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第28話 宰相


「マーナガルム(きょう)(わらわ)は“やめよ”と申したな」


カヤは、本栖湖(もとすこ)上空から、

燃え盛る地上をぼんやりと眺めていた。

彼女の目には幾つもの光る絹糸(きぬいと)のようなものが空中で絡み合うのが見えていた。


「はい姫様、しかしそのご命令には、従いかねます、この地球の処分はすでに1600年前に議会で可決し、月帝(つきみかど)が承認あそばされているもの、わたくしめは宰相(さいしょう)という立場上、責任をもって、その執行に自らまかりこしましてございます、そしてその目的を果たした(あかつき)には姫様を月世界(げっせかい)へ連れ帰らねばなりません──」



「月世界」

カヤは、鼻で笑った。



「── 姫様、こんなことはさっさと終わらせて、美しき月世界(げっせかい)へと帰ろうではございませんか」


真っ黒に立ち上る巨大な煙を背にして、マーナガルムは、カヤへ手を差し伸べていた。


「どこが美しいものか──」


彼のその手を悲しげに見つめ、再び地上へ視線を落とし、そう呟いたカヤの頬に一筋の涙が伝った。


「はっ?」

マーナガルムには、カヤの声がよく聞き取れなかった。


カヤはマーナガルムには目もくれず、巨大な炎に包まれた本栖湖湖畔東南側の一角へ手を(かざ)して目を閉じた。


すると燃え盛る炎が、一ヶ所残らず一気に消沈(しょうちん)したのであった。

そして、そればかりか焼け死んだ人々や鳥や木や車輌や建物までもが何事も無かったように元通りに蘇っていた。


「また、そのようなくだらん事にお力を……」


マーナガルムが、怪訝(けげん)な顔で、地上に手を(かざ)した瞬間、

目にも止まらぬスピードで何かとてつもなく硬いものが、その腕を跳ね飛ばし、彼の横っ(つら)を一発殴りつけた。


マーナガルムは空中でくるくるっと三回転半して、我に返った。

眼前には、すでにカヤの姿がない。


姫様(ひめさま)?」

彼がキョロキョロと周囲を見回していると、


「マーナガルム(きょう)、そなたは罪を(つぐな)え!」

頭上からカヤの怒号が響いた。


マーナガルムは急ぎ頭上を見上げた。


そこには巨大な火の玉が爛々(らんらん)と燃え盛っていた。

それは地上を焼いたマーナガルムの炎の全て熱量を、カヤが一点に集約させたものに違いなかった。

少なくともマーナガルムは直感的にそう感じた。


「いやいや、姫様、それでは本末転倒、姫様が地上を焼き尽くす事に──」


そう言った瞬間マーナガルムは、

自分が深い暗黒の中を浮遊していることに気がついた。


「── ここは何処だ、そうか、何処でもない、暗黒姫の、暗黒の中」


マーナガルムは逃げ出すことも、

抗うこともできぬまま、

カヤが解き放った巨大な火の玉を全身で受け止めた。


「ナニクソ、これしき」

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