忘碧の天使
勿忘草の色という色が綺麗だったので…。
天使の羽は勿忘草色です。
髪は青みがかった白銀。瞳は薄藍です。
つまりこうです。髪の色+瞳の色=羽の色
実際に色は作ってないので分からないのですが素人が勝手に考えたんです。ご容赦ください。
王都の人々が祈りにくる教会。
色とりどりのステンドグラスから虹色の光が刺す祭壇の下には地下に降りる階段がある。
広い空間の中央にその少女は括り付けられていた。
特殊な鎖で動きを封じられた少女。
その背中には薄く青みがかった白い大きな羽が生えている。
羽に痛々しくくい込んだ鎖は彼女が息をする度にギシリと音を立てた。
少女が頭を垂れたその下には碧い石が山を作っていた。
大きなものもあれば小さなものもある。色も紺に近いものもあれば緑に近いものもある。
ごく僅かに黄色や赤も混じっている。
そんな少女は今日も謳う。
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最近王都にはこんな噂がある。
曰く、大聖教会の地下には天使がいる。
曰く、天使の歌を聞くと幸せになれる。
曰く、天使が泣くとその涙が宝石になる。
曰く、天使に会えたなら祝福される。
曰く、天使は欲に駆られた人間に閉じ込められた_______
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天界では、次々と悪いことが起こり始めた。
大天使達は少女のSOSであると分かっていたが、主である神から許可が出ないので救出に迎えないのだった。
天使は仲間意識が強い。生まれにくいのもあり、成人していない天使には皆優しい。天使達は困惑した。何故主は許可を出さないのだ?と。
大天使達は焦れていた。何故許可が降りないのかと。
部下の天使達を抑えきれなくなり、もう少しで暴動が起こる…という所で神から許可が出た。
そして、大天使達にのみ伝えられた事があった。それは、彼女は"調律の天使"なのだと。
そしてこれは、神の意思ではなく。世界の意思だと。
彼女を失えば世界は徐々に蝕まれていくだろう、と。
いよいよ強い天使を伴って下界へ降りた。探すべき場所は分かっている。
そして、罰するべき人間も。
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「おい!天使が来たぞ!!」
「天使?!」
「ほ、ほんとだ!」
「ああ、天使様。」
と教会の外にいる人間は天使を見てざわついた。
教会の中から出てきたシスターは膝を付き手を組んで祈り始めた。
あとから足を縺れさせて出てきたのは肥え太った牧師の男。彼は顔面蒼白で汗を垂らしていた。
男女の天使が次々と降り立っていく中、颯爽と教会へ向かう銀髪の天使がいた。その後ろの赤髪の天使は慌てて言った
「おい、ギベオン!」
「分かっている。だが、妹をこんな目に合わせるなど許せるはずがない。」
「まあ、そうだな。…やりすぎるなよ。」
黙って頷き、歩き出した銀髪の男の天使に赤髪の天使は苦笑して付いて行った。
「て、天使様!」
脂汗を垂らした牧師の男が進み出た。
「ど、どのようなご要件にございましょう。」
酷く冷たい目で見下ろしたギベオンは最後のチャンスだとばかりにこう言った。
「お前が一番分かっているだろう。罪を認めよ。」
「わっ、私には…毎日神に祈りを捧げております…後ろめたい事など…」
「罪を認めぬというのか?」
「ヒィッ!!」
牧師はガタガタと震え始めた。だが、何も言おうとはしない。
諦めたように溜息を付いたギベオンは言った。
「では、ここにいる人間達が証人となれ。」
ぐるりと人間を見渡したギベオンは1人のシスターが頷いたのを見て片手を教会の床に向けた。
「(崩壊)」
サラリと床が砂になっていく。
そして崩れた床の下に見えたのは
美しく大きな羽を鎖で縛られ、また体も鎖で縛り貼り付けられた美しい少女。
彼女の下には碧い宝石が小山を作っていた。
人間達がざわめき、シスターの中には意識を失う者もいた。
そして、ギベオンに頷きかけたシスターは牧師を殴り倒していた。
だが、咎める人間は何処にもいない。
ギベオンは羽を広げて少女に向かって降りていった。
ゆっくりと顔を上げた少女は助けが来たことに驚いているようだった。
「兄、さま…」
「今すぐ解いてやる。」
鎖に手をかけるとバチィッッ!!と弾かれた。
「クソッ!こんな物で縛りやがって!!」
「天使様。」
上を見上げると牧師を殴り倒したシスターがこちらを見ていた。
目が合うとシスターは言った
「私達に解かせてくださいませ。」
「…頼む。」
ふわりとシスター達を風で浮かせて地下に下ろす。
彼女達は地面に足がつくと直ぐに鎖を解きにかかった。だが、すぐに倒れ込んでしまうシスターが出てきた。
眉をひそめたギベオンの隣にスピネルが赤髪を揺らしながら降り立った。
「おい。なんだこの鎖は」
「どうやらさ、天使からは自由を。人間からは生命力を奪う物らしいよ。」
「誰から聞いた。」
「上に残ってたシスターに。まあ、彼女もおそらくと言っていたからちゃんとした性能は分からないけどね。」
「そうか…おいシスター。離れろ。」
シスター達が鎖を解くのを止めて離れた壁際に避難したのを見届けて拘束された少女に掌を向けた。
「(破壊)」
バキィンと音を立てて鎖が千切れた。
「なんだ、こっちは効くのか。」
よろよろと羽をはためかせて降下したてきた少女を抱きとめ回復をかける。
緩慢に瞳を開いた少女は弱々しく
「あの、石をアイツに、使わせたら…だめ。お願い、します。早、く…」
「分かった。今は俺が持っていよう。それでいいな?」
こくりと頷いた彼女は深く息を吐いた。
彼女を壁際に座らせ、石を集め圧縮し始めた。触れると分かるのだが、この石一つ一つにとてつもない力が詰まっている。驚愕しながらも全て圧縮し終わると全部で3つの玉になった。その玉は全体的に透明な青なのだが、色が変わっているようだった。それを持って彼女の元に戻った。
戻って来たギベオンを見て言った
「さすが兄さま。その方法がありました。…それを一つ、持たせてください。」
言われた通りに玉を一つをたせてやると、鎖の跡が痛々しく残っている腕を持ち上げて
「(罪人には罰を。抗いし者には祝福を。)」
碧い石が彼女の手の中でパァンと弾けて、碧い光が空に放たれ、砕けた玉の欠片が風で舞い上がり、散らばっていった。
そしてもう一つ受け取ると危なっかしく立ち上がり、シスター達の方に歩んでいった。
「天使様!この度は真に申し訳ありません!!いかなる罰もお受け致します。」
と、膝を付いた。少女は目を細めて言った。
「いかなる罰も、といいましたね。」
「はい。いかなる罰もお受けします。」
「では、これを貴女に託します。これは、とてつもない力を秘めています。また、心清き者や生まれてきた子供に祝福を与える物です。貴女になら預けられます。そして、貴女がいなくなる時にまた、預けられる者に渡してください。」
位の高いシスターは目を丸くし、涙を零した。
「そ、そのような物は私にはとてもとても…それに、罰には足りないと思います。」
「いいえ、これが罰なのです。私の代わりに祝福を与えてください。そして、己を律し常に己に正しくあること。いいですね?」
シスターの涙が目尻に落ちていく。
「お受け、致します。」
彼女の両手に玉を乗せると、ふらりと少女は体勢を崩した。
「キャア!!」
「天使様!!」
シスター達が悲鳴を上げた。
と、ギベオンが抱きとめた。シスター達はホッと息をついた。
「すみません…兄さま。大丈夫だと思っていたのですが…心配しないでください。体は丈夫なので。」
と銀髪の天使に支えられながらシスターに微笑みかけた。
「では、お願いしますね。」
バサリ、と銀髪の天使は少女を抱き上げ、一際大きな羽を広げて舞い上がった。
それを合図にほかの天使も羽を広げて次々に舞い上がっていった。
残ったのは、天使達の抜け落ちた羽と少女に託された玉。
「……あの碧い天使様は、心優しい方でした。ですが、恐らく他の天使様は私達にもっと重く苦しい罰を与えたでしょう。」
後ろに控えていた天使やこちらを上から見下ろしていた天使達は殺気とも言える感情をこちらに向けていたことに彼女は気づいていた。
ゆっくりとシスターは告げた。
「あの天使様に託されたのです。」
ぽつりと落とされた言葉はいろいろな思いが詰まっていた。
「さあ、皆さん教会の建て直しからです。シスター達は天使様の羽を集めてください。この玉と一緒に保管します。」
と、足元の青みがかった羽を拾った。
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碧い天使の祝福のおかげでこの国は平和で豊かになったと言われている。
碧い天使は"忘碧の天使"と呼ばれるようになった。
罪を、託された思いを忘れないように。という願いが込められている。
だがそれとは別に、国の一握りの者達だけが知っている真実がある。
後日、大天使が3人降りてきたのだ。そして少女が託した玉を見せて欲しいと頼んできた。
シスターは黒い箱にあの日集めた羽と共にに収められた玉を見せた。
すると、大天使達は揃って顔をしかめた。
保存方法が悪いのだろうか、と心配になるシスターと王様達。
すると緑の髪の大天使がこう言った。
「この玉の力を知っておいて欲しくて…この玉で何が出来ると思いますか?」
シスターと王様達は揃って顔を見合わせた。そして、おずおずとシスターが口を開いた。
「私が碧い天使様から聞いた話では、心清き者や生まれてきた子供に祝福を与える物だと…」
大天使達はあちゃーという顔をした。
黒髪の大天使が話し始めた。
「まあ、そういう事も出来る。実はな、これを作った天使自身知らなかったんだが…。この玉は、世界を3回は滅ぼせるほどの力を秘めていてな。」
王様達は揃って険しい顔になった。
「では、お返しした方がよろしいのでは…?」
と、シスターが言った。それを首を振って拒否したのはあの日の銀髪の大天使だった。
「いや、あの日を覚えているか?あの日妹は3つの中で1番力の弱い玉を使った。だが、アレは妹が生きているうちはずっと続くぐらいの効力があった。」
騎士長が恐る恐る手を挙げた。
「つまり、最近治安が良くなってきたのは…」
「そちらの努力が倍となっているのだろう。"抗いし者には祝福を"とも言ったからな。だが、それだけだ。抗い、努力しなければ何も起こらない。」
「さ、さようでしたか。」
「ああ。あと、その玉はこちらでは預かれない。」
王様が言った
「均衡が崩れるからですか?」
「その通りだ。今代の王は賢王だな。妹の言った通りだ。」
「ありがたきお言葉です。」
騎士長がふと首を傾げた。
「ですが、天使様と我々人間では元から力の差は歴然としていると思われますが…」
「言っただろう。3つの中で1番弱い物であれ程の効力だ。そして、お前達に与えた玉は3つの中で真ん中の強さ…正直な話、天界にもそれなりの馬鹿がいてな。そいつらから守るのが1番強い玉一つだけでも精一杯なんだ。」
他の2人の大天使はうんうんと頷いていた。王様は
「つまり、これを天使の目からも人間の目からも隠しておいて欲しいと?」
「そういう事だ。」
「天使様…それでは祝福が与えられないのです。どうすればいいでしょう?」
とシスターが心配そうに言った。
「おかしいですね。貴女が所有者ならば玉が離れた所にあっても貴女は祝福を与えられますよ。」
と緑の髪の大天使は言った。
ぎょっ!と目を剥く王様達。
「え、えと。つまり?」
もはや敬語があやふやになるシスター。
「シスター。あの子に選ばれた貴女は彼女からも、そして彼女が創った玉からも祝福されているのですよ?当たり前じゃないですか。預けた人間に何かあったら元も子もありませんからね。」
王様と宰相は頭を抱え、騎士長は混乱し、シスターは呆然とした。
ずっと黙っていた宰相が言った。
「あの、では…シスターが次に託した相手にその祝福は継承されるのですか?」
「その通りです。」
宰相は助けを求めて王様を見たが王様はシスターと共に銀髪の天使から注意事項などを聞いていた。
反対側の騎士長は何が何やらで少し置いてかれていて可哀想だと思われたのか黒髪の天使が最初から説明し直していた。
前に向き直ってどうしよう?という顔をすると緑の髪の天使はポンポンと肩を叩いた。
「なんだか貴方とは気が合いそうです。苦労してますね。分かりますよ。」
少し泣きそうになった宰相だった。
そんなこんなで託され、封印された。破壊という手段も大天使達と考えたのだが、破壊できる物が無いため無理だった。
創り上げたあの天使いわく、
「創れるけど破壊した後に創ったそれをどうするの?」
と言われたので揃って沈黙したそうだ。
……。
今では!天使に祝福されし国として豊かになった。元々立地も良かった為、さらに発展した。
天使が後ろ盾に付いていると周りの国に思われているため、戦争も無い。
だが、この世界には魔物がいるためまだまだ平和とは言いきれなかった。
度々、周りの国に魔物退治に騎士が出掛けるのだが。その度に代わる代わるいろいろな天使が付いてくるので負け戦無しという最強を誇っている。
だが、天使が付いてくる理由は単に息抜きだ。
ストレス溜まったなーどこかにぶつけられないかなー?おっ?魔物??行く行く!!
的なノリだ。だが、天使はどこかの種族に肩入れはしないのが決まりだ。しかし、友達ぐらい別にいいだろうという事で王国の住人達とは仲が良いのだ。
この国は種族差別もしていない為、いろいろな種族がいる。人間、獣人、エルフ、ドワーフ、精霊もいるらしい。
最近では魔族もいる。一悶着あったのだが、この国で犯罪を犯さないならいいという事になったのだった。
そして、新たな噂では。
忘碧の天使が王国のとある場所に度々遊びに来るらしい。姿を見かけたら幸せになれるらしい。
幸せの蒼い鳥ではなく幸せの碧い天使は今日も微笑む。
おしまい!
碧い天使→ミモサ
銀髪の天使→ギベオン
赤髪の天使→スピネル
緑髪の天使→スフェン
黒髪の天使→レンディート
一応、名前を考えていたんです。
宝石にちなんだ名前です。勝手にもじってます。
誤字、脱字がありましたら指摘をお願いします。
感想お待ちしております!