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第13話 フォッサマグナ




本栖湖畔の“ドーム”内では、各国有識者による審議会が執り行われていた。


マイクを手に田守教授が、ホワイトボードの前に立っていた。


「……現在起こっている現象の性質を鑑み……理論上にご説明できることをこれ以上議論しても、時間の無駄かと思いますので、ここからはあくまで仮説という視点に立ってお話を進めさせていただきます」

田守教授の言葉を受けて、

クリスティーナ・ヘイズが最前列で指笛を吹きながら熱烈な拍手を送った。


「……我々の今いる関東甲信越の地域は“フォッサマグナ”と呼ばれる大地溝帯の上に位置しています」


「イェー!フォッサマグナ‼︎」

クリスティーナはガッツポーズで独り歓声を送った。


周囲の人々は無表情で静観している。



「長年、我々、《通科大良友研(つうかだいりょうゆうけん)》(東京通信科学大学大学院、良い友研究所)では秘密裏に“レイライン”の研究を押し進めて来ました、

このフォッサマグナが、超自然的なエネルギーの流れ、つまり“光脈”の重要な拠点ではないかと言う仮説に辿りつきました」


「イェス、フォッサマグナ‼︎」


田守教授はクリスティーナの歓声に眼もくれず、更に続けた。


「古来、日本では風水学上、東京に重きを置き、“結界”言わば魔戒都市としての機能を高めて来ました、しかし全地球規模で見ると、東京はある意味、裏鬼門を一部封じたのみ……失礼、話が東洋的になりすぎました、つまり」


田守教授は一旦話を止めた。


「……ちょっと、これ貼っといて……」


田守教授は《良い友研究所》の院生らで結成された《良い友青年隊》を呼び寄せ、ホワイトボード上に“レイライン”の光脈が描かれた甲信越地方の地図を貼らせた。


クリスティーナは歓声を挙げるのも忘れて、地図に見入った。


そして、田守教授は右手に持ったレーザーポインターで、まず分杭峠(ぶんこうとうげ)をさした。

「ここが現在の磁場のゼロ地点、分杭峠です、フォッサマグナが成立したと考えられる中新世あたりには、このゼロ磁場は、もう少し西側にあった……」


田守教授のポインターの赤い点は、地図上を横切り、西へ移動した。


「………度重なる地殻変動や、ミランコビッチサイクルのような、地球自転軸の傾き、富士山の噴火などで、ゼロ磁場が移動したと仮定できる訳ですが1000年程前の貞観大噴火の時点ではここ本栖湖あたりにもゼロ磁場があったと考えられます、そして、富士五湖と青木ヶ原を含めたこの一帯には“剗の海”(せのうみ)と呼ばれる巨大な湖が存在していました」


そこで、NSAの特殊情報士官マギー・ウォーターズより質問が飛んだ。

「端的に伺います、その巨大な湖と、今回の異常エネルギーの観測にはどう言った因果関係があるのですか?」


田守教授は、返答した。

「私は、謎の放射線の出現については、地殻変動とレイラインの鉱脈の変動に関連があると考えますが、それ以上は何とも……」


NSAの士官たちはケラケラと嘲笑を浮かべた。

「それでは、ただ話を引き延ばしているに等しいと考えます、先日の湖畔ホテルでの一件も、一瞬では有りますが、一連の異常エネルギーと同様の値が観測されています、事は一刻を争うのです……」


マギー・ウォーターズは攻撃的な口調で、田守教授のみならず場内の参加者へ呼びかけた。

それを受けて、

空かさずクリスティーナが手を挙げた。

進行役のクライヴ・スタイルズ中佐が、クリスティーナを指した。

「ヘイズ女史……どうぞ、前ヘ」


クリスティーナは、興奮気味に田守教授からマイクをかすめ取り、まるでリング上のプロレスラーの様に、NSAの士官たちが座る一画を指差した。


「……、いま田守教授はとても重要なことを言ってくれました、それが理解出来ないないならNSAはペンタゴンへ帰ってモニターの前でオ◯ニーでもしてろ!」


「スタイルズ中佐、私はNSAを代表し只今のヘイズ女史の侮辱的な発言に対し正式に抗議します」

女性であるマギー・ウォーターズは怒り心頭で立ち上がったが、他の男性士官たちはポカンと口を開けたまま呆気に取られていた。


「はい、記録します……ヘイズ女史、発言には、充分に注意して下さい」

スタイルズ中佐は、片手で目を覆いながら言った。


クリスティーナは、騒然とする米軍士官たちの動向には眼もくれず、一方的に話し始めた。


「……変わって、(わたくし)クリスティーナ・ヘイズが、先ほどのマディーウォーターズ (泥水) 士官からの質問内容も含めて解説いたします」


マギー・ウォーターズはまた高らかに手を挙げたが、スタイルズ中佐は彼女に抑えるようジェスチャーで指示した。


「我がヘイズ家の始祖であるクリスティーナ・ヘイズ1世は、この地球は“神族”によって創造された、言わば巨大なプラントである事を、古文書に於いて示唆しておりますが、私クリスティーナ・ヘイズ3世は科学者であります、紀元前に書かれた古文書を基に神学的なお話をする気はさらさらございません、しかしながら、我がヘイズ家が代々、多岐にわたって田守教授を始めとする、このレイライン研究への出資を惜しまなかったことは、いつか、この度のような異常現象が地球上の何処かで起こりうることを予見してのことであったと、私は今改めて確信しております」


代わって再び、田守教授が登壇した。

「現在、フォッサマグナ各鉱脈で我々が観測したデータによると月の周期によるエネルギーの値の変動が確認されています」

代わって、クリスティーナ・ヘイズ。


「我が一族に伝わる古文書には、こうも書かれています、“マーニは、太陽と地球の間に月を置いた、月は世界の楔とならむ” この“楔”とは2つの物質を分割し、繋ぎ止めると言う異なる働きを同時に行うと言う意味に読み取れます、

月の周期が、多次元的な時空間の成り立ちと何らかの関係があると思われますが、それは明言できません、

ただ、既に起こっている事象から読み取れることもあります、

先週の豊洲での爆発、そして先日のホテルでの爆発は共に、原爆並みの質量のエネルギーの放出されています、それは限定的な空間の中で起こり、瞬時に収束しています、そして現在この本栖湖上空で不安定な状態のまま均衡を保っている高エネルギー体も然り、我々がその膨大な放射線の影響下にないことを鑑みると、既に時空の断裂が起こっていて、

この次元の宇宙におけるある種の崩壊が始まっていると仮定するのが妥当ではないかと…」


会場内は一斉に鎮まり返り、参加者全員がクリスティーナを見つめたまま固まってしまった。


「つまり、我々が崩壊の過程にあって、極めて不安定な状態と言うことですね」

と田守教授が付け加えた。


「そう言うことですね」

クリスティーナ・ヘイズは笑顔で大きく頷いた。


会場の隅に立っていたアイリスとスティーブは、それぞれ首をかしげながら、自身の(てのひら)をまじまじと眺めた。



つづく

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