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それから俺とニアのタコ焼き一色の生活がスタートした。
家に帰ったら早速銅板に丸めたティッシュを入れて、串でひっくり返していく。
「こんな感じか?」
本当は焼いたヤツでひっくり返すのが一番練習になるだろうが、失敗したのも食べなきゃいけないし、勿体ない。
翌朝10時に金つば駅にやって来ると、ガスコンロをセッティングして路上販売の準備を始める。
そして、11時に営業スタート。
早速1人、客がやって来る。
注文を受け、大河さんが生地を銅板に流し込み、タコ焼きを焼き始める。
「……」
大河さんに言われた通り、手元をよく見ていると、ポイントがいくつかあることが分かった。
まず、液を流し込んでタコを投入するが、最初にひっくり返すのは真ん中だ。
そこが一番早く焼けるし、順番を間違えると黒こげになる。
つまり、真ん中から渦を巻くように外に向かってひっくり返していく。
ひっくり返す際は、一気に180度反転させる。
それを数回繰り返して、表面にキツネ色の焦げが付けば、完成だ。
最初に言われた通り、食感を損なわないよう、軽くソースを塗り、青のり、鰹節をふりかけ、客に渡す。
「8ヶ入り、300円になります!」
それから一ヶ月。
順調に売り上げを伸ばし、とうとう目標の一日2000個を売り上げることが出来た。
「おら、お前らの取り分だ」
大河さんから受け取った額は、1万円。
3時間働いただけでこの額は破格だ。
「しゃ、今日はうまいモン食べ行こーぜ!」
ニアと俺は浮かれて、その日は近くの居酒屋で一杯引っかけ、帰りがけに銭湯に寄った。
「おっしゃ、一番のりっ」
客が他にいないのを良いことに、風呂に飛び込むニア。
ここは夜中も営業してるため、客の少ないこの時間を狙って最近よく通うようになった。
「おいっ、はしゃぐなよ!」
俺は手ぬぐいを頭に乗せて、角の方に移動して湯に浸かった。
(こーゆー昔ながらの銭湯っていいよな)
壁には富士山が描かれている。
すると、ニアが平泳ぎでこちらに近づいてきた。
「何だよ」
「ここの温泉って、傷とかに効くらしーな。 ほら、見てみ」
おもむろに髪をかき上げて額を見せてくる二ア。
そこには、うっすらと十字傷。
「だんだんよくなってきてんだ」
「ふうん……」
そういや、こいつの素性、ぜんっぜん分かんねーな。
一体、何者なんだ?