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アッシュ・テイラー、怪鳥に邪魔される

よろしくお願いします。

 カフェでスイーツを食べた後は、少し歩こうということになったので、俺たちは引き続き王都をうろうろしていた。

 服屋で民族衣装を試着したり、便利道具屋で魔法のかかった道具を見る。

 サクラはどの店にも興味を示し、俺にとって当たり前なことであっても、楽しんでくれている。

 興味を持ってくれることが、とても嬉しい。

 当たり前で退屈にすら感じていた、アーニメルタの生活が彼女といるだけで特別なことに感じてしまう。恋とは恐ろしいものだ。


「そういえば……」


 いたるところに所狭しと並ぶ赤レンガの建物に、サクラが疑問を口にした。


「王都ってクラシカルな街並みですね。なんで王都は赤レンガで統一されているんですか?」


「ああ、それはこの国の有名な建築士兄弟がこの赤レンガを開発したからだな」


「建築士兄弟……へぇ」


「大昔、とある3人の獣人兄弟が、火災で村を失った。彼らの村は、わらの家だった。両親を失った3人は新たな家を建てることにした」


 サクラは両親を失った彼らに心を痛めているのか、悲し気に顔を歪めた。


「次の家は木の家だった。だが、雷が落ちてその家も燃えてしまったんだ」


「可哀想です……」


「その後3人はレンガの家を建てたらしい。それで村が火災に強くなったので、その功績が認められ、王都もレンガ造りになったんだ」


「そんな逸話が……何となく聞いたことあるような、ないような? その兄弟って豚の獣人だったりして」


 最後の方は小さくつぶやくような独り言だったが、俺は驚いた。


「どうして豚の獣人だとわかったんだ?」


「えっ!!! 本当に豚なんですか!?」


 サクラが大きな声を出して、俺を見る。


「ああ、そうだ。どこかで聞いたのか?」


「いえ、私の世界のおとぎ話にも三人の豚が関わる家の話があって。不思議ですね」


「そうなのか。不思議な偶然だな。まあ異世界転移の歴史も長いし、どこかで異世界の情報が入ることもあるのかもしれない」


 異世界って面白い、とサクラが呟く。しみじみとした声に俺も同意する。

 世界の不思議について、ほのぼのとした空気で笑い合っていたその時。


「あれ? 誰かと思えば、アッシュじゃん」

「あー奇遇だなー。こんなところで会うなんてー」

「ホントだなー。団長、アッシュ見つけましたよー」


「げ、お前らなんでっ」


 行き交う人々の中に、ひときわガタイのいい奴らの団体がいた。1人2人ではない。

 しかも、後方から優雅にやってくる派手な色の羽毛の塊。コンドル団長だ。

 よっと言いながら軽く手をあげる彼らを見て、頭が痛くなった。

 今日は訓練日だろ!? 何故団長とその他同僚たちがこんなところに?


「アッシュさんのお知り合いですか?」


 サクラが近づいてくる不思議な団体と俺を交互に見ている。

 今更サクラを隠すこともできない。

 はぁ、と深いため息をついて、俺は団長たちに向き直る。


「……ああ」


 俺たちのもとまで笑顔でやってきた彼らと、アイコンタクトを取る。

 団長の鳥目がキラリと光った。


「サクラ、こちらは俺の上司で、グラドシア連合兵団のコンドル団長だ。その他のやつらは俺の同僚たちだ」


 俺の言葉を聞いたサクラは、団長と挨拶を交わし、他の奴らにも会釈した。


「うわ~! 礼儀正しくて可愛いとか! よろしくね、サクラちゃ~ん」


 そう言ってサクラの手を握ろうとしたバカは、彼女の見ていない一瞬でこっそり黙らせる。

 その間にやけにとさかの整った団長がサクラに声をかけた。


「お嬢さん、テイラーが日頃どんなところで生活しているか興味はないか?」


「え、気にはなります」


「君さえいいなら、今から兵団を見学に来ないか? 練習試合でもお見せしよう。我々は君を歓迎する」


「い、いいんですか?」


「……団長ちょっと」


「なんだテイラー」


 団長と話すために彼女から少し離れる。小声でも聞こえない様に1メルタ程前に出ると、俺は団長に向き直った。


「どういうことですか!?」


「何、お前の勤務についても知ってもらった方がいいだろう。彼女も喜ぶんじゃないか? 練習試合でも組もう」


 団長は顔の羽根をすすっと撫でながら、しれっとしている。


「サクラをあんなむさ苦しいところに連れて行くなんて、冗談じゃない!」


「なんだ? かわいい彼女の前で負けるのが怖いのか?」


「そんな訳ないでしょう! わかりました!! やってやりますよ!!!」


 イラっとした俺は、サクラの方を向く。


「サクラ、今から兵団の方に行こうか。ほとんど男ばかりで暑苦しいところだが構わないのか? 見ても面白いものはないと思うぞ」


 サクラはぱっちりした丸い瞳で俺を見ると、ふんわりと表情を緩める。


「アッシュさんの普段の姿が見られるんですよね? だったら行きたいです。アッシュさんのこと、知りたいです」


「ぐはっ」


 はにかみながら、上目づかいでこちらを見上げる彼女に、俺は血を吐いて悶絶した。

 ええ、何それ。可愛いんですけど。可愛いが過ぎるんですけど、ねぇ?

 心の中はいつにもまして、お祭り騒ぎで、荒れ狂っている。


「キエェェー!」


 遠くの方で団長の叫びが聞こえた気がした。


読んでいただきありがとうございました!

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