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短編

転生令嬢になど、なりとうなかった。

作者: 382

 よく小説の設定であるのが、トリップだの成り代わりだの転生だの召喚だの。

 読んでる分には面白いよ。読んでる分に、は。だけど、自分は巻き込まれたくは、ない。


 パチリ。と、扇子を閉じる。

 チラ。と窓を見れば、自分の顔がガラスに映る。キレイなブラウンの髪、青い眼に白い肌。それとドレス。

 私…ウチの記憶が確かなら、ウチは地球という星で平成の時代を生きてた黒髪黒目で和顔の日本人だ。

 何か突出するような頭も才能も無く、山も谷も無い平凡な人生を送ってた。何年も前に卒業した学校の同級生にウチの事を覚えてるか訊いても、「あー、確かそんな人いた……ような、気がしないでもない気がする」くらいの存在。

 三十路突入して2、3年経って、……経って、何だっけ?その辺りが曖昧なんだけど、別に病気とか事故とかじゃなかった気がする。ああ、誰かに殺された。とかも違う。気が付いたら、何か違う自分になってた。


 今の自分を紹介するなら、名前はマリッサ・カーライル。4歳。

 中世ヨーロッパという言葉が似合う時代、貴族や奴隷という人種が存在し、剣と魔法が当たり前にあるこの世界は、ウチが知る地球のものとは大いに違う。

 そんな中、ウチは公爵という爵位を持つ家に生まれた令嬢…という立場。奴隷よりかは断然マシだろうけど、ぶっちゃけ貴族もメンドクセー事ばっかりだ。

 姿勢だの歩き方だのその他その他……頭の中は三十路越えたオバハンだから、言われる事に対して今更ァ?と思ってしまう感覚が強いこと強いこと。

 ゴロ寝させてくれや。ジャージ持ってこい。髪の毛切りたい。お姫さんも、楽じゃねーって話。

 出される食事も美味しいけど、たまにはモヌ食いたい。似たような物作ろうとしたら、エライ勢いで怒られた。お嬢様がそんな物食べちゃ、いけません。だってよ。お嬢様かてハンバーガー食いたいわ!


 何だっけ。ああ、そうそう。そんなウチも英才教育っつーんかな?勉強させられるんだけど、4歳で習う足し算引き算なんて簡単だし、文字も困らない。因数分解とかは忘れたけど、その辺になると学者先生ぐらいしか習わないらしい。お嬢様は足し算引き算掛け算割り算ができりゃ良いみたい。いや、それ以上勉強する他のお嬢様もいるけど、あくまでウチの家のお嬢様は。って話。ウチの娘は天才だ!なんて喜ぶ父と母の様子は、見ていて微妙やった。

 あとはマナー的な?礼の仕方とか、手紙の書き方。ウチ的に珍しかったのは国内の貴族の名前を憶えさせられるやつ。芸能人図鑑みたいなもん渡された時は、「個人情報流出乙」とか思った。

 そういや、さっき中世ヨーロッパみたいな時代って言ったけど、完全にじゃない。あくまで、似たような。な世界。

 文明があやふやなんだよな。カメラなんて無いのに写真があったりとか、録音機に似たものがあったりとか。あ、電話もあった。

 それらは実際には『機械』じゃなく、『魔法道具マジックアイテム』っていうやつらしい。電気で動く、ネジとか導線とかで構成されたものじゃなく、魔力で動く中身空っぽの箱。箱の大きさは戦艦ぐらいの大きさのものから、小さいのならキャラメルぐらいの大きさで、正方形ばかりじゃなく薄く平たいのがあったりと様々。『箱』として成り立てばいいみたい。

 その箱にカメラならカメラ、録音機なら録音機としての構築云々の呪文だか魔法陣?みたいなものを書いて、そこに自分の魔力を流せば、その箱はその役割を果たす……らしい。

 随分とあやふやだけど、仕方ない。

 その箱とやらはそれ専用の技術者が作らないと無いし、スゴく貴重でスゴくお高いらしい。

 だから、『箱』を持つのは一種のステータスらしい。

「らしい、らしい」ばかりだが、実感が無い。公爵という位に見合って、家中『箱』だらけだが、「そう」動くからあまり深く考えた事が無い。


 剣と魔法が当たり前にあると言ったが、剣はともかく、魔法は魔力を持つ者と持たない者とで分かれる。平民の中でも持つ者はいるし、貴族は9割が持ってる。

 勿論、ウチも漏れずに持ってる。

 最初は珍しかったけど、慣れれば便利な家電扱い。スマホだって車だって、最初はワクワクするけど、そんなワクワクいつまでも持ち続けてるわけないし。魔法だって同じだ。

 火、水、土、雷、物理、生活……等と、一応分類はされてる。けど、1人に1個しか使えない的な限定的なもんじゃない。前は一から構成構築して…だったけど、今は既に構築された『本』や『箱』を使う。魔力があれば、何でもできる。これもゆとりって言うのかね。

 ウチにとっては、一からタグとか入力してサイトを作るか、無料サイト作成会社のとこから借りてサイト作るかくらいの違いと感覚。もちろん、ウチは後者派。楽だもんね。

 つまりは、魔力持ってるなら『本』か『箱』持ってりゃ、誰でも魔法は使える。一から作って使う人は、一握りぐらいとちゃうかな。


 話は大分逸れたけど、まあこんな世界の別の自分になったウチ。

 そんなウチがいる世界は、乙女ゲームの世界らしい。何でそう思うのか?ウチの世話係である侍女のリアがそう言ったからだ。

 リア曰く、この世界は世界的有名漫画をパロディにした【君へ贈る花の名は】という乙女ゲームだという。

 そのゲームは剣と魔法の世界で、平民ヒロインの類まれなる魔力と今までの常識を覆す新しい魔法を作っていく。そんなヒロインはある男爵家へと養女として入り、貴族も平民も(建前上)平等の名の下に作られた学園にやってくる。

 そこで王太子やら騎士団団長、宰相とかの子息という相手に恋愛していく的なテンプレ内容。

 リアはタナカ ハナという女子高生だったらしく、このゲームもプレイしていたそうだ。

「ていうか、私も原作もゲームも好きなんですよ!でも、あのゲームのヒロインは画面越しだから許容できるというか、もし自分がヒロインだったら絶対放棄するレベルなんです!でもモブだったから、マジ良かったー。マリッサ様…サヤさんもモブなんですけど、あの学園に行くんですよね?私も世話係としてついて行きたいです。直でヒロインと攻略対象達見たいんです!主に好奇心と怖いもの見たさ感覚で!」

「……はあ」

 ペラペラと侍女にあるまじき言葉遣いと勢いでくるリアに、引き気味になる。

 最初は侍女として普通だったのに、マリッサが自分と同じだと分かった途端に砕けた。乙女ゲームだのヒロインだの攻略対象だの、した事の無いジャンルのゲームの事を言われても、「?」が乱舞するだけ。

「あー……まあ、シンデレラ的な話?」

「ちょ、シンデレラって!サヤさんメルヘン!マジウケる!」

「剣と魔法の世界自体がメルヘンなのに」

 歳が違えば、感覚も違うんかね。


 でもまあ、ウチはどういった経緯にせよ、若くなってこのセカイにやって来たことがちょっと嬉しかったり。

 年取れば、行動範囲は狭くなるし、やる事もやる気も無くなる。スマホ越しに得られる情報で満足し、何もかもを知ったつもりでいた。時間ばかりが過ぎていくあの世界は、ウチにとっては「つまらない」と言いたくなる世界だった。このまま、歳を取っていくのが怖かった。

 正直、魔法だの異世界だの、ファンタジー色が強いこのセカイは、元の世界に居れば「どうせ」感覚で終わらせられるものだった。

 それが、現実にここにいる。自分の中で無くなったかと思っていたワクワク感。

「なあ、その乙女ゲーム?とかいうのは、14になってからやっけ?」

「はい。ヒロインが編入してくるのが、14になってからですね。あと……--」

 ノックの音で、会話が遮られる。

「やべ。鬼マイヤだ」と、リアは先ほどまでの気安さを消し、見事侍女になりきる。その変化に僅かに感動しながらも、マリッサは「どうぞ」と、返した。

 入ってきたのは、見事な動作で礼をするマイヤ。この屋敷で侍女頭を務める女性だ。

 リアが「鬼」と言うように、他人に厳しく、自分にもっと厳しい彼女は、マリッサの中で苦手カテゴリに分類されていた。


「旦那様がお呼びです。その前に、着替えていただきます」

「ええ。わかった、わ」

 一日の内、何度も行われる着替え。これも、マリッサの中では嫌気がさすほどのものになっていた。前世の記憶がある分、嫌気はこれでもかと上がる。

 それでもこの侍女頭の目の前で嫌そうな顔をすれば説教されるのは解りきっていたから、大人しく従う。

 関西弁でも使おうものなら、一日がおしおき部屋の中、言葉遣い講座で消える。だから、自分の中にあるお嬢様が使いそうな言葉を標準語に変換し、口にする。ぎこちなさは勘弁してほしい。これでも努力してる。(つもり)

 何が「ええ。わかったわ」だ!ケッ。心の中で終わらぬ悪態をついていれば、いつの間にか着替えは終わり、父親自慢の庭園に連れてこられた。

 そこで待っていたのは、父親だけではなかった。


「ああ、来たね。さ、マリッサ。ご挨拶しなさい」

 緩く髪を後ろに撫でつけ、ちょび髭を生やすおっとり系の父親。その父親が紹介する目の前の人物は、この国の王とその息子。第二王子だった。

「お初にお目にかかります。マリッサ・カーライルと申します」

「うむ。幼いながら、見事。将来が楽しみであるな。オーウェン」

 王様が礼を見て褒めてくれるが、正直後ろに控えているマイヤが怖いから、ちゃんとしているに過ぎない。

 後ろを向いていても分かるマイヤの眼力!いやそれは置いといて、どうやらこの同い年の王子の遊び相手にウチが選ばれたらしい。……何でや!

 子どもとはいえ、王族相手に本性も出せない。しかし断るなんてこともできないから「はい喜んでー」と、どこぞの居酒屋の返事よろしく、表面上にこやかに、しかし心の中では「嫌だ嫌だ嫌だー!」と、駄々こねる。

「それじゃあ、後は子どもたちだけで……」と、見合いの席のように大人たちは消える。とはいっても、目に見える所に騎士はいるし、侍女もいる。


「さて、何をして」

「ブス」

 にこやかに対応しようとしたウチに、そう言い捨てたのは、目の前の王子。

 最初は、何を言ったかわからなかった。徐々に脳にその単語が沁みこんだところで、「ああ゛?」と、心の中の鬼が目を覚ます。けど、それを顔に出さなかったウチを褒めてほしい。

「どこに連れて行かれるかと思えば、カーライルの家とはな。『鉄壁』と評されるオーウェンに剣術指南をしろと言いに行くのかと思えば、まさかその娘の遊び相手とは。父は何を考えておられるのか。しかも、こんなつまらなさそうな奴」

 心の中の鬼の角や牙がどんどん大きくなり、これでもかと顔は険しくなる。元より筋骨隆々だった体は更に大きくなり、金棒を握る。…怒りの上がり具合を例えるなら、こんな感じか。


「……ぅるっせェな。ケツの青いガキの相手させられるこっちの身になれや。おどれに「つまらん」評価される覚えは無いわ。気に入らんのやったら、とっとと去ね」

 こっちの方が精神年齢高いとか、王族相手に本性とか、そんなん関係あるけどあらへん。

 顔はにこやかに、しかし王子にしか聴こえない程度の声量で言ってやれば、最初はポカンとして、次に顔を真っ赤にして怒り出した。

「何や。ケツの青いガキ言われて怒ったんか?ホンマの事や。今やったら赤ちゃんみたいに大きな声で泣いて喚いたら、大人らが来てくれるで。そんで怒ってもらったらええやんけ」

 何か言おうとしたのを遮り、そこまで言ってやれば今度は口を噤む。「赤ちゃんみたいに」という言葉が効いたのだろうか。

「それがお前の本性か?」

「お前がブス言わんかったら、着ぐるみレベルで猫かぶったったのに。ええで、はよ帰れや。ウチはアンタに構っとる時間があるなら、魔法勉強したいんや」

「魔法?」

 怒り顔から、ニヤッと顔を歪ませたかと思えば、「なら魔法勝負だ!」と、挑んできた。だから何でや。

 どうやら王子も魔法を勉強しているらしく、兄弟の中では一番の魔力とセンスを持っているらしい。小さく細い指にはめられた指輪…の宝石を『箱』として、魔法を行使するようだ。


「マリッサ、何をしている!?」

「またお前は……ッ!」

 騎士から報告を受けたのか、王とオーウェンがやってくる。王の言葉から、王子がこういった問題を起こすのは常らしい。

 子どもたちの間に入ろうにも、王子が展開する結界魔法に阻まれている。

「勝負方法は、自分が持っている中で一番強い魔法を出す!」

「まあ、分かりやすゥてええけど」

「いくぞ!」

 王子が中指に付けた指輪を一撫ですれば、そこから竜を模った炎が勢いよく出てくる。それは真っすぐ、勢いよくマリッサの方へと向かう。

「馬鹿者!やめぬか!」

「マリッサ!」

 王とオーウェンがそれぞれ魔法を行使する直前、マリッサは自分のネックレスを炎の竜に向かって投げつける。そこから出てきたのは風でもなければ水の魔法でもない。


「何をなさっておいでですか!マリッサ様ァ!!」


 竜よりも大きなマイヤの映像、渾身の一喝。その勢いは炎を一気に消し飛ばし、王子を圧倒した。王子はそのままペタンと座り込み、腰に手を当て、仁王立ちして睨んでいるマイヤを呆然と見ている。信じられないが、映像と音だけの筈のそれは、確かに王子の炎を上回ったのだ。

「あーっはっはっは!超ダッセェ!あれだけ自信満々やったのに、腰抜かしてけつかる!」

 4歳児とは思えない高笑いとゲス顔に、誰も反応できず、何も言えない。


「マリッサ様、お話があります」

 声の主が誰か、その人物がいる事に気付き、マリッサは高笑いしたままの体勢でピシリと固まる。チラ。と、後ろを見れば、マイヤが静かな笑みを浮かべてこちらを見ている。

 ゴゴゴ……と、背景文字を浮かべるでもなく、暗黒微笑を浮かべるでもなく、ただ静かに笑っている。

「マイヤ、ごめんなさい」

「ちゃんと謝れる事は悪いことではありません。が、マリッサ様が反省はしておられない事、マイヤは分かっております」

 やっべえ。バレてーら。

 確かに反省はしていない。アホ餓鬼に適した対応をしてやった。と、マリッサは思っている。

 見た目は幼女が小さく可愛らしく逆に守ってあげたくなるような感じで、ウルウル目で謝っているのに、マイヤに通じてないと解ると心の中で舌打ちした。

 オーウェンが「可愛いマリッサ!私は許すよ!」なんて言ってくれているのに、マイヤが「旦那様!お嬢様を甘やかさない!」なんて睨んでいる。

「今日はおしおき部屋で、反省なさってください」

 マイヤに抱っこされてしまえば、もう逃げられない。頬袋に食べ物を詰めたリスの如く頬を膨らませるマリッサは、未だに尻餅をついたままの王子に向かって腹立ち紛れに舌を出す。まあ、それもマイヤにバレて尻叩きも食らってしまったのだが。



 ◇◇◇◇



「ゲームより、サヤさん見てる方が面白い」

 そんな事を言ってリアがやっぱり傍にいる事になり、互いに友達感覚で付き合うようになるのに時間はかからず、リアが言うゲームが始まり、これまたマリッサ達と同じように転生したヒロインが学園にやってきても、散々マリッサで女の裏と表の顔を見てきた王子たちが転生ヒロインのゲーム通りの演技に騙される事はなく。

 焦れた転生ヒロインが魅了の魔法を使い、攻略対象達を篭絡していき、ゲームの最終場面の婚約破棄に至らせた。が、


「リリアーナ・マクベス!お前との婚約を破棄する!」

「よっしゃああああああァァァ!!」

 王家主催のパーティで、魅了された王子達が己の婚約者たちに婚約破棄と断罪を行おうとするも、ゲーム通りに進むなら、こんなアホらは捨てたらええ。と、マリッサに感化されたリリアーナは、淑女にあるまじき声を出し、渾身のガッツポーズを見せる。

 見た目は儚げ系美少女であるリリアーナの言動に周囲の反応は様々。

 以前からマリッサと親交があったリリアーナは、見た目通りの気弱な性格をしていた。ゲームでは、気弱だが大好きな王子を取られたくない。と、他人を動かしたり最終的に自分が動いたりとヒロインに嫌がらせをする悪役令嬢の立場だった。

 しかし現実では、気弱はそのままで、何の行動も移すことができない彼女。そんな彼女に手を差し伸べたのは、マリッサである。

「国の為とかゴチャゴチャしたもん、いっぺん切り離してよォ、シンプルに考えてみィや」

 グジグジ考えていたリリアーナは、素直な娘でもある。言われた通り自分は王子の事、本当に好きなのかしら?等と考えてみた。その時、ヒロイン達を囲む王子たちを見て、何だか分からないがスッと冷めた。あれだけ好きだった筈なのに。

 それから、同い年なのにリリアーナはマリッサの事を「お姉さま」と慕い始めた。男より男らしく、自分と違ってキッパリハッキリ言える態度や、ああ言えばこう言い返す切り替えの良さ、自分が持っていないものを持つ彼女に、リリアーナは夢中になってしまったのだ。

 ゲームではリリアーナの取り巻きという立場である彼女らも、宰相や騎士団長の息子の婚約者なのだが、リリアーナと同じくマリッサを慕うのに時間はかからず、自分を慕ってくれる彼女達を無下にもできずマリッサは彼女らを色んなことから庇い、面倒をみるようになる。


 王子たちが婚約破棄&断罪する頃には、既に両家とも破棄の流れにいっている段階まできており、マリッサにとって王子たちの行動は「おっせーんだよ、愚図」と言いたくなるほど。コテンパンに王子たちや転生ヒロインを口撃して精神的に叩きのめし、大人(保護者)達を使い、強制退場させた。

 婚約破棄騒動の後、マリッサを慕う女生徒達が急増。王子たち相手に毅然と立ち向かう彼女の姿は、令嬢達の間で『白椿の君』と言われるほどに。ちなみに、白椿はカーライル家の紋章に描かれている。本人はそう呼ばれる事に、些か痒い思いをしているようだ。


「サヤさん、知ってます?」

「あ?」

 学園を卒業し、結婚もせず家にいるマリッサは気ままなプー子生活を謳歌している。

 リリアーナ達は新しい婚約者と結婚。早い者は子どもまでいるらしい。

 今でもマリッサを慕う彼女達から色んな相手を勧められるが、前世でも独身だったマリッサは、もう今世でも独身で良いんじゃないかと、まだ10代の年齢でそんな事を思っている。

 マイヤはマリッサが学園に入る頃に結婚。仕事も辞めてしまっため、今は手紙だけのやり取りになっている。その事に少し寂しさを感じるが、戻ってきて欲しいか?と訊かれたら、「NO.」と即答するだろう。

「この【君へ贈る花の名は】ってゲーム、結構人気あって、続編とかファンディスクとか出てるんです!」

「へー」

「続編は、隣国の皇子とか、さすらいの傭兵とか男の種類も豊富で、オススメなのがこの帝国の王子なんですけど……--」

 興味はないが、リアが興奮しだしたら余計な口は挟めない。と、マリッサは当たり障りなく返事をする。

「そうそう!それで今度、その帝国から王子が来るんです!」

「は?何で?」

「パーティに呼ばれるからですよ!」

「ふーん」

「ね。サヤさん」

「言うとくけど、行かんで」

「ええええええェェ!?」

 どうせ面倒くさい事になる。と、行く気の無いマリッサを引きずってでも連れて行くと言うリアの勢いと行動は素晴らしく、あれよあれよという間に着替えさせられ、王城の入口まで連れてこられた。

 早速壁の花どころか中庭に逃げ出すマリッサは、己の選択を間違えた事に気づく。

「お前は?……ああ、知っているぞ。『白椿の君』と呼ばれているだろう?」

 月夜に照らされる男。それがリアの言っていた帝国の王子とは知らないマリッサ。

 この出会いが後に、勝手に婚約騒動や、騙してご招待(誘拐)騒動、更にはこの世界の真のヒロインは自分だと主張する転生ヒロイン連合の襲撃騒動等が起こるフラグとなる。それを予知できたのは、「サヤさん、ナイス!」と、木陰でサムズアップするリアだけなのだから、救いようがない。



(ある意味、リアが1番美味しい思いをしている)


登場人物

【マリッサ・カーライル】

前世は三十路越えの関西弁干物系女。

好きに生きるのが、何より大好き。

恋愛フラグは立つものの、知らずに粉砕するクラッシャー要素と、周囲から良い方向に勘違いされる系のタイミングと思考と言動を持つ。

将来の夢は、気楽なプー子生活を送りたい。

【リア】

マリッサと同じく転生してきた。

乙女ゲーは好きだけど、今は現実で起こってるマリッサを中心とした騒動を離れて眺めたり、一緒に巻き込まれて騒動を眺めるのが大好き。

「楽しけりゃ、全て良し」がモットー。

【マイヤ】

見た目は●ッテンマイヤ先生。ハメを外し過ぎるマリッサも、その彼女を甘やかす父親も頭痛の種であるが、嫌いではない。

【オーウェン・カーライル】

公爵家当主。親バカな一面もあれど、剣を持てば何人たりとも王に敵を近付けない技量と功績を持つ為、『鉄壁』と称される。でも普段は親バカ。

【王子】

乙女ゲーなら、メインヒーローに位置するが、マリッサの存在が大き過ぎて霞んでしまった。元々現実では残念な性格をしているので、むしろ当て馬の噛ませ犬的な立場に押しやられる。

婚約破棄騒動の後は、廃嫡され平民にされ転生ヒロインと強制的に結婚させられたらしい。

【リリアーナ・マクベス】

乙女ゲーでは、悪役令嬢の立場にある。

儚げ美少女な見た目と中身だったのに、マリッサに関わった事で、口調やら考え方やらが感化されてきている。今では残念系美少女と化す。

【転生ヒロイン】

ありがちな「私がこのお話のヒロイン!」を軸にした人間。婚約破棄騒動の後は元王子と結婚させられたが、むしろこの元王子目当てだったから、いんじゃね?と、最初は思っていたが、平民になっても王子感覚が抜けない男に、徐々に冷めてきている。

【転生ヒロイン達】

続編、ファンディスクに登場するヒロイン。全員転生者。

全員が、我こそは真なるヒロインという考え方の持ち主で、そのメインヒーローを狙っている。自分の邪魔をする(つもりは無い)マリッサを悪役令嬢と見なし、ヒロイン同士で連合を結成した。

【メインヒーロー達】

続編、ファンディスクでのメインヒーローの位置にある者達。

王子だったり、傭兵だったり、吟遊詩人、魔人、奴隷等と幅広くある。自分たちに迫るヒロイン達を恐れ、それに対抗できるマリッサをウッカリ好きになったり、盾にしたりと、マリッサにとって疫病神な連中。

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