第27話 平安の変なヤツ (後編)
そこには、光があった。
その屋敷の門を潜ると、真昼のような明るさだった。
そして、季節すらまるで違っていた。
外界が雪に閉ざされた極寒の冬なのに対し、
その屋敷の庭園は春真っ盛り。
イチイは赤い実を幾つも枝葉に宿し、
その甘い実を狙って蝶や小鳥が樹々(きぎ)の周囲を飛び交っていた。
「以前お目見えした折りより、更にお庭が広おなっておりますな」と空海はにこやかに目を輝かせた。
「ええ、土地は有り余っているぐらいでして…(カヤちゃんがどんどん広げちゃうから、お世話が大変ですが…)」
と優子は苦笑いで答えた。
橘刑部とその配下ら5人は、驚愕のあまり、各々(おのおの)目を丸くして、お口をあんぐり開けたまま、何を見ても何を聴いても、
「ほー、ほー、さても、さても」
としか言えなかった。
庭園の奥にはまるでお庭の主のような立派な山桜が、でんと構えていた。
どの樹木もよく手入れが行き届いていていることに空海はいたく感心した。
飛騨国の造に至っては、目の前の現実を受け入れられず半ばトランス状態で、若干白目を剥いて、皆について歩けるのが不思議なぐらいだった。
「あの、山桜の桜守は、竹取の翁麻呂か」
と空海は、翁を探すように、屋敷内の各部屋の前を通るたびに見廻した。
しかし、翁は見当たらなかった。
「はいー、翁というか、今は若人と呼ぶ方が……、私、嫗同様、だいぶ若返っておりまして……(カヤちゃんがどんどん若返らせるから原型を留めてない、もはや別人)」
優子はまたしても苦笑いを浮かべた。
「作用か」
空海は、確かに優子が以前見た時より若く美しく変貌を遂げていることにも感嘆したが、
それより、鮮やかな薄紅色の山桜の格別な美しさに目を奪われていた。
その刹那、
奥からけたたましい叫び声が響いてきた。
「プー、プー、ビリージーン、プー……」
優子と空海は急ぎ、奥の大広間へと向かった。
そこでは栗色の長い髪のうら若き少女が艶やかな十二単の長い裾をたくし上げて、裸足で《ムーンウォーク》に狂じていた。
《ムーンウォーク》とは、前に歩いているように見せかけて、後方へ引っ張られるように足を滑らせるダンスの技法である。それだけで見る者に、まるで無重力の中、または低重力の月面を歩いているような錯覚を与えるものである。
しかし、この平安期の日本においてまだ宇宙空間が無重力、月面が低重力であると言う概念すら無かった。
したがって《ムーンウォーク》を初めて見た弘法大師空海は多くを語らず、静かに目を閉じて、ただ一心に経を唱えるのみであった。
その少女が何か物怪にでも取り憑かれたのではないかとその身を案じたに違いなかった。
十二単の少女の横で竹取の翁こと正宗が、まるで困り果てた様子で、黒いストラトキャスタータイプのエレキギターを弾いていた。
ピックアップスウィッチのポジションをハーフトーンのまま、慣れないカッティングに悪戦苦闘していたのであった。
「ちょっと、ストップ」
と、十二単の少女は不服そうに正宗のギター演奏をやめさせた。
その背後でドラムを叩いていた浅黒い肌の大男も不服そうな面持ちで叩くのをやめて、ため息をついた。
さらにその隣でベースを弾いていたひょろりとした細身で背がたかく長い黒髪の男性も手を止めた。
「マサさ、やる気あんの、あんたのカッティングが遅れてて、全体のグルーヴが無くなってんだけど、」
十二単の女性は鋭い視線を正宗に浴びせかけて、その手元を指差した。
「やる気はあるっつーか、何言ってんのかオラには、さっぱりわけわかんねっつーか」
と、うつむく正宗を、少女は執拗に叱咤し始めた。
「マサさ、いちいち力が入りすぎてんのよ──
だから音が硬いは遅れるわ、もっと力抜かなきゃ柔らかい音んなんないし、グルーヴしないし、ナイル・ロジャースみたいなカッティングがほしぃのよ……あと、ハーフトーンだとパワーが無いからカッティングん時はフロントに切り替えてよ、あと、自分のことオラって言うのやめて、あと……」
「オラ…でねくて“オレ”は《グルーヴ》っつーもんも、よく分かんねぇし、ナイルだか何だかってのも知らねぇし、
“いま行ける”だか“んじゃ行ける”だか言う奴も知らねぇし、聞いたこともねぇんだ……」
正宗は、そう訴えながら、
鼻をひくひくさせて、目にいっぱいの涙を溜めていた。
「“いま行ける”って……マイケル・ジャクソンね」
少女は少し考えてから、すぐに冷たい目で言い放った。
「アリエナイヨ」
浅黒い肌のドラマーがカタコトの日本語でそう呟いて、フロアタムの上にドラムスティックを置いた。
「ごめん、エルヴィン、もう1回だけ、お願い」
少女はドラマーに手を合わせて懇願するが、
ドラマーは首を横に振って、ため息をつくばかりだった。
「ジャコも、もう1回」
少女はすぐにベーシストの方を見たが、彼もまた無言で首を横に振って肩のストラップを外すと、ベースを床に投げてしまった。
「It's wasn’t really our music 」
とだけ言い残して、
ドラマーとベーシストは連れ立って、後ろを向き、
竹の水墨画が大きく描かれた襖を開けて、その向こう側の深い闇の中へと消えて行った。
「ほら、2人ともヘソ曲げちゃったじゃん、奴らレジェンドなんだよ、せっかく呼んだのに…、マサちゃんとやれよ」
少女は髪を掻きむしりながら、地団駄を踏んで、激しい怒りを正宗へとぶつけた。
「そったら、わかんねぇことばっか言われても、オラ……」
と正宗は、大声で感情を爆発させて、大粒の涙を流しながら床へ崩れるように跪いた。
「だから、オラって言うなって」
少女は正宗の言葉を遮り怒鳴りつけた。
「そもそも、オラがオラっつって何が悪いだ、あ”ー、あ”ー、あ”ー、」
正宗は、ギターを抱きしめたまま大声をあげてカラスのように泣いた。
「カヤちゃん、いい加減になさい!」
優子は強張った笑顔のまま声を荒げた。
十二単の裾の埃を、急ぎパタパタと払った少女は、恐る恐る背後を振り返った。
「あら、おかあさん……戻ってらしたの」
カヤの視線の先には両手を腰に当てて、
口元だけ笑顔だか、どう見ても目が釣り上がっている優子が立っていた。
「カヤちゃん、“戻ってらしたの”じゃないでしょ、なんか
お客様の前ではしたないと思いません」
優子は感情を抑えて、声を震わせながら、努めて優しく振る舞った。
「ちょっとバンドとご祈祷をしてただけ、ですわ」
カヤは口を窄めて袖でそれを隠し、
「ほほほほほ」と微笑んだ。
「“ちょっと”じゃないでしょう、だいぶご執心でしたわよ、正宗さんがあんなに泣き濡れて、
どうしてすぐあの人をイジメるの、アナタたちどうしていつも仲良く遊べないの」
そう言いながら、優子はカヤの前をすーっと通り過ぎると、未だ泣き濡れている正宗のもとへ向かった。
「遊びじゃないもん、ご祈祷だもん」
カヤは唇をツンと尖らせて聞こえないくらいの小声でブツブツ言い返した。
「アナタもカヤちゃんにやられっぱなしで、情け無いと思わないの、泣いてないで立ちなさい」
優子の顔から、すでに微笑みは消えていた。
「オラ、嫌われたくねっつーか、怖えっつーか」
正宗は、ギターを抱きしめながら、優子を見上げて震えるばかりであった。
「立って」
優子はギターのネックをむんずと掴むと、
ゴムのようにぶら下がってる正宗の身体から無理矢理ギターを引き剥がした。
そして、その細腕をして屋敷の外へ向かって一気にそれをぶん投げてしまった。
黒のストラトキャスターは空海の頭上で鴨居スレスレをかすめて、広大な庭園の中心に鎮座する山桜の幹にぶち当たって大破した。
ビヨヨヨヨーンと弦の弾ける音が遅れて微かに響いて来たが、それを気にする者は誰ひとりとしていなかった。
「カヤちゃん」
乱れた髪を整えながら優子は、ドラムセットを顎で指した。
カヤは無言で頷くとパンパンと二度拍手して、ドラムセットとそれ以外の音楽機材をパッと消して見せた。
すぐに、消し忘れがないか入念に部屋中を見廻したのち、
パンともう一度手を叩いた。
すると板張りの床の上に一瞬にして青々とした畳が敷き詰められたのだった。
「よ、空海じゃん」
カヤは白々しく、その時点でやっと弘法大師空海の存在に気付いたフリをした。
「お久しゅうございます」
空海は何事も無かったように微笑み、合掌し一礼した。
「カヤちゃん、空海“様”でしょ、それから、三つ指ついてご挨拶ね」
優子は、床へ金糸をあしらった座布団を並べながら、カヤへ鋭い視線を送った。
「はい」
カヤは素直に床へ平伏すと三つ指をついて綺麗にお辞儀して見せた。
「お久しゅうございます空海様、ようこそおいでくださいました」
そう言って面を上げたカヤの、この世の者とは思えない美しさに、橘刑部はじめ一同は改めて息を飲んだ。
「あー、あー」
すでに腰を抜かしていた飛騨国高山の造は、何を思ったか、急に立ち上がるなり廊下をさっき来た方向へと走り出した。
しかし、走れども走れども造の行く手に出口はなく、同じような廊下しか見当たらなかった。
「大丈夫ですか」とその目の前に優子が現れると、造は優子の足にしがみつき、
「家に帰してくれ、ワシが悪かった、もうここのことは誰にも言わぬゆえ、家に帰してくれ」
造が辿りついたその場所は、走り出す前と同じカヤの部屋の前だった。
優子が、床に座ったままのカヤの方を見ると、
カヤは無言で、造の方へ“ふっ”と息を吹きかけた。
すると、たちまち造の姿形は、
霧か霞のように、はっきりしなくなり、やがてゆっくりと消えていった。
「いま、造をどうしたのだ」
橘刑部は、たまらずカヤへ侮蔑の視線を向けた。
「お望み通り、お家へお返ししたまで、そちら様もお望みならば」
カヤは妖艶な視線を、槍や甲冑をカタカタ鳴らして震えている橘の配下5名の方へと贈った。
橘刑部は頭の折烏帽子がずれずれになった配下の者どもの怖気づいた顔をちらっと見てから、
「いらぬ」とだけ答えた。
「今宵はどのような用向きで……」
優子が場の緊張をほぐすように、
あっけらかんとした笑顔で、相変わらず廊下へ立ち尽くす面々に声をかけた。
「は、そう言えば」
と空海が徐に懐から、掌に収まるほどの器を取り出してカヤの目の前に差し出した。
「ひゃー」
カヤは途端に目を輝かせて、
その器を手に取ってまじまじと眺めた。
「それは」
と、怪訝な表情を浮かべる橘刑部に、
空海は、
「仏の御石の鉢じゃ──」
と言及したにとどまった。
そして、やけに喜ぶカヤの顔を見つめながら、
「──天竺にて、そなたの言葉を思い出してな、咄嗟に持って来てしもうたが、この世に2つとなき物ゆえ、すまぬが、そなたの力で天竺へ返してくれぬか」
とニヤニヤしながら言うのだった。
「妾をソデに」
カヤは思わず鉢から視線を外し、空海を見つめた。
「二心あらば雲水はつとまらぬ、小生の心に一点の曇りなし……ただ、それを伝えに参った」
「う、うん──」
見つめ合う空海とカヤを直ぐ横で眺めていた橘刑部は、咳払いを持ってして止まりかけた時間を元へ戻した。
「──その昔、香久夜の姫君は、求婚を迫って来た者に珍妙な宝物を持って来るよう強請ったとか」
と言って、橘刑部は鼻で笑った。
空海は少々気まずい顔をして、一歩退いた。
するとカヤが、
「貴族、豪族、皆、強欲、故に、妾の知力、容姿を愛でそやす」
と言いながら、空海から受け取った《仏の御石の鉢》を両手で包み込むように持つと、
眩ゆく黄金に輝かせた掌の中で鉢は小さくなって消えてしまった。
「神野親王にも、東の海の蓬莱という山の白銀を根とし黄金を茎として白き玉を実として立てる木の枝を一本だけ所望した事がある」
カヤは、そう言って橘刑部
を見た。
「神野親王と申せば、……畏れ多くも今上の御帝、蓬莱の木の枝とな?──」
一旦はカヤへの怒りを現わにした橘刑部こと橘氏人であったが、
何やらカヤの意味深な物言いが彼の脳髄を刺激した。
「──蓬莱の山と申せば仙人の住む理想郷、遠く望めば雲の如く、近づけば何処かへ去るが如し……」
図からずも、橘の頭の中では、本能的にカヤの謎かけ言葉を解かんとする、
言わばゲームが始まってしまっていた。
いと愚かしきは、目に見えぬ理想を追う者、
白銀の根とは、高貴な家柄
黄金の茎とは、子宝、
白き玉の実とは……。
「つまり、そなたは御帝へ、理想をばかり求めず、妻の元へ戻れと諭したと申すか?」
橘は、即座に答えた。
「ご名答!」
と手を叩いた空海に対して、
カヤはまだ納得していない様子で、
「身重が抜けておる、身重の妻じゃ」
とお腹を手で抑えて、妊婦のジェスチャーをして見せた。
「身重、ご懐妊か──」
橘がキョトンとしていると、
「そなたの姉上、嘉智子様じゃ、ちょうどご懐妊中であったゆえ、それをお伝えした、白き玉の実……」
空海とカヤはいつのまにか、畳敷きの広間の中央で座布団に座して、お茶を啜りながら、饅頭を食べていた。
「して、御帝は、その折、いかがされた」
橘は甲冑を着たままズカズカと畳の上を歩いてカヤのもとへ近づいた。
カヤは、ちょうど饅頭を喉へつまらせて、お茶を飲むので精一杯だった。
「ほら、また一気にそんなに頬張るから…」
優子が駆けつけて、カヤの背中をポンポンと叩いた。
「嵯峨天皇は、問答を心得ておられた、今のそちと同じくな……嘉智子様のご懐妊を知り、大変お喜びあそばされた、すぐ嘉智子様のもとへ」
喉が詰まったカヤに成り変わり、空海が答えた。
それを聴いて、橘刑部氏人はホッと胸を撫で下ろした。
しかし、そこで彼は何かを思い出し、急に奮い立ったのだった。
「やい、香久夜、そこまで、何でもお見通しならば、我らの目的も既に知っておろうな──」
橘はある便宜上、威勢よく腰の太刀を抜いた。
「──では、ともに来てもらうぞ、」
橘刑部がそう言い放つが早いか、
「待ってました」と言わんばかりに、配下の者たち5名は、ゾロゾロと畳の上を土足でズカズカ歩き、カヤと優子の前を横切ると、部屋の隅で不貞寝をきめこんでいた正宗を取り囲んだ。
「逆賊、竹下正宗をひっ捕えよ」
橘刑部がそう言い放つが早いか、
また「待ってました」と言わんばかりに、配下の者たち5名は、協力して超長尺の長縄でもって、正宗の胴体をぐるぐる巻きにして、
その上からまたぐるぐる巻きした。
と、思ったら…またぐるぐる巻きにして、またその上から、ぐるぐる巻きに……。
正宗をまさに蓑虫かツチノコのような風体にして、畳の上を引きずって5名はそのまま、外へと出て行ってしまった。
その間、所要時間にして1分とかからなかった。
「何でオラがー、何でオラがー……」
と泣き叫ぶ、ツチノコ型の正宗が、
すぐ横を通り過ぎて行くのを、優子は不安気な表情で見守った。
一方、カヤは湯呑みでもってお茶を啜りながら、
「それは……バカだからさ……」
と、不適な笑みを浮かべたのであった。
橘刑部と配下5名は、ツチノコ正宗を引きずったまま、屋敷の廊下を来たほうと逆の方向へと進んだ。
すると不思議なことに直ぐに“十三”と書かれた玄関が現れて、
その扉は、ひとりでに開いた。
門扉の横では厩舎に繋がれていた橘刑部の愛馬が、元気に主人の帰りを待っていた。
夜はすでに明け、高い塀の向こうの側に、白々(しらじら)と朝日に染まりゆく空が見えた。
いつの間にか、開放されていた門扉の外へ意気揚々(いきようよう)と歩み出た橘配下の1人が、眼前の光景を一目見た途端に腰を抜かした。
橘刑部の配下の者どもは次々と外へ出るたび悲鳴をあげた。
「如何した…」
橘刑部は急ぎ愛馬の手綱を引き門外へと繰り出した。
「これは、なんとしたことじゃ……」
橘が見下ろした足下は、どう見ても宙に浮かんでいた。
足下の更に下には、碁盤の目のようになった平安京の姿が見えた。
そして、平安京の中心部の大内裏上空には巨大な黒雲が蔓延り、まるで大蛇が戸愚呂を巻くように、渦を巻いていた。
配下の者の1人の背中の背負子にくくりつけられたツチノコ正宗は、
「ああ、十三でねくて、十六ぐらいでねかったべか」
と叫びながら、屋敷の門扉付近で不適な笑みを浮かべて立つ、カヤの姿を目撃したのであった。
「ごめんなさい、うっかり書き間違えてしまいました」
カヤのか細いその声が、正宗や橘たちの耳に届いたかは、定かではない。
カヤはそう言うが早いか、
その華奢な拳からピンと突き出した親指を、グリっと下へ向け180度半回転させたのであった。
その途端、橘刑部ならびに配下の者5名の身体は、遥か地上の平安京へ向けて真っ逆さまに落下していったのであった。
カヤは門扉を出て、たった一頭残された橘の愛馬の手綱を取り、門の中へと誘った。
「さぁ、急がなくては」
カヤは、一度閉めた門扉の裏側に改めて“十六”と指で書き、再び扉を開けた。
すると、ちょうど平安京の正面、朱雀門の前へと出た。
朱雀門の手前では唐破風型の屋根が施された牛車がカヤたちを待っていた。
直衣に立烏帽子という姿のイケメン貴族風の男たちが数人どこかから現れて、牛車の周囲についた。
彼らによって牛車の屋形部分に桟と呼ばれる梯子がかけられると、
カヤと優子はそれぞれイケメン貴族風の男たちへ軽く会釈して、差し伸べられた彼らの手をとって乗り込んだ。
優子は、その様子を眺めていた空海にも手を差し伸べたが、空海は無言で首を横に振り、ひとり橘の愛馬の手綱を引いて、歩いて朱雀門へと向かった。
橘刑部以下6名は、一足早く朱雀門内側のどこか、
そこらへんの隅っこの草むらへ揃って落下していた。
7名全員が地面へ全身を強くを打ちつけられ、
痛みを感じるヒマもなく気絶してしまっていたが、
誰1人として大怪我を負ったり、命を落とした者はいなかった。
空海は、天上に蔓延る巨大な黒雲を見上げ、
大きく深呼吸するのであった。
── いま平安京の大内裏に迫る危機。
姿なき巨大な敵を、如何にして打ち負かす事が出来ようか──。
強く己の心に問うのであった。