完璧男子に類なし school festival 前編
校内が見知らぬ男女で入り乱れている。
それが、学校祭。
うちのクラスは、どこのバカが提案したのか忘れたが、
「執事喫茶」なるものだった。
そしてその執事の中でも、一番人気があるのが・・・
「瀬戸くん!私と撮ってください」
「私ともお願いします!」
「はいはい、1000円札を用意して、ちゃんと並んでくださいねー」
瀬戸涼太(執事コスプレ済み)との写真撮影会だ。
教室の中には煌びやかなイスがあって、
そこに瀬戸は座っている。
その隣に次々と女が来て、ツーショット写真をとる、というわけだ。
もはやアイドルだな。
ツーショット写真を撮りたいという女たちの列は教室の外まで続いていた。
廊下を歩く人たちが、何事かと見るほどだ。
さらに執事喫茶の「喫茶」の部分も忘れていない。
俺を含めた数人が店員となり、動いている。
が、そのお客のほとんどが、瀬戸とのツーショットブースを見ている。
「しっかし、本当にすごいよなー瀬戸のやつ」
「うちの女子はもちろん、他校の女子も来てるからな」
「1000円じゃ安すぎたか。1500円にすればよかった」
「先生に怒られるぞ、それは」
確かに他の執事の言うとおり、瀬戸は凄かった。
朝からろくに休みもとらずに座っていて、
ちゃんと笑顔も作っている。
「・・・・・・」
俺はトレイを持ったまま、瀬戸に近づいた。
「おい瀬戸」
「あ、なに?」
「調子に乗るなよ。顔、ブサイクになってきてるから」
「・・・ごめん」
その発言が聞こえたのか、列になっていた女子たちが悲鳴をあげる。
「なになに!?なんなのそれ」
「瀬戸くんよりあんたの方がブサイクじゃない!」
「近づいてまで言うこと?サイテー」
「・・・・・・うるせぇ」
さらにその一言で、女子たちが怒りの悲鳴をあげる。
「なにあれ、ありえないんだけど!」
「あいつ、万年2位の橘大悟だよ!瀬戸くんに嫉妬してるんじゃない?」
「やだーみっともない」
・・・聞こえてんだよ、バカ女ども。
「休憩、行ってくる」
クラスのやつらにそう言うと、俺は教室をでる。
ここにいても女子から蔑みの目で見られるだけだからな。
「あんなやつと一緒のクラスなんて、瀬戸くんかわいそう」
「そう?あたしは嫌いじゃないけど」
「え?マジで言ってんの?沙綾」
「うん。むしろ・・・・・・好きかも」
俺は屋上に来ていた。
ジャケットを脱ぎ、白手袋を脱ぐ。
執事の格好というのも、なかなか堅苦しい。
しばらくここで涼んでいこうかと考えていると、
ポケットの中の携帯が震えた。
相手は、瀬戸だった。
―今、どこにいる?―
―屋上―
そのやり取りの数分後に、瀬戸がやってきた。
「お疲れ」
「お疲れ様」
「よく抜けられたな」
「朝からずっとだから、10分だけ休んでもいいって」
笑顔で挨拶する瀬戸。
こういうときくらい、笑顔を作らなくてもいいのに。
ま、無意識なんだろうけど。
瀬戸は、フェンスに寄りかかっている俺の横に来る。
「高いところダメなんじゃねーの?」
「なんか・・・橘に色々されたら、慣れた」
嘘つけ。
極力下を見ないようにしてるくせに。
そんな瀬戸は、ポケットからパックのジュースを取り出して、飲む。
「このジュース、ありがとう」
「・・・・・・おう」
そのジュースはさっき瀬戸に近づいたときに、周りに気づかれないようにポケットに入れてやったものだった。
俗に言う、差し入れってやつだ。
「い、今ヘトヘトになって、夜なにもできなかったら困るからな。ま、それでもヤるけど」
「・・・・・・なにもしないくせに」
「あ?」
「あはは、なんでもないよ」
瀬戸は笑いながら言う。
俺の気のせいかもしれないけど、その笑顔は
バカな女たちの前で見せていた、ガチガチの笑顔とは・・・少し違った。
どこがどうとは説明できねぇけど。
「あーいたぁ!」
そのとき、屋上のドアが勢いよく開いて、
仁王立ちの女が現れた。
見たことのない女だ。
「ここにいたんだね。探したんだよ!」
元気のいいその女は、ズンズンと瀬戸の方へ歩いてくる。
おそらく、集団の中の一人じゃ気がすまないという、
特別視してもらいたいという女なのだろう。
ここで瀬戸と写真を撮れば、
「みんなは教室でだけど、あたしだけは屋上で撮ったもん!」って
自慢できるからな。
「一緒に学校祭、回ろう!大悟!」
・・・・・・ん?
今こいつ、なんて言った?
「お、俺!?」
「そだよー」
「・・・橘、知り合い?」
「知らねーよ!つーか誰だよお前」
「あたし?」
女は少し距離を取り、敬礼のポーズで言った。
「N川高校2年、小泉沙綾!」
・・・うざい。
「以上!自己紹介終わり!さぁ行くよ、大悟!」
「ちょ、待て、引っ張るな!っていうか、名前で呼ぶな!」
俺は強引に、小泉に引っ張られる。
苦笑いをしている瀬戸を置いて、
無理やり屋上を後にすることになった。