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第3話 クリスティーナとアイリス


主な登場人物


クリスティーナ・ヘイズ…お嬢様、学者


アイリス・レーゼンビー…米軍情報士官


巻島公親……… 日本国外務省 外交官


スティーブ…… クリスティーナの執事


橘………警視庁捜査一課9係主任

瀬田……橘の部下


津田……山梨県警捜査一課 主任

奈良橋…津田の部下、巡査部長



〜前回までのあらすじ〜


“ツクヨミ教団”なる組織の構成員によって襲撃された、元首相 園蔵権三邸を逃げ出した謎の少女“カヤ”。

なりゆきで彼女を車に乗せてしまった道草正宗。


教団の追撃から逃れるため中央自動車を疾走したはずの彼らだったが、

その車は、数時間後、富士の樹海付近において無惨な姿で発見される。


一方、園蔵邸襲撃の真相に迫ろうとする

警視庁捜査一課の橘たちの周りでも不穏な動きが……。








黒のフォルクスワーゲンゴルフは山梨県河口湖町青木ヶ原樹海の林道から大きく外れ、ひときわ大きい巨木に正面から激突した状態で発見された。


「Lシステムによると、当該車輌は中央自動車道から河口湖IC(インターチェンジ)で、139号線へ乗り換えそのまま樹海へ入ったようです」

山梨県警の捜査一課の津田(ツダ)は、部下の奈良橋(ならはし) から報告を受けるも、ろくに返事もせず。

車の周囲をぐるっと一周した。

「ひでぇな……フロントがこんなペシャンコになって、相当な速度で走ってたんだろうな、銃撃にもあったようだしな……高速隊(高速道路交通警察隊)の動きは?」

と津田は、奈良橋の方を向く。


「はい、高速隊も銃撃を受けました」


「被害は?」


「一個小隊全滅だそうです、管轄は神奈川県警ですので、詳細はよくわかりません」


「撃ったのは……手配書にあった車の所有者の道草正宗か?」


「いえ……ではなく、その後続を走ってた連中で、彼を追っていたと見られる黒のSUVです、銃弾の形状が7.62×39mm、おそらく、フォルクスワーゲンの方も、この銃と同一のでやられてます」


津田は、天を仰いだ。


「なによそれ、7.62ってAK-47、まさかカラシニコフか?」


奈良橋は頷きながら、唸った。


「んまー、そうかも知んないっす……因みに、その例のSUVと見られる車ですが、反対レーンの相模湖の手前で今朝方単独事故をおこしてまして……」


それを聞いて、

津田の顔色が変わる、


「まさか、そっちも?」


奈良橋は首を横に振った。

「いいえ、そっちは人が乗っていて、身元不明の男が2人、心臓麻痺で既に死亡

してまして、司法解剖回してるそうです、ライフル銃が2丁、トランクから発見されたようです……」


「2人とも、病死か……」


「はい、2人ともに心臓麻痺で……」


津田はもう一度、蜂の巣状に穴が開き、窓ガラスも一切なくなったゴルフの車体へ目をやった。


「こっちは、誰も乗っていなかった、何処へ行ったんだ、いったい……」


「不思議な事件ですね」


首を傾げるばかりの奈良橋と津田は顔を見合わせた。


林道に立つ制服警官の制止を振り切り、辺りに張り巡らされた規制線の黄色いテープを潜る男が2人。


ちょっとした騒ぎになっている丘の上の方を、奈良橋と津田は、ぼんやり眺めた。

「いいから、警察だから」

と叫びながら、2人の侵入者は警察手帳を振りかざしたまま、津田たちの方へやって来る。

津田はその男に見覚えがあった。

「タチバナさん」

公安時代の先輩、警視庁捜査一課の(たちばな)警視だった。

「ぼやぼやすんな津田、この事件(ヤマ)は間もなく、公安に全部もっていかれるぞ」

津田は混乱したままだったが、薄ら笑いを浮かべる橘の顔には何処か快活な血潮が巡って、なにか確信めいたものがあった。



そんな青木ヶ原樹海上空を一機の中型旅客機が通り過ぎていった。



その機は間もなく、在日米軍司令部の置かれている横田基地、横田飛行場の滑走路へと舞い降りた。

マクドネル・ダグラス社製の機体だが、所属は不明、米軍並びに航空自衛隊へは米国政府の特別チャーター便とだけ知らされていた。

在日米軍司令部から、クライブ・スタイルズ中佐と、女性情報士官アイリス・レーゼンビー大尉、

外務省からは外交官の巻島公親(マキシマ キミチカ)が滑走路に現れ、その航空機へ接続したタラップ車を見上げるかたちで三者は参列した。

航空機のハッチが開き客室乗務員に誘われながら、ブロンド髪の女性が外へ顔を出した。

空は快晴だったが、強風が彼女の金髪をなびかせた、滑走路上に風を遮るものはなく、彼女はタラップの欄干へしがみつく付くように階段を一段ずつ降りてきた。

「スティーブ、スティーブ」

と彼女が叫ぶと、

「はい、お嬢様」と、

執事のスティーブがすぐに彼女を抱え上げて、タラップを躊躇(ちゅうちぃ)なく駆け下りた。

執事のスティーブはレスラーのような強靭な肉体を高級なタキシードに隠しているようなシークレットエージェントな感じの男だった。

アイリス・レーゼンビー大尉は、初見でスティーブの左目の横の傷や、襟元に隠された火傷の痕跡から、彼が以前海兵隊に所属していたのではないかと察した。

「Oh, Ms. Hayes. I'm delight to have you here.」とスタイルズ中佐が英語で、握手を求めると、

「Thank you , me too. 日本にはこう言う、“ことわざ”があるそうです、“goに行っては、goにしたがえ”つまり、日本にいるなら、日本人として過ごせと言うことです……私は敬愛する日本にいる間、自分を日本人と思い、日本語しか話しません、今後、英語で話しかけられても返答しませんので、そのおつもりで、」

そう強く日本語で言い放つと、クリスティーナ・ヘイズ嬢は改めて、スタイルズ中佐の手を取った。

スタイルズ中佐はクリスティーナが日本語でなんと言ったのか皆目理解出来ず半ば当てずっぽうで、

「アリガトウゴザイマス」と返した。

「よろしく、クリスティーナ・ヘイズです」

クリスティーナは巻島やアイリスとも握手を交わした。

アイリスも日本語で、

「私は、アイリス・レーゼンビー大尉です、アメリカ駐日大使館詰めの情報士官です、日本国内での活動を円滑に行えるようサポートいたします」

「軍服がよくお似合いですね、富士の白雪の様に美しいですね」

とクリスティーナが褒めちぎると、

「あなたこそ、まるで天女のようです……」とアイリスは東洋てきに真顔で返した。


アイリスは、クリスティーナのような青い瞳にブロンド、細身のモデル体型に、実際、幼少期から憧れを抱いていた。

訳のわからないカタカナのジャパニメーションのTシャツの上に、70年代のフラワーチルドレン(ヒッピー)風の花柄のロングシャツを羽織り、ローライズのベルボトムを簡単に履きこなしている姿は、昔、親にせがんで買ってもらったバービー人形そのものだった。


自分のようにテネシー州のスコットランド移民の家に生まれ、父も兄たちも堅実な軍人、特に宗教的戒律に厳しい家庭だった。

フリフリの花柄のシャツから胸やヘソを出して歩くなんてことは考えるだけで、国家反逆罪扱いされただろう。

いかにも真面目そうに見える自分のブルネットの髪の色が好きだ。

「アイリスって、素敵な名前、私はその花も好きです」

そう言って、クリスティーナがニヤリと笑うと、前歯に青のりがついていた。

「父が付けた名前です、日本語では“アヤメ”です」とアイリスが言うと、

クリスティーナは益々上機嫌になった。


巻島公親は2人の会話にうまく入れず、

只々、静かに微笑むばかりだった。


スタイルズ中佐は、何が何やらさっぱりわからず困惑の表情を浮かべ始めていた。

すると彼の背後から執事のスティーブが声をかけた。

「so,sorry, Mr.Colonel.

She is an enthusiastic geek of Japanese.」


「Oh,good , I'll remember.」

スタイルズ中佐は納得した様子だった。


クリスティーナは、メリーポピンズのように日傘を高らかに広げると、ブルーの(ラウンドフレーム)型サングラスをかけ、米軍側が用意したリムジンの後部席へさっさと乗り込んだ。

そして、アイリスのいる目の前で、わざと聴こえるように、

「明日から、あのスタイルズ中佐は同行しなくても大丈夫です、日本語でコミュニケーションできないと、今回の調査はスムーズに行かないので……だいたい、あの人、3年も平和な日本にいて、日本語話せないなんて、ありえない……」

と、スティーブへ告げた。

「かしこまりましました、お嬢様、……軍の上層部にはそのように伝えます」

クリスティーナたちが乗るリムジンをスタイルズ中佐が乗るジープが扇動し、彼らは滑走路を後にした。


つづく

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