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河原の方へと走る二ア。
まさか、橋の下で暮らしてるとか?
全裸で?
すると、クルリと向きを変えて、言った。
「……やっぱ、やめた。 今日はお前んちに泊まる」
「は、無理無理」
突然のニアの提案を即座に却下する。
牛丼を奢ったせいで懐かれたか?
「せめーし、無理だって」
「オヤジもお前んちがいいってサ」
ニャーン、と小脇に抱えていた猫が鳴く。
猫がオヤジとか、最初に見た奴を親と思い込む鳥と一緒じゃねーか。
「なあ、頼むよぉ」
「……」
少し罪悪感を覚えたが、俺はそのままアパートへと向かった。
アパートに到着。
階段を上がって自室の前に来ると、鍵を取り出す。
「なあ、頼むよぉ」
「結局着いて来てんじゃねーかっ!」
ニアは、なあ頼むよぉと呪文の様に繰り返しながら、俺のアパートまでやって来た。
中へと入ろうとすると、手で制す。
「な、何だよ」
「猫は入れんな」
部屋を借りる前に大家から忠告されてる。
「猫がついてくんなら、橋の下に戻れ」
「……ちぇっ、分かったよ」
猫を床に下ろすと、やっと解放されたと言わんばかりに、どこかへと走り去って行った。
(……全然懐かれてねぇ)
唖然としつつ、俺は靴を脱いで、棚から服を見繕った。
「ほら、着ろよ」
「いらねーよ」
「ざっけんな、着ろっ」
逃げるニアを追いかけ回していると、ドン! と壁を殴る音がする。
しん、と静まり返る室内。
「隣にはヤクザが住んでんだ、気を付けねーと殺されっぞ」
「や、ヤクザ……」
まあ、嘘だけどな。
隣に住んでんのはフツーのおっさんだが、揉め事は避けたい。
それから、ニアとの同居生活が始まった。
一週間が経過した。
俺はあれから全く就活せず、家に引きこもっていた。
「ニア、コンビニで適当に何か買ってこいよ」
夕飯をニアに任せて、俺はスマホをいじる。
「またコンビニか」
ふざけんな。
飯奢ってもらってる居候が贅沢言うなっつの。
立ち上がって、財布を手に取る。
俺は、凍り付いた。
……札がねぇ。