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アッシュ・テイラー、異世界婚活パーティーに参加する①

よろしくお願いします。

 異世界対応型婚活システムの主催する婚活パーティー当日。

 婚活パーティーの服装は、カナタによると、おしゃれ着程度のものを着ていけば良いらしい。

 昨日の飲み屋で服装をどうするか相談し合い、結局、異世界共通礼装でごまかすことにした。

 気楽な雰囲気という事なので、薄い色の襟付きのシャツにベスト、季節によってジャケットを羽織り、深い色のズボンと単色の皮靴といったところだ。

 俺は白のシャツに瞳と同じ深い赤のジャケットとズボンを着用した。

 アルトは深い緑、マークはグレーのジャケットとライトブラウンのベストを着ている。

 3人そろって昨日と同じように女神像の前で待つ。


「皆さん揃いましたね! では早速行きましょうか!」


 すぐに奥からカナタが現れた。

 黒のスーツに身を包んだカナタが笑顔で先導し、俺たちは再び『ニホン』へ降り立った。

 転移装置のある倉庫の様な建物から出ると、長テーブルが置かれている。

 奥に茶色い髪の女性と紫の髪の男が座っている。

 2人は親しそうに何かを話しており、女性が少し怒っているようだ。

 俺たちに気付いた女性が立ち上がって礼をした。


「こんにちは。こちらで、受付をお願いします。名前を教えてください」


 女性にそれぞれ名前を伝えると、彼女が参加者名簿に丸を付ける。

 番号札と薄い板状の電子機械を渡される。


「番号札は見えるところに着けてくださいね。名前の代わりに番号で呼びます。こちらの端末でお互いの『あえ~る』に登録した情報が見られます。端末が使えない方は、紙も準備してますので言ってください」


 受付を終えた俺たちは、そのまま奥のテントに進むように案内された。

 俺は、何となく受付の2人が気になって、途中で振り返る。


「もう、折角のお休みなんだから、家であの子たちを見ててくれてよかったのに」


「ふふ、実家に預けてきちゃった。明日迎えに行くから、今夜は僕だけの君でいて?」


「全くもう! それ、半月に1回は同じこと言ってるよ!? そんなことばっかり言ってるから、お義父様が喜んで、また映画化しちゃうんだよ!? 恥ずかしすぎて外歩けない……」


 俺には会話の内容は良く分からないが、テーブルの上で重ねられた2人の指には、揃いの指輪が光っているのが見えた。幸せそうな姿に、純粋にいいなと思った。

 俺たちは受付を後にして、会場であるテントの中へと入る。

 設営されたテントの中は大きめの円卓とイスが沢山並び、中央には沢山の料理が並んでいる。

 端の方にはバーカウンターと飲み物の並んだテーブル。

 俺たちは手近なテーブルに着き、プロフィールカードを入力する。

 カナタは付いて早々、手伝いに行ってしまったので、完全に別行動である。

 事前説明によると、今回のパーティーの仕組みはこうだ。

 まずは自己紹介のために全員と2分ずつ話す時間を設け、気になる人を見つけておく。

 次に食事を食べながらの完全な自由トークの時間だ。

 最後に連絡先を交換したい人の番号を書いて仲人に渡すか、直接聞く。

 承諾されるとマッチング成立、『あえ~る』による連絡を取れるようになるというわけだ。

 自由トークや自己紹介時間の話のネタとして、電子端末で互いの情報が番号を入力することで見られるようになるようだ。

 なかなか面白い仕組みだと思う。

 ざっと辺りを見回すと、いろんな種族が参加していることが分かる。

 人間もいるが、エルフやドワーフ、魔獣や獣人、体が透けた生き物や頭が2つあるやつがいる。

 他にも手が触手だったり、背中から羽根が生えたやつなんかもいるようだ。


「お! ドラゴン族がいるのか! うちの世界はドラゴンの獣人は絶滅してるし、ドラゴンは縮めないから異世界の奴だな」


「ホントだね。3メルタ位かな? 竜人なのか、そういう小さい種類のドラゴン族なのか、魔力で縮んでるのかよく分からないね」


「まあ異世界だからな」


 外見で種族が分からない、よくある事だ。

 そんな有象無象の中にサクラを見つけた。

 薄い水色のドレスを身にまとったサクラは、隅っこでワタラセとしゃべっているようだ。

 顔はあまり見えないが、遠目に見ても、めかしこんでいる姿は昨日とはずいぶん雰囲気が違う。


「おー! いろいろ集まってんな~」


 マークが感心したように声を上げる。


「ふふ、ライバルがいっぱいだね。アッシュ」


 アルトは涼やかな顔で笑っている。


「るせっ。見とけよ。あっという間に惚れさせてやる」


 俺はぐっと拳に力を籠め、改めて闘志を燃やす。

 そんな話をしていると、料理の盛られた中央のテーブル前にワタル・ワタラセが立つ。


「開催国担当政府職員ワタル・ワタラセです。本日はお越しいただきありがとうございます。この貴重な場をしっかり活用して、素敵な出逢いが皆様にもたらされますように!」


 挨拶が終わると会場は拍手に包まれ、次いで、ツムギがマイクを持った。


「え~! では、早速始めちゃいましょう! 女性の皆様、番号の書かれた席にお座りください。男性の方はその場で待機!」


 明るい声が会場全体に響く。

 ツムギは見た目に反して、随分あけすけな性格らしい。

 喋らなければ、とても清楚に見える。

 女性陣が円卓に2人ずつ掛けている。

 なるほど。俺たち男は、女性の正面に座り、2分話す。

 終わると隣の席へ移る、といったことを全員分繰り返す仕組みのようだ。

 完全に1対1か。

 女性の移動が終わったタイミングでツムギがアナウンスを始める。


「はいっ。男性陣、番号の付いているところへ移動してくださーい」


 自分の番号札を見ると23番だった。

 登録順か? 俺とアルト、マークは連番だったのでその可能性は高いかもしれない。

 何しろ参加が決まったのは2日前だからな。


「じゃあな」


「あぁ」


「うん、アッシュは頑張ってね」


 それぞれ自分の番号が書かれたテーブルを探して歩き回る。

 見つけた。

 他の奴らの位置をざっと目視で確認する。

 マークは2つ隣の円卓で、きわどい服のエルフが正面に座っている。

 アルトはなんと最初からサクラと同じテーブルに座っており、サクラに手を振っている。

 あ、気付いたサクラが振り返した。

 そして俺の席。

 目の前に座っているのは、赤毛に凹凸のない体。

 そして、驚くほど整った顔に似合わず、若干性格の悪さがにじみ出る笑い方をする子どもだった。

 これは、見たことのない種族だ。

 プロフィールによると魔族の長、魔王ヴァーミラと書いてある。

 全員が席に着いたことが確認されたところで、ツムギの声で開始! の声が上がった。

 ふんぞり返るように椅子に座っている目の前の魔王が口を開く。


「お主、獣人だろう? 年はいくつなんだ?」


 明らかに、年を食ってそうな喋り方だ。

 こういう若く見える種族もいるので、異世界人は見た目で年齢は分からない。


「ああ。24歳だ」


 俺がそう言った瞬間、そいつは突如鞄から手鏡を引っ張り出し、それに向かって話し始めた。


「ジーヤ! 聞いたか!? 24歳だと! 私は年上の頼れる男が良いのに! ひよこじゃ、ひよこ!!!」


「ああん?」


 聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 しかしガキはひたすら鏡に話し続けている。


「私は、運命の人を見つけられるんじゃろうか!? 大丈夫なの!?」


 見た目のわりに、随分と年増(としま)そうな上、かなりの変人と見える。

 鏡の方から壮年ぐらいだろう男の声が聞こえてくる。


「お嬢様! まだ1人目です! お気を確かに!! きっと素敵な方が見つかりますぞ! 今日の運勢は1位でございました故!」


 その後も、女は俺と話すことなくひたすら鏡に話しかけ、じいやらしき声がそれをなだめ続けた。あっという間の2分だった。

 全く意味が分からない。大丈夫か? この婚活パーティー。

 その後も、何人もの女性と話した。まだ、サクラは俺の前には座っていない。

 適当に相槌を打ったら頬を染めるような奴もいるが、さっきのガキ並みの変人も多い。

 まぁ異世界人だから仕方ない。

 やっと、サクラがいるテーブルに到達した。

 後2人、1人――サクラの前に座った。

 サクラは濃い異世界人たちと話して、若干疲れているようだ。何となく顔が強張っている気がする。

 いたわりの言葉をかけようとした、その時。


「はい! 時間の関係でしゅーりょーです!! ご飯が冷めちゃうので、次はフリータイム!!」


 ツムギ・ワタラセー!!

 全員と話すんじゃなかったのか!? なんだ時間の関係って!? 

 ご飯が冷めるって、後2分ぐらい待てよ!!!


「あの……大丈夫ですか?」


 心の荒ぶりが、顔に出てしまったのか、サクラに声をかけられた。

 昨日も聞いたが心地よい落ち着く声だ。

 落ち着いて返事をしなければ!

 かっこいいところを見せて惚れさせるのだ!


「ああ。少し、驚いた。君だけ話せずに終わると思ったら、残念でな」


 少し悲し気な顔をして、サクラの瞳を見つめる。


「あ、えと、フリータイムでもお話しできますし……アッシュ、さん?」


 窺うように上目遣いでこちらを見るサクラに胸の奥がギュンッとなった。

 名前を憶えてくれてた!!!

 動悸が凄いが、精一杯平静を装う。


「……あ、名前」


「あっ違いましたか? 昨日話していらっしゃったので、てっきりアッシュさんだと……」


「いや合ってるよ。覚えてくれたんだなと思って……ありがとう」


 ほぼ初対面に近い人に名前を覚えてもらえることは、純粋に嬉しいものだ。

 自然と口角が上がり、サクラに笑いかける。


「! ひゃ、イケメンっ……わ、私はこれでっ、しつれいします」


「あ、サッ…………逃げられた」


 サクラは急に立ち上がって、引き止める間もなく、足早にどこかへ去って行ってしまった。

 今日中に次の約束を取り付けたいので、また後で探しに行くことにして、散策でもしようと俺はその場を後にした。


読んでいただきありがとうございました!

異世界婚活パーティー続きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 美和子さんとケイくんらしき方の姿が!! デレましたありがとうございます。 二人と子どもたちの話とかも読んでみたい気がしました。 [一言] サクラちゃんのイケメン嫌いがかなりツボります! ア…
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