アッシュ・テイラー、相談する
よろしくお願いします。
サクラとの植物園デートが終わり、アーニメルタへ戻った俺は、珍しく自分から悪友たちを招集した。
場所はよく行く料理の美味い居酒屋。
大勢の客でにぎわう店内で、マークとアルトは俺の向かいに座っている。
「急にどうしたの? アッシュから相談なんて珍しいね」
「大方、サクラのことだろうけどな」
「うぐっ」
俺は言葉に詰まった。図星である。
いつもなら反論するところだが、今回は俺から呼んだのだ。ぐっと抑える。
「……」
「で、なんだよ?」
マークに問われ、恥を忍んで呟くように口を開いた。
「……たらいい?」
「あ?」
「だから、サクラに告白ってどうしたらいいんだ!?」
半ば自棄になりながら、叫ぶように告げる。
悪友たちの口は半開きで、それはもう滑稽だ。
「「はぁ?」」
「いや、お前今までどんだけ女に告白されてきたんだよ! 聞いてなかったのか!? 想いを伝えるだけだろ!」
「俺の想い…………あぁぁぁ! 軽々しく口に出せない!! サクラに俺がどんな気持ちでサクラを見ているのか言うってことだろう!? こんな欲望にまみれた心を伝えて、嫌われたらどうするんだ! 俺は生きていけない気がする!!」
サクラにあんなことやこんなことをしてもらう夢を見たり、彼女を見るたびに抱きしめてしまいたい衝動に駆られているのに!
打ち明けられるはずがない!
イケメンも相まって、絶対に嫌われる!!!
机に突っ伏して嘆く俺を、マークが呆れたといわんばかりに顔を顰める。
「おいおい……」
「わかるよアッシュ! 僕もヴァーミラに、この心が伝わっちゃうんじゃないかって思う時があるよ! 思ったことは伝えたいけど、ヴァーミラとしたいあれこれが、漏れ出てるんじゃないかとドキドキするから」
そう言って両手を組み、恍惚とした笑みを浮かべるエルフに俺たちは何も言うことができなかった。
男のあれこれは、正直聞きたくない。
アルトを無視して、マークが切り出す。
「んで、今日は結局告白できなかったのか?」
「ああ。実は……」
俺は今日、植物園で思ったことを話した。
道行くカップルに自分たちの姿を重ね、そんな風に見えていればいいと思ったこと。
しかし、店員との会話中にカップル説を、サクラにめちゃくちゃ否定されて落ち込んだこと。
先日、同僚たちに「告白する!」なんて言ったが、今の関係すらなくなる不安から、実行する自信が持てないことを話した。
俺はサクラのことを思い浮かべながら、真剣な表情で口を開く。
「——サクラのことが好きだ」
マークはテーブルに両肘をついて、手で顔を覆い、「はぁ~」と今まで聞いたことがないようなため息をついた。
そして、顔を上げ下からのぞき込むような姿勢で俺の目を見る。
「いや、アッシュ……お前、それ、本人に言えよ……」
「言えたら苦労してない」
「確かにね」
「はぁ」
俺がきっぱり言い切ると、マークはガクッと崩れた。
ちゃっかり話を聞いていたらしいアルトも同意し、マークは特大のため息をついて豪快にジョッキを煽った。
ぼんやりとマークを見ていると、そういえばまだ言っていないことがあったことを思い出す。
「あ、だが、せめて好きな気持ちは伝えたいと、プレゼントをしてきた」
「おいぃぃ!! プレゼント攻撃かよ。先に言えよ! 何を渡したんだ!? 宝飾品か!?」
「いや。花の写真が描かれたカードだ」
「「カード!?」」
アルトとマークの驚いた声が重なる。
「メッセージでも書いて送ったのか?」
「いや。ただ花の絵が描かれているものなんだが、サクラの国は花にも意味があるようだ。カードの隅に『ハナコトバ』が書かれていたから、今の俺の気持ちを伝えるのにいいと思ったんだ」
それを聞いたマークは、げんなりした表情を浮かべる。
「花の意味に想いを託すとか。アッシュお前、乙女かよ……」
「うるさいっ。それしか思いつかなかったんだ!」
そう言って俺は、もう一枚買っていたカードを取り出す。
『サクラ』のカードだ。
『チューリップ』の伝説もサクラに似合うと思ったが、やはり『サクラ』の儚さや美しさは彼女自身を体現しているように思う。
四角いカードの中に舞い散るピンクの花。
一瞬の時を閉じ込めた美しさに『ハナミ』の日を思い出す。
今までのサクラのことが脳裏に浮かんでくる。
この『サクラ』のカードをベッドサイドに飾る予定だ。
「はぁ……ホントに好きなんだな、アッシュ。……頑張れよ」
マークは先ほどまでの顔とは違い、真剣な表情でそう言うと、ふっと表情を柔らかくする。
「マーク……ああ」
「いろいろ障害はあると思うけど諦めちゃだめだよ? サクラの話はヴァーミラ経由で入ってくるからね」
アルトもいたずらをする子供のように笑って言う。
「誰が諦めるかよ。ヴァーミラとサクラは連絡とってるのか?」
「うん。そうみたい。ヴァーミラの感じからして、ヴァーミラが相談するのをサクラが聞いているみたい」
「そうなのか。最初はあんなにビビってたのに、相談に乗ってるんだな」
サクラは面倒見がいいのだろう。
ヴァーミラの勢いに押されながら、親身になって話を聞いている姿が目に浮かぶ。
「で、どうすんだよ。次の予定決めてきたのか?」
脱線した話をマークが戻す。
「いや、予定はまだ……だが、サクラが銀の犬に会いたいらしい。膝にのせて、抱っこしたいそうだ」
神妙な顔で切り出すと、マークが叫ぶ。
「おまっ! え、まさか正体隠して抱っこされに行くつもりじゃないだろうな!?」
「いや、いくらアッシュでも、それは……違うよね?」
友人たちは俺をいぶかしげな顔で見ている。
「そのつもりだ」
「「バカ!!!」」
2人の悪態が見事にそろった。
「何故だ! サクラが俺を呼んでいるんだぞ!! 俺の愛らしさが役立つときだ!」
「アッシュ! お前は狼としての誇りはないのか! 何、かわいいわんちゃんになろうとしてんだ!」
「だって俺、癒し系だから……」
「はぁ? アルト! お前もなんか言ってやれ!」
マークは頭を抱えて項垂れながら、アルトに話を振る。
アルトは神妙な顔で俺を見つめると言った。
「アッシュ、正体がばれたときにサクラに嫌われるんじゃない?」
その一言で空気が凍った。
「なん……だ、と? え、嫌われる、だと!?」
俺は頭を抱えてテーブルに突っ伏す。
膝の上が楽しみで忘れていたが、正体がばれたときに嫌われるリスクがあった!!
もしサクラが犬の正体が俺だと知ったら……え、抱っこは? なでなでは!? 膝の上は!?
「落ち着いて。とりあえず、正体ばらすのが先じゃない?」
「そ、そんな……ワオォ~ン!!!!!!」
飲み屋に俺の遠吠えが響き渡った――。
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