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ニート

 朝日が差し込む窓辺、朝露が今にも木の葉から滑り落ちそうな澄んだ空気とは裏腹に心は漠然とした不安に呑み込まれ、言いようのない虚しさに包まれながら、微睡む意識の中で布団の温かさに安堵する。


「食事ここに置いとくわね。」


 扉の向こうから急に聞こえた母の声に、一瞬の緊張し、「ああ、もう朝か。」と陰鬱な気分に襲われながら、扉の向こう側に置かれた食事を部屋の中に運び、食事を摂る。


 子供の頃は夢を見なさいと言われ、齢20を超えた頃に現実を見なさいと言われ、結局夢も現実もおざなりにして、部屋に閉じこもりネットゲームに明け暮れて、30歳。現在に至る。そんな人生にほとほと疲れ果て、自殺も考えたがそんな勇気もない。


 私はそんな弱い人間だ。ただ一つの希望はネットワーク内でのコミュニケーションであり、PCオンラインゲームがそれにあたる。それ以外何も無い、ちっぽけな人間だ。底辺だと蔑まれても、ゲーム内ではお前らの方が底辺だと煽り返す。そうやって唯一誇れる物がこの仮想世界だけになってしまった。


 勿論家族にはもう見捨てられ、毎日の食事を運んで来るだけ、それ以外に何も言われず、言われたところで、少し暴れてみせると、奴らは何もしない。黙って引き下がる。そういう態度が自分の行動を悪化させ更に引き篭もる。


 「ああ、ただの言い訳だ。」わかってはいる。だからこそ自己嫌悪に陥る。死にたくなる。とは言えどうにもならない。どうしようも無い。


 両親が死んだら?いなくなったら?その後の生活を考えるだけで鬱になる。生活保護を貰えばいいんじゃ?と考えたこともある。勿論、ただ考えただけだ。国、政治、社会構造にネット内で批判してみた所で、基本的な所は変わらない。或いは実際に外へ出て、署名集めなりデモなりに参加すれば変わるんだろうか?


 とは言え、実際行動力のない私は考えるだけで何もなせない。何かを興せる人間はこんな所で漠然たる生活、そう自殺の恐怖に怯え、愚鈍に死を待つ日々を繰り返すはずもなく、私は、ただただ世界の流れに取り残されている哀れな脱落者だ。


 こんな自問自答を繰り返す。結局何も出来ない私は食事を終え、繰り返す日々を呪いながら、「いっそゲームの中に産まれればよかったのに」といつもの様に得るものは無いと分かっていながら、今ある時間を食い潰すように、右手をPCの電源ボタンに手を伸ばし、いつか来る死を漠然と待つ。生きている意味を見つけられないまま。


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