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銀行に金、入ってたか?
嫌な汗が滲む。
もし入って無ければ、有り金がいよいよ底をついたことになる。
甘く見ていた。
俺は、仕事なんかすぐ見つかるだろうと高をくくっていた。
(クッソ、やべえ……)
だが実際は、メンタルの問題が大きく、外に出られないでいた。
「どした?」
財布を持って固まる俺を見て、ニアが言った。
「金が、ねぇ」
「何だよ、そんなことか」
ニアは、小せぇことよ、と笑い始めた。
「飯なんて食わなくても生きてけらぁ!」
「笑い事じゃねぇっ」
俺は叫んだ。
「家賃だって払わねーといけねーし…… ここにいらんなくなるぞ」
田舎からこっちに上京して来た俺には、頼れる友達はいない。
今年で60になる両親にだって、余計な心配はかけたくない。
とにかく、今からでも仕事を見つけねーと。
そのまま小走りで玄関へと向かい、扉に手を掛けた、その時だった。
「うっ、おえっ、オエエッ……」
俺は、その場で胃酸をぶちまけた。
(外に、出れねぇ……)
ニアが近づいて、背中をさすってくれる。
「おにい、大丈夫か?」
「おえっ、はあ、はあ……」
ダメだ。
症状、悪化してやがる。
「おにいは休んでろよ。 金は、俺が何とかするから」
「……どーすんだよ」
「コンビニにバイト募集の貼り紙がしてあったんだ。 外国人歓迎って。 それに応募してくる」
……!
そういや、あのコンビニの店長、外国人しか雇わねーっつってた。
ニアなら、見てくれは欧州系の外人って感じだし、使ってくれるかもだ。
ただ、コイツに仕事が出来るかっつー問題がある。
「大船に乗ったつもりで、待っとけ!」
そう豪語して、ニアは外へと向かった。
翌朝、ニアが両手にコンビニ袋を下げて、戻ってきた。
「処分しなきゃいけないやつ、全部もらってきた!」
「は…… お前、採用されたのか!?」
「もち!」
コンビニ袋を掴んだ手で、胸を叩く。
「金は俺がジャンジャン稼いで来てやるからサ!」
「……」
まさか、コイツに助けられるとは、だ。
鶴の恩返しみてーだな、と俺は思った。
ところがある日、ニアが顔にアザを作って帰ってきた。
「お前その腫れ、なんだよ……」
「何でも無いって」
ニアは隠していたが、俺はすぐに察しがついた。
あの店長、外国人が使いやすいだの何だのってほざいていた。
要するに、今まで従業員に暴力を振るってたんだろう。
「……汚ぇ」
俺は、怒りで体が熱くなるのを感じた。
職を失ったら困る外国人の心理を利用して、暴力を振るう。
店長として、一番やっちゃいけないことだ。
「もうバイトには行くな」
気付いたら、俺は扉のドアノブを握っていた。
「俺が他のバイト、見つけてきてやる」