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完璧男子に類なし school festival 後編

まだ執事喫茶の名残を残している、電気もついていない教室。

俺はそこでぼーっと外を見ていた。


外からは、特設ステージでやっているライブの音が聞こえてくる。

生で見たいとも思ったけど、

さっきのことがあったし、人が多いところには行きたくなかった。


人前に出れば、「彼女と熱烈なキスをしていた男子」という目で見られるからな。



あのとき、瀬戸はどう思っただろう。


もしかしたら、何も思わなかったのかもしれない。

いや、そうに違いない。


むしろ、いい気味って思ったんじゃないか。

いつも瀬戸を乱暴に扱ってる俺が、逆に乱暴に扱われていたんだから。




「あ・・・」


小さな声がして、振り向く。

この声はおそらく・・・


「・・・瀬戸?」

「・・・・・・うん」


瀬戸は教室の中へ入ってきた。

近づいてようやく月光が瀬戸に当たる。


「俺に用?」

「あ、いや。ちょっと・・・・・・一人になりたくて」

「そっか。じゃあ俺は別んとこ行くわ」

「・・・・・・」


なぜかわからないけど、ちょっとだけ気まずい雰囲気がして、

俺は教室を出ることにした。


さっき屋上も人がいたんだよな・・・

さて、どこに行こうか。



「・・・た、橘!」


突然、瀬戸に大声で呼ばれる。

思わず足を止めた。



「なに?」

「・・・・・・して」

「あ?」

「・・・っ!」



瀬戸が俺にぶつかるくらいの勢いで近づいてきて、

顔を近づけてくる。



・・・・・・馬鹿野郎!



「っあ!」


俺が突き飛ばした拍子に、瀬戸の身体はテーブルにぶつかり、地面へと倒れる。


「おい、大丈夫か!せ――」


慌てて瀬戸を起こそうとして近づくと・・・


「・・・っ、ふ」

「お前・・・・・・どこか打ったのか!どこが痛い?」

「ちが、ち・・・がう」

「じゃあなんで泣いてんだよ!打ったんじゃなくて切れたのか?」

「っ、なんで・・・」

「あ?」



「なんでキス・・・してくれないんだよ!」



瀬戸の、涙ながらの叫び。

それは俺の胸を抉るには、十分だった。


「瀬戸・・・」

「あ、ち、違う!ごめん、違うんだ」

「は?」

「嘘。今の忘れて!そんなこと、思ってないから」



おかしい。

明らかに様子がおかしい。


瀬戸が顔を背けているのが、なによりの証拠だ。

何かを・・・・・・隠してる。


瀬戸を押し倒している形になっているこの体勢。

無理やり犯してでも聞き出すか・・・



「お、俺の、方が・・・場所、変えるね」

「瀬戸」

「え?」




俺は、瀬戸の身体を起こして、ぎゅっと抱きしめた。

こいつは頑固だから、きっと犯しても口を割らない。


それなら逆に、こっちが口を割ろう。


そうすればきっと・・・瀬戸も話すだろうから。



「・・・ったく、強引に唇奪おうとしてんじゃねーよ。やってること、あの女と同じだぞ」

「・・・・・・たち、ばな」

「あいつとは行きずりでできても、お前とはできねぇんだよ。

 だから・・・ちゃんと俺がしたくなるまで、待ってろ」

「でも・・・」

「いいから待ってろって!そ、そんなに・・・遠い未来の話じゃないから」

「・・・・・・・・・」


ぎゅっと抱きしめながら、頭をなでる。

暗いし、顔見えないようにするために抱きしめたから・・・

少しだけ、素直になれる。


少しだけ、瀬戸を甘やかしたい気になる。



「・・・ふ、ぅ、た、たちばなぁ・・・」

「あーもう泣くな!うぜぇから」

「ちが、違うんだって!俺・・・どうしたらいいか、わかんなく・・・って」

「はぁ?わかんねぇのはこっちだ!・・・なした?」

「あの、あの子が・・・あの子が・・・っ」


あの子?

小泉のことか?


「あの子が、橘のこと・・・名前で呼んだ。橘と学校祭・・・一緒に見て回った。

 橘とキスした。橘と、橘と・・・」

「瀬戸・・・」

「そう思ったら、あの子が嫌で、ムカついて、でも羨ましくて・・・

 あの子に何かをされたわけでもないのに、そんなこと思うなんて俺・・・どうかしてる」

「・・・・・・そういうことか」


馬鹿だ、こいつは。


学年1位のくせに、

その感情を言葉で表すことができないなんて。


「ふ、ううっ、俺、俺・・・酷い人間だ」

「・・・そうだな。お前は酷いな。知らなかったのか?」

「っ!」


瀬戸と少し距離をとり、顔を両手で挟む。


「お前は酷くてずるくて、馬鹿で鈍感で、淫乱でどエロで、頑固だけど弱くて・・・」

「う・・・っ」

「あんな女に嫉妬して」

「え?・・・しっ・・・と?・・・・・・あ、あぁっ」


瀬戸は固まっていたけど、ようやく気づいて赤くなる。

まったく、馬鹿すぎだ。



「俺の知ってるお前は、全然、完璧男子なんかじゃねーよ」



そう言って俺は、瀬戸の右手を取る。

・・・・・・そっと甲に、キスをした。


「俺だけが知ってる・・・お前は、な」


本当に瀬戸は馬鹿だ。

何を嫉妬する必要があるんだ。


こんなに・・・・・・身体も心も愛してやってんのに。



「・・・はは、そうだね、橘」


ようやく笑顔を見せた瀬戸を、

俺はもう一度強く、抱きしめた。




「つーかお前さ、バカな女どもと写真撮りすぎ」

「し、仕方ないだろ、みんなが決めたイベントなんだから」

「瀬戸、学祭終わったらあの執事服着てうち来い。たっぷりしてやっから」

「ええっ」

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