍で笑ってくれるサクラに愛しさが募りすぎて、溢れそうで怖いぐらいだ。
「あら、アッシュじゃない?」
「あ~! ほんとだぁ!」
浮かれた俺の耳に届いたのは、甘ったるくまとわりつくような女の声。
サクラに会うまでは、頻繁に聞いていたような種類のそれ。
俺とサクラの歩みが止まる。
「お知合いですか?」
こちらを見て問いかけるサクラに、俺は、視線を合わせることができなかった。彼女の顔を見られない。
「……ああ、すまない」
それだけしか言えず、サクラの顔を見ることもなく、俺は声の方へと振り返った。
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