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アッシュ・テイラー、心配される

よろしくお願いします。

 異世界ホームステイを終えアーニメルタに戻った俺は、普段通りの日常に戻っていた。

 俺は帰国してその足で練習場に向かい、一心不乱に剣を振るう。

 そんな俺の様子に練習場にいた同僚たちは、怪訝そうな表情を浮かべていた。中には団長や副団長に通報したやつもいたので、そいつは今度締め上げる。

 俺は理由を話さなかったが、しばらくするとみんな俺の肩をポンと叩いて励ますような仕草をしていく。

 何か勘違いされたような気がするが、放っておいてくれるならそれでもよかった。

 それ以降も俺は空き時間ができるとひたすら剣を振り、鍛錬に明け暮れた。

 そんな日がしばらく続いたある日、遂にいつもの悪友2人が俺を飲みに誘ってきた。


 半ば無理やり連れてこられたのは、馴染みの飲み屋。

 事前に連絡が入っていたのか、いつもはカウンター近くの席に座るが、今日は仕切りのあるテーブルの方へ案内される。

 料理はすでに頼んでいるらしく、席に着くなり酒だけ頼む。

 酒が届くまでの間は誰も口を開かず、他の客たちの陽気な会話だけが聞こえる。

 しばらくして酒が届くとマークが口を開いた。


「おっし。じゃあ、とりあえず飲むか!」


 それぞれグラスを傾ける。


「ぷはっ。ああ~! 訓練明けの酒は沁みるなぁ」


「マーク、泡が付いてるよ」


「んぁ?」


 一生懸命顔をぬぐっているマークとアルトを見ながら、サクラへの手紙の内容を考えていた。

 サクラとは帰国した日から欠かさず連絡を取っている。

 気恥ずかしくて文字しか送ってはいないが、それでも何気ない連絡を続けていた。

 今日の昼に見たメッセージの返信をどうするか。

 2人の会話を聞き流してぼんやりと考えていると、アルトに声をかけられた。


「アッシュ、聞いてないでしょ!? はぁ」


「おいアッシュ、お前も飲めよ!! 今日はお前を慰める会だぞ」


 マークの発言に、俺は怪訝な表情を浮かべる。


「……はあ? 慰める会ってなんだよ?」


「最近お前隙あらば、鍛錬してるじゃねーか。お前が奇行を始めたって兵団内で噂だぞ」


「鍛錬はいいことだけど、休憩中にまで体動かして休んでないじゃないか。それが始まったのが、異世界から帰ってきてからだったからね。みんな心配してるんだよ」


「お前が振られたんだと思ってな。慰めてやろうかと」


 それを聞いて深いため息が漏れた。


「お前らな……いつ誰が振られたなんて言ったよ」


「え?」


「じゃああの奇行の原因は?」


「最近ため息も多いしな」


 本気で分からないといった様子の2人を見ながら、つまみとして出てきた肉の燻製をかじる。


「『もう恋愛を捨てて剣に生きる』って言いだすんじゃないかと思って、相談してくんの待ってたんだぞ?」


 マークは骨付き肉の骨をくるくる回しながら、そんなことを宣う。


「……いやまあ、心配してくれるのはありがたいが」


 何となく気恥ずかしさを感じ、頬をかく。


「じゃあ、異世界行ってる間のことを話せよ」


「あ、思い返せばさ、そもそも告白できたの? 正体は明かせた?」


「……正体は明かした。告白もした」


「え!! マジで?」


「ホントに告白できたの!?」


 その反応にやけそうになるのを堪えて、何でもないことのように頷く。


「え、じゃあやっぱ振られたのか!?」


「振られてない! 俺はこれからガンガン押しまくる!!!」


 立ちあがり、拳を握って宣言する。

 勢いよく後ろに引いた椅子が大きな音を立てた。


「お、おう」


「そ、そうなんだ」


「実はな! サクラと————」


 俺は若干引き気味の2人に、異世界ホームステイ中にあった出来事を話して聞かせる。

 受け入れてくれたケイ一家のことやエレクタラのこと。

 事件の勃発によって、サクラに正体がバレたことや告白してしまった話をする。


「えっ。逃げられたのか? それで?」


「よくそこまで黙ってたよね」


 それぞれの反応をされるが、そのまま話を続ける。


「サクラは俺を嫌いになれないと言ってくれた。これからも会ってくれると……もう、サクラが可愛すぎて! 聞いてくれ、サクラがな!」


 俺の心臓が止まるかと思うほど愛くるしい反応をしてくれたこと。


「もう可愛くて、何度手を出しそうになったことか! あんなこと言われて……ああ~! 思い出すとダメだ!」


 話しながらサクラの真っ赤で必死な顔を思い出してしまい、顔に熱が集まる。

 たまらず上を向いて両手で顔を覆う。


「アッシュ……」


「マーク後にして。アッシュ、悶えてないで続きどうぞ」


「あぁ。そのままなんとかサクラを家に帰して、俺は帰国したんだが。それからというもの時間があるとサクラの顔が頭をよぎってな。その、想像してしまうんだ」


「あ~」


 アルトとマークの声が重なる。


「なるほどね。え、じゃあまさか……」


「アッシュの馬鹿みたいな訓練習慣はあれか? 煩悩を振り払うためか?」


「そういうことだ。思い出すたび遠吠えしそうになるからな」


「……」


 そこまで聞いた2人は無言になってしまった。

 しばらく何とも言えない間が空き、突然マークが叫ぶ。


「いやおま! なんだよ、その惚気!! 俺たちの心配を返せ。バカ野郎」


「いやーびっくりしたよ。まさか想像と逆の展開になっているとは」


「俺もあの状況でサクラが俺の気持ちを肯定してくれるとは思わなかった」


 それを聞いたアルトが笑う。


「でもよかったじゃない。後は当初の目的通り惚れさせるだけだね」


「ああ。目標は変わらないが、行動原理が変わった。俺がサクラを幸せにしたい。そのためにサクラを落とす!!!」


 ジョッキを握る手に力が入る。


「お~」


 マークは魚の骨を外しながら相槌を打つ。あいつ魚しか見てないな。


「ここからは遠慮はしない! 気持ちははっきり伝える!! サクラが嫌がらない限り、押しまくる!!!」


「頑張ってね。で、次いつ会うの?」


「……まだ決まってない。それどころか今回休みを取りすぎて、サクラと予定の合う休みが取れるか怪しい。サクラも試験があるらしくしばらく忙しいそうだ」


 肩透かしを食らったような状況に、思わず尻尾もたれるというものだ。


「え、すでに会うのが数か月先ってこと? 残念だね」


「……そうなるかもしれない。はぁ」


「まあ頑張って。あ! すいません、この酒もう一杯!」


 そこでアルトとマークの興味は食事に移り、サクラの話はそこでお開きとなった。

 今回のことで仲間たちが心配してくれたことが、照れくさくもあるが感謝もしている。

 今度差し入れでも持ち込もうかと思いながら、くだらない話に加わった。


ありがとうございました。

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